残酷な描写あり
180.報告会1
「セレスティア様、起きてください」
「……う~ん?」
私を呼ぶ声に誘われて目を開けると、そこにはニーナが立っていた。
眠気眼を擦り、ボーッとする身体を起こしてベッドから出る。
「……あれ、ここ私の部屋? 私、いつの間に?」
確か私は客間のソファーに倒れて寝てしまったはずだ。いつの間に寝室のベッドで寝てたんだろう?
「私が運びました。相当にお疲れのようでしたので、ソファーで寝るよりもこちらの方がいいと思いまして」
どうやら私の気付かないうちに寝室まで運ばれていたようだ。……いや、運ばれていることする気付かないほどに深い眠りに落ちていたと言うべきだろうか。
そんな状態になるくらい、私の心身は疲弊していたという証拠だろう。
「ありがとうニーナ。お陰でかなり調子が良くなったわ」
「これも従者の務めですわ」
えっへんと胸を張るニーナ。
実際にしっかりとした寝具で寝たことで、屋敷に戻ってきた時よりも体調は良くなっている。
魔力もそこそこ回復しているので、動く分には問題はなさそうだ。
「それで、私を起こしに来たってことは、アイン達が帰ってきたのかしら?」
「はい。既に食堂に全員集まっていますわ」
「分かった。すぐに行きましょう」
だけどその前に、まずは着替えないと。
私が今着ているのは、帰ってきた時そのままの白衣一枚だけだ。本当に文字通り、白衣一枚しか着ていないのだ。流石にこの状態で歩き回りたくない。
私はクローゼットを開けて、奥に仕舞っていた衣装ケースを取り出す。この衣装ケースには復活した時に着る子供用の服を入れてある。
輪廻逆転で復活した時、私は10歳の時の身体で復活することになる。当然、大人サイズの服は着こなせない。かと言って毎回錬金術で服のサイズを変更するのも面倒だ。
だから私は、予め10歳の身体にピッタリ合うサイズの服をこうして別で用意していたのだ。……着るのは百数十年ぶりくらいになるけどね。
ニーナに手伝って貰いながら着替えを済ませた私は、ニーナと一緒にみんなが待つ食堂へと向かった。
食堂の扉を開けると、みんなは既に椅子に座って私を待っていた。
私とニーナも自分の椅子に座る。
「待たせたてごめんなさい」
「よい。それよりも、もう体調は良いのか?」
「完全とは言えないけど、寝たおかげでかなり回復したわ」
「そうか」
ミューダはそれだけ言って静かになるが、私を心配してくれていたのは長い付き合いだから分かっている。ミューダが素直に気持ちを言葉にしないのはいつものことだ。
「とりあえず、みんなが無事に戻って来てくれて良かったわ。まあ、私は無事だったと言えるのか少し怪しいけどね」
みんなは無事だったようだけど、私は一回死んでいる。輪廻逆転で復活する事は分かっていても、死ぬ経験なんてしたくは無いものだ。
「ニーナから簡単には説明を聞きましたけど、本当に生き返ることが出来るなんて未だに信じられないです」
そう言ってユノは私の姿を観察する様に見てくる。そしてユノの言葉につられて、ミューダ以外の全員が同じ目で私を見ていた。まあそれが普通の反応だろう。
生き物の命はたった一つだ。無くなればそこでお終い。生き返るなんてあり得ない事だ。
この屋敷の住人で私が生き返ることを知っていたのは、ミューダ、アイン、ニーナ、サムス、クワトル、ティンクの6人だけだ。
だけど、生き返った後のこの姿を実際に見たことがあるのは、ミューダ1人だけである。
丁度良い機会なので私は改めて、お母さんのこと、『輪廻逆転』の仕組み、この姿の理由について全員に説明しておくことにした。
そのついでに、輪廻逆転で復活することになった私とサピエル7世との戦いの経緯も話しておく。
「――なるほど、つまりサピエル7世はその魔力を吸収する特別な魔鉱石を自らに取り込むことで進化を果たしたというわけか。なんと無茶苦茶な……」
「私もそう思うわ。ただ、やり方はどうであれ、進化の理論としては間違っていないのも確かよ。そして、その答えに辿り着く切っ掛けになったのは――」
「ストール鉱山で行った例の『魔獣創造実験』というわけか」
「間違いないでしょうね」
元ブロキュオン帝国の研究員でサピエル法国に亡命し、そこで魔獣化実験を行っていたヘルムクート。
