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作者: 犬物語
精神科医はキミをこう見てる
人は表面だけ見て判断しがちなもんよ
 ハーバード大学の研究によると、人を見た目で判断する人間の約六十三パーセントに、なんらかの精神疾患の予兆が見られたらしい。

 これはウソです。ハーバード大学がそんな研究したなんて記録ありません。だけどハーバード大学の研究という権威性を示すことで個人の感想レベルから学術的研究レベルに印象を持ち上げ、六十三という中途半端だがリアルに見える数字で研究の実在性を強調している。そして『人を見た目で判断する人間』という悪印象待ったナシの人間に対し『精神疾患の予兆』という悪印象をぶつけることでざまぁ・・・感を匂わせる。

 最後に〝らしい〟を付ける、付けないでどんくらい差があるのか知らんけど、まあ、現代のSNS上で流行ってる常套句のマネゴトくらいにはなったと思う。こういう文体を自由自在に操れるようになれば、わたしの文章ももっと読まれるようになるのかなぁなどとグチりつつ、ついさっき見つけたエックス(旧ツイッター)の投稿を眺めております。

「ともだちから聞いた心療内科医の言葉がマジで真理ついてる。他人にキツく当たる人って実は――自分自身が不安に思ってて、その不安をごまかすために他人に当たってるんだって」

 〝――〟の部分でツイートが区切られ、クリックする(つまり閲覧する)ことで続きが見られるという形式。うめーなぁ良いインプレッション稼ぎ方法だなぁなどと見ていたものの、わたしの心の中にはいくつかの思いが浮かんできた。

 この手の話、なぜか心療内科しか登場せんのよなぁ精神科医はどこ?
 医者ってあまり言い切ることしないよなぁ話の流れでそうなったん?
 そもそもこいつともだちいるの?

 最後は冗談として、この手のエピソードが十中八九ガセネタなのは知ってるけど妙な共通点あるよね。と、ここまで考えて今回の話のテーマを思いついた。

「せや、精神科医が何をどう観察してるのか書いたろ」

 ってことで、さっそく本編に入りましょう。なお『心療内科と精神科の違い』は以前までに書いたのでご参照いただければ幸い。上記ワードで過去エピソードを検索すればヒットすると思うよ。





:優秀な精神科医ほどキミを助けない:

 患者の話をよく聞き、共感してくれ、かつ冷静に対応しつつ的確なアドバイスをくれる。これが優秀なお医者さんだと思うそこのキミ! ――まあ、間違いでもない。

 けど本当に優秀な医者は、患者に「病院に行く意味あったのかな?」と思わせるレベルですんなり治療してくれる人なんだ。とくに精神病界隈では。

 精神疾患の方は文字通り精神、つまり脳機能がゴチャッとしてる。感情の起伏が激しくなったり、あるいは無になったり自身の状態を説明できなかったり見失ってしまったり……だからたとえお医者さんが的確に傾聴し、共感などのテクニックを駆使して冷静かつ的確なアドバイスをしても、患者さん側が「何もわかってくれない!」と思ってしまうことはよくある。

 メンタルクリニックの口コミ評価点を見ればわかるでしょ? メンタル問題は風邪と違って行けばすぐ治るものではないので、期待値と実際の結果が不釣り合いになりやすいのよほんと困るねお互いに。

 けど本当にスゲー精神科医は、そんな患者の状態まで読んでうまーく誘導して患者さんが気づかぬうちに安定させられる。完治とは言わんし寛解とも言わん。けど安定させられるレベルに持ってくこれ大事。この話、いくつかの医療関係者の著書やらインタビューやら何やらを元に書いてるのでデタラメではないと思うよ?

 心に課題を抱える方々と、それを診る側の人材不足がメンクリの評判サゲをさらに加速させてるんじゃないでしょうか。だって問診書かされうん時間待たされた末やっとこさ出会えたお医者さんにはちょっとしか話せず、ただ薬だけ処方され帰される。わたしゃいったい何のために来たのだ? といった感想しか浮かばない人もいるでしょう。いやお医者さん的にはベストを尽くしてるし実際にお薬で楽になるパターン多いんだけどね?

