残酷な描写あり
第37話 アタシのリンカーは『ソドシラソ』。遠慮はナシよ.2
次の日──
もかとぷらなは、バスに揺られて談笑していた。バスを降り、二人で花見咲駅前入り口の待ち合わせ場所へと向かう。
「ねねっ! 彼方ちゃんってどんなファッションで来るかな!? 渋谷系のイケイケクールな感じかな! それとも病み系でカワイくゴシックかな!」
「ハイハイ、ずっと彼方のこと話してるわねぇ。てかどんなイメージなのよ」
「だってロックバンドの子ってそんな感じかな〜って! あ、私ロックとかよくわかんないけど!」
「ロック以前の話な気が」
そうこう話してるうちに。
2人は待ち合わせ場所に人がいるのに気づく。
「あっ、かな……」
「キャ~っ! スゴイスゴイスゴイもかちゃん見て見てあの物憂げな表情! かわいいヘアスタイルとメイクだけど端正な顔立ちが様になっててかわいいけどかっこいい! 誰かなあの人!」
「……なに?」
「あ~……ズバリご名答、アイツが待ち人の彼方よ」
「え~~~~っ! え、え、えっ!」
ズームインぷらな! 彼方は引き気味である。
「あなたが彼方ちゃんなんだはじめまして私が天道 ぷらなですぷらなでいいよ~!」
「……お、あ、はい」
「ちょっとぷらな。彼方って人見知りだって言ったでしょ。もうちょっと遠慮なさいよ」
「え~、でもタマキちゃんともう仲良しなんでしょ? 私だけハブなんてズルい~」
「いいよ、もか。オレだっていつまでも人見知りとは……」
「オレっ子ちゃんなんだぁ~! カワイすぎぃ~!」
「……いかないけど今は頼らせて」
「ヤレヤレ。保護対象が増える一方ですわ」
もかは表情を崩しながら二人の間に割って入る。
「そういや言い出しっぺはまだ来てないみたいね?」
「ああ、昨日妙に堅っ苦しい文章きてたね〜」
「アレ、彼方ちゃんも?」
「あっ彼方ちゃん呼びなんだいやいいけど別になんだっけぷらなだっけスゴい名前だね」
「でしょでしょ〜! 聖なる夢で聖夢! 天の道から、聖なる夢をお届け! 天道 聖夢で〜す!」
目の下3本指ピースキラ〜ン。
「聖なる夢……天道、聖夢……? ぷぷぷぷらな!? 聖なる夢ぷらなマ!?」
「はいはいストップ。コレでしょ、『平素よりお世話になっております。私の拙い提案で恐縮ですが』っての。三人とも届いたんだ」
『平素よりお世話になっております。つきましては、私の拙い提案で誠に恐縮ですが、明日の昼頃に集合し、遊びに出かけようかという所存です。メンバーは私(我妻タマキ)、ヒカリ、天道ぷらな、神子柴もか、岸元彼方の5名です。ぷらなにおいては、彼方とお会いしたいと仰っていましたので、よいきっかけになると考えます。よいお返事をお待ちしております』
「そうそう! なんか要するに彼方ちゃんと会わせてみんなでお出かけってコトよね!」
「翻訳カンペキでございます」
楽しげな会話をする一方で──彼方は自分の幼なじみであるもかの様子を観察し、疑問を抱いていた。
昨日の解散前は、警察、引いては再寧さんの名前を挙げて、それはイヤな顔を浮かべていた。それが今は完全に切り替えて、楽しげに会話をしている。多分誰かを遊びに誘ったことがないであろうタマキの誘いにも応じて、こうして来ている。昨日のことなんて忘れたみたいな風だ。
もかがあれほど怒りを露わにするのは、何も珍しいことじゃない。その怒りを向ける相手を明確にするのがもかの性格、幼なじみの自分はよく解ってる。小学生の頃、ちょっとからかってみたらプイっと怒って、他の友達にはハッキリ切り替えて話してたっけな。
こいつの姉も所属していた警察に怒りを向けるのはやはり──。
それを、タマキは引き出すつもりなのだろうか?
なんて、ウワサをすればなんとやら。
「あっ、おっ、おぉ〜い……」
「待たせたわね」
何故か既に疲労困憊のタマキと、等身大サイズのヒカリがやって来たのである。
*
「遅かったじゃないリーダー」
「うぇっ!? リ、リーダーとかそんな責任ある立場なんて僕には到底」
「ハイハイ、悪かったって」
もかさんなりのジョークか……。なんで幼なじみ揃って同じ軽口言うんだ……!
