憤怒の魔女イザベラ 3
イザベラはそう言って両手の拳を胸の前でぶつけると、彼女の周りが赤く光始め、ちょうど彼女のこぶし程の火の玉が発生する。
「そんな火の玉一つで何をするつもり?」
そう言って私は後悔した。
彼女の周りにはその後も続々と火の玉が発生し続け、彼女の周りを衛星のように回り始めたのだ。
その数およそ百個ほど。それだけの火の玉が彼女の周りを回る……たぶんあれを自由自在に操るまでしてきそうだ。
「行くわよアレシア!」
イザベラは再びファイティングポーズをとると、先刻と同じように凄まじい勢いで突っ込んでくる!
こちらも自動でサイカチの棘が発射されるが、彼女の周りを衛星のように回る火の玉がそれらを全て焼きつくしていく――
「もらった!」
成す術なく懐に入り込まれた私は、腹に強烈な右ストレートをもらい、後方へ数メートル吹き飛ばされる。
「アッ!!」
それもただのパンチではなく、炎をまとった拳だ。私は後方に吹き飛ばされながら、自身の肉が焼かれる匂いを感じた。
「そんなもの?」
イザベラは一度立ち止まり挑発する。
挑発された私は、ゆっくりとだが確かに起き上がる。
殴られた腹は赤く焼け爛れ、拳の一撃により骨が逝ってしまっている。
「まだまだこれからよ」
私はそう言いながらも、あまり自信が無かった。
さっきも思ったことだが、やはり相性が悪すぎる。
大半の魔女が苦手な接近戦に加えて、たとえ私の得意な遠距離戦に持ち込めたとしても、彼女は炎、どうしたって全て焼かれる未来しか浮かばない。
どうするか……それでもとりあえずやるしかない!
「命よ、その形状を変えて、参戦せよ!」
私は一度遠距離戦を諦め、木の剣を用意する。
「なんのつもり?」
イザベラはあきらかにイラついた声色だ。
「貴女相手に遠距離戦に持ち込むのは不可能に近い。だから、貴女の土俵で戦ってあげる」
私は剣を構える。
前にグリーパーと戦った時は、相手が固すぎたのと、こちらの魔力が底を尽きていたため残念な結果に終わったが、今回はそうじゃない。
「私も結構自信あるのよ、接近戦」
「へぇ~アレシアが? 聞いたことないけど?」
「それはそうよ……皆私に近づくことすら出来なかったんだから!」
私は剣を振り被り、足に込めた魔力を使ってイザベラに切りかかる!
「おっと!?」
イザベラは私の剣戟にやや驚いた様子だったが、それでも私の剣をギリギリで躱していく。その間もサイカチの棘は一定のペースでイザベラに射出されているが、彼女の生み出した火の玉がそれらを全て燃やし尽くす……
「くっ!」
おまけに私が少しでも隙を見せると、反撃の炎の拳が飛んでくる。
それらを躱しながら剣を叩きこむが、当たる気配がない。
遊ばれているほど相手に余裕があるわけではなさそうだが、それでもやはり普通の接近戦では相手に分がある。
これではいつかやられる。
そう考えていた時、彼女も同じことを考えていたのか、私の剣を躱しながら左手を軽く振ると、さっきまでサイカチの棘を燃やしていた彼女の火の玉達が、防御に必要な最低限の数を残して私を焼きに飛んでくる!
私もそれに対抗して指を鳴らすと、地面から無数のツタが生え、飛んでくる火の玉を叩き落とす。
火の玉を叩き落としたツタはその場で燃え始め、炭になっていく。
普通ならこのままツタも攻撃に加勢できるのに……これでは平行線のままだ。
私はやや強引にでも戦局を打開するため、剣をイザベラに向かって投げつける。
彼女が一瞬視線を私から自分に向かってくる剣に向けた隙に、一度下がって魔力を練る。
これが遠距離魔法を使う最後のチャンスだ!
