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作者: 古今いずこ
残酷な描写あり
第11回 山を離れる 宮に乗り込む:3-1
 山から町まではしばらく歩いたが、草臥くたびれるような距離ではなかった。帝国の大都市には劣るだろうが活気のある町で、土壁の家が多いようだった。木造の家が見当たらないのは、火事を恐れているのかもしれない。

「町の様子は変わりませんか」

「……そうだな。あれが我が名の下に圧政を敷くようなことはなかった」

 後ろでささやき交わすのが一度聞こえたものの、四人ともあまり喋ろうとはしなかった。

 西国なのだ、としみじみした気持ちになったことには後から気がついた。やはり帝国育ちだ、無意識に西国を「西国」と一くくりにしてしまう。まだ見ぬ祖父の生国は〈金烏が羽を休める国〉であって、西国全域ではない。

 トシュは何の迷いもなく先を進んでいく。王宮の庭園に入り込んで国王を連れ出してきたのだから、つまり王宮までの道はわかっているはずだ。後についていきながら、行き交う人々の視線が集まるのを感じて、セディカは足を速めたくなった。思い込みではあるまい、こんな格好で。

 あちらですね、というジョイドの声がするまで、随分なほど長くかかった気がした。目を向ければ、立派な門が聳えている。〈錦鶏集う国〉の王宮であった。帝国の外の、それも小国のものだからといって、格が低いように映ることもない。

「お嬢様。非礼が気にかかるかもしれませんが、相手は偽物であることをお忘れになりませんように」

「……ええ」

「錦鶏の巫女が世俗の王にひざまく必要はない、とでも思ってくださいや」

 励ましのような注文のような囁きを最後に、私語はしばし、お預けになる。

 トシュが門番につかつかと歩み寄った。

「我々は帝国より参った者、さる方の使いとして参上した。国王陛下に書状をお渡ししたい。ついては陛下に、我々が〈連なる五つの山〉を越えてきたことをお伝えし、お目通りをお許しくださるかお尋ねいただけるか」

 門番は一度姿を消し、戻ってきて入門を許した。一行は王宮の門をくぐる。珍しい景色を眺めて楽しむ余裕は、残念ながらセディカにはなかった。

 導かれたのは殿舎の前庭であった。くすんだ白い石と明るい朱色の石を敷き詰めて、門から殿舎へまっすぐに朱色の道が伸び、その道を中心とする対称な線が左右に何本か走っている。その線に沿って、右手に文官、左手に武官が並んでいた。庭に面した幅の広い階段を上がった先に座しているのが、つまり、偽の国王だ。

 階段のすぐ下に至ると、一行は平伏した。否、平伏したのはジョイドと国王で、トシュとセディカは立ったままでいた。

 役人たちがざわつくのがわかる。後ろの国王を隠すためなのだし、前の国王は偽物なのだから、これでよいのだ、こうあるべきなのだ。昨日のように、太子を前にしていたときのように、平然とした面持ちとたたずまいでいようとして、内心、セディカは必死であった。

「無礼者。何故頭を下げぬ」

「それはこれをお改めくださればわかること」

 トシュが高々と立文を掲げる。それは明らかに不そんな、挑発的な態度であったから、偽物を偽物と知らぬ周囲がいきり立つのは当然だし、本物を装っている偽物としても憤りを示すのが妥当であったろう。

「思わせぶりなことを言いおる。が、その手には乗らぬ。そやつらを召し捕れ」

「お待ちを」

 想定していなかった声が割り込んだ。セディカはもう少しで、目だけでなく頭ごと向けてしまうところだった。偽国王の向かって右手に、太子が現れたのだ。
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