なんてやってたら、ぐいぃっとぷらなに迫られ僕は顔を逸らす。
「ねぇねぇねぇねぇ! タマキちゃんってば今日どうしたのお嬢様みたいなお淑やかでカワイイコーデしてるじゃない! 良い良い良い良い!」
「あっ、やっ、近っ」
「ヒカリちゃんも落ち着いたお姉さんみたいなネイビーのトーンがよく似合っててステキぃ~! 匂い嗅ぐね!」
「ちょっとキモいわよ。妹の輪に、タマキが相談したのよ。そしたら快く引き受けてくれたわ」
「妹ちゃんいるのねぇ! いつか会ってみた~い!」
「あっ、ハハっ……」
ああ思い出す……。今回は初めて僕から誘った友達とのお出かけ! ファッションのフの字も分からない僕は今朝、妹の輪ちゃんに相談し、輪ちゃんは「そういうのは前の日言え」と言いつつ協力してくれたものの、事は思いもよらぬ方向に……。
ひらひら付いた地雷服というやつやら原宿系やら体操服ブルマ! 髪もツインテやらポニテやらあと、ワ、ワンサイドアップ? となんかクルクルしたのに編み込んだのともはや僕には名前すら分からないヘアアレンジ! 着せ替え人形のように遊ばれたのだ……!
「ちゃんと……ドール趣味始めるときはちゃんと勉強しますから……」
「土下座されちゃった」
「ど、どした?」
「着せ替えファッションショーのせいで僕の体はボロボロだ……。彼方、君もいつかそうなる」
「……いやならねぇよファッションだけで」
無意識のうちに地に伏せていた僕。声をかけてくれた彼方も呆れ気味のようだった。
なんてやってたら、もかさんがパンっと一つ手を叩く。
「さてさてそれじゃ全員揃ったという事で。改めてリーダーさんは、何かプランがあるのかしら?」
待ってました、今回誘ったのは僕だ。当然、全ての作戦を考えてある。なんたって今回誘ったのは、もかさんが目的なのだから。
一度、深呼吸。キビっと立ち上がり、考えてたセリフを脳内で復唱して……。
「あっ、えと、皆さんお昼頃ということでカフェでも如何でしょうか」
スゴい、自分でもわかるぐらいガチガチだった。
「まったく、しょうがないわねぇ。駅近くのドスールとか?」
「あっ、ハイ」
スゴい、僕のプランがバレバレだった。
そうして──僕を端っこに添え、みんなでワイワイ会話しながら歩き始め、カフェ・ドスールに入り、僕を端っこに置いて、隣りにヒカリ、彼方。向かいにもかさん、ぷらなの順で着席……。
あっさりしすぎだ……流れが、あっさりしすぎてる……!
黒檀調の色と縞模様の木目で落ち着いた雰囲気を出すフロアにキョロキョロし、メニューをみんなにも見えるよう「どぞ……」とボソボソ声でも言いながら広げつつ凝視してみたり……。
してたらもかさんに訝しがられた。
「どうかした? カフェぐらいなんてコトないでしょ?」
「いや……このペガサス流星群盛りトルネードタワーパフェとかいうモンスターに圧倒されて、これが映えというヤツかと……」
「あ、それいいわよねー! みんなで食べよっ!」
「いいね〜」
「いいわよ」
ぷらな彼方ヒカリが当然のように馴染んで当然のように注文を決めた……。やはり映えこそ陽キャの常識っ! 僕みたいな陰キャはタワーパフェから落とされないように端っこで細々と過ごす他ないのか……!
「この世界は狂ってる……」
「わかる、わかるわよ。ちゃんちゃらおかしいバカ料理がどこにも必ずあるこの時代のおかしさ、よぉくわかるわ」
イカスミインドカレーパスタだもんなぁ、僕の元バイト先にあるのは。今なおバイトを続けてるもかさんは僕の気持ちわかってくれるんだ、陽キャにも陰キャに差し伸べる光があるんだ……!
「なに、黙り込んでニヤァ〜ってして……」
「あっ、うっ、すみません」
陽キャタワーから落ちないようにしがみつかなくては……!
「リンカー能力者って変なヤツしかいないって昨日言ってたけど、なるほど退屈しなさそうだなぁ」
彼方にイジワル言われるし!
するとぷらな、彼方に向かいの席から目を輝かせながらグイィっと顔を寄せる。
「ねぇ彼方ちゃん! いまリンカーって言った!?」
「んえ? えっ、あっ、あ〜うん、言った」
そうだ、彼方もコッチ側の人間だった……!
