残酷な描写あり
第36話 アタシのリンカーは『ソドシラソ』。遠慮はナシよ.1
「いっ、痛い……!」
「無闇に動かすものじゃないわよ」
「そーそー。オレなんて、ケガ慣れしてるからなんともないけどさぁ」
「「えぇ……」」
先の『ドグラマグラ』との連戦を終え、僕は一歩遅れの痛みに呻いていた。戦闘中の興奮でアドレナリンが分泌され、抑えられていた痛覚が現れ始めたからだ。
ここは桜川病院、その待合室。お父さんも勤務先でもある。真っ先にお父さんが飛び出して僕らを心配してくれたけれど、僕はカンタンな止血や傷薬といった処置で済んだ。ヒカリも、それと彼方や厄介ファンの五十嵐さんも診てもらった。ヒカリは人と同じ処置で済むらしい。傷自体は彼方が一番酷く、あちこち包帯グルグル巻きだ。大人しく三人並んで座ってる最中だ。
それから──
「タマキさん」
「あっ、再寧さん」
僕はあの後、すぐに再寧さんに連絡をしていた。再寧さんはまだこないだの傷が完治してないようで、袖から包帯が覗く。みんなボロボロだ。
そうして眺めてたら、隣の彼方が勢いよく抱きつかれていた。誰だ、この子……。
「かなたぁ〜ん! もぉ〜心配したんですのよぉ〜?!」
「ちょっ……母さんっ、外でその呼び方やめてって……!」
「こんなにケガしちゃって大変ですわよ! おてて痛いですわよね? ほ〜ら、痛いの痛いの〜」
「やめてってばもぉ〜……!」
「は〜、お母さんかぁ……」
コッチはまた別の意味で大変そうだ……。ボロボロの彼方に、岸本お母さんがちっちゃい体でぎゅ〜っと……。
「えっ、ちっちゃいっ!?」
「ホントね、小さいわね、お母さんなのね?」
「あら初めまして。改めまして、ワタクシが彼方の母にして、季節ヶ丘警察署・特殊能力犯罪捜査一課、課長の岸本 梓ですわ。今後とも、よろしくお願い致しますの」
キビっとこっちを向いた岸本お母さん──梓さんは、両手を交差させてお辞儀する。お母さんがよくやるあの丁寧なイメージ、どこのご家庭でもやるんだ。
青と緑色かかったような、姫カットのロングヘアーが、お辞儀した頭にかかる。ふわっとしたそれを掻き上げながら、体勢を戻して話を進める。
「聞くところによると、リンカー能力者との戦闘があったらしいですわね? 我が子を守ってくださり、ありがとうございますわ」
「あっ、ハイ。あっ、えと、彼方といいますかお子さんも強くて助かったといいますか、あっ、リンカー能力者だって知ってますかねハイ」
再寧さんより、ちょっと背がある。僕よりちっちゃい。一四五センチ前後といったところかな。あとなんか、一部分がデカい。胴体が隆起してる。何がとは言わないけど。そこだけ母なんだ。
気になりすぎるなぁ、またも現れた低身長……! 聞いてみたいなぁ、キャラ被りについて……!
「彼方がリンカー能力者かってことですわよね? ええ。あんまりリンカーを見せてはくれませんけども、存じていますわ。母として!」
胸張って、でっかぁ……。
「見せたくないよこんなの。他のきょうだい連中だってそーゆーのあるワケでもないのに、なんでオレだけ……」
「こんな具合ですわ!」
「あっ、ハイ」
ゴメン彼方余計な事聞いてヤな気分にさせて……!
なんてやってたら、再寧さんが神妙な面持ちで話を切り出す。
「それより。現れたらしいな『ドグラマグラ』が」
僕は空気を察知した。本題に入ろうという事だ。
「……すみません。すぐに連絡しなくて」
「いい。連戦だったんだろう、それに君ら二人が矢面に立って、連絡も入れられなかったろう。よく頑張った。それに、不甲斐ない大人でスマナイ」
「あっ、いえ、ありがとうございます」
再寧さんは本当に丁寧な人だ。僕を咎めるばかりか、労いと謝罪の言葉まで。信頼されてると、嬉しくなる。
続けて、梓さんが話を進める。
「交戦したとの事でしたが、その『ドグラマグラ』の能力の詳細は、どの程度までわかりましたの?」
「あっ、えと、手のひらを能力の発動のキーとして、その中が四次元ポケットみたいに、多分、亜空間になってるのかな? その中に本体もいるかもしれなくて……」
頭こんがらがってきたぁ……! 彼方のお母さんだぞ? 友達のお母さんだぞ? 馴れ馴れしく話すなんてムーリー!