「命よ、災禍の誕生を見せよ!」
私がそう唱えると、私たちが立っている場所全体に甲高い音が鳴り響く。
これが今の私が用意できる最大規模の魔法……彼女の炎の壁ごと全てを飲み込む樹海をここに誕生させる!
「なんだこれは!」
イザベラは周囲を見渡し愕然としていた。
それもそうだろう。
私とイザベラの周囲の地面から、少しの隙間無く木が生え続けているのだから。
そしてそれらの木々は、全て一定の大きさまで育つと一斉にイザベラに襲いかかる!
「クソ! 面倒な!」
イザベラは先ほどと同じように、右足を高く振り上げて地面に叩きつけ、炎の壁を発生させて迫りくる木々を片っ端から燃やし尽くす。
「こんなもの全て燃やしてしまえば問題はない!」
そう宣言するイザベラだが、その顔は険しい。
理由は単純な木の量だった。
さっきまでは、地面から生えていた木々を焼くだけでよかったが、それに加えてイザベラの上空、イザベラの後ろ、前、横……至る所に魔法陣が発生し、そこからも木々が生え続けている。
「クソ! きりがない!」
イザベラは負けじと両手を胸の前で合わせる。
「炎よ、不埒な侵入者に業火の罰を!」
彼女が初めて魔法らしい魔法を行使した。
彼女が詠唱を終えると、四方の魔法陣から発生した木々たちが、イザベラに一定の距離まで肉薄すると、たちどころに燃え尽きて炭となってしまう。
「自身の回りを焼き尽くす魔法か……」
「ご名答!」
イザベラは魔力を込めながら不敵に笑う。
ようやく行使したイザベラの魔法……それでもやっぱり接近戦に使える魔法なのね。
あの周囲を焼き尽くす魔法を発動されたまま突っ込んで来られたら、やりようが無いわ。
イザベラは不敵に笑ったまま、未だに発生し続ける木々を木炭に変えていく。
それを延々と繰り返すうちに、私は笑いだす。
「何を笑っている? 貴女の生み出した木は、全て私が焼き尽くしているのだけど?」
そうか、イザベラはまだ気づいていないのか……
「直にわかるわ」
「何を言って…………!!」
イザベラはそう言いかけて目を見開く。
まったく……炎の魔女が聞いて呆れる。自身の操る炎が徐々に小さくなっていることに気がつかないなんて。
そしてイザベラはあきらかに息苦しそうにしていた。
「何をした?」
イザベラは息を切らせながら私に問いかける。
「随分と息苦しそうね?」
「それが……どうした?」
「それが答えよイザベラ。貴女の周囲全ての空間から私の木が生え続けている。そしてそれを貴女は常に焼き続けている……そんなことを続けてたら、当然酸素はなくなっていく」
「それが狙いか?」
イザベラは顔を歪ませる。
いまさら気がついてももう遅い。この樹海を生み出す魔法は止まらないし、木を焼き払うのを止めれば、大量の木々に押しつぶされる。
「もう貴女に逃げ場は無いわよ?」
「どうやら……そのようだな……」
私はそのイザベラの様子に何か違和感を覚える。
今までの彼女の立ち振る舞いから、ただ諦めるようには思えなかった。
一体? 何か狙っている?
「確かにお見事だアレシア……だが、何か忘れていないか?」
彼女がそう呟いたと同時に、私は足元からかすかに熱を感じる。
「え?」
私が危険だと判断した時、地面から炎の柱が私の中心を貫いた。
「うっ!?」
私はとっさに魔力を集中させて大事な器官だけはなんとか守ったが、それでも全身に大やけどを負い、地面に転がり込む。
それと同時に、私の後方から人の大きさ程の赤い鳥が飛んできて、くちばしから炎と衝撃波を混ぜたようなブレスを吐き、イザベラを覆っていた木々の一部に風穴を開けた。
そのタイミングをイザベラは理解していたのか、なんの躊躇もなく私の樹海から抜け出した。
「やはり別のことに魔力を使わせれば、この永遠と続く樹海も止まるのだな!」
イザベラは全身に切り傷を負いながらも、毅然と立ち、伸ばした右手の先に赤い鳥を乗せていた。
「そんな火の玉一つで何をするつもり?」
そう言って私は後悔した。
彼女の周りにはその後も続々と火の玉が発生し続け、彼女の周りを衛星のように回り始めたのだ。
その数およそ百個ほど。それだけの火の玉が彼女の周りを回る……たぶんあれを自由自在に操るまでしてきそうだ。
「行くわよアレシア!」
イザベラは再びファイティングポーズをとると、先刻と同じように凄まじい勢いで突っ込んでくる!