「えっ、ヘヘヘッ、僕らは仲間……」
「あ、私にじゃれるのね?」
「彼方挟んでヒカリなもので……」
「助かった」
「ひ、ひどい……」
もかさんが僕をスルーしつつ、ぷらなの話を広げる。
「ま、実を言うとアタシもそうよ。ぷらなもでしょ?」
「えっ、え〜っ! それじゃあみんなリンカーなの!?」
「リンカー能力者ね。あ、でもヒカリは〜、そうらしいけど?」
ヒカリはちょっとドヤ顔して答える。
「そうね。私はリンカー。リンカーだけど、リンカーじゃない」
「……どゆこと?」
「あっ、あの、僕の能力で繋がってるといいますか、僕とは切り離された存在といいますか、ハイ」
「……いやフツーのリンカーとどう違うワケソレ?」
「あっ、あの、普通のリンカーの感覚がわからないんですけど、えと……」
「私、タマキの意思で自由に動くわけじゃないわ。あとタマキの考えてる事が細かくわかるわけでもない。普通の人間みたいな感じ、とでも言うのが近いかしら」
「ふ〜ん。よくわかんないけど、特別なのね」
「あっ、まあハイ、そうですね」
特別、か──。ヒカリは特別な存在。そう言われると、なんだか僕の方が頬を緩めてしまう。
「そもそもオレ、もかがリンカー能力者だって知らなかったよ。もかの方は知ってたの?」
彼方が会話を進める。
「まあね。ただアンタが見せたがらないの、なんとなく分かってたから」
「そりゃお気遣い感謝」
彼方が僕の方を一瞥する。それでなんとなく察した。
話をしろっていう事だ。真剣な話。流れとしては、これぐらいしか自然なものはない。
「……あの、もかさん」
「うん? どしたの改まって」
「もかさんのリンカーってあの、昨日能力の片鱗を見ましたけど、あれはどういう……?」
「どうって、どうもしないわよ。ただ単に物とか人とか出して、それでどうにかできるってだけ。それでさっさと逃げたんじゃない」
「その時の戦闘もそうです。能力を使い慣れていた。あのリンカーにも妙に反応してたなって」
「白いヤツでしょ? アレだってホラ、どう見たってリンカーだったじゃない。それを見えるなんてビックリだったってだけで、深い意味なんてないわよ。てかメニュー注文しましょうよ、話してないでさっ!」
「動揺、してるんですか?」
もかさんがジト目になって、唇を引っ込めて頬を軽く膨らませる。
ヤなヤツなのは僕の方だ、それぐらい自覚している。それでも僕はヤなヤツを続ける。
「早口になって、矢継ぎ早に言葉を並べて、話を逸らして。『ドグラマグラ』、白いヤツの名前。わざと名前を出さないようにしましたけど、昨日、僕が何回かアイツの名前を呼んでたはずです。もかさん、意識して名前を出さないように、避けてますよね?」
「……だから? そんな厨二病のお子さまがつけそうな名前、言わないからなんだっていうのよ」
「もう少し情報を出します。僕らは戦ってる、『超克の教団』という組織と。あの『ドグラマグラ』を追って、僕らの友達を守るために! ヒカリも、ぷらなも。彼方はどう?」
「オレ? とっくに腹積もりは決まってるよ」
「あっ、うんうん私もそうだよ!」
「言わずもがな、タマキの相棒だから」
「……という感じです」
もかさんが、眉間にシワを寄せたまま、ゆっくりと右手で頬杖をつき。
「いやよく分かんないんだけど」
一言発した。
それから矢継ぎ早に僕の話の綻びを指摘を始める。食いつくように、わざと言わなかった事柄を。
「まず『だから何?』ってずっと思ってるんだけど。それで、アンタは結局アタシに何をして欲しいワケ? 何で教団の話が出てくるの? 第一アンタ昨日、その『ドグラマグラ』と戦ったあと『何のために戦ったんだろう』とか矛盾したコト呟いてたわよね? 戦いたくないなら警察にでも任せたらいいじゃない」
「アイツ殴ってやんなきゃ気が済まないからです」
「けど殴ったわよね、アイツ。じゃっ、決まりよねっ! もう済んだんだから! 教団とかなんとか、裏社会に子供が関わるなんてバカみたいなマネは金輪際禁止! ホンっと警察は頼りにならないわよね、子供をアテにして……」
「もかさんはどうなんですか?」
言葉を、遮る。僕は、もかさんの心の奥底を見つめるように、その瞳を見る。
もかさんは困惑した様子だ。
「……アンタ、何その目」
「裏社会に子供が関わるのがバカみたいなマネだって言うのなら、もかさんはどうなのかと聞いてるんです。『超克の教団』が危険だと、なんで知ってるんですか? 以前、もしくは今も何か関係あって、だから僕らを引き離そうとしてるんじゃないですか?」
「アンタ何が言いたいワケ? さっきから、揚げ足取るようなマネばっかして」
「『もかさんに何をして欲しいのか』、『何を求めてるのか』。その答えは……僕は」
僕が、一番マシだと考えたいのは──
「僕は、もかさんが教団に、独りで立ち向かってるんじゃないかと思ってるんです。だから『教団について知ってる事を教えて欲しい』んです」
