毛玉誘拐されに行く
不機嫌なルセウスと上機嫌なアイオリア様が競う様に紅茶のお代わりをしてくる。
発端は折角来てくれたアイオリア様を追い返す様な不義理は出来ないし、アイオリア様も話があるのだと言って引き下がらなくてお茶に誘ったの。
「そのくらいにして帰ったらどうだ」
「いやあアメディア嬢の淹れる紅茶は美味い」
「話を聞け! これから私達はディアの見立てで私の眼鏡を買いに行くんだ」
「ををルセウスお前やったな! デートじゃないか」
「で、でえと!? ふ、不健全な言い方をするな」
同時にカップが突き出されて私は新しい紅茶を注ぐ。
それにしても二人共飲み過ぎ。私は思わずジト目になる。
「あーと、肝心な事を忘れるところだった。アメディア嬢、リシア家には子供がいるのかい?」
「セオス様の事ですか?」
「セオス君と言うのか。今どこに?」
「今日は図書⋯⋯館へ」
王宮の図書室へ入り込んでいるなんてとてもじゃないけれど言えない。
私のジト目と答えにアイオリア様は「一人でか」と呟いてカップをカチャリと置いた。
「迎えに行こう。心配だ」
「どう言う事だアイオリア、説明しろ」
先ほどまでルセウスと戯れる大型犬の様だったアイオリア様の表情が固くなりその様子にルセウスも眼鏡を直した。
「リシア家とアメディア嬢への嫌がらせが上手くいっていない事に王女が苛立っていてな。崇拝者から街でアメディア嬢が男の子と一緒に居たと聞いて「その子をご招待したいわ」と言ったようだ」
「まさか──」
「ああ、俺もまさかと思いたいよ。あの王女が子供に興味を持つなんてあり得ない。いつもの憂いの如く崇拝者達は⋯⋯セオス君を誘拐するつもりだろう」
嘘でしょう。ディーテ様は王女なのにそこまでするの⋯⋯。
私はルセウスと目を合わせて慌てて立ち上がった。セオス様にもしもの事があったら──。
「セオス様を迎えに行きます!」
叫んでしまってから私は、はたりと気が付いた。
あれ? まって。セオス様は大丈夫じゃない? だって国神様だもの。
「ディア?」
動きを止めた私をルセウスが心配そうに覗き込んでいる。
私はぎゅっと両手を組んで頭の中でセオス様に問いかけた。
──セオス様! 聞こえますか?──
──を? アメディアか。なんだ?──
──良かったセオス様。今何処ですか──
──王宮の帰りで図書館に来ているぞ──
大丈夫だと思ってはいても、いつも通りのセオス様からの返事に私は安心した。
簡単にアイオリア様から聞いた話をセオス様に伝えてこれから迎えに行くと言えばセオス様は「ほうほう」と軽い反応を返して来た。
──ああ、だからこの司書はボク様から離れないのか──
──え?! もしかして司書の方がそこに⋯⋯居るのですか──
──をう、そうだぞ。これからお菓子をくれるそうだ。ふむ、そう言う事ならボク様誘拐されてやるぞ──
──ちょ、え!? セオス様!?──
──何か聞き出せるかも知れないぞ。心配するなボク様は国神だ。では、行ってくる──
──えっ、セオス様? セオス様!?──
プツリと途絶えたセオス様の通信。それからは何度呼びかけてもセオス様からの返事はなく、私はそろりと両手を下ろした。
心配は、それほどしていないのだけれど⋯⋯違う意味で心配はあるのだけれど。
「ごめんなさいルセウス。落ち着いたわ。セオス様を迎えに行きましょう」
「ああ。セオス君なら大丈夫。何故だか彼は⋯⋯何があっても大丈夫な気がする」
流石ルセウス。ただセオス様と親子ごっこしている訳ではないわね。
今、この時もどこかで監視者が居る。私達は念には念を入れて別々の馬車、別々のルートで図書館に向かった。
その間も私はセオス様に問いかけたのだけれど反応は返って来なかった。
やがて、図書館に着いた私とルセウスは早る気持ちを抑えて中を探した。
けれどその何処にもセオス様の姿はなく、本当に誘拐されに行ったのだと分かって身震いが起きた。
前回は自分の手を汚さず追い込むディーテ様の性格もやり口も知らなかった。見えていなかった。
こんなにも力がある人が悪意を持って人を追い詰めたらどうなるかなんて想像すらしなかった。
セオス様が居なくなった事で、それがどれだけ恐ろしい事なのか理解出来た。
私は⋯⋯勝てるのかな。
「何処にも居ないな。アイオリア頼めるか」
「ああ、保安騎士に捜索命令を出して来る。アメディア嬢、セオス君は大丈夫。信じていてくれ」
「は、はい。よろしく⋯⋯お願いします」
セオス様が何処に居るのか分からない以上、どうもする事が出来ない。
私はディーテ様に狙われているのだから勝手に動き回る事は控えなくてはならないし、警護してもらっているのに下手に動いて私まで誘拐なんてされたら迷惑の、極み。自分に呆れてしまう。
「私達は屋敷へ戻っていよう」
「ええ。そうしましょう」