なんて考えてたら、再寧さんが鶴の一声を出す。
「わかった。後で詳細をまとめて私のレインにでも送ってくれ。それでコッチで情報共有しておく」
「あっ、ありがとうございます……」
本当に助かる、再寧さんありがとう……。
「他に、何か変わった事は?」
「変わった事……。あっ、あの機械のこと『テクノ』って呼んでました。それが捜査に繋がるかは分からないですけど……」
「名前が手がかりになるかもしれない、助かるよ」
「あと『ドグラマグラ』の他に仲間が一人、いました。攻撃したけど『ドグラマグラ』にダメージが無かったので、本体ではないと判断として」
「仲間? リンカーじゃないのか」
「はい、あっ、五十嵐さんって人引きずってて、チラっと見えたのも人の手で、そこも加味してそうだろなって……」
説明する傍ら、僕は少し悩んでいた。この場にいない、もかさんのことだ──。
*
──病院へ行く前。桜川病院前の道路にて、もかさんと僕らは会話をしたのだ。
「はぁ?! まさか警察なんかに相談するつもり!?」
もかさんは声を荒らげた。突然の反応に、当然僕は怯む。
「あっ、えと、病院行ってから、あと知り合いに警察の人いるので、それで連絡もしといて……」
「特能課でしょ、それってどーせ。……再寧とかいうヤツ、アイツ来るんならなおさらヤダね」
「えっ、再寧さん?」
「知ってんのアイツのこと? はぁ〜、なんのつもりだが……」
露骨に再寧さんを嫌っている。僕には分からなかった。再寧さんの良いトコをたくさん見てきたからだ。嫌う理由なんて無い。
「この女の子、アンタらに任せるわ。彼方、アタシがいたことオバサンにも言わないでよね」
「あ〜? わぁったよぉ」
言うだけ言って、もかさんは一人さっさと帰ってしまった。
彼方が顔を近づけ、コソコソ声で話しかける。
「なんであんな怒ってるん?」
「あっ、やっぱ怒ってましたよね、もかさん……。あっ、再寧さんって知ってますかね? 再寧 華蓮って、あの、彼方のお母さんの部下にあたる人なんですけど」
「いんや。てか、自分の家族の人間関係まで把握なんての、親が友達のこと知ってるようなの以外じゃ、そうないでしょ」
「た、確かにそうかも……」
なので、僕には再寧さんを嫌う理由なんて、皆目見当もつかないという結論しか出せないのだった。
*
再寧さんの人柄は、少しは分かってるつもりだ。誠実で、真面目で、正義感の強いいい人。そんな再寧さんを、もかさんは明らかに毛嫌いしていた。
いい人の再寧さんを信じるか? 友達のもかさんを信じるか?
僕は──。
「……あの、再寧さん」
「なんだ」
「その…………。あっ、あのっ、神子柴もか、さんって、知ってます、か?」
「……神子柴、もか」
言ってしまった、そう思った。再寧さんの表情に、陰りが差したのが見て取れたからだ。……心当たりが、あるんだ。
ヒカリも、彼方も「言うの?」と言いたげな顔で僕を見ていた。結構、後悔してる。
目を据えて、表情を取り繕って、再寧さんは続ける。
「神子柴、もかさんがどうかしたか?」
「あっ、い、いえ。ただ、なんとなく、えと……」
「いえいえ〜、タマキが話してたんですよ。オレの事も知ってたから、もしかしたらって。それで気になったんでしょ?」
彼方だ。座ったまま、あっさりとそう言ったのは。僕も合わせようと一拍呼吸し、「あっ、ハイ」と返事だけでもした。
「そう、か。……いや、長話をしてスマナイ」
「あっ、いえいえいえそんな事ないですハイ」
「疲れたろう。今日は休んで療養するといい。あと、テクノ、といったか。例の機械、五十嵐 繭結さんから回収し、引き続き警察で捜査しておく」
「あっ、ハイ。ありがとうございます」
再寧さんはすぐさま踵を返し。
「かなたん? 今度はぜぇ〜ったいに、ケンカなんてしちゃダメですわよ?」
「わぁってるよぉ〜」
岸元親子のそんなやり取りがありつつ、梓さんも後に続く。
部下が上司を置いて行こうとするなんて、それも真面目な再寧さんがだ。……やっぱり、訳ありなんだ。
「……なんとなくオレも、心当たりはあるがなぁ」
「知ってるの?」
「ほら、適当言って外れてたら、もかに申し訳ないからさ。あと再寧さん、て言ったっけ? おチビの警察さんや母さんも、何も言わないぞって調子だったし。二人にも申し訳ないよ」