こちらも自動でサイカチの棘が発射されるが、彼女の周りを衛星のように回る火の玉がそれらを全て焼きつくしていく――
「もらった!」
成す術なく懐に入り込まれた私は、腹に強烈な右ストレートをもらい、後方へ数メートル吹き飛ばされる。
「アッ!!」
それもただのパンチではなく、炎をまとった拳だ。私は後方に吹き飛ばされながら、自身の肉が焼かれる匂いを感じた。
「そんなもの?」
イザベラは一度立ち止まり挑発する。
挑発された私は、ゆっくりとだが確かに起き上がる。
殴られた腹は赤く焼け爛れ、拳の一撃により骨が逝ってしまっている。
「まだまだこれからよ」
私はそう言いながらも、あまり自信が無かった。
さっきも思ったことだが、やはり相性が悪すぎる。
大半の魔女が苦手な接近戦に加えて、たとえ私の得意な遠距離戦に持ち込めたとしても、彼女は炎、どうしたって全て焼かれる未来しか浮かばない。
どうするか……それでもとりあえずやるしかない!
「命よ、その形状を変えて、参戦せよ!」
私は一度遠距離戦を諦め、木の剣を用意する。
「なんのつもり?」
イザベラはあきらかにイラついた声色だ。
「貴女相手に遠距離戦に持ち込むのは不可能に近い。だから、貴女の土俵で戦ってあげる」
私は剣を構える。
前にグリーパーと戦った時は、相手が固すぎたのと、こちらの魔力が底を尽きていたため残念な結果に終わったが、今回はそうじゃない。
「私も結構自信あるのよ、接近戦」
「へぇ~アレシアが? 聞いたことないけど?」
「それはそうよ……皆私に近づくことすら出来なかったんだから!」
私は剣を振り被り、足に込めた魔力を使ってイザベラに切りかかる!
「おっと!?」
イザベラは私の剣戟にやや驚いた様子だったが、それでも私の剣をギリギリで躱していく。その間もサイカチの棘は一定のペースでイザベラに射出されているが、彼女の生み出した火の玉がそれらを全て燃やし尽くす……
「くっ!」
おまけに私が少しでも隙を見せると、反撃の炎の拳が飛んでくる。
それらを躱しながら剣を叩きこむが、当たる気配がない。
遊ばれているほど相手に余裕があるわけではなさそうだが、それでもやはり普通の接近戦では相手に分がある。
これではいつかやられる。
そう考えていた時、彼女も同じことを考えていたのか、私の剣を躱しながら左手を軽く振ると、さっきまでサイカチの棘を燃やしていた彼女の火の玉達が、防御に必要な最低限の数を残して私を焼きに飛んでくる!
私もそれに対抗して指を鳴らすと、地面から無数のツタが生え、飛んでくる火の玉を叩き落とす。
火の玉を叩き落としたツタはその場で燃え始め、炭になっていく。
普通ならこのままツタも攻撃に加勢できるのに……これでは平行線のままだ。
私はやや強引にでも戦局を打開するため、剣をイザベラに向かって投げつける。
彼女が一瞬視線を私から自分に向かってくる剣に向けた隙に、一度下がって魔力を練る。
これが遠距離魔法を使う最後のチャンスだ!
「命よ、災禍の誕生を見せよ!」
私がそう唱えると、私たちが立っている場所全体に甲高い音が鳴り響く。
これが今の私が用意できる最大規模の魔法……彼女の炎の壁ごと全てを飲み込む樹海をここに誕生させる!
