第135話 あんどれ
ショッピングモールに隣接する駐車場、地面から這い出してきた無数の蔦に覆われて、まるで100年後のアポカリプス世界の様な装いとなってしまっている。
「やれやれ… 荒事は嫌いですがそうも言ってられないみたいですねぇ」
アンドレが懐から出したのは睦美の乱世丸によく似た剣… ではなく数千円で購入できる安物の伸縮性特殊警棒だった。
『日本ではその辺の文房具屋で買ったカッターナイフですら持ち歩いていたら銃刀法違反で捕まりますからねぇ。やりにくいったらありゃしない』
不法入国並びに不法滞在している外国人 (外界人?)であるアンドレは、事件を起こして警察に逮捕されるリスクを極力減らしたかった。
アンドレが手に持つ警棒を軽く振ると、カシャンという音がして長さ45cmの鉄の棒が展開される。
ちなみにこの45cmというのも警備業法で定められた、警備員が携帯できる特殊警棒の長さの制限内である。
「こうやって戦うのは16年ぶりでしょうか…? 体が鈍ってない事を祈りますよ」
アンドレを妨害者と認識したのか、地面を覆う蔦の総元締めの様な怪人が異様な程ゆっくりと動きアンドレと対峙する。
相対距離が10m程になった時に、不意に怪人の手が伸びてアンドレを絡め取ろうとする。恐らく周囲の蔦に囚われている人々はこの攻撃で捕まったのだろう。
アンドレはその伸びてきた蔦を、表情も変えずに警棒で横一閃に打ち払う。すると伸びてきた蔦はアンドレに届く直前に、まるで蒸発する様に消えて失せた。
植物怪人が次の攻撃に移ろうと再び腕を振り上げる。
その時アンドレがその場で警棒を高く掲げ「フンっ!」と言う気合と共に、一歩踏み込むと同時に大上段から警棒を振り降ろした。
見た目は単なる素振りの様であったが、その瞬間、植物怪人の右腕は肩からポトリと切り落とされていた。
アンドレが手にしていたのは警棒、つまり鈍器である。更に彼我の距離は到底警棒の長さで補えるものでは無い。
普通に考えればアンドレの所作と怪人へのダメージは無関係な様にも見えるが、もちろんそうでは無い。
アンドレは己の気を打撃に乗せ、離れた位置まで闘気を撃ち出したのだ。
闘気をぶつけるだけで無く、刃の様に研ぎ澄ませて放てる程の才能の持ち主は魔法王国でも多くは無かった。
アンドレはその数少ない才能の持ち主でありかつ、勇者と謳われた睦美の兄ガイラムから教えを受けた新鋭である。若くして近衛隊に抜擢されたのは実力による物で、決してコネや道楽からではない。
ちなみに警棒とはいえ武器を持っているのは、徒手空拳では斬撃のイメージが湧かずに技が失敗しやすいかららしい。
慌てたのはウタマロんと怪人である。魔法少女からの妨害を想定して、今回はコブラと植物2体の怪人双方に邪魔具を装備させていたのだが、どちらも魔法では無く物理攻撃によって大ダメージを受けてしまった。
特にアンドレの実力を知らない蘭に『報告の要無し』と判断され、そのレポートから抹消されていた彼について何の情報も持っていないウタマロん (凛)は大きく動揺していた。
「ちょっとあんな変な外人のオジサンとか聞いてないんですけど? 新キャラなの? それともお姉が報告サボってたの?!」
不安と焦りの籠もった叫びではあったが、当然ながら外部には「マロ〜ん」としか出力されない。
しかし、ウタマロんの傍らに立つ植物怪人であるが、右腕を切断された割にはあまり大きなダメージを感じていない様であった。
もちろんこれにはカラクリがある。植物には心臓や頭脳といった動物的な急所が無い。すなわち局部的な切断攻撃を受ける、それこそ胴体を両断されても即座に『死ぬ』様な事は無い。
現にアンドレに切断された腕は、また肩の根本から何本もの蔦が新しく生えてきて、それらが寄り合わさって新しい腕を構成した。
「マロ〜ん (うわキッモ! でも凄い能力。さっさとあのオジサンをやっつけちゃって)!」
植物怪人に指示を出すウタマロん。しかし植物であるが故に『根付いていないと活動出来ない』弱点も併せ持っていた。腕から繰り出す触手攻撃こそ素早いが、それ以外の挙動は移動速度も含めてかなりスローな物だ。
植物怪人が第2撃を放つ前にアンドレの第2撃が飛んで来た。今度は植物怪人の正中線に沿って正確に技が放たれている。このままでは植物怪人は縦に真っ二つにされるだろう。
「マロ〜ん (ああもう! 鈍臭い怪人ね。しょうがない!)」
植物怪人が真っ二つになるとどうなるのか? そのまま死んで消えてしまうのか? 片方だけが再生してまた体を作るのか? はたまたその両方が再生し分身攻撃が可能になるのか?
