残酷な描写あり
R-15
第百七十話 涇城を陥す
王翦の力量を確かめる張唐。張唐は、王翦には優れた手腕があるも、課題もあるように感じた。
張唐は涇城を攻めるあいだ、本隊を動かさなかった。敵軍には既に連携できる城はなく、孤立無援であった。涇城の防衛の要は、付近の山林を利用した伏兵による防衛であり、山林を破られ城を包囲された今、城内にいる敵兵力の他に、警戒する必要がある戦力はなかった。
つまり張唐は、白起のいう通りに、王翦の力量を見定めようとしていた。そして王齮、蒙驁がどのように連携し、戦うのかを、見届けようとしていたのである。
王翦は、城攻めを卒なくこなした。損害は少なく、張唐並びに白起も満足いく結果であった。
張唐は初め、王翦の攻撃が弱く、腰が引けているのかと思った。それに我慢ならなかった蒙武の歩兵部隊が無断で攻撃を行った際には、王翦の力量を疑った。
しかし最終的には、敵軍が乱れた際に兵力を一斉に動かし、若干損害が増えていた蒙武を救いながら、一気に城を制圧した。
「白起殿。王翦の器量は見込み通りです。此度の韓の平定にて功を立て、将軍となるでしょう」
「王齮はどうであったか」
「王齮は……少し王翦の部隊との連携が疎かになっていて、半ば単独行動をしていたように思います」
「左様か……。これは課題だな」
白起は涇城を初めとし各城を制圧した。それは、韓と魏の国境を跨ぎ、また趙から韓への道としても機能している太行山脈に面した城であり、韓を完全に孤立させる目的があった。
前263年(昭襄王44年)
少しづつ、確実に勝機が訪れてから、じりじりと城を陥し、韓王を焦らせていった。
すると韓王より、停戦を求める使者が訪れた。白起は無論、停戦を受け入れるつもりはなく、またこれが韓側の時間稼ぎになるということも理解していた。
齕は夕食時、幕舎の中で酒を呑む白起に、いった。
「旦那様は、我が軍が韓王の使者と停戦の交渉をしているあいだに、韓が兵力を結集し、決戦を挑むかもしれないことは、理解されているでしょう」
「勿論だ。そして決戦をしたところで、韓に勝ち目がないということも承知している。韓王の狙いは、時間稼ぎではないように思う」
白起はそういうと、給仕をする齕に、座るよう目線で伝えた。そして器に酒を注いでやり、乾杯した。
「遠征中は、こうして無礼講の酒を呑むことも難しい。蒙驁殿であっても、気を使いよるわ」
「他の将兵の目がありますから、仕方ないでしょう」
そういって、齕は酒を呑みほした。
「それはそうだな……」
「して、旦那様は韓王の狙いはなんだとお考えなのですか?」
「臣従だ。王号を廃止し、国の土地と民を秦へ差し出す。その代わりとして、王家や有力貴族らの命を守るのだ」
「韓王がそこまで賢い判断を下せるのでしょうか」
「無理ではない。優柔不断な人間というのは、国を発展させる為の決断を下せないという弱点がある。しかし一度、敗けが確実となってしまえば、いかなる利益や思惑を無視して、最終的に守るべきである臣民の命を守る為に思い切った行動ができるものだ」
「話を聞く必要がなければ、決断力が高まるのですね。確かに、優柔不断とは、人の話を聞きすぎる優しさが元である気がします」
「左様。つまり今の韓王は、我らが韓を最も効率良く平定するという意味では、非常に役に立つ名君であるといえるのだ」
二人はニヤりと笑い、酒を酌み交わした。
つまり張唐は、白起のいう通りに、王翦の力量を見定めようとしていた。そして王齮、蒙驁がどのように連携し、戦うのかを、見届けようとしていたのである。
王翦は、城攻めを卒なくこなした。損害は少なく、張唐並びに白起も満足いく結果であった。
張唐は初め、王翦の攻撃が弱く、腰が引けているのかと思った。それに我慢ならなかった蒙武の歩兵部隊が無断で攻撃を行った際には、王翦の力量を疑った。
しかし最終的には、敵軍が乱れた際に兵力を一斉に動かし、若干損害が増えていた蒙武を救いながら、一気に城を制圧した。
「白起殿。王翦の器量は見込み通りです。此度の韓の平定にて功を立て、将軍となるでしょう」
「王齮はどうであったか」
「王齮は……少し王翦の部隊との連携が疎かになっていて、半ば単独行動をしていたように思います」
「左様か……。これは課題だな」
白起は涇城を初めとし各城を制圧した。それは、韓と魏の国境を跨ぎ、また趙から韓への道としても機能している太行山脈に面した城であり、韓を完全に孤立させる目的があった。
前263年(昭襄王44年)
少しづつ、確実に勝機が訪れてから、じりじりと城を陥し、韓王を焦らせていった。
すると韓王より、停戦を求める使者が訪れた。白起は無論、停戦を受け入れるつもりはなく、またこれが韓側の時間稼ぎになるということも理解していた。
齕は夕食時、幕舎の中で酒を呑む白起に、いった。
「旦那様は、我が軍が韓王の使者と停戦の交渉をしているあいだに、韓が兵力を結集し、決戦を挑むかもしれないことは、理解されているでしょう」
「勿論だ。そして決戦をしたところで、韓に勝ち目がないということも承知している。韓王の狙いは、時間稼ぎではないように思う」
白起はそういうと、給仕をする齕に、座るよう目線で伝えた。そして器に酒を注いでやり、乾杯した。
「遠征中は、こうして無礼講の酒を呑むことも難しい。蒙驁殿であっても、気を使いよるわ」
「他の将兵の目がありますから、仕方ないでしょう」
そういって、齕は酒を呑みほした。
「それはそうだな……」
「して、旦那様は韓王の狙いはなんだとお考えなのですか?」
「臣従だ。王号を廃止し、国の土地と民を秦へ差し出す。その代わりとして、王家や有力貴族らの命を守るのだ」
「韓王がそこまで賢い判断を下せるのでしょうか」
「無理ではない。優柔不断な人間というのは、国を発展させる為の決断を下せないという弱点がある。しかし一度、敗けが確実となってしまえば、いかなる利益や思惑を無視して、最終的に守るべきである臣民の命を守る為に思い切った行動ができるものだ」
「話を聞く必要がなければ、決断力が高まるのですね。確かに、優柔不断とは、人の話を聞きすぎる優しさが元である気がします」
「左様。つまり今の韓王は、我らが韓を最も効率良く平定するという意味では、非常に役に立つ名君であるといえるのだ」
二人はニヤりと笑い、酒を酌み交わした。