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作者: 唯響-Ion
残酷な描写あり R-15
第百八話 斉西の戦い 九
 臨淄は燕軍の猛攻に晒され、城門はすぐに破られてしまう。王孫賈は副将田単の命を受け、斉王を守る為臨淄宮へ向かう。
 臨淄内で迎撃を行う韓珉は、兵の士気の低さに頭を悩ませていた。
「敵の初撃に根を上げて、さっさと門を開けて逃げ出そうとする指揮官もいたというではないか。田達よ、こちらを包囲しているのは旗や数を見る限り燕のみだ。数の優位はこちらにあるにも関わらず、なに故かように士気が低いのだ」
「斉王が兵を叱咤激励するつもりで、先祖の墓を暴くと脅したからです。幸い、軍の指揮官の大半は田氏であり王族です。斉王と心を同じくしています。しかし、末端の兵となれば、故郷を守りたい気持ちと、家族とともに逃げ出したい気持ちで揺れ動いているのです」
「このままでは……臨時は持たぬぞ……!」

 前線の王孫賈は仲間達とともに、城内に燃え広がる火を消す為に、井戸から水を汲んで回っていた。しかし城内南門側で、赤色の旗が掲げられた。
「やばいぞ、赤色ってことは、破られそうってことじゃねぇか!」
「オレらの守備する門だ! 行こうよ賈の兄貴!」 
「お前ら俺に続け! 戻るぞ!」
 急いで門へ戻った王孫賈らであったが、一歩間に合わず、目の前で門が破られた。燕兵が雪崩れこんでくる。その怒号が響き渡る中、斉軍の農兵は恐れを成して背を向けて逃げ出し、正規兵でさえも、抗い切れずに瞬殺されていった。
「臨淄が……蹂躙される……!」
 王孫賈は武器を持って吶喊した。敵は、自分よりも体格がいい正規兵をいとも容易く斬り伏せる強兵である。勝てるかは分からない。だが、戦わずして逃げるという選択肢は、彼の中にはなかった。
 戟を片手に吶喊する王孫賈の背後から、数十の騎馬兵が加勢した。騎馬兵らは正規兵の鎧を身につけており、綺麗な突撃陣形であった。
「農兵よ恐れるな! 叫べぇ! 戦えぇ! この田単に続けぇ!」

 田単将軍の旗の下、大勢の兵が奮い立ち、バラバラに戦っていた斉兵は、燕兵を城外へ追い出した。そして田単率いる騎馬部隊が門の外で敵を撹乱するあいだに、王孫賈らは馬車や家屋の破片で門を塞いだ。
 帰還した騎馬兵を率いて、田単は他の門へ加勢に向かうといって立ち去ろうとしていた。
「ここの兵は後詰めと代わって一旦下がって休め。良くやった!」
「田単将軍、俺達も連れていってください! 俺も戦いたいんです!」
「その必要はない。しかしその気概を見込んで、そなたに役目を与える。配下の田憶に従って淖歯将軍と合流し、臨淄宮を守れ! 今は一人でも多くの兵が必要だ! 生きて最後まで戦い抜くのだ!」
「御意!」

 王孫賈は仲間達とともに臨淄宮に向かうも、そこは混乱を極めていた。
 宝物を持って逃げ出そうとする兵を捕まえ、斉王の安否を確認した。
「田単将軍の命でここへ来た。斉王様はご無事なのか!」
「分からんが楚将に殺されたって噂もあるぞ! 内側から門は破られる! さっさと逃げるんだそこを退け!」
 にわかに信じられないと思ったが、次の瞬間臨淄宮から火が出た。瞬く間にその火は宮殿中に燃え広がり、楚将が斉王を殺したという話が事実であることを察した。
「ど、どうする兄貴……! ここにいたら、出てくる楚兵に殺されちゃうぜ!」
「生きて最後まで戦うには……ここにいてはいけねぇ。一旦、宮殿から離れよう。故郷の街まで走るぞ!」
田単(生年不詳〜没:紀元前三世紀前半)……斉の将軍。斉西の戦いにおいて、知略や奇策を用いて楽毅を破り、斉の旧領を回復することに貢献した。

※話数を間違えたので修正しました。
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