おそらくこの男が魔獣の研究を進める内に、偶然にも『進化の方法』に辿り着いてしまったのだろう。そしてその方法の正しさを証明するために、ストール鉱山で魔獣を創造する実験を行った。
結果実験は成功し、サピエル7世はその結果を踏まえてあの魔鉱石を取り込む事で進化を成功させたのだろう。
「ともかく、サピエル7世の力の源だった特別な魔鉱石は今私が持っているし、サピエル7世の魔力回路には細工をしてエヴァイアに引き渡したから、もう危惧する必要はないわ」
世界を敵に回し、私達に手を出したサピエル7世はこれでもうお終いだ。
私達の平穏はこれでようやく戻ってくるだろう。
「話が逸れたわね。それじゃあアイン、私が去ってから戦争がどうなったのか聞かせてくれるかしら?」
「かしこまりました」
アインの話によれば、私が去ったすぐ後にアイン達が同行していたプアボム公国連合軍が戦場に到着し、ブロキュオン帝国と共にサピエル法国軍を挟撃してそのまま包囲殲滅戦を開始したそうだ。
サピエル7世を取り返そうと必死になっていたらしいサピエル法国軍も、流石にどうすることも出来ない兵力差に成す術もなく、あっという間に文字通りの全滅を喫したらしい。
「その後、各軍首脳が集まり情報交換が行われ、会議が始まりました。会議と言ってもサピエル法国軍は事実上完全に壊滅していましたので、話し合われたのはサピエル法国全土の完全制圧の為の話し合いでした」
「具体的には?」
「サピエル法国の神都は現在ブロキュオン帝国軍の別動隊が制圧していますが、それは最低限の人数で行われているようで、もしも大規模な暴動でも起こされればすぐに手に負えなくなってしまうそうです。なので全軍を再編成して新たな連合軍を結成し、早急にサピエル法国の全土制圧に動くようです。これはすぐに全会一致されまして、多分今頃は既に動き出している頃かと思われます」
サピエル法国は今回の戦争で軍隊を完全に失い、指導者のサピエル7世もブロキュオン帝国軍の手に落ちた。もはやサピエル法国には連合軍に抵抗する術など残っていない。
このままエヴァイア達が順調にサピエル法国の制圧に成功して戦争の終結を宣言すれば、ようやく全てが終わる。やっと大きな厄介事が片付く事に胸を撫で下ろす。
そして、ずっと気になっていたことをアインに聞くことにした。
「それでアイン、その会議で私達の事は話題に上がったのかしら?」
私達は今回の戦争で予想以上に目立つことをしてしまった。それはサピエル法国軍の戦力や戦略が、私達の想定を上回っていたことが原因だ。
その結果、私達は戦いの勝敗に大きく関わる行動を取らざるを得なかった。そんな私達の話題が、各軍首脳が集まった会議で出ないはずがない。
私達についてどんな話がされたのか、それを知っておくことは今後の展開にも大きくかかわってくる。
「はい。サピエル法国全土制圧の話が終わってすぐに、私達の事が話題に上がりました。……しかし、セレスティア様が懸念されているようなことは起こりませんでした」
「どういうこと?」
「彼等は私達の事を話し合いましたが、すぐに全員が同じ意見を共有したようで、会議の様子を見ていた私にこう言って来たのです。『今後我々は貴方達に不当な干渉をしないと約束します』と」
アインの説明によると、彼等は今回の戦争で私達の力を目の当たりにし、下手に干渉すればどのような結末を迎えるかを理解したらしい。
私達が戦争に大きく関わる行動を取ったことは不本意だったが、結果的にそれが私達に都合の良い方向に転がってくれたようだ。
「それは良かったわ。今でも手一杯なのに、これ以上面倒事が増えるのはごめんだからね」
まあ誰とは言わないけど、好き好んで自分から首を絞めに行く馬鹿がいなくてよかった。
とりあえずこれで、当面私達が面倒事に巻き込まれる心配は無くなったと思っていいだろう。
あとはオリヴィエとエヴァイアが私達の関わった痕跡を上手く隠滅してくれることを祈ろう。
「……う~ん?」
私を呼ぶ声に誘われて目を開けると、そこにはニーナが立っていた。
眠気眼を擦り、ボーッとする身体を起こしてベッドから出る。
「……あれ、ここ私の部屋? 私、いつの間に?」
確か私は客間のソファーに倒れて寝てしまったはずだ。いつの間に寝室のベッドで寝てたんだろう?