「だったら手っ取り早い方法があるわね」
静観していたヒカリが割って入る、けどこう、なんの事かさっぱりだった。
「え、な、何が?」
「聞くつもりかい? もかに直接」
「え!?」
「でなきゃもかに小言言われ続けるだけね。小言で済めばいいけども」
そんないきなりとは確かに思った、けど……なんとなく、ヒカリの言いたいことが伝わった。同時にそれは、危険な賭けになるかもしれないという事も。
「……わかった。彼方、明日は僕に任せて」
「え?」
「明日、僕からもかさんに聞いてみる。その為に誘う」
「……言っちゃ悪いけど、できるの?」
僕はコクリ、胸に沸き立つ思いのままに頷く。彼方もそれ以上追及せず「あとで集合時間、連絡しなよ」と言って、解散となった。
ヒカリと並び、自信満々に帰路を往く。
「それで、作戦はあるの?」
僕は溢れる自信を胸に抱き、頭の中でシュミレーションを開始していた。
会話、弾む場所、カフェ、近くの広い場所、陽キャの行きそうな場所、あっファッション、ヒラヒラ、なんだろ、何系? 陽キャの服? ジャラジャラ? え、バンドマンの着てきそうな服? 鎖? ピアス? あっそもそも誘い文句、集合時間、場所、みんなの家、近い場所、集まりやすい、ハチ公? キモくない、おじさん構文、ギャル文字、失礼のない、親しい、あれ場所えっとあファッションどうしよあの、あっ。
「すみません一緒に文章考えてください」
「ま〜、急にダサい」
僕の胸の熱さは、ひっくぅ〜いSOSの冷感に落ちていった……。
「無闇に動かすものじゃないわよ」
「そーそー。オレなんて、ケガ慣れしてるからなんともないけどさぁ」
「「えぇ……」」
先の『ドグラマグラ』との連戦を終え、僕は一歩遅れの痛みに呻いていた。戦闘中の興奮でアドレナリンが分泌され、抑えられていた痛覚が現れ始めたからだ。
ここは桜川病院、その待合室。お父さんも勤務先でもある。真っ先にお父さんが飛び出して僕らを心配してくれたけれど、僕はカンタンな止血や傷薬といった処置で済んだ。ヒカリも、それと彼方や厄介ファンの五十嵐さんも診てもらった。ヒカリは人と同じ処置で済むらしい。傷自体は彼方が一番酷く、あちこち包帯グルグル巻きだ。大人しく三人並んで座ってる最中だ。
それから──
「タマキさん」
「あっ、再寧さん」
僕はあの後、すぐに再寧さんに連絡をしていた。再寧さんはまだこないだの傷が完治してないようで、袖から包帯が覗く。みんなボロボロだ。
そうして眺めてたら、隣の彼方が勢いよく抱きつかれていた。誰だ、この子……。
「かなたぁ〜ん! もぉ〜心配したんですのよぉ〜?!」
「ちょっ……母さんっ、外でその呼び方やめてって……!」
「こんなにケガしちゃって大変ですわよ! おてて痛いですわよね? ほ〜ら、痛いの痛いの〜」
「やめてってばもぉ〜……!」
「は〜、お母さんかぁ……」
コッチはまた別の意味で大変そうだ……。ボロボロの彼方に、岸本お母さんがちっちゃい体でぎゅ〜っと……。
「えっ、ちっちゃいっ!?」
「ホントね、小さいわね、お母さんなのね?」
「あら初めまして。改めまして、ワタクシが彼方の母にして、季節ヶ丘警察署・特殊能力犯罪捜査一課、課長の岸本 梓ですわ。今後とも、よろしくお願い致しますの」
キビっとこっちを向いた岸本お母さん──梓さんは、両手を交差させてお辞儀する。お母さんがよくやるあの丁寧なイメージ、どこのご家庭でもやるんだ。
青と緑色かかったような、姫カットのロングヘアーが、お辞儀した頭にかかる。ふわっとしたそれを掻き上げながら、体勢を戻して話を進める。
「聞くところによると、リンカー能力者との戦闘があったらしいですわね? 我が子を守ってくださり、ありがとうございますわ」
「あっ、ハイ。あっ、えと、彼方といいますかお子さんも強くて助かったといいますか、あっ、リンカー能力者だって知ってますかねハイ」
再寧さんより、ちょっと背がある。僕よりちっちゃい。一四五センチ前後といったところかな。あとなんか、一部分がデカい。胴体が隆起してる。何がとは言わないけど。そこだけ母なんだ。
気になりすぎるなぁ、またも現れた低身長……! 聞いてみたいなぁ、キャラ被りについて……!