「……ハァ?」
もっと、食い込んだ話を出す。
「もかさん、警察のこと毛嫌いしてますよね? アレは何かが原因で向けている嫌悪の仕方だった、そう見えた」
「アンタその話は……!」
「もしそうなら、戦う理由が一つ増える。友達を、もかさんを助けたい。裏社会に子供が関わるなんてバカな事、僕は見過ごせないから」
認める事は、したくない。けど薄々勘付いてる。教団の事情を何か知っている。一番考えたくないのは──教団の信者であること。信者なら、よほど心身深いなら煽れば教団を擁護するはず。けどただ立ち向かう一人の人間なら──。
溜め息が、聞こえてきて。テーブルを叩く音、グラスと氷が打ち合う音がした。
「ホンっとぉ〜〜〜にっ!! 呆れた! それって何を意味してるか解ってんの!? アンタってオドオドしてる小動物みたいな子だと思ってたのに、そんな屁理屈こねる減らず口の大バカだったワケ!? 人が注意してやってんのに何様よ!!」
「僕ははっきりさせたいんです! もかさんが教団に関わってるのか、そうでないのか! あいつらの危険性はよく知ってます、けれどそれを話すにも、もかさんの身の潔白を証明する必要がある! 貴女を巻き込みたくはない!」
──それから、三拍の沈黙が流れる。
耐えきれず破ったのは、ぷらなだった。
「あ……えと、私、そういうのよく分かんないんだけど、要するにみんな仲良くして、悪い人を懲らしめようってコトだよね?」
「アナタは黙ってなさい。ああそう。よぉ〜く分かったわよ。アンタを黙らす手っ取り早い方法が」
「……どうする気?」
「彼方」
「えっ、オレ?」
「アタシ、ミートソースパスタでいいから。アンタは表出なさい」
「いいよ」
もかさんが席を立つ。僕と、ヒカリもそのあとに続いて店を出る。
表は本当に表だった。店の真ん前、ストリート街。もかさんが背を向けたまま、話しかける。
「一つ言っとくけど。今のアンタ、クッソつまんねぇーわよ」
勢いよく振り向いたのは見えた。それを捉えた次の瞬間には、僕の腰部に殴打した痛みが叩きつけられた。
「「タマキ!?」」「タマキちゃん!」
「手ェ出すなぁっ!!」
「い、痛い……」
いきなりだった。もかさんが僕に回し蹴りをしたのだ。
声を荒げたもかさんが、狼狽える彼方とぷらなを、意外にも静かに睨みつける。
「見てたでしょ、誰もが反応したでしょ。アタシが手を上げるところを。本気で殺しに来る相手は、突然現れてキバを向けるのよ。こんなコワッパのガキ程度でもね! 甘ったれるなよガキ共が!」
「も、もかちゃん……?」
「オイオイ……」
今度は倒れた僕を見下ろし冷たい眼を向ける。赤紫色に反射する眼が、痛かった。
「タマキ、アンタが言ってんのはタダのヒーローごっこよ。気弱で、運動神経だって悪いのに、それで警察のマネしてワルモノ退治? ホンットぉ~に、くだらない」
「ちょっとふたりともっ! なんでこんな事になってるの、仲良く戦えばいいじゃん!」
「もか。アンタ体が弱いクセして戦うとか言ってんの? アンタ一人の体でもないクセに? タマキに釣られてんなコト言ってんなら、さっさと手を引きなさいね」
「えっ、えうっ……」
「彼方。アンタそもそも戦う理由とかあんの? むしろオバサンから『危ないことしちゃダメ』だって、いつも言われてないっけ?」
「……あー、まぁね」
「立て、我妻 タマキ。この程度でヘタレるな。ヒカリ。アンタがコイツのリンカーってことでいいのよね」
「ええそうよ。次ヘタなマネしたら、アナタとて容赦しないわ。ああ、助けてもらった恩はこれでチャラで」
「そう」
どうするべきかは分かってる、僕が撒いた種だ。いつまでもヘタレていられなかった。痛みを堪え、即座にもかさんから距離を取る。
そうしている間にも、もかさんは動いて──いや、動かしていた。
僕ともかさん、ヒカリを隔てるようにして、3人の成人男性が現れヒカリを取り囲んでいたのだ。白い道着に黒帯、大柄の人物たち。
しかし立ち振る舞いに違和感があった。立ち方だ。構えや礼に準じていない、猫背で、首がやや傾げていて、中に針金を入れて立たされているような──昨日のもかさん風に言うなら、意思のない人形──そう思えた。その目が、虚ろだった。
「アンタにはそいつと、アタシのリンカーが相手するわ。ま、まずは様子見ってコトで」
男たちがヒカリヘ攻撃を始める。それから、もかさんの傍らにリンカーが出現していた。見た目は喪服が着崩されてマントのように風に靡き、長髪が大きく横に広がった、女性的なシルエットだった。
「教えてやったわ、アタシのリンカー、その能力をもうちょっとだけ。それで、アンタらはアタシに何か見返りはないのかしら?」
「コイツら……生身の人間なの!?」
「アタシのリンカーは『ソドシラソ』。遠慮はナシよ」
もかさんが僕の胴体へ、ミドルキックを放つ──!
