残酷な描写あり
R-15
第20話 『たったひとつだけの灯⁉』
どうにか振り切ったことが分かると、
スペスは近くの木にもたれかかり、アルマは崩れるようにその場に座り込んだ。
ふたりとも呼吸をするのが精一杯で、しばらくは喋ることもできなかった。
抑えきれない荒々しい息づかいが、暗くなった森に吸い込まれていく。
なんとか呼吸が整い始めると、残り少なくなった水を飲んでスペスが口を開いた。
「あいつら、かなり……、しつこかったよねっ、ボクたちが、なにをしたってっ、いうんだよ!」
「ほんとにっ、怖かった……わたしねっ……、助かったって、思ったらっ、腰が抜けちゃってっ……」
「でも、このままっ、のんびりは、していられない……よっ。暗くなってきたしっ、またあんなのにっ、出会ったらっ、たまらないっ」
「そうねっ、はやく、行きましょ!」
アルマが膝に手を当てて立ち上がり、スペスも寄りかかっていた木を押すようにして離れた。
ふたりとも、もう走るどころか、歩くだけでやっとだったが、
それでも、ここに長くとどまる気はしなかった。
ふたりは、すっかり暗くなってしまった夜の森を、慎重に進む。
だが、道がないうえに、なにか物音がすると立ち止まっていたので、なかなか前に進めなかった。明かりをつければもう少し速度を上げることもできたが、夜の森では目立ちすぎるのでやめた。
さいわい空は晴れていて、すでに青い月が出ていたので、どうにか足元を見ることはできた。
警戒をつづける緊張と、ここまで走ってきた疲労が全身をつつみ、加えて空腹まで感じ始めたふたりの足どりは重かった。途中で、アルマが見つけた木の実を口にしたが、量が足りなかったので腹を満たすことはできなかった。水筒の中身もすでに尽きかけていた。
「さっきから歩いているここらへんって、たしか街までの道があるあたりだよね?」
うっそうとした深い森を歩きながら、スペスが訊いた。
「そうね……」
と答えるアルマの声は小さかった。
街へつながる道がないということは、必然――アルマの村もない可能性が出てくる。それならば、やはりここはアルマの知るリメイラではなかったというわけで――
突きつけられる現実が、疲れた身体に追い打ちをかけた。
――村が……ない。いつもこの場所から見えていたのに……。
そう思うだけで、アルマは涙が滲んできた
もしもこのまま村の場所に行って、たとえ水を手に入れたとしても、それでどうするのだろうか。さっきみたいなおかしな小人がいるこの場所で、このままずっと生きていくのか……。
暗い気持ちがよみがえりそうになったとき、急にスペスが足をとめた。
「見て、アルマ! 灯りが見えるよ!」
「うそ……誰かいるの?」
スペスの指した先――村があるはずの場所に、灯りが一つだけポツンとついていた。
「きっと、そうだよ!」とスペスが嬉しそうにうなずいた。
「ああいう灯りをつけるなら、きっと動物じゃない!」
「でも、もしかしたら……、さっきの緑のやつかも……」
あの灯りの場所――村の場所に、もしもまた緑の小人がいたら……。
そう考えるとアルマは頭がおかしくなりそうだった。
「そればっかりはわからないけどさ、でも、ここは行ってみるしかないよね――十分に警戒して、だけれど」
「そうよね……ここで立ち止まってたら何も分からないものね。行くしか――ないのよね」
そう決断してみても、いまさっき味わった恐怖は、消えてくれなかった。
震えつづける手をギュッと握って、〝勇気が欲しい〟とアルマは思った。
「あ、あのさ……、スペス」
「うん……? どうかした?」
歩き出そうとしたスペスがふり返る。
「手――にぎってくれない?」
一瞬きょとんとしたスペスは、すぐにアルマの手を取った。
「もちろんだよ!」
温かいその手を握りかえして、アルマはそっと目を閉じる。
――どうか……勇気をください。
ゆっくりと息を吐き、ゆっくりと目を開ける。
「……ありがと」
そう言ったアルマの目は、しっかりと灯りを見つめていた。
「さあ、行きましょ!」
しっかりと手を握りあい、ふたりは再び夜を歩きだした。
