第33話 ひきぬき
私立瓢箪岳高校『女子レスリング同行会』。
以前は『女子レスリング部』だったのだが、近年の部員不足により現在は同行会に降格されている。
本来はアマチュアレスリング部として発足、高校生競技会等にも出場し、それなりに好成績も修めてきた。
しかし今から8年前に時の部長の独断により練習場内にリングが作られ、次第にプロレス色を濃くした派手で危険度を増した活動内容にシフトしていき、そのハードな練習を嫌って退部者が続出、現在の形に落ち着いていった。
現在の部員は4名。部長で3年生の炉縁 智子以下、2年生の土岐 いのり、名前だけの幽霊部員汀 奈津美(3年生)、そして入部したてホヤホヤの1年生、新見 綿子だ。
今はここには居ない奈津美を除く全員で、ジャージ姿のまま筋トレをしているところだった。
綿子に加え、燃える様な赤い髪をポニーテールに結んだ活発そうな娘が智子、艶のある黒髪を短く切り揃えた大人しそうな性格に見える娘がいのりである。
「邪魔するわよ」
ノックも無しに不躾に睦美が部屋に入る。突然の闖入者に驚きの顔を見せる綿子ら3人。
「あれ? つばめっちじゃん。どうしたの?」
智子らの「あぁん? どこの組のモンじゃワレェ?」的な警戒心が暴発する前に、空気を読んだのか読まないのか綿子の緊張感の無い声が部室に響いた。
「あの… えっとね、実は綿子に話があって…」
急に話を振られて会話の中心に引きずり出された為か挙動不審になるつばめ。説明して綿子を連れ出すにしても、睦美の前置き無しの行動のせいで誘い文句を考えている暇がまるで無かった。
「わざわざ女子レスリング同行会に来るほど急ぎの用事なの? 先輩…?」
火急の用事であるならば対応してやりたいのだが? という気持ちで先輩達を見る綿子、だがしかし……。
「あーっ! お前は土方久子! 遂にレスリングやる気になってくれたの?!」
綿子の視線を無視したまま、部長の智子が大きな声を上げる。
睦美とつばめに注目されるもポカンと『?』の字を出している久子。数秒固まった後にようやく何かを思い出した様にポンと手を叩いた。
時は1年前に遡る。実は当時久子は智子からえらく熱心に『女子レスリング同行会』への入会を求められていたのだ。
小柄で非力そうに見える久子を執拗に勧誘していた理由は不明だが、その理由は久子の『名前』に関係しているらしい。
久子としてもそもそも「土方久子」という名前は、この世界で暮らす為の仮初めの名前であり、本名は別にある。だがしかし「偽名です」と暴露する訳にもいかず、またマジボラ活動で手一杯であった為に丁重にお断りしていたのだった。
「…へぇ、そんな事があったなんて初耳なんだけど?」
「えへ、私もすっかり忘れてましたぁ。だってマジボラ以外の活動なんて考えられないですし、睦美さまを1人置いて私がどこか行く訳ありませんから!」
思わぬ所で絆が深まる睦美と久子。ほんわかした空気の流れる中、今度はいのりが声を上げる。
「にゅ、入部希望じゃないなら何しに来たんですか? うちの新人を横取りしようって言うなら、こちらもただじゃすみませんよ?」
大人しいなりに精一杯頑張って声を出した感がとてもいじらしい。つばめよりもこの手のストーリーの主人公然としているかも知れない。
「あの、わたしたちは『魔法奉仕同好会』の者です。実はこちらのわた… 新見さんに急ぎのお願いがあってお邪魔したのですが…」
改めて会を代表してつばめが挨拶をする。つばめは相手の挑発に乗る事無く穏便な対応の出来る子なのだ。
「…先輩、何か深刻そうなので、話だけでも聞いてきて良いですか?」
綿子もつばめに同調する。というか、揉めるほどのネタでも無いのでさっさと済ませて帰ってもらおう、という算段である。
智子の了解を受けて、部室の外で話をする事になった。つばめが綿子にカクカクシカジカと説明するも、マジボラの事情を知らない綿子はその半分も理解できていない様子だった。
「…うーんと、よく分かんないんだけど、マジボラの皆さんは魔法が使えて、ついでにあたしも魔法を使えるって事なの? とりあえず炉縁先輩に相談してオッケー出たら助っ人くらいはして上げるよ…?」
『魔法』だなどとバカげた事を真面目に相手して損したなぁ、などと綿子は後悔していたが、その事を智子に話した事で更に後悔の度合いが深まった。
「うちの新人を引き抜こうなんて、ずうずうしいにも程がある!」
ここまでは良い。次にでた智子のセリフは
「それならタッグバトルで勝負して、もしうちが勝ったら土方久子を貰うわよ!」
であった。
智子の挑戦にニヤリと顔を歪める睦美。
「はん! 身の程知らずが無謀な賭けに出てきたわね。ヒザ子! つばめ! 返り討ちにしてやんな!」
「ハイッ、了解です睦美さま!」
「は、はいっ! …って、あれ…?」
急遽発生した女子レスリング同行会vsマジボラ、部員争奪『花一匁杯』。タッグバトルの選手は智子&いのりvs久子&つばめの模様である。
「つばめちゃん、頑張ろうね!」
「え…? あの… あれっ…?」
時間無制限タッグマッチ、最初のファイターはいのりとつばめだ。綿子が緊張した顔でゴングを鳴らす。
音が鳴ると同時にいのりが態勢を低くしてつばめに突進する動きを見せた。