もかとぷらなは、バスに揺られて談笑していた。バスを降り、二人で花見咲駅前入り口の待ち合わせ場所へと向かう。
「ねねっ! 彼方ちゃんってどんなファッションで来るかな!? 渋谷系のイケイケクールな感じかな! それとも病み系でカワイくゴシックかな!」
「ハイハイ、ずっと彼方のこと話してるわねぇ。てかどんなイメージなのよ」
「だってロックバンドの子ってそんな感じかな〜って! あ、私ロックとかよくわかんないけど!」
「ロック以前の話な気が」
そうこう話してるうちに。
2人は待ち合わせ場所に人がいるのに気づく。
「あっ、かな……」
「キャ~っ! スゴイスゴイスゴイもかちゃん見て見てあの物憂げな表情! かわいいヘアスタイルとメイクだけど端正な顔立ちが様になっててかわいいけどかっこいい! 誰かなあの人!」
「……なに?」
「あ~……ズバリご名答、アイツが待ち人の彼方よ」
「え~~~~っ! え、え、えっ!」
ズームインぷらな! 彼方は引き気味である。
「あなたが彼方ちゃんなんだはじめまして私が天道 ぷらなですぷらなでいいよ~!」
「……お、あ、はい」
「ちょっとぷらな。彼方って人見知りだって言ったでしょ。もうちょっと遠慮なさいよ」
「え~、でもタマキちゃんともう仲良しなんでしょ? 私だけハブなんてズルい~」
「いいよ、もか。オレだっていつまでも人見知りとは……」
「オレっ子ちゃんなんだぁ~! カワイすぎぃ~!」
「……いかないけど今は頼らせて」
「ヤレヤレ。保護対象が増える一方ですわ」
もかは表情を崩しながら二人の間に割って入る。
「そういや言い出しっぺはまだ来てないみたいね?」
「ああ、昨日妙に堅っ苦しい文章きてたね〜」
「アレ、彼方ちゃんも?」
「あっ彼方ちゃん呼びなんだいやいいけど別になんだっけぷらなだっけスゴい名前だね」
「でしょでしょ〜! 聖なる夢で聖夢! 天の道から、聖なる夢をお届け! 天道 聖夢で〜す!」
目の下3本指ピースキラ〜ン。
「聖なる夢……天道、聖夢……? ぷぷぷぷらな!? 聖なる夢ぷらなマ!?」
「はいはいストップ。コレでしょ、『平素よりお世話になっております。私の拙い提案で恐縮ですが』っての。三人とも届いたんだ」
『平素よりお世話になっております。つきましては、私の拙い提案で誠に恐縮ですが、明日の昼頃に集合し、遊びに出かけようかという所存です。メンバーは私(我妻タマキ)、ヒカリ、天道ぷらな、神子柴もか、岸元彼方の5名です。ぷらなにおいては、彼方とお会いしたいと仰っていましたので、よいきっかけになると考えます。よいお返事をお待ちしております』
「そうそう! なんか要するに彼方ちゃんと会わせてみんなでお出かけってコトよね!」
「翻訳カンペキでございます」
楽しげな会話をする一方で──彼方は自分の幼なじみであるもかの様子を観察し、疑問を抱いていた。
昨日の解散前は、警察、引いては再寧さんの名前を挙げて、それはイヤな顔を浮かべていた。それが今は完全に切り替えて、楽しげに会話をしている。多分誰かを遊びに誘ったことがないであろうタマキの誘いにも応じて、こうして来ている。昨日のことなんて忘れたみたいな風だ。
もかがあれほど怒りを露わにするのは、何も珍しいことじゃない。その怒りを向ける相手を明確にするのがもかの性格、幼なじみの自分はよく解ってる。小学生の頃、ちょっとからかってみたらプイっと怒って、他の友達にはハッキリ切り替えて話してたっけな。
こいつの姉も所属していた警察に怒りを向けるのはやはり──。
それを、タマキは引き出すつもりなのだろうか?
なんて、ウワサをすればなんとやら。
「あっ、おっ、おぉ〜い……」
「待たせたわね」
何故か既に疲労困憊のタマキと、等身大サイズのヒカリがやって来たのである。
*
「遅かったじゃないリーダー」
「うぇっ!? リ、リーダーとかそんな責任ある立場なんて僕には到底」
「ハイハイ、悪かったって」
もかさんなりのジョークか……。なんで幼なじみ揃って同じ軽口言うんだ……!