「私が運びました。相当にお疲れのようでしたので、ソファーで寝るよりもこちらの方がいいと思いまして」
どうやら私の気付かないうちに寝室まで運ばれていたようだ。……いや、運ばれていることする気付かないほどに深い眠りに落ちていたと言うべきだろうか。
そんな状態になるくらい、私の心身は疲弊していたという証拠だろう。
「ありがとうニーナ。お陰でかなり調子が良くなったわ」
「これも従者の務めですわ」
えっへんと胸を張るニーナ。
実際にしっかりとした寝具で寝たことで、屋敷に戻ってきた時よりも体調は良くなっている。
魔力もそこそこ回復しているので、動く分には問題はなさそうだ。
「それで、私を起こしに来たってことは、アイン達が帰ってきたのかしら?」
「はい。既に食堂に全員集まっていますわ」
「分かった。すぐに行きましょう」
だけどその前に、まずは着替えないと。
私が今着ているのは、帰ってきた時そのままの白衣一枚だけだ。本当に文字通り、白衣一枚しか着ていないのだ。流石にこの状態で歩き回りたくない。
私はクローゼットを開けて、奥に仕舞っていた衣装ケースを取り出す。この衣装ケースには復活した時に着る子供用の服を入れてある。
輪廻逆転で復活した時、私は10歳の時の身体で復活することになる。当然、大人サイズの服は着こなせない。かと言って毎回錬金術で服のサイズを変更するのも面倒だ。
だから私は、予め10歳の身体にピッタリ合うサイズの服をこうして別で用意していたのだ。……着るのは百数十年ぶりくらいになるけどね。
ニーナに手伝って貰いながら着替えを済ませた私は、ニーナと一緒にみんなが待つ食堂へと向かった。
食堂の扉を開けると、みんなは既に椅子に座って私を待っていた。
私とニーナも自分の椅子に座る。
「待たせたてごめんなさい」
「よい。それよりも、もう体調は良いのか?」
「完全とは言えないけど、寝たおかげでかなり回復したわ」
「そうか」
ミューダはそれだけ言って静かになるが、私を心配してくれていたのは長い付き合いだから分かっている。ミューダが素直に気持ちを言葉にしないのはいつものことだ。
「とりあえず、みんなが無事に戻って来てくれて良かったわ。まあ、私は無事だったと言えるのか少し怪しいけどね」
みんなは無事だったようだけど、私は一回死んでいる。輪廻逆転で復活する事は分かっていても、死ぬ経験なんてしたくは無いものだ。
「ニーナから簡単には説明を聞きましたけど、本当に生き返ることが出来るなんて未だに信じられないです」
そう言ってユノは私の姿を観察する様に見てくる。そしてユノの言葉につられて、ミューダ以外の全員が同じ目で私を見ていた。まあそれが普通の反応だろう。
生き物の命はたった一つだ。無くなればそこでお終い。生き返るなんてあり得ない事だ。
この屋敷の住人で私が生き返ることを知っていたのは、ミューダ、アイン、ニーナ、サムス、クワトル、ティンクの6人だけだ。
だけど、生き返った後のこの姿を実際に見たことがあるのは、ミューダ1人だけである。
丁度良い機会なので私は改めて、お母さんのこと、『輪廻逆転』の仕組み、この姿の理由について全員に説明しておくことにした。
そのついでに、輪廻逆転で復活することになった私とサピエル7世との戦いの経緯も話しておく。
「――なるほど、つまりサピエル7世はその魔力を吸収する特別な魔鉱石を自らに取り込むことで進化を果たしたというわけか。なんと無茶苦茶な……」
「私もそう思うわ。ただ、やり方はどうであれ、進化の理論としては間違っていないのも確かよ。そして、その答えに辿り着く切っ掛けになったのは――」
「ストール鉱山で行った例の『魔獣創造実験』というわけか」
「間違いないでしょうね」
元ブロキュオン帝国の研究員でサピエル法国に亡命し、そこで魔獣化実験を行っていたヘルムクート。
