残酷な描写あり
R-15
第2話
5年後、旧ズウォレス王国北東部ウィール村。
かつてシセルが守ろうとした国、ズウォレス王国は敗戦。
敵国であるベルトムント王国に吸収されて消えた。
故郷はベルトムントから流れてきた人間によって奪われ、シセル含むズウォレス人は放浪の民となっていた。
「くそまずい酒だな」
「似合ってるぞ」
そして現在のシセルはというと、ベルトムント人が集まる汚い酒場でこうしてなけなしの金を酒につぎ込む中毒者に。
長い黒髪は腰まで伸び、生気の無い青い瞳で店主に限りなく水で薄められた葡萄酒を見ていた。
大きなトネリコの弓を担ぎ、補修を何度も繰り返した革の鎧に身をつつんだシセルの姿はさぞかし異様に見えるだろう。
「それでお客さん、どこから来たんだ? そのバカデカい弓を見るにズウォレスの兵士だったんだろう? 戦争で何人殺したんだ? 聞かせてくれよ」
「……黙って酒を注いでくれ。ただでさえ不味い酒がもっと不味くなる」
「おいおい良いだろう? それとも誰も殺さずおめおめ生き残ったのか惨めなもんだな」
「ッ!!」
怒りで拳を握りしめてみる。
そんなことをしても何も変わらないのは承知の上だが、そうでもしないとこの店主を酒樽に頭から叩き込みたくなるからだ。
「……ッケ。来ねぇのかよ。つまらねぇ」
殴りかかってこないシセルを見て店主が鼻で笑った。
もう戦うのはやめた。
シセルは過去の戦争の事を思い出していた。
死んでいく仲間、怯えながらも矢を放つ自分、そして捕虜だった子供の事……
敵も味方もまるでごみの様に死んでいったあの時代と同じ気分を味わいたくない。
そんなことを考え明後日の方を見ていると店の中に一人の女性が入ってきた。
格好はというと革鎧に膝まである編み上げのブーツ、肩まである黄金色の髪と青い瞳、顔は思わず振り返って凝視するほど整ってはいるが性格のきつそうな顔をしている。
「この中にズウォレス人はいるか!? いるならば私に付いてきてくれ! 私の名はフロリーナ! 共に失われたものを取り戻そう!」
何をするのか見ていたら店の中に響き渡る声でフロリーナと名乗る女性はそう叫んだ。
「そらアンタを呼んでるぞ。行けよ」
「……知らん」
どう見てもフロリーナは頭がおかしい。
下手すれば捕まってさらし首になりかねない女など放っておくに限る。
「おーいお嬢さん! このお客さんがズウォレス人だ!」
──この店主め、余計なことを。
「貴方か? 一緒に来てほしい」
フロリーナが靴音を鳴らしながらお互いの顔が触れ合うほど近づいてきた。
「俺は行かない。アンタは頭がイカれてるんだ」
「……見たところその日暮らしだろう? 私には貴方を養ってやれるだけの金を持っているぞ。ズウォレス人というなら私は貴方を救いたい」
女性にしては低めの声だ。
「ごちそうさん。つぎはもっとましな酒を用意してくれ」
フロリーナの言葉を無視して店主に嫌味と苦情を言いつつ店の外に出る。
面倒ごとは御免だった。
かつてシセルが守ろうとした国、ズウォレス王国は敗戦。
敵国であるベルトムント王国に吸収されて消えた。
故郷はベルトムントから流れてきた人間によって奪われ、シセル含むズウォレス人は放浪の民となっていた。
「くそまずい酒だな」
「似合ってるぞ」
そして現在のシセルはというと、ベルトムント人が集まる汚い酒場でこうしてなけなしの金を酒につぎ込む中毒者に。
長い黒髪は腰まで伸び、生気の無い青い瞳で店主に限りなく水で薄められた葡萄酒を見ていた。
大きなトネリコの弓を担ぎ、補修を何度も繰り返した革の鎧に身をつつんだシセルの姿はさぞかし異様に見えるだろう。
「それでお客さん、どこから来たんだ? そのバカデカい弓を見るにズウォレスの兵士だったんだろう? 戦争で何人殺したんだ? 聞かせてくれよ」
「……黙って酒を注いでくれ。ただでさえ不味い酒がもっと不味くなる」
「おいおい良いだろう? それとも誰も殺さずおめおめ生き残ったのか惨めなもんだな」
「ッ!!」
怒りで拳を握りしめてみる。
そんなことをしても何も変わらないのは承知の上だが、そうでもしないとこの店主を酒樽に頭から叩き込みたくなるからだ。
「……ッケ。来ねぇのかよ。つまらねぇ」
殴りかかってこないシセルを見て店主が鼻で笑った。
もう戦うのはやめた。
シセルは過去の戦争の事を思い出していた。
死んでいく仲間、怯えながらも矢を放つ自分、そして捕虜だった子供の事……
敵も味方もまるでごみの様に死んでいったあの時代と同じ気分を味わいたくない。
そんなことを考え明後日の方を見ていると店の中に一人の女性が入ってきた。
格好はというと革鎧に膝まである編み上げのブーツ、肩まである黄金色の髪と青い瞳、顔は思わず振り返って凝視するほど整ってはいるが性格のきつそうな顔をしている。
「この中にズウォレス人はいるか!? いるならば私に付いてきてくれ! 私の名はフロリーナ! 共に失われたものを取り戻そう!」
何をするのか見ていたら店の中に響き渡る声でフロリーナと名乗る女性はそう叫んだ。
「そらアンタを呼んでるぞ。行けよ」
「……知らん」
どう見てもフロリーナは頭がおかしい。
下手すれば捕まってさらし首になりかねない女など放っておくに限る。
「おーいお嬢さん! このお客さんがズウォレス人だ!」
──この店主め、余計なことを。
「貴方か? 一緒に来てほしい」
フロリーナが靴音を鳴らしながらお互いの顔が触れ合うほど近づいてきた。
「俺は行かない。アンタは頭がイカれてるんだ」
「……見たところその日暮らしだろう? 私には貴方を養ってやれるだけの金を持っているぞ。ズウォレス人というなら私は貴方を救いたい」
女性にしては低めの声だ。
「ごちそうさん。つぎはもっとましな酒を用意してくれ」
フロリーナの言葉を無視して店主に嫌味と苦情を言いつつ店の外に出る。
面倒ごとは御免だった。