なんてやってたら、ぐいぃっとぷらなに迫られ僕は顔を逸らす。
「ねぇねぇねぇねぇ! タマキちゃんってば今日どうしたのお嬢様みたいなお淑やかでカワイイコーデしてるじゃない! 良い良い良い良い!」
「あっ、やっ、近っ」
「ヒカリちゃんも落ち着いたお姉さんみたいなネイビーのトーンがよく似合っててステキぃ~! 匂い嗅ぐね!」
「ちょっとキモいわよ。妹の輪に、タマキが相談したのよ。そしたら快く引き受けてくれたわ」
「妹ちゃんいるのねぇ! いつか会ってみた~い!」
「あっ、ハハっ……」
ああ思い出す……。今回は初めて僕から誘った友達とのお出かけ! ファッションのフの字も分からない僕は今朝、妹の輪ちゃんに相談し、輪ちゃんは「そういうのは前の日言え」と言いつつ協力してくれたものの、事は思いもよらぬ方向に……。
ひらひら付いた地雷服というやつやら原宿系やら体操服ブルマ! 髪もツインテやらポニテやらあと、ワ、ワンサイドアップ? となんかクルクルしたのに編み込んだのともはや僕には名前すら分からないヘアアレンジ! 着せ替え人形のように遊ばれたのだ……!
「ちゃんと……ドール趣味始めるときはちゃんと勉強しますから……」
「土下座されちゃった」
「ど、どした?」
「着せ替えファッションショーのせいで僕の体はボロボロだ……。彼方、君もいつかそうなる」
「……いやならねぇよファッションだけで」
無意識のうちに地に伏せていた僕。声をかけてくれた彼方も呆れ気味のようだった。
なんてやってたら、もかさんがパンっと一つ手を叩く。
「さてさてそれじゃ全員揃ったという事で。改めてリーダーさんは、何かプランがあるのかしら?」
待ってました、今回誘ったのは僕だ。当然、全ての作戦を考えてある。なんたって今回誘ったのは、もかさんが目的なのだから。
一度、深呼吸。キビっと立ち上がり、考えてたセリフを脳内で復唱して……。
「あっ、えと、皆さんお昼頃ということでカフェでも如何でしょうか」
スゴい、自分でもわかるぐらいガチガチだった。
「まったく、しょうがないわねぇ。駅近くのドスールとか?」
「あっ、ハイ」
スゴい、僕のプランがバレバレだった。
そうして──僕を端っこに添え、みんなでワイワイ会話しながら歩き始め、カフェ・ドスールに入り、僕を端っこに置いて、隣りにヒカリ、彼方。向かいにもかさん、ぷらなの順で着席……。
あっさりしすぎだ……流れが、あっさりしすぎてる……!
黒檀調の色と縞模様の木目で落ち着いた雰囲気を出すフロアにキョロキョロし、メニューをみんなにも見えるよう「どぞ……」とボソボソ声でも言いながら広げつつ凝視してみたり……。
してたらもかさんに訝しがられた。
「どうかした? カフェぐらいなんてコトないでしょ?」
「いや……このペガサス流星群盛りトルネードタワーパフェとかいうモンスターに圧倒されて、これが映えというヤツかと……」
「あ、それいいわよねー! みんなで食べよっ!」
「いいね〜」
「いいわよ」
ぷらな彼方ヒカリが当然のように馴染んで当然のように注文を決めた……。やはり映えこそ陽キャの常識っ! 僕みたいな陰キャはタワーパフェから落とされないように端っこで細々と過ごす他ないのか……!
「この世界は狂ってる……」
「わかる、わかるわよ。ちゃんちゃらおかしいバカ料理がどこにも必ずあるこの時代のおかしさ、よぉくわかるわ」
イカスミインドカレーパスタだもんなぁ、僕の元バイト先にあるのは。今なおバイトを続けてるもかさんは僕の気持ちわかってくれるんだ、陽キャにも陰キャに差し伸べる光があるんだ……!
「なに、黙り込んでニヤァ〜ってして……」
「あっ、うっ、すみません」
陽キャタワーから落ちないようにしがみつかなくては……!
「リンカー能力者って変なヤツしかいないって昨日言ってたけど、なるほど退屈しなさそうだなぁ」
彼方にイジワル言われるし!
するとぷらな、彼方に向かいの席から目を輝かせながらグイィっと顔を寄せる。
「ねぇ彼方ちゃん! いまリンカーって言った!?」
「んえ? えっ、あっ、あ〜うん、言った」
そうだ、彼方もコッチ側の人間だった……!