おそらくこの男が魔獣の研究を進める内に、偶然にも『進化の方法』に辿り着いてしまったのだろう。そしてその方法の正しさを証明するために、ストール鉱山で魔獣を創造する実験を行った。
結果実験は成功し、サピエル7世はその結果を踏まえてあの魔鉱石を取り込む事で進化を成功させたのだろう。
「ともかく、サピエル7世の力の源だった特別な魔鉱石は今私が持っているし、サピエル7世の魔力回路には細工をしてエヴァイアに引き渡したから、もう危惧する必要はないわ」
世界を敵に回し、私達に手を出したサピエル7世はこれでもうお終いだ。
私達の平穏はこれでようやく戻ってくるだろう。
「話が逸れたわね。それじゃあアイン、私が去ってから戦争がどうなったのか聞かせてくれるかしら?」
「かしこまりました」
アインの話によれば、私が去ったすぐ後にアイン達が同行していたプアボム公国連合軍が戦場に到着し、ブロキュオン帝国と共にサピエル法国軍を挟撃してそのまま包囲殲滅戦を開始したそうだ。
サピエル7世を取り返そうと必死になっていたらしいサピエル法国軍も、流石にどうすることも出来ない兵力差に成す術もなく、あっという間に文字通りの全滅を喫したらしい。
「その後、各軍首脳が集まり情報交換が行われ、会議が始まりました。会議と言ってもサピエル法国軍は事実上完全に壊滅していましたので、話し合われたのはサピエル法国全土の完全制圧の為の話し合いでした」
「具体的には?」
「サピエル法国の神都は現在ブロキュオン帝国軍の別動隊が制圧していますが、それは最低限の人数で行われているようで、もしも大規模な暴動でも起こされればすぐに手に負えなくなってしまうそうです。なので全軍を再編成して新たな連合軍を結成し、早急にサピエル法国の全土制圧に動くようです。これはすぐに全会一致されまして、多分今頃は既に動き出している頃かと思われます」
サピエル法国は今回の戦争で軍隊を完全に失い、指導者のサピエル7世もブロキュオン帝国軍の手に落ちた。もはやサピエル法国には連合軍に抵抗する術など残っていない。
このままエヴァイア達が順調にサピエル法国の制圧に成功して戦争の終結を宣言すれば、ようやく全てが終わる。やっと大きな厄介事が片付く事に胸を撫で下ろす。
そして、ずっと気になっていたことをアインに聞くことにした。
「それでアイン、その会議で私達の事は話題に上がったのかしら?」
私達は今回の戦争で予想以上に目立つことをしてしまった。それはサピエル法国軍の戦力や戦略が、私達の想定を上回っていたことが原因だ。
その結果、私達は戦いの勝敗に大きく関わる行動を取らざるを得なかった。そんな私達の話題が、各軍首脳が集まった会議で出ないはずがない。
私達についてどんな話がされたのか、それを知っておくことは今後の展開にも大きくかかわってくる。
「はい。サピエル法国全土制圧の話が終わってすぐに、私達の事が話題に上がりました。……しかし、セレスティア様が懸念されているようなことは起こりませんでした」
「どういうこと?」
「彼等は私達の事を話し合いましたが、すぐに全員が同じ意見を共有したようで、会議の様子を見ていた私にこう言って来たのです。『今後我々は貴方達に不当な干渉をしないと約束します』と」
アインの説明によると、彼等は今回の戦争で私達の力を目の当たりにし、下手に干渉すればどのような結末を迎えるかを理解したらしい。
私達が戦争に大きく関わる行動を取ったことは不本意だったが、結果的にそれが私達に都合の良い方向に転がってくれたようだ。
「それは良かったわ。今でも手一杯なのに、これ以上面倒事が増えるのはごめんだからね」
まあ誰とは言わないけど、好き好んで自分から首を絞めに行く馬鹿がいなくてよかった。
とりあえずこれで、当面私達が面倒事に巻き込まれる心配は無くなったと思っていいだろう。
あとはオリヴィエとエヴァイアが私達の関わった痕跡を上手く隠滅してくれることを祈ろう。