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作者: 京泉
妖精姫のお茶会
 妖精姫が開くお茶会に招待される。それはとても名誉な事。一度呼ばれるだけでも社交界では一目置かれるようになるものだった。

 けれど、このところのディーテ様のお茶会の評判はあまりよろしくなく招待された人達は皆、「あのお方はご気分屋だから」と苦笑いを浮かべるようになっていると教えてくれたのは、王女様主催でのお茶会の作法を教えてくれた社交界を牽引するエンデ侯爵家の夫人ジャンヌ様。
 教えを乞いて以来、気にかけていただいているの。

「アメディア様、今日は何があっても貴女は微笑んでいなさい」

 エワンリウム王国のお茶会の作法は主催者もしくは身分が一番下の者が誰よりも早く会場に入り、順に入場してくる方を迎え最後に一番上の方を迎える。
 このお茶会は王女様が主催だから招待客の中で一番身分が低い私だけがそれをしたのだけれど。
 順当に参加者を迎え、ジャンヌ様の番。

 ジャンヌ様は私の姿を視認すると微かに微笑みながらすれ違う時に先の言葉を私にかけた。

 そして⋯⋯いよいよディーテ様だ。
 ディーテ様は勝ち誇った笑みを私に投げかけて一瞬目を見開いた。

「──っ」

 息を飲んだのはディーテ様だけではなかった。
 
 黒のマーメイドドレスに金色のレースを施したシックなドレスのディーテ様に招待客達はそのドレスが誰を表しているのか察して息を飲んだのだ。

「まぁ……ディーテ様のお召し物……」
「やはりディーテ様はルセウス様を?」

 ヒソヒソと交わされる会話に聞き耳を立てながらも私は笑顔を貼り付ける。

 今日のお茶会のドレスコードは婚約者がいる者は婚約者の色、既婚の者は旦那様の色をどこかに使用したドレスである事。

 前回、私はルセウスの黒と金色のレースを使ったマーメイドラインのドレスでこのお茶会に参加した。
 そしてディーテ様も全く同じドレスだった。まあ、生地の素材はディーテ様の方が良いものだったけれどね。

 ディーテ様のドレスもそのドレスを見た招待客の反応も前回の記憶と同じ。

 けれど、今回違うのは⋯⋯私のドレス。

「⋯⋯ようこそ皆さま。本日は気心の知れた者だけのお茶会ですの。どうぞ楽しんでいってくださいませ」

 何事もないように微笑みを戻したディーテ様が宣言してお茶会が始まった。
 いくら気心が知れたと言ってもそれはディーテ様だけなのは暗黙の了解。
 私もジャンヌ様も気を張り周りに合わせて紅茶と菓子を手にする。

 暫くは天気の話や最近の流行と他愛もない話をしていたのだけれど、ディーテ様がカップを置いてから話の流れが変わった。

「──さて、本日は皆様にドレスコードを指定させていただいたのだけれど⋯⋯」

 冷やり。テーブルの空気が冷えた。

 ディーテ様が何を言いたいのか。誰もが察して私を見る。
 
「私にはまだ婚約者がおりませんでしょう? ですから想う方の色をあしらってみましたの」

 ふふっと笑ったディーテ様のドレス。その色がルセウスを示していると誰もが知るところ。
 そしてそのルセウスは私の婚約者だと誰もが知っている。

「アメディア様は⋯⋯ドレスコードをお忘れになっているのかしら?」

 来た。同じドレスを着て来ると思っていたディーテ様は一見婚約者の色を使っていないドレスの私をマナー違反だと言いたいのだ。

 可愛らしい微笑みのディーテ様に私もジャンヌ様の言葉を反芻して微笑み見返す。

「少し⋯⋯失礼いたします」

 私は席を立ち、ドレスの合わせ部分を摘んで広げて裾の飾りを腰の部分の飾りに留める。
 表れたのはマーメイドドレスだ。

「あら、まあっデザインが変わるのね」
「ローズピンクにしては落ち着いたお色だと思っていましたけれど、そう言う事でしたの」
「この生地は⋯⋯下の色を通すのね」

 私は前回と同じルセウスの黒でマーメイドドレスを作った。
 ディーテ様はこの時点でのデザインを手に入れ、同じものを仕立てたのね。
 でも私のドレスは更にイドラン王太子が教えてくれたオーガンジーやレースのようにハッキリと下の生地が見える素材ではなく薄らとその下にあるものが透けるラガダン王国の柔らかい薄い布を重ねたのだ。

「これはラガダン王国の伝統工芸品でもある生地なのです」
「まあっ! これがラガダン王国の生地なのね」

 ジャンヌ様が目を輝かせ「良く見せて」とドレスの生地に手を滑らせながらひっそりと「なかなかやりますわね」と囁いた。

 このドレスはルセウスが考案してくれたもの。
 「アレをしてみるか」と言った彼は仕立て屋に普段通りの依頼を出し、店員の動向を探った。
 案の定ディーテ様の息がかかった店員が動き、それを確認してから安全だと確信した店員にだけ完成形を伝えたのだ。

「まあっ⋯⋯素敵な仕掛けがあるのね」

 ディーテ様が私のドレスに感嘆の声を上げながら微笑んでまさかのマナー違反をしたと思えた私への冷えた視線と場の空気が和らいだ。
 
 けれど、細められたディーテ様の目は相変わらず笑っていない。

「一体どこからラガダン王国の生地を手に入れましたの?」
「我が商会で取り扱いたいわ是非紹介してくださらない?」
「もしかするとですわよ、これがラガダン王国との交流の糸口になるかも知れませんわ」
「ええ、ええ。なりますわよ」

 お茶会は社交の場。思惑を微笑みに隠し情報を得る場でもある。

 私は質問攻めに会い、話題をドレスの色から変えられた事に安堵したけれどディーテ様の王族はいついかなる時も表情から感情を読まれないようにとでも教えられているからなのか、じっとりとした視線は私に向けられたままだった。
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