「えっ、ヘヘヘッ、僕らは仲間……」
「あ、私にじゃれるのね?」
「彼方挟んでヒカリなもので……」
「助かった」
「ひ、ひどい……」
もかさんが僕をスルーしつつ、ぷらなの話を広げる。
「ま、実を言うとアタシもそうよ。ぷらなもでしょ?」
「えっ、え〜っ! それじゃあみんなリンカーなの!?」
「リンカー能力者ね。あ、でもヒカリは〜、そうらしいけど?」
ヒカリはちょっとドヤ顔して答える。
「そうね。私はリンカー。リンカーだけど、リンカーじゃない」
「……どゆこと?」
「あっ、あの、僕の能力で繋がってるといいますか、僕とは切り離された存在といいますか、ハイ」
「……いやフツーのリンカーとどう違うワケソレ?」
「あっ、あの、普通のリンカーの感覚がわからないんですけど、えと……」
「私、タマキの意思で自由に動くわけじゃないわ。あとタマキの考えてる事が細かくわかるわけでもない。普通の人間みたいな感じ、とでも言うのが近いかしら」
「ふ〜ん。よくわかんないけど、特別なのね」
「あっ、まあハイ、そうですね」
特別、か──。ヒカリは特別な存在。そう言われると、なんだか僕の方が頬を緩めてしまう。
「そもそもオレ、もかがリンカー能力者だって知らなかったよ。もかの方は知ってたの?」
彼方が会話を進める。
「まあね。ただアンタが見せたがらないの、なんとなく分かってたから」
「そりゃお気遣い感謝」
彼方が僕の方を一瞥する。それでなんとなく察した。
話をしろっていう事だ。真剣な話。流れとしては、これぐらいしか自然なものはない。
「……あの、もかさん」
「うん? どしたの改まって」
「もかさんのリンカーってあの、昨日能力の片鱗を見ましたけど、あれはどういう……?」
「どうって、どうもしないわよ。ただ単に物とか人とか出して、それでどうにかできるってだけ。それでさっさと逃げたんじゃない」
「その時の戦闘もそうです。能力を使い慣れていた。あのリンカーにも妙に反応してたなって」
「白いヤツでしょ? アレだってホラ、どう見たってリンカーだったじゃない。それを見えるなんてビックリだったってだけで、深い意味なんてないわよ。てかメニュー注文しましょうよ、話してないでさっ!」
「動揺、してるんですか?」
もかさんがジト目になって、唇を引っ込めて頬を軽く膨らませる。
ヤなヤツなのは僕の方だ、それぐらい自覚している。それでも僕はヤなヤツを続ける。
「早口になって、矢継ぎ早に言葉を並べて、話を逸らして。『ドグラマグラ』、白いヤツの名前。わざと名前を出さないようにしましたけど、昨日、僕が何回かアイツの名前を呼んでたはずです。もかさん、意識して名前を出さないように、避けてますよね?」
「……だから? そんな厨二病のお子さまがつけそうな名前、言わないからなんだっていうのよ」
「もう少し情報を出します。僕らは戦ってる、『超克の教団』という組織と。あの『ドグラマグラ』を追って、僕らの友達を守るために! ヒカリも、ぷらなも。彼方はどう?」
「オレ? とっくに腹積もりは決まってるよ」
「あっ、うんうん私もそうだよ!」
「言わずもがな、タマキの相棒だから」
「……という感じです」
もかさんが、眉間にシワを寄せたまま、ゆっくりと右手で頬杖をつき。
「いやよく分かんないんだけど」
一言発した。
それから矢継ぎ早に僕の話の綻びを指摘を始める。食いつくように、わざと言わなかった事柄を。
「まず『だから何?』ってずっと思ってるんだけど。それで、アンタは結局アタシに何をして欲しいワケ? 何で教団の話が出てくるの? 第一アンタ昨日、その『ドグラマグラ』と戦ったあと『何のために戦ったんだろう』とか矛盾したコト呟いてたわよね? 戦いたくないなら警察にでも任せたらいいじゃない」
「アイツ殴ってやんなきゃ気が済まないからです」
「けど殴ったわよね、アイツ。じゃっ、決まりよねっ! もう済んだんだから! 教団とかなんとか、裏社会に子供が関わるなんてバカみたいなマネは金輪際禁止! ホンっと警察は頼りにならないわよね、子供をアテにして……」
「もかさんはどうなんですか?」
言葉を、遮る。僕は、もかさんの心の奥底を見つめるように、その瞳を見る。
もかさんは困惑した様子だ。
「……アンタ、何その目」
「裏社会に子供が関わるのがバカみたいなマネだって言うのなら、もかさんはどうなのかと聞いてるんです。『超克の教団』が危険だと、なんで知ってるんですか? 以前、もしくは今も何か関係あって、だから僕らを引き離そうとしてるんじゃないですか?」
「アンタ何が言いたいワケ? さっきから、揚げ足取るようなマネばっかして」
「『もかさんに何をして欲しいのか』、『何を求めてるのか』。その答えは……僕は」
僕が、一番マシだと考えたいのは──
「僕は、もかさんが教団に、独りで立ち向かってるんじゃないかと思ってるんです。だから『教団について知ってる事を教えて欲しい』んです」