 的確な薬と量の選別もお医者さんの仕事。なんてったって薬の処方はお医者さんだけができることだからね。そのためには患者のことをしっかり理解して状態を把握しつつ、何をどう処方すればいいか、どんな会話をしてどんな情報を取得すればいいかを洗濯してくわけだけど……実は、精神科医はキミが思ってる以上にキミのことをよく観察してるのだ。





:医者は患者のすべてを観る:

 ただ五分だけ話を聞いて、薬を出してはい終わりだったら臨床なんていらないねん。ただリモートで患者と話をして症状だけ読めばそれでええねん。でも実際は違う。きちんと臨床の場、つまり先生の診察室にお邪魔して、そこで面と向かい合って話をしなきゃダメなの。

 なぜなのか? 実は、精神科医はキミが思ってる以上にキミのことをよく観察してるのだ。業界用語っぽい書き方をすれば、お医者さんは患者に対しアセスメントしてるのよ。

 事前情報として問診票を書いてもらう。何に困ってそれがいつから起こってるのか、既往症やアレルギーも聞いとかないと処方する薬の相性があるからね。これは内科などの科目でもあること。精神科医はそこからが本番。

 患者が扉をノックしたその瞬間から診察がはじまる。まだ入ってないけどノックそのものが情報源になるんだ。

 何回叩いた?
 リズムは規則的だった?
 強弱は?

 入ってくださいというかけ声にどう反応するだろうか。扉の開け方は素早いかゆっくりか、そこまで観て次は患者の登場だ。

 服装はどうだろう? 地味な色合いだろうか? 金ピカジャケットに豹柄タイツなど、およそ病院に行くような服装でないものだろうか?

 姿勢はどうだろう? 歩き方は? 表情は? 視線はどこを向いてる? こちらに目を合わせているのかキョロキョロ見回してるのか、目にクマがあれば睡眠不足を疑うかもだし身だしなみや髪が整っているかどうかも重要な情報だ。

 その人の体格だって貴重な情報源。肥満、痩せ、筋肉質、スポーツ経験がありそうならそのスポーツごとの文化に触れているだろう。それから実際に会話してみると、その人が何を大事にしてどのような人生を送ってきたかが見えてくる。椅子に座ってもらった時タバコの匂いが漂ってくるかもしれない――この前段階からお悩みを聞いていくことで、その人が抱えている課題や弱点、あるいは強点さえ伺えてくるわけだ。

 もちろん、お医者さんだって人間だから「〇〇なら□□に違いない」といった先入観を持ってしまう場合もある。だからこれらの観察とは別に、たとえばアメリカ心理学会が定めた精神疾患のマニュアル『DSM』などを参照しつつ、これらを総合的に判断していく必要がある。逆にDSMに頼りすぎれば、ただ機械のように患者を処理していく医者に見えてしまう。

 お医者さんは、患者さんと接するたった五分間の間にこれらをこなしてるワケですよおくさま。それも外来患者数百人に対してやるんだからお医者さんの負担もでけーはずだなぁと……いずれにしても、精神科医がただ五分間だけ話を聞いて薬出してはい終わり、というわけじゃないことをご理解いただければと思います。



 誰だって心に不安抱えるもんだからね。もしキミがそんな状況でいるのであれば、まずは『自分自身を知る』ことから始めてみてはいかがでしょうか? なぁに難しい注文はしないぜ。ゲームのような軽い気持ち(ここ重要)で自分の行動に「なんで?」と問いかけるだけさ。

 自分はいつもダメだなと思った。それはなぜ? ――あの時失敗したから? でもその一度数秒だけの失敗で残り十うん年プラスαの人生すべてを否定する材料にはならんやろ? それでも自分はいつもダメと思ったのは? いつからそう思い始めたんだろう?

 失敗したこと自体はどうでもよかった。けどあの時あの人にすごい剣幕で怒られて、それがすごく怖くて……なんて記憶が蘇ってくるかもしれないね。まあ、かるーい気持ちでいいのでとりあえずやってみてください。あ、気分悪くなったらすぐやめるのよ?

 なんか気分悪ぅなったら「なんで?」ゲームを他人に向けてやってみよう。たとえばコンビニから人が出てきた時「あの人はなぜあんな服装を?」と考える。フォーマルなスーツを着込んでいるがこの近くにオフィスビルはない。あーそういえば近くに教会があって何やら人がたくさんいたなぁ、結婚式かな? なんて推理することができる。

 この『観察+なぜなぜ?』ゲームわりと楽しいのでみなさんぜひ実践してみてね――キミの人生がおもしろおかしい日々であることを。
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