凛にはまるで予想が付かなかった。なので最悪の場合を想定して動くしか無い。
ここで植物怪人が完全に倒されたら凛は何も成していないまま敵地に孤立することになる。
ウタマロんの防御力は完璧無比であり、中の凛は絶対に安全が保証される。これは祖父繁蔵の言葉であるが、今はそれに賭けるしかない。
植物怪人がアンドレの斬撃を受ける前に、怪人をカバーする様にウタマロんが動く。
怪人の代わりに斬撃を受けたウタマロんへのダメージは極めて軽微な物であったが『無傷』では無かった。対物ライフルの銃弾をも弾くウタマロんの装甲をして、アンドレの攻撃はそこに傷を付けたのだ。
「マロ〜ん… (え〜っ? 何なのこいつ? メッチャヤバいじゃん… うん…? また何か来た…)」
ウタマロんの外部モニターが新たに捉えたのは、ゆっくりとした足取りで駐車場へとやって来た大豪院だった。
「やれやれ… 荒事は嫌いですがそうも言ってられないみたいですねぇ」
アンドレが懐から出したのは睦美の乱世丸によく似た剣… ではなく数千円で購入できる安物の伸縮性特殊警棒だった。
『日本ではその辺の文房具屋で買ったカッターナイフですら持ち歩いていたら銃刀法違反で捕まりますからねぇ。やりにくいったらありゃしない』
不法入国並びに不法滞在している外国人 (外界人?)であるアンドレは、事件を起こして警察に逮捕されるリスクを極力減らしたかった。
アンドレが手に持つ警棒を軽く振ると、カシャンという音がして長さ45cmの鉄の棒が展開される。
ちなみにこの45cmというのも警備業法で定められた、警備員が携帯できる特殊警棒の長さの制限内である。
「こうやって戦うのは16年ぶりでしょうか…? 体が鈍ってない事を祈りますよ」
アンドレを妨害者と認識したのか、地面を覆う蔦の総元締めの様な怪人が異様な程ゆっくりと動きアンドレと対峙する。
相対距離が10m程になった時に、不意に怪人の手が伸びてアンドレを絡め取ろうとする。恐らく周囲の蔦に囚われている人々はこの攻撃で捕まったのだろう。
アンドレはその伸びてきた蔦を、表情も変えずに警棒で横一閃に打ち払う。すると伸びてきた蔦はアンドレに届く直前に、まるで蒸発する様に消えて失せた。
植物怪人が次の攻撃に移ろうと再び腕を振り上げる。
その時アンドレがその場で警棒を高く掲げ「フンっ!」と言う気合と共に、一歩踏み込むと同時に大上段から警棒を振り降ろした。
見た目は単なる素振りの様であったが、その瞬間、植物怪人の右腕は肩からポトリと切り落とされていた。
アンドレが手にしていたのは警棒、つまり鈍器である。更に彼我の距離は到底警棒の長さで補えるものでは無い。
普通に考えればアンドレの所作と怪人へのダメージは無関係な様にも見えるが、もちろんそうでは無い。
アンドレは己の気を打撃に乗せ、離れた位置まで闘気を撃ち出したのだ。
闘気をぶつけるだけで無く、刃の様に研ぎ澄ませて放てる程の才能の持ち主は魔法王国でも多くは無かった。