「…え???」
以前は『女子レスリング部』だったのだが、近年の部員不足により現在は同行会に降格されている。
本来はアマチュアレスリング部として発足、高校生競技会等にも出場し、それなりに好成績も修めてきた。
しかし今から8年前に時の部長の独断により練習場内にリングが作られ、次第にプロレス色を濃くした派手で危険度を増した活動内容にシフトしていき、そのハードな練習を嫌って退部者が続出、現在の形に落ち着いていった。
現在の部員は4名。部長で3年生の炉縁 智子以下、2年生の土岐 いのり、名前だけの幽霊部員汀 奈津美(3年生)、そして入部したてホヤホヤの1年生、新見 綿子だ。
今はここには居ない奈津美を除く全員で、ジャージ姿のまま筋トレをしているところだった。
綿子に加え、燃える様な赤い髪をポニーテールに結んだ活発そうな娘が智子、艶のある黒髪を短く切り揃えた大人しそうな性格に見える娘がいのりである。
「邪魔するわよ」
ノックも無しに不躾に睦美が部屋に入る。突然の闖入者に驚きの顔を見せる綿子ら3人。
「あれ? つばめっちじゃん。どうしたの?」
智子らの「あぁん? どこの組のモンじゃワレェ?」的な警戒心が暴発する前に、空気を読んだのか読まないのか綿子の緊張感の無い声が部室に響いた。
「あの… えっとね、実は綿子に話があって…」
急に話を振られて会話の中心に引きずり出された為か挙動不審になるつばめ。説明して綿子を連れ出すにしても、睦美の前置き無しの行動のせいで誘い文句を考えている暇がまるで無かった。
「わざわざ女子レスリング同行会に来るほど急ぎの用事なの? 先輩…?」
火急の用事であるならば対応してやりたいのだが? という気持ちで先輩達を見る綿子、だがしかし……。
「あーっ! お前は土方久子! 遂にレスリングやる気になってくれたの?!」
綿子の視線を無視したまま、部長の智子が大きな声を上げる。
睦美とつばめに注目されるもポカンと『?』の字を出している久子。数秒固まった後にようやく何かを思い出した様にポンと手を叩いた。
時は1年前に遡る。実は当時久子は智子からえらく熱心に『女子レスリング同行会』への入会を求められていたのだ。
小柄で非力そうに見える久子を執拗に勧誘していた理由は不明だが、その理由は久子の『名前』に関係しているらしい。
久子としてもそもそも「土方久子」という名前は、この世界で暮らす為の仮初めの名前であり、本名は別にある。だがしかし「偽名です」と暴露する訳にもいかず、またマジボラ活動で手一杯であった為に丁重にお断りしていたのだった。
「…へぇ、そんな事があったなんて初耳なんだけど?」
「えへ、私もすっかり忘れてましたぁ。だってマジボラ以外の活動なんて考えられないですし、睦美さまを1人置いて私がどこか行く訳ありませんから!」
思わぬ所で絆が深まる睦美と久子。ほんわかした空気の流れる中、今度はいのりが声を上げる。
「にゅ、入部希望じゃないなら何しに来たんですか? うちの新人を横取りしようって言うなら、こちらもただじゃすみませんよ?」
大人しいなりに精一杯頑張って声を出した感がとてもいじらしい。つばめよりもこの手のストーリーの主人公然としているかも知れない。
「あの、わたしたちは『魔法奉仕同好会』の者です。実はこちらのわた… 新見さんに急ぎのお願いがあってお邪魔したのですが…」
改めて会を代表してつばめが挨拶をする。つばめは相手の挑発に乗る事無く穏便な対応の出来る子なのだ。
「…先輩、何か深刻そうなので、話だけでも聞いてきて良いですか?」
綿子もつばめに同調する。というか、揉めるほどのネタでも無いのでさっさと済ませて帰ってもらおう、という算段である。
智子の了解を受けて、部室の外で話をする事になった。つばめが綿子にカクカクシカジカと説明するも、マジボラの事情を知らない綿子はその半分も理解できていない様子だった。
「…うーんと、よく分かんないんだけど、マジボラの皆さんは魔法が使えて、ついでにあたしも魔法を使えるって事なの? とりあえず炉縁先輩に相談してオッケー出たら助っ人くらいはして上げるよ…?」
『魔法』だなどとバカげた事を真面目に相手して損したなぁ、などと綿子は後悔していたが、その事を智子に話した事で更に後悔の度合いが深まった。
「うちの新人を引き抜こうなんて、ずうずうしいにも程がある!」
ここまでは良い。次にでた智子のセリフは
「それならタッグバトルで勝負して、もしうちが勝ったら土方久子を貰うわよ!」
であった。
智子の挑戦にニヤリと顔を歪める睦美。
「はん! 身の程知らずが無謀な賭けに出てきたわね。ヒザ子! つばめ! 返り討ちにしてやんな!」
「ハイッ、了解です睦美さま!」
「は、はいっ! …って、あれ…?」
急遽発生した女子レスリング同行会vsマジボラ、部員争奪『花一匁杯』。タッグバトルの選手は智子&いのりvs久子&つばめの模様である。
「つばめちゃん、頑張ろうね!」
「え…? あの… あれっ…?」
時間無制限タッグマッチ、最初のファイターはいのりとつばめだ。綿子が緊張した顔でゴングを鳴らす。
音が鳴ると同時にいのりが態勢を低くしてつばめに突進する動きを見せた。
「…え???」