「……ハァ?」
もっと、食い込んだ話を出す。
「もかさん、警察のこと毛嫌いしてますよね? アレは何かが原因で向けている嫌悪の仕方だった、そう見えた」
「アンタその話は……!」
「もしそうなら、戦う理由が一つ増える。友達を、もかさんを助けたい。裏社会に子供が関わるなんてバカな事、僕は見過ごせないから」
認める事は、したくない。けど薄々勘付いてる。教団の事情を何か知っている。一番考えたくないのは──教団の信者であること。信者なら、よほど心身深いなら煽れば教団を擁護するはず。けどただ立ち向かう一人の人間なら──。
溜め息が、聞こえてきて。テーブルを叩く音、グラスと氷が打ち合う音がした。
「ホンっとぉ〜〜〜にっ!! 呆れた! それって何を意味してるか解ってんの!? アンタってオドオドしてる小動物みたいな子だと思ってたのに、そんな屁理屈こねる減らず口の大バカだったワケ!? 人が注意してやってんのに何様よ!!」
「僕ははっきりさせたいんです! もかさんが教団に関わってるのか、そうでないのか! あいつらの危険性はよく知ってます、けれどそれを話すにも、もかさんの身の潔白を証明する必要がある! 貴女を巻き込みたくはない!」
──それから、三拍の沈黙が流れる。
耐えきれず破ったのは、ぷらなだった。
「あ……えと、私、そういうのよく分かんないんだけど、要するにみんな仲良くして、悪い人を懲らしめようってコトだよね?」
「アナタは黙ってなさい。ああそう。よぉ〜く分かったわよ。アンタを黙らす手っ取り早い方法が」
「……どうする気?」
「彼方」
「えっ、オレ?」
「アタシ、ミートソースパスタでいいから。アンタは表出なさい」
「いいよ」
もかさんが席を立つ。僕と、ヒカリもそのあとに続いて店を出る。
表は本当に表だった。店の真ん前、ストリート街。もかさんが背を向けたまま、話しかける。
「一つ言っとくけど。今のアンタ、クッソつまんねぇーわよ」
勢いよく振り向いたのは見えた。それを捉えた次の瞬間には、僕の腰部に殴打した痛みが叩きつけられた。
「「タマキ!?」」「タマキちゃん!」
「手ェ出すなぁっ!!」
「い、痛い……」
いきなりだった。もかさんが僕に回し蹴りをしたのだ。
声を荒げたもかさんが、狼狽える彼方とぷらなを、意外にも静かに睨みつける。
「見てたでしょ、誰もが反応したでしょ。アタシが手を上げるところを。本気で殺しに来る相手は、突然現れてキバを向けるのよ。こんなコワッパのガキ程度でもね! 甘ったれるなよガキ共が!」
「も、もかちゃん……?」
「オイオイ……」
今度は倒れた僕を見下ろし冷たい眼を向ける。赤紫色に反射する眼が、痛かった。
「タマキ、アンタが言ってんのはタダのヒーローごっこよ。気弱で、運動神経だって悪いのに、それで警察のマネしてワルモノ退治? ホンットぉ~に、くだらない」
「ちょっとふたりともっ! なんでこんな事になってるの、仲良く戦えばいいじゃん!」
「もか。アンタ体が弱いクセして戦うとか言ってんの? アンタ一人の体でもないクセに? タマキに釣られてんなコト言ってんなら、さっさと手を引きなさいね」
「えっ、えうっ……」
「彼方。アンタそもそも戦う理由とかあんの? むしろオバサンから『危ないことしちゃダメ』だって、いつも言われてないっけ?」
「……あー、まぁね」
「立て、我妻 タマキ。この程度でヘタレるな。ヒカリ。アンタがコイツのリンカーってことでいいのよね」
「ええそうよ。次ヘタなマネしたら、アナタとて容赦しないわ。ああ、助けてもらった恩はこれでチャラで」
「そう」
どうするべきかは分かってる、僕が撒いた種だ。いつまでもヘタレていられなかった。痛みを堪え、即座にもかさんから距離を取る。
そうしている間にも、もかさんは動いて──いや、動かしていた。
僕ともかさん、ヒカリを隔てるようにして、3人の成人男性が現れヒカリを取り囲んでいたのだ。白い道着に黒帯、大柄の人物たち。
しかし立ち振る舞いに違和感があった。立ち方だ。構えや礼に準じていない、猫背で、首がやや傾げていて、中に針金を入れて立たされているような──昨日のもかさん風に言うなら、意思のない人形──そう思えた。その目が、虚ろだった。
「アンタにはそいつと、アタシのリンカーが相手するわ。ま、まずは様子見ってコトで」
男たちがヒカリヘ攻撃を始める。それから、もかさんの傍らにリンカーが出現していた。見た目は喪服が着崩されてマントのように風に靡き、長髪が大きく横に広がった、女性的なシルエットだった。
「教えてやったわ、アタシのリンカー、その能力をもうちょっとだけ。それで、アンタらはアタシに何か見返りはないのかしら?」
「コイツら……生身の人間なの!?」
「アタシのリンカーは『ソドシラソ』。遠慮はナシよ」
もかさんが僕の胴体へ、ミドルキックを放つ──!