けれど、それでもセオス様の事が心配で堪らない⋯⋯違うわね、セオス様が何をやらかすのか心配だわ。
発端は折角来てくれたアイオリア様を追い返す様な不義理は出来ないし、アイオリア様も話があるのだと言って引き下がらなくてお茶に誘ったの。
「そのくらいにして帰ったらどうだ」
「いやあアメディア嬢の淹れる紅茶は美味い」
「話を聞け! これから私達はディアの見立てで私の眼鏡を買いに行くんだ」
「ををルセウスお前やったな! デートじゃないか」
「で、でえと!? ふ、不健全な言い方をするな」
同時にカップが突き出されて私は新しい紅茶を注ぐ。
それにしても二人共飲み過ぎ。私は思わずジト目になる。
「あーと、肝心な事を忘れるところだった。アメディア嬢、リシア家には子供がいるのかい?」
「セオス様の事ですか?」
「セオス君と言うのか。今どこに?」
「今日は図書⋯⋯館へ」
王宮の図書室へ入り込んでいるなんてとてもじゃないけれど言えない。
私のジト目と答えにアイオリア様は「一人でか」と呟いてカップをカチャリと置いた。
「迎えに行こう。心配だ」
「どう言う事だアイオリア、説明しろ」
先ほどまでルセウスと戯れる大型犬の様だったアイオリア様の表情が固くなりその様子にルセウスも眼鏡を直した。
「リシア家とアメディア嬢への嫌がらせが上手くいっていない事に王女が苛立っていてな。崇拝者から街でアメディア嬢が男の子と一緒に居たと聞いて「その子をご招待したいわ」と言ったようだ」
「まさか──」
「ああ、俺もまさかと思いたいよ。あの王女が子供に興味を持つなんてあり得ない。いつもの憂いの如く崇拝者達は⋯⋯セオス君を誘拐するつもりだろう」
嘘でしょう。ディーテ様は王女なのにそこまでするの⋯⋯。
私はルセウスと目を合わせて慌てて立ち上がった。セオス様にもしもの事があったら──。
「セオス様を迎えに行きます!」
叫んでしまってから私は、はたりと気が付いた。
あれ? まって。セオス様は大丈夫じゃない? だって国神様だもの。
「ディア?」
動きを止めた私をルセウスが心配そうに覗き込んでいる。
私はぎゅっと両手を組んで頭の中でセオス様に問いかけた。
──セオス様! 聞こえますか?──
──を? アメディアか。なんだ?──
──良かったセオス様。今何処ですか──
──王宮の帰りで図書館に来ているぞ──
大丈夫だと思ってはいても、いつも通りのセオス様からの返事に私は安心した。
簡単にアイオリア様から聞いた話をセオス様に伝えてこれから迎えに行くと言えばセオス様は「ほうほう」と軽い反応を返して来た。
──ああ、だからこの司書はボク様から離れないのか──
──え?! もしかして司書の方がそこに⋯⋯居るのですか──
──をう、そうだぞ。これからお菓子をくれるそうだ。ふむ、そう言う事ならボク様誘拐されてやるぞ──
──ちょ、え!? セオス様!?──
──何か聞き出せるかも知れないぞ。心配するなボク様は国神だ。では、行ってくる──
──えっ、セオス様? セオス様!?──
プツリと途絶えたセオス様の通信。それからは何度呼びかけてもセオス様からの返事はなく、私はそろりと両手を下ろした。
心配は、それほどしていないのだけれど⋯⋯違う意味で心配はあるのだけれど。
「ごめんなさいルセウス。落ち着いたわ。セオス様を迎えに行きましょう」
「ああ。セオス君なら大丈夫。何故だか彼は⋯⋯何があっても大丈夫な気がする」
流石ルセウス。ただセオス様と親子ごっこしている訳ではないわね。
今、この時もどこかで監視者が居る。私達は念には念を入れて別々の馬車、別々のルートで図書館に向かった。
その間も私はセオス様に問いかけたのだけれど反応は返って来なかった。
やがて、図書館に着いた私とルセウスは早る気持ちを抑えて中を探した。
けれどその何処にもセオス様の姿はなく、本当に誘拐されに行ったのだと分かって身震いが起きた。
前回は自分の手を汚さず追い込むディーテ様の性格もやり口も知らなかった。見えていなかった。
こんなにも力がある人が悪意を持って人を追い詰めたらどうなるかなんて想像すらしなかった。
セオス様が居なくなった事で、それがどれだけ恐ろしい事なのか理解出来た。
私は⋯⋯勝てるのかな。
「何処にも居ないな。アイオリア頼めるか」
「ああ、保安騎士に捜索命令を出して来る。アメディア嬢、セオス君は大丈夫。信じていてくれ」
「は、はい。よろしく⋯⋯お願いします」
セオス様が何処に居るのか分からない以上、どうもする事が出来ない。
私はディーテ様に狙われているのだから勝手に動き回る事は控えなくてはならないし、警護してもらっているのに下手に動いて私まで誘拐なんてされたら迷惑の、極み。自分に呆れてしまう。
「私達は屋敷へ戻っていよう」
「ええ。そうしましょう」
けれど、それでもセオス様の事が心配で堪らない⋯⋯違うわね、セオス様が何をやらかすのか心配だわ。