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作者: 神無城 衛
*2*
グリニッジ標準時13時
ヤマト国の軌道ステーションに到着するとそのまま軍港に案内された。艦の識別番号と艦名を告げただけでどのような用件か分かったらしく、手続きはスムーズだった。先のアダルヘイムの末端の艦隊とは対応が大きく違う。恐らく展開している組織の規模が違うのと、アダルヘイム側のコマンドポストの情報共有がおぼつかないのが原因だろう。
 係留するとすぐに荷物の引き渡し作業が始まった。格納庫をアンロックし、港に荷を降ろす。
「あなた方との旅もここまでですね。お世話になりました」
 港のラウンジでヤマト宇宙軍との手続きを済ませたセシリアの元にウェバー博士があいさつに来た。船を降りる際に各科長を訪ねてあいさつに回っているようで、セシリアが最後のようだ。
 そのまま艦のチェックを進めていると、ヤマト宇宙軍の士官が話しかけてきた。襟の階級章から自分のギルドでの階級より上の士官であることがうかがえる。恐らくこの港の管理責任者だろう。
 話の内容としては運んだ荷物の詳細情報を外部に漏らさないことの念押しと、今後のアダルヘイムの出方を予想して申し訳ないがすぐにでも出発した方がいいということだった。
「今回の試作兵器が完成したあかつきには本格的にアダルヘイムと衝突することも考えられる、その際の安全は保障できない」
「私たちもギルドの兵力として登録しているので、戦時にはギルドの隷下で協力できることもあるかもしれません。その際には戦列に並びますが、アダルヘイムと同じ軍門ですので、できればそうはなりたくないですね」
 初老の士官はうんうんと頷いた。
「失礼します」
 下級兵士が慌てた様子で入ってきた。士官と小声で何か話すと、お互いに表情が曇った。
「どうやらアダルヘイムの艦隊の展開が予想より早く進んでいるようだ。準備が整ったらすぐに発った方がいい」
 セシリアはクルーに出発準備を急ぐよう指示した。

 荷物を降ろすと他のチェックを簡単に済ませて慌ただしくナイアガラ号は出発した。目標はシリウスで、そこで補給や次の仕事への準備を進めることにした。
「引き続きお世話になります」
 アダルヘイムのきな臭い動きを受けてヤマト宇宙軍は貸与していた803戦術飛行隊を正式にナイアガラ号に編入する決定を下した。今後ヤマト国は同盟国であるシリウスに調査に出していた外洋派遣艦隊を集結し、通商破壊網を突破する作戦を展開するという。

 なぜセシリアたちに知らされたかというと、出港を急がせていた途中でギルドから正式に通告があったからだ。今回のアダルヘイムの軍事行動はギルドの命じたものではなく、完全にアダルヘイムの新CEOの独断によるもので、穏便に済ませたいギルドの方針に応じないアダルヘイムCEOに対して政治的、経済的圧力にとどまらず、ついに軍事的圧力をかけることを決定した。

アダルヘイムはシリウス独立戦争の勝利でギルドの影響力を高めることに寄与した功績があり、現CEOは4代目で、先代までのCEOは政治に介入する意図はなく、あくまで商売上の用命があった際に「軍事力」を貸与することに徹する姿勢だった。
遡ること1年、前CEOが病床に伏したことで台頭してきた二代目CEOの息子が会社の相続権を振りかざして台頭し、強大な軍事力を後ろ盾に横暴にふるまうようになったことで内外の不興を買い、さらに三代目のCEOとギルドの間で決定していたユニオン外洋艦隊の追加の受け入れをよく思わず、アダルヘイムの影響力が低下してギルドでの立場が弱くなることを実力行使という方法で挽回しようとしている。
兵力としては一般からの入社による志願兵、戦災孤児などを訓練した兵の他に、設立当初から提携しているスペシャルフォースであるターミネイトファイブ(ロート・ヒュンフリッター)があったが、ロート・ヒュンフリッターは現CEOを見限り、そっくりギルドの傘下に入った。

翻ってギルドの持つ軍事力は第一位のユニオン新開拓惑星政府と第二位の宋国禁軍公司(インペリアル・ロイヤルガード・カンパニー)があるが、ユニオン軍はギルドに貸与する形の軍であるため、手続きなどで直ちに動員することができず、禁軍公司についてはギルドに取り入ってギルドと所在する星系内の内政における権限を拡大させようという魂胆が見えているのでギルドには機動力のある軍がほとんどない。そこでユニオンの政府軍との協定による動員までの間、ギルド加盟の武装商船と、ロート・ヒュンフリッターを動員してヤマトとシリウス双方の軍事行動を助けようということで、初めに召集がかかったのはシリウス星系、アシハラ星系近海で活動している船団だった。

 セシリアとしては気乗りのする仕事ではないし、できれば地球にいる両親に初仕事の成果を早く伝えたいところだが、祖父の代から決まっている軍役は義務で、熟練のクルーには軍役の経験のある人も少なくない、その上セシリアも実戦経験こそないが宇宙軍の士官学校を出ている。断れる余地がない。
 まずはシリウスに戻って、状況を整理することにした。
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