アンドレはその数少ない才能の持ち主でありかつ、勇者と謳われた睦美の兄ガイラムから教えを受けた新鋭である。若くして近衛隊に抜擢されたのは実力による物で、決してコネや道楽からではない。
ちなみに警棒とはいえ武器を持っているのは、徒手空拳では斬撃のイメージが湧かずに技が失敗しやすいかららしい。
慌てたのはウタマロんと怪人である。魔法少女からの妨害を想定して、今回はコブラと植物2体の怪人双方に邪魔具を装備させていたのだが、どちらも魔法では無く物理攻撃によって大ダメージを受けてしまった。
特にアンドレの実力を知らない蘭に『報告の要無し』と判断され、そのレポートから抹消されていた彼について何の情報も持っていないウタマロん (凛)は大きく動揺していた。
「ちょっとあんな変な外人のオジサンとか聞いてないんですけど? 新キャラなの? それともお姉が報告サボってたの?!」
不安と焦りの籠もった叫びではあったが、当然ながら外部には「マロ〜ん」としか出力されない。
しかし、ウタマロんの傍らに立つ植物怪人であるが、右腕を切断された割にはあまり大きなダメージを感じていない様であった。
もちろんこれにはカラクリがある。植物には心臓や頭脳といった動物的な急所が無い。すなわち局部的な切断攻撃を受ける、それこそ胴体を両断されても即座に『死ぬ』様な事は無い。
現にアンドレに切断された腕は、また肩の根本から何本もの蔦が新しく生えてきて、それらが寄り合わさって新しい腕を構成した。
「マロ〜ん (うわキッモ! でも凄い能力。さっさとあのオジサンをやっつけちゃって)!」
植物怪人に指示を出すウタマロん。しかし植物であるが故に『根付いていないと活動出来ない』弱点も併せ持っていた。腕から繰り出す触手攻撃こそ素早いが、それ以外の挙動は移動速度も含めてかなりスローな物だ。
植物怪人が第2撃を放つ前にアンドレの第2撃が飛んで来た。今度は植物怪人の正中線に沿って正確に技が放たれている。このままでは植物怪人は縦に真っ二つにされるだろう。
「マロ〜ん (ああもう! 鈍臭い怪人ね。しょうがない!)」
植物怪人が真っ二つになるとどうなるのか? そのまま死んで消えてしまうのか? 片方だけが再生してまた体を作るのか? はたまたその両方が再生し分身攻撃が可能になるのか?
凛にはまるで予想が付かなかった。なので最悪の場合を想定して動くしか無い。
ここで植物怪人が完全に倒されたら凛は何も成していないまま敵地に孤立することになる。
ウタマロんの防御力は完璧無比であり、中の凛は絶対に安全が保証される。これは祖父繁蔵の言葉であるが、今はそれに賭けるしかない。
植物怪人がアンドレの斬撃を受ける前に、怪人をカバーする様にウタマロんが動く。
怪人の代わりに斬撃を受けたウタマロんへのダメージは極めて軽微な物であったが『無傷』では無かった。対物ライフルの銃弾をも弾くウタマロんの装甲をして、アンドレの攻撃はそこに傷を付けたのだ。
「マロ〜ん… (え〜っ? 何なのこいつ? メッチャヤバいじゃん… うん…? また何か来た…)」
ウタマロんの外部モニターが新たに捉えたのは、ゆっくりとした足取りで駐車場へとやって来た大豪院だった。