「彼方がリンカー能力者かってことですわよね? ええ。あんまりリンカーを見せてはくれませんけども、存じていますわ。母として!」
胸張って、でっかぁ……。
「見せたくないよこんなの。他のきょうだい連中だってそーゆーのあるワケでもないのに、なんでオレだけ……」
「こんな具合ですわ!」
「あっ、ハイ」
ゴメン彼方余計な事聞いてヤな気分にさせて……!
なんてやってたら、再寧さんが神妙な面持ちで話を切り出す。
「それより。現れたらしいな『ドグラマグラ』が」
僕は空気を察知した。本題に入ろうという事だ。
「……すみません。すぐに連絡しなくて」
「いい。連戦だったんだろう、それに君ら二人が矢面に立って、連絡も入れられなかったろう。よく頑張った。それに、不甲斐ない大人でスマナイ」
「あっ、いえ、ありがとうございます」
再寧さんは本当に丁寧な人だ。僕を咎めるばかりか、労いと謝罪の言葉まで。信頼されてると、嬉しくなる。
続けて、梓さんが話を進める。
「交戦したとの事でしたが、その『ドグラマグラ』の能力の詳細は、どの程度までわかりましたの?」
「あっ、えと、手のひらを能力の発動のキーとして、その中が四次元ポケットみたいに、多分、亜空間になってるのかな? その中に本体もいるかもしれなくて……」
頭こんがらがってきたぁ……! 彼方のお母さんだぞ? 友達のお母さんだぞ? 馴れ馴れしく話すなんてムーリー!
なんて考えてたら、再寧さんが鶴の一声を出す。
「わかった。後で詳細をまとめて私のレインにでも送ってくれ。それでコッチで情報共有しておく」
「あっ、ありがとうございます……」
本当に助かる、再寧さんありがとう……。
「他に、何か変わった事は?」
「変わった事……。あっ、あの機械のこと『テクノ』って呼んでました。それが捜査に繋がるかは分からないですけど……」
「名前が手がかりになるかもしれない、助かるよ」
「あと『ドグラマグラ』の他に仲間が一人、いました。攻撃したけど『ドグラマグラ』にダメージが無かったので、本体ではないと判断として」
「仲間? リンカーじゃないのか」
「はい、あっ、五十嵐さんって人引きずってて、チラっと見えたのも人の手で、そこも加味してそうだろなって……」
説明する傍ら、僕は少し悩んでいた。この場にいない、もかさんのことだ──。
*
──病院へ行く前。桜川病院前の道路にて、もかさんと僕らは会話をしたのだ。
「はぁ?! まさか警察なんかに相談するつもり!?」
もかさんは声を荒らげた。突然の反応に、当然僕は怯む。
「あっ、えと、病院行ってから、あと知り合いに警察の人いるので、それで連絡もしといて……」
「特能課でしょ、それってどーせ。……再寧とかいうヤツ、アイツ来るんならなおさらヤダね」
「えっ、再寧さん?」
「知ってんのアイツのこと? はぁ〜、なんのつもりだが……」
露骨に再寧さんを嫌っている。僕には分からなかった。再寧さんの良いトコをたくさん見てきたからだ。嫌う理由なんて無い。
「この女の子、アンタらに任せるわ。彼方、アタシがいたことオバサンにも言わないでよね」
「あ〜? わぁったよぉ」
言うだけ言って、もかさんは一人さっさと帰ってしまった。
彼方が顔を近づけ、コソコソ声で話しかける。
「なんであんな怒ってるん?」
「あっ、やっぱ怒ってましたよね、もかさん……。あっ、再寧さんって知ってますかね? 再寧 華蓮って、あの、彼方のお母さんの部下にあたる人なんですけど」
「いんや。てか、自分の家族の人間関係まで把握なんての、親が友達のこと知ってるようなの以外じゃ、そうないでしょ」
「た、確かにそうかも……」
なので、僕には再寧さんを嫌う理由なんて、皆目見当もつかないという結論しか出せないのだった。
*
再寧さんの人柄は、少しは分かってるつもりだ。誠実で、真面目で、正義感の強いいい人。そんな再寧さんを、もかさんは明らかに毛嫌いしていた。
いい人の再寧さんを信じるか? 友達のもかさんを信じるか?
