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作者: ちありや
第46話 きゅうゆう
「御影くんは帰っちゃいましたけど、今日はどうします?」

 つばめが睦美に問う。現在の時間は午後3時である。

「居場所の宛てがない以上、目的も無くフラフラするのは効率悪いわね… とりあえずその子らのクラスに行って、まだ残っている奴がいたら何か聞いてみましょう」

 不二子から貰った手元の資料には、魔法少女候補の学級と名前が書かれているが、逆に言えばそれしか情報が無く、『つばめの友人』という1名を除いて顔の特徴すらも分からないのだ。闇雲に探してどうなるものでも無いだろう。

 まずはつばめの友人らしい前川まえかわ 蓉子ようこを求めて1年A組へと向かう3人。

 1-A の教室は出入り口である引き戸が開きっぱなしになっていた為、つばめがこっそりと覗き込み中を確認する。

「…いました! 何か友達とダベってるみたいです」

 つばめの報告に首肯で答える睦美。つばめは教室に居る蓉子に声をかけ手招きをする。

「よーちゃん、よーちゃん、ゴメン、ちょっと来て」

 つばめの声に気づいた蓉子は会話していた友人らに何やら一言断ると席を立ち、マジボラの方へと歩いてきた。
 つばめよりやや長身、細い体でセミロングの髪を後ろで一本に縛っている。顔つきはこれまた普通で、ブスでも無ければ美人でも無い。如何にも『主人公の友人A』という感じのあまり印象に残らないタイプの娘だ。

「どうしたのつばめ? 入学早々ぼっちなの…?」

 クラスの分かれた同じ中学校の友人が突然訪ねてきたら、当然その様に思うだろう。
『やれやれ』という感じでつばめの元にやって来た蓉子は、つばめの後ろにいる時代遅れの聖子ちゃんカットとトンボメガネの先輩コンビの放つ圧力を見て、その顔を引きつらせる。

「よ、よーちゃん、あのね…」

 一通りの説明を蓉子に行うつばめ。しかし、今までの勧誘と決定的に違っているのは話が進むにつれて蓉子の顔が段々と険しくなって来ている事だった。

「つばめ…」

 蓉子はつばめの首に腕を回し、2人で睦美らに背中を向ける態勢になってつばめに耳打ちする。

「何か変な宗教とかやらされてるなら手遅れにならないうちにやめなよ? それとそんな怪しい事に私を巻き込まないで」

「え? いやあの宗教とかそんなんじゃなくて… あれ? でもそうなのかな…?」

 古い友人の言葉に逆に心を揺るがせるつばめ。言われてみれば『アンコクミナゴロシ王国』とやらは話に聞くだけで実物を見た訳ではない。今まで疑問も持たずに使ってきた魔法だって、何かイカサマ的なカラクリがあって、つばめを騙そうとしている可能性も……。

「なにアンタが言いくるめられてんのよ?」

 睦美の言葉にハッと我に帰るつばめ。ついついここ数日の非現実的な展開を現実だと思いたくない精神的な防御反応を起こしてしまっていたようだ。

「あの…」

 蓉子は見るからに怪しい一団である睦美と久子をきっと睨みつける。

「私の友達を変な事に誘わないで下さい。そして… 私はその娘とはもう関係ありませんから!」

 それだけ言うと、元の教室へと逃げる様に走り込んでいった。

「よ、よーちゃん…?」

 最後の蓉子の言葉には確かにつばめを心配する気持ちが感じられた。そしてそれと同時に何か大きな物を失くしてしまった事を痛感するつばめ。

「ハラ立つ。ちょっとあの小娘をシメてくるわ…」

 怒気荒く1-Aに乗り込もうとする睦美を久子とつばめの2人掛かりで止める羽目になった。

 1年A組 前川蓉子 勧誘失敗。



「しょうがない、次行くわよ次!」

 尺が余ったのでもう一名に突撃する。

 次の標的は1年F組、増田ますだらんである。彼女に関しては前述の様につばめの知り合いと言う訳でもないので、何も情報が無い。
 とりあえず蓉子と同様に、教室に残ってくっちゃべっていた数名の女子に声をかけ、増田蘭の情報を得ようと試みる。

「増田さん…? 彼女は今朝自動車事故に遭って足の骨を折って入院してますよ」

 なんでも学校のすぐ近くの交差点で、増田は通学途中に信号無視したトラックと接触、骨折して入院したらしい。

 通学途中の生徒の多くが見ている中での出来事であった為に、朝の時間では結構生徒たちの間で話題になっていたのだが、つばめは不二子と話していたので、その話題に触れることなく放課後まで来てしまっていたのだった。

 ちなみにトラックの運転手は程なくして警察に確保され、既に危険運転致死傷罪で逮捕されているそうだ。

 もちろん睦美と久子に至ってはその時間は学校にすら居なかったのだから、当然知る由もない。

 ただ1つ確実に言えるのは、1年F組 増田蘭 勧誘無期延期。
 と言う事であった。
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