残酷な描写あり
R-15
第1話
諦めのついた人間とはひどく冷静になるものだ。
草原の彼方で沈み始めた太陽を見ながらシセルはそう思った。
「ほら早く行けよ。おまえたちの仲間だ」
「う、うん……」
シセルはそう言いながら後ろでまとめていた長い黒髪をほどいた。
汗と泥で汚れた顔を手でぬぐいながら、後ろに付いてきていた性別もさまざまな子供達に声をかける。
この子供達は全員敵の国の人間で捕虜だった存在。
シセルは子供達の世話をしていたが敵から逃げられなくなり腹を決めた。
「おじさんは……?」
「俺はそっちには行けない。おまえ達だけで行くんだ」
「うん……分かった。じゃあね、おじさん」
だだっ広い草原、地平線の彼方にうっすらと見えてきた『敵』の姿……
子供達が彼等の所に行けば、そこでシセルの人生も終わるだろう。
敵がシセルを生かしておいてくれる道理はない。
──それでいい、もう疲れた。
諦めとは別に不思議と安心感のようなものも感じていた。
だがそんな心は次の瞬間に砕け散った。
「え?」
敵がいる方向から大量の黒い何かが勢いよく放たれた。
…………矢だ。
何千という数の矢が、シセル達目掛けて空を覆いつくしながら飛んできているのだ。
「ッ!? 物陰に隠れろ!!」
慌てて子供たちにそう促す。
けど子供がそれを理解し行動するまでの時間はあまりにも足りなくて……
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!?」
響き渡る悲鳴を聞きながら、シセルはその場に倒れこんで頭を抱える。
矢に貫かれその場に倒れこんだ子供達がうめき声を上げる。
目玉を貫かれた子供も居た。
泣き声、うめき声、地面で倒れ伏してもがき苦しむ子供もいる。
「パウラ! おい!」
「おじさん……痛いよ」
近くにいた女の子に話しかけてみるが顔面蒼白、息も荒い。
「あ、ああ……パウラ、どうして」
なぜ自分だけが無事だったのか?敵はなぜ仲間であるはずの子供たちを殺したのか?
シセルの頭の中は全てそれだった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
敵の鬨の声が聞こえる。
砂煙を巻き上げ猛然と駆けてくる敵が見える。
「ひ、ひぃっ!!」
シセルは情けない声を漏らしながら無心で女の子を抱きかかえ敵から逃げた。
「おじさん……」
走って走って走って、ただひたすらもつれそうになる足を動かす。
もうすぐ林が見えてくる、そこまで行けば自分もこの女の子もきっと助かる。
そこまでたどりつければ、助かる、助けられる。
そう信じてシセルは走り続けた。
「ハァッ……ハァッ……ハァッ」
荒い息を吐きながらなんとかたどり着いた林の中では鳥が呑気にさえずっている。
「もう大丈夫だ。パウ……ラ……?」
抱きかかえていた女の子はもうどうしようもないくらい冷え切っていて……
思えばどの位走ったのだろうか?どの位の時間が経ったのだろうか?
空は既に月が顔を出していて、それを見て悟った。
何もかもが遅すぎたのだ、と……
「ごめんなパウラ、お前達」
こうしてシセルはたった一人で生き延びた。
草原の彼方で沈み始めた太陽を見ながらシセルはそう思った。
「ほら早く行けよ。おまえたちの仲間だ」
「う、うん……」
シセルはそう言いながら後ろでまとめていた長い黒髪をほどいた。
汗と泥で汚れた顔を手でぬぐいながら、後ろに付いてきていた性別もさまざまな子供達に声をかける。
この子供達は全員敵の国の人間で捕虜だった存在。
シセルは子供達の世話をしていたが敵から逃げられなくなり腹を決めた。
「おじさんは……?」
「俺はそっちには行けない。おまえ達だけで行くんだ」
「うん……分かった。じゃあね、おじさん」
だだっ広い草原、地平線の彼方にうっすらと見えてきた『敵』の姿……
子供達が彼等の所に行けば、そこでシセルの人生も終わるだろう。
敵がシセルを生かしておいてくれる道理はない。
──それでいい、もう疲れた。
諦めとは別に不思議と安心感のようなものも感じていた。
だがそんな心は次の瞬間に砕け散った。
「え?」
敵がいる方向から大量の黒い何かが勢いよく放たれた。
…………矢だ。
何千という数の矢が、シセル達目掛けて空を覆いつくしながら飛んできているのだ。
「ッ!? 物陰に隠れろ!!」
慌てて子供たちにそう促す。
けど子供がそれを理解し行動するまでの時間はあまりにも足りなくて……
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!?」
響き渡る悲鳴を聞きながら、シセルはその場に倒れこんで頭を抱える。
矢に貫かれその場に倒れこんだ子供達がうめき声を上げる。
目玉を貫かれた子供も居た。
泣き声、うめき声、地面で倒れ伏してもがき苦しむ子供もいる。
「パウラ! おい!」
「おじさん……痛いよ」
近くにいた女の子に話しかけてみるが顔面蒼白、息も荒い。
「あ、ああ……パウラ、どうして」
なぜ自分だけが無事だったのか?敵はなぜ仲間であるはずの子供たちを殺したのか?
シセルの頭の中は全てそれだった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
敵の鬨の声が聞こえる。
砂煙を巻き上げ猛然と駆けてくる敵が見える。
「ひ、ひぃっ!!」
シセルは情けない声を漏らしながら無心で女の子を抱きかかえ敵から逃げた。
「おじさん……」
走って走って走って、ただひたすらもつれそうになる足を動かす。
もうすぐ林が見えてくる、そこまで行けば自分もこの女の子もきっと助かる。
そこまでたどりつければ、助かる、助けられる。
そう信じてシセルは走り続けた。
「ハァッ……ハァッ……ハァッ」
荒い息を吐きながらなんとかたどり着いた林の中では鳥が呑気にさえずっている。
「もう大丈夫だ。パウ……ラ……?」
抱きかかえていた女の子はもうどうしようもないくらい冷え切っていて……
思えばどの位走ったのだろうか?どの位の時間が経ったのだろうか?
空は既に月が顔を出していて、それを見て悟った。
何もかもが遅すぎたのだ、と……
「ごめんなパウラ、お前達」
こうしてシセルはたった一人で生き延びた。