僕は──。
「……あの、再寧さん」
「なんだ」
「その…………。あっ、あのっ、神子柴もか、さんって、知ってます、か?」
「……神子柴、もか」
言ってしまった、そう思った。再寧さんの表情に、陰りが差したのが見て取れたからだ。……心当たりが、あるんだ。
ヒカリも、彼方も「言うの?」と言いたげな顔で僕を見ていた。結構、後悔してる。
目を据えて、表情を取り繕って、再寧さんは続ける。
「神子柴、もかさんがどうかしたか?」
「あっ、い、いえ。ただ、なんとなく、えと……」
「いえいえ〜、タマキが話してたんですよ。オレの事も知ってたから、もしかしたらって。それで気になったんでしょ?」
彼方だ。座ったまま、あっさりとそう言ったのは。僕も合わせようと一拍呼吸し、「あっ、ハイ」と返事だけでもした。
「そう、か。……いや、長話をしてスマナイ」
「あっ、いえいえいえそんな事ないですハイ」
「疲れたろう。今日は休んで療養するといい。あと、テクノ、といったか。例の機械、五十嵐 繭結さんから回収し、引き続き警察で捜査しておく」
「あっ、ハイ。ありがとうございます」
再寧さんはすぐさま踵を返し。
「かなたん? 今度はぜぇ〜ったいに、ケンカなんてしちゃダメですわよ?」
「わぁってるよぉ〜」
岸元親子のそんなやり取りがありつつ、梓さんも後に続く。
部下が上司を置いて行こうとするなんて、それも真面目な再寧さんがだ。……やっぱり、訳ありなんだ。
「……なんとなくオレも、心当たりはあるがなぁ」
「知ってるの?」
「ほら、適当言って外れてたら、もかに申し訳ないからさ。あと再寧さん、て言ったっけ? おチビの警察さんや母さんも、何も言わないぞって調子だったし。二人にも申し訳ないよ」
「だったら手っ取り早い方法があるわね」
静観していたヒカリが割って入る、けどこう、なんの事かさっぱりだった。
「え、な、何が?」
「聞くつもりかい? もかに直接」
「え!?」
「でなきゃもかに小言言われ続けるだけね。小言で済めばいいけども」
そんないきなりとは確かに思った、けど……なんとなく、ヒカリの言いたいことが伝わった。同時にそれは、危険な賭けになるかもしれないという事も。
「……わかった。彼方、明日は僕に任せて」
「え?」
「明日、僕からもかさんに聞いてみる。その為に誘う」
「……言っちゃ悪いけど、できるの?」
僕はコクリ、胸に沸き立つ思いのままに頷く。彼方もそれ以上追及せず「あとで集合時間、連絡しなよ」と言って、解散となった。
ヒカリと並び、自信満々に帰路を往く。
「それで、作戦はあるの?」
僕は溢れる自信を胸に抱き、頭の中でシュミレーションを開始していた。
会話、弾む場所、カフェ、近くの広い場所、陽キャの行きそうな場所、あっファッション、ヒラヒラ、なんだろ、何系? 陽キャの服? ジャラジャラ? え、バンドマンの着てきそうな服? 鎖? ピアス? あっそもそも誘い文句、集合時間、場所、みんなの家、近い場所、集まりやすい、ハチ公? キモくない、おじさん構文、ギャル文字、失礼のない、親しい、あれ場所えっとあファッションどうしよあの、あっ。
「すみません一緒に文章考えてください」
「ま〜、急にダサい」
僕の胸の熱さは、ひっくぅ〜いSOSの冷感に落ちていった……。