不安と希望が入り混じる、たったひとつだけの灯をめざして――
スペスは近くの木にもたれかかり、アルマは崩れるようにその場に座り込んだ。
ふたりとも呼吸をするのが精一杯で、しばらくは喋ることもできなかった。
抑えきれない荒々しい息づかいが、暗くなった森に吸い込まれていく。
なんとか呼吸が整い始めると、残り少なくなった水を飲んでスペスが口を開いた。
「あいつら、かなり……、しつこかったよねっ、ボクたちが、なにをしたってっ、いうんだよ!」
「ほんとにっ、怖かった……わたしねっ……、助かったって、思ったらっ、腰が抜けちゃってっ……」
「でも、このままっ、のんびりは、していられない……よっ。暗くなってきたしっ、またあんなのにっ、出会ったらっ、たまらないっ」
「そうねっ、はやく、行きましょ!」
アルマが膝に手を当てて立ち上がり、スペスも寄りかかっていた木を押すようにして離れた。
ふたりとも、もう走るどころか、歩くだけでやっとだったが、
それでも、ここに長くとどまる気はしなかった。
ふたりは、すっかり暗くなってしまった夜の森を、慎重に進む。
だが、道がないうえに、なにか物音がすると立ち止まっていたので、なかなか前に進めなかった。明かりをつければもう少し速度を上げることもできたが、夜の森では目立ちすぎるのでやめた。
さいわい空は晴れていて、すでに青い月が出ていたので、どうにか足元を見ることはできた。
警戒をつづける緊張と、ここまで走ってきた疲労が全身をつつみ、加えて空腹まで感じ始めたふたりの足どりは重かった。途中で、アルマが見つけた木の実を口にしたが、量が足りなかったので腹を満たすことはできなかった。水筒の中身もすでに尽きかけていた。
「さっきから歩いているここらへんって、たしか街までの道があるあたりだよね?」
うっそうとした深い森を歩きながら、スペスが訊いた。
「そうね……」
と答えるアルマの声は小さかった。
街へつながる道がないということは、必然――アルマの村もない可能性が出てくる。それならば、やはりここはアルマの知るリメイラではなかったというわけで――
突きつけられる現実が、疲れた身体に追い打ちをかけた。
――村が……ない。いつもこの場所から見えていたのに……。
そう思うだけで、アルマは涙が滲んできた
もしもこのまま村の場所に行って、たとえ水を手に入れたとしても、それでどうするのだろうか。さっきみたいなおかしな小人がいるこの場所で、このままずっと生きていくのか……。
暗い気持ちがよみがえりそうになったとき、急にスペスが足をとめた。
「見て、アルマ! 灯りが見えるよ!」
「うそ……誰かいるの?」
スペスの指した先――村があるはずの場所に、灯りが一つだけポツンとついていた。
「きっと、そうだよ!」とスペスが嬉しそうにうなずいた。
「ああいう灯りをつけるなら、きっと動物じゃない!」
「でも、もしかしたら……、さっきの緑のやつかも……」
あの灯りの場所――村の場所に、もしもまた緑の小人がいたら……。
そう考えるとアルマは頭がおかしくなりそうだった。
「そればっかりはわからないけどさ、でも、ここは行ってみるしかないよね――十分に警戒して、だけれど」
「そうよね……ここで立ち止まってたら何も分からないものね。行くしか――ないのよね」
そう決断してみても、いまさっき味わった恐怖は、消えてくれなかった。
震えつづける手をギュッと握って、〝勇気が欲しい〟とアルマは思った。
「あ、あのさ……、スペス」
「うん……? どうかした?」
歩き出そうとしたスペスがふり返る。
「手――にぎってくれない?」
一瞬きょとんとしたスペスは、すぐにアルマの手を取った。
「もちろんだよ!」
温かいその手を握りかえして、アルマはそっと目を閉じる。
――どうか……勇気をください。
ゆっくりと息を吐き、ゆっくりと目を開ける。
「……ありがと」
そう言ったアルマの目は、しっかりと灯りを見つめていた。
「さあ、行きましょ!」
しっかりと手を握りあい、ふたりは再び夜を歩きだした。
不安と希望が入り混じる、たったひとつだけの灯をめざして――