第68話 りん
「え…? どういう事…?」
凛からのまさかの反撃に、蘭の思考と体の動きの両方が止まる。
「お姉は勉強出来るじゃん。だから志望校への合否判定が『C』な私の気持ちなんて分からないでしょ? って事!」
「う、ん…? えと… ゴメンね凛、志望校と着ぐるみの関連性が全く分からないんだけど、説明してもらっていいかな…?」
どうにも話が噛み合っていない。蘭は困惑しながらも話を繋げようとする。
「私はどうしても鶴ヶ峰高校に行きたいの。その為にはもっと学力を付けないといけないのよ!」
「う、うん… 鶴ヶ峰は結構偏差値の高い進学校だからね。それは分かるけど、そこからどうやって着ぐるみに繋がるのかな…?」
イヤイヤ期の子供を必死に宥めるように、言葉を選びながら凛に対応する蘭。
「お爺ちゃんにその事を相談したら『この着ぐるみを着て言う事を聞いたら勉強出来る様に頭を良くしてやる』って言うから… あとお小遣いも出すって言うし…」
「ジジィっ!!」
蘭が繁蔵のいた方に振り向くと、繁蔵は先程まで蘭がうたた寝をしていたソファに座って、楽しそうにテレビで昼のバラエティ番組を見ていた。
声に釣られて蘭の方を振り向き
「話終わった? 凛もウタマロん脱げば良いのに」
とまるきり他人事の様に言い放った。
そう、凛は未だウタマロんの中におり、顔だけが外に出ている状態だったのだ。
ここまでシリアスな会話のシーンであったが、絵面はとても可愛らしい物であった。
「だから1人じゃ脱げないんだよぉ! どうすればいいの?!」
凛の悲壮な叫びに繁蔵は「やれやれ」と立ち上がり、凛の顎の下、ウタマロんの中心部に当たる部分にある小さなスイッチに触れる。
するとウタマロんの全身から大量の蒸気がプシューと吹き出して体のあちこちに亀裂が入る。それぞれの亀裂が機械的に展開して、最終的に両開きの冷蔵庫から出てくる様な感じで凛を解放した。
着地の瞬間、少しふらついた凛を蘭が支えて助け起こす。
「蘭よ、この通り凛はかすり傷ひとつ負ってはおらん。ウタマロんは最強の防具なのじゃ。凛の安全はワシが100%保証する。だからこの子のやりたい様にさせてやってはくれんか?」
繁蔵の言葉を後押しする様に、凛は蘭に向けて大きく首肯する。
「お姉、私は自分の意志でやってるんだよ!」
「え…? でも… あれ…?」
冷静に考えれば、受験に対して改造手術で臨むなど不正以外の何物でも無いし、生身に戻せるかどうかも怪しい改造を自ら受けようとする妹も、受けさせようとする祖父も異常なのだが、凛の熱意に押されたのか蘭も正常な判断が出来なくなっていた。
「それにお姉だってノリノリで悪の幹部とか魔法少女とかやってるんでしょ? 自分だけズルいよ!」
そう言って凛が取り出したスマートフォンにはウマナミレイ?やノワールオーキッドの写真がパノラマ形式で次々と表示されていた。
「や、やめて! そんな画像残さないで!」
羞恥の念で顔を真っ赤に染めながら凛のスマホを取り上げようとするも、凛は華麗なバックステップで蘭の攻撃を回避する。
「まぁこれで正式にシン悪川興業の頼もしい新幹部の誕生じゃな。これからも頼むぞ2人とも!」
「おーっ!」
「うう… もういっそ殺して…」
プロフェッサー悪川の号令に応えて、2人の女幹部の対称的な返事が増田家に響いた。
ちょっと尺が余ったので増田家の晩ごはん。
まだ何となく釈然としない蘭は、ふと浮かんだ疑問を凛に投げかける。
「ねぇ凛、なんでアンタ鶴ヶ峰高校なんて行こうと思ったの? 進学目的ならもっと近場に良さそうな高校が他にあるのに…」
姉の何気ない質問に凛は瞬時に顔を赤くする。
「べ… 別に理由なんて… それにお姉には関係ないじゃん…」
更に挙動を怪しくする凛。さすがの蘭もピンときた。これは恋バナの予感だ。先程は凛に己の黒歴史を責められて悶絶した蘭である。逆襲の時は今をおいて他にあるまい。
「とか何とか言っちゃって〜 鶴ヶ峰に好きな先輩でもいるのかなぁ〜?」
わざと意地悪く言う蘭の言葉に抵抗せずに、凛は顔を赤らめたまま静かに頷いた。
「…去年のお姉のクラスメイトで漫研部長だった高橋先輩に会いたいの…」
『高橋…? 高橋…』
凛の言葉に己の記憶を探る蘭。程なく当該の人物を思い出し仰天する。
「えぇっ? 高橋って、あの瓶底メガネのボクっ娘高橋? あいつ女じゃん?! それにあいつホモスキーの腐女子だよ? 何でまた…?」
「知ってるよ… 良いじゃん別に! 好きなんだから…」
「お、おう…」
知るべきでは無かった妹の暗部を覗き込んだ事を密かに後悔する蘭だった。