「なんだこれは!」
イザベラは周囲を見渡し愕然としていた。
それもそうだろう。
私とイザベラの周囲の地面から、少しの隙間無く木が生え続けているのだから。
そしてそれらの木々は、全て一定の大きさまで育つと一斉にイザベラに襲いかかる!
「クソ! 面倒な!」
イザベラは先ほどと同じように、右足を高く振り上げて地面に叩きつけ、炎の壁を発生させて迫りくる木々を片っ端から燃やし尽くす。
「こんなもの全て燃やしてしまえば問題はない!」
そう宣言するイザベラだが、その顔は険しい。
理由は単純な木の量だった。
さっきまでは、地面から生えていた木々を焼くだけでよかったが、それに加えてイザベラの上空、イザベラの後ろ、前、横……至る所に魔法陣が発生し、そこからも木々が生え続けている。
「クソ! きりがない!」
イザベラは負けじと両手を胸の前で合わせる。
「炎よ、不埒な侵入者に業火の罰を!」
彼女が初めて魔法らしい魔法を行使した。
彼女が詠唱を終えると、四方の魔法陣から発生した木々たちが、イザベラに一定の距離まで肉薄すると、たちどころに燃え尽きて炭となってしまう。
「自身の回りを焼き尽くす魔法か……」
「ご名答!」
イザベラは魔力を込めながら不敵に笑う。
ようやく行使したイザベラの魔法……それでもやっぱり接近戦に使える魔法なのね。
あの周囲を焼き尽くす魔法を発動されたまま突っ込んで来られたら、やりようが無いわ。
イザベラは不敵に笑ったまま、未だに発生し続ける木々を木炭に変えていく。
それを延々と繰り返すうちに、私は笑いだす。
「何を笑っている? 貴女の生み出した木は、全て私が焼き尽くしているのだけど?」
そうか、イザベラはまだ気づいていないのか……
「直にわかるわ」
「何を言って…………!!」
イザベラはそう言いかけて目を見開く。
まったく……炎の魔女が聞いて呆れる。自身の操る炎が徐々に小さくなっていることに気がつかないなんて。
そしてイザベラはあきらかに息苦しそうにしていた。
「何をした?」
イザベラは息を切らせながら私に問いかける。
「随分と息苦しそうね?」
「それが……どうした?」
「それが答えよイザベラ。貴女の周囲全ての空間から私の木が生え続けている。そしてそれを貴女は常に焼き続けている……そんなことを続けてたら、当然酸素はなくなっていく」
「それが狙いか?」
イザベラは顔を歪ませる。
いまさら気がついてももう遅い。この樹海を生み出す魔法は止まらないし、木を焼き払うのを止めれば、大量の木々に押しつぶされる。
「もう貴女に逃げ場は無いわよ?」
「どうやら……そのようだな……」
私はそのイザベラの様子に何か違和感を覚える。
今までの彼女の立ち振る舞いから、ただ諦めるようには思えなかった。
一体? 何か狙っている?
「確かにお見事だアレシア……だが、何か忘れていないか?」
彼女がそう呟いたと同時に、私は足元からかすかに熱を感じる。
「え?」
私が危険だと判断した時、地面から炎の柱が私の中心を貫いた。
「うっ!?」
私はとっさに魔力を集中させて大事な器官だけはなんとか守ったが、それでも全身に大やけどを負い、地面に転がり込む。
それと同時に、私の後方から人の大きさ程の赤い鳥が飛んできて、くちばしから炎と衝撃波を混ぜたようなブレスを吐き、イザベラを覆っていた木々の一部に風穴を開けた。
そのタイミングをイザベラは理解していたのか、なんの躊躇もなく私の樹海から抜け出した。
「やはり別のことに魔力を使わせれば、この永遠と続く樹海も止まるのだな!」
イザベラは全身に切り傷を負いながらも、毅然と立ち、伸ばした右手の先に赤い鳥を乗せていた。