凛からのまさかの反撃に、蘭の思考と体の動きの両方が止まる。
「お姉は勉強出来るじゃん。だから志望校への合否判定が『C』な私の気持ちなんて分からないでしょ? って事!」
「う、ん…? えと… ゴメンね凛、志望校と着ぐるみの関連性が全く分からないんだけど、説明してもらっていいかな…?」
どうにも話が噛み合っていない。蘭は困惑しながらも話を繋げようとする。
「私はどうしても鶴ヶ峰高校に行きたいの。その為にはもっと学力を付けないといけないのよ!」
「う、うん… 鶴ヶ峰は結構偏差値の高い進学校だからね。それは分かるけど、そこからどうやって着ぐるみに繋がるのかな…?」
イヤイヤ期の子供を必死に宥めるように、言葉を選びながら凛に対応する蘭。
「お爺ちゃんにその事を相談したら『この着ぐるみを着て言う事を聞いたら勉強出来る様に頭を良くしてやる』って言うから… あとお小遣いも出すって言うし…」
「ジジィっ!!」
蘭が繁蔵のいた方に振り向くと、繁蔵は先程まで蘭がうたた寝をしていたソファに座って、楽しそうにテレビで昼のバラエティ番組を見ていた。
声に釣られて蘭の方を振り向き
「話終わった? 凛もウタマロん脱げば良いのに」
とまるきり他人事の様に言い放った。
そう、凛は未だウタマロんの中におり、顔だけが外に出ている状態だったのだ。
ここまでシリアスな会話のシーンであったが、絵面はとても可愛らしい物であった。
「だから1人じゃ脱げないんだよぉ! どうすればいいの?!」
凛の悲壮な叫びに繁蔵は「やれやれ」と立ち上がり、凛の顎の下、ウタマロんの中心部に当たる部分にある小さなスイッチに触れる。
するとウタマロんの全身から大量の蒸気がプシューと吹き出して体のあちこちに亀裂が入る。それぞれの亀裂が機械的に展開して、最終的に両開きの冷蔵庫から出てくる様な感じで凛を解放した。
着地の瞬間、少しふらついた凛を蘭が支えて助け起こす。
「蘭よ、この通り凛はかすり傷ひとつ負ってはおらん。ウタマロんは最強の防具なのじゃ。凛の安全はワシが100%保証する。だからこの子のやりたい様にさせてやってはくれんか?」
繁蔵の言葉を後押しする様に、凛は蘭に向けて大きく首肯する。
「お姉、私は自分の意志でやってるんだよ!」
「え…? でも… あれ…?」
冷静に考えれば、受験に対して改造手術で臨むなど不正以外の何物でも無いし、生身に戻せるかどうかも怪しい改造を自ら受けようとする妹も、受けさせようとする祖父も異常なのだが、凛の熱意に押されたのか蘭も正常な判断が出来なくなっていた。
「それにお姉だってノリノリで悪の幹部とか魔法少女とかやってるんでしょ? 自分だけズルいよ!」
そう言って凛が取り出したスマートフォンにはウマナミレイ?やノワールオーキッドの写真がパノラマ形式で次々と表示されていた。
「や、やめて! そんな画像残さないで!」
羞恥の念で顔を真っ赤に染めながら凛のスマホを取り上げようとするも、凛は華麗なバックステップで蘭の攻撃を回避する。
「まぁこれで正式にシン悪川興業の頼もしい新幹部の誕生じゃな。これからも頼むぞ2人とも!」
「おーっ!」
「うう… もういっそ殺して…」
プロフェッサー悪川の号令に応えて、2人の女幹部の対称的な返事が増田家に響いた。
ちょっと尺が余ったので増田家の晩ごはん。
まだ何となく釈然としない蘭は、ふと浮かんだ疑問を凛に投げかける。
「ねぇ凛、なんでアンタ鶴ヶ峰高校なんて行こうと思ったの? 進学目的ならもっと近場に良さそうな高校が他にあるのに…」
姉の何気ない質問に凛は瞬時に顔を赤くする。
「べ… 別に理由なんて… それにお姉には関係ないじゃん…」
更に挙動を怪しくする凛。さすがの蘭もピンときた。これは恋バナの予感だ。先程は凛に己の黒歴史を責められて悶絶した蘭である。逆襲の時は今をおいて他にあるまい。
「とか何とか言っちゃって〜 鶴ヶ峰に好きな先輩でもいるのかなぁ〜?」
わざと意地悪く言う蘭の言葉に抵抗せずに、凛は顔を赤らめたまま静かに頷いた。
「…去年のお姉のクラスメイトで漫研部長だった高橋先輩に会いたいの…」
『高橋…? 高橋…』
凛の言葉に己の記憶を探る蘭。程なく当該の人物を思い出し仰天する。
「えぇっ? 高橋って、あの瓶底メガネのボクっ娘高橋? あいつ女じゃん?! それにあいつホモスキーの腐女子だよ? 何でまた…?」
「知ってるよ… 良いじゃん別に! 好きなんだから…」
「お、おう…」
知るべきでは無かった妹の暗部を覗き込んだ事を密かに後悔する蘭だった。