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作者: 神無城 衛
*3*
 ヤマト国を出港してシリウスに進路をとったナイアガラ号はハチカンの軌道より外縁に差し掛かった。予想はしていたことだが、先のギルドの行動を受けてやっと整ったばかりのアダルヘイム艦隊の検問は緊張感を増していた。
 来た時と同じように船のナンバーを名乗ると、来た時とは違う反応が返ってきた。
『貴船はギルド法に触れる禁輸品を運んだ嫌疑がかかっている。調べが済むまで待機せよ』
「貴艦隊の行動がギルド隷下の行動でないことと、ギルド法に定める民間船の商業活動の自由権に反する行為であり、付き合ういわれはありません」
『従わないのなら攻撃する、これは威嚇ではない』
「そちらがその気ならこちらも然るべき対応をします。各員第一種戦闘配置、衝撃に備え」
通信を切るとセシリアはクルーに発令した。
 アダルヘイムの艦隊は3隻、中央の嚮導駆逐艦きょうどうくちくかんとフリゲートが2隻、どの艦もアンチドライブシステムを展開していて亜光速以上で振り切るのは不可能…ならば。
「全員耐衝撃防御、両舷に展開する艦にプラズマ弾頭を浴びせつつ音速まで加速して、アレをやるわ」
セシリアの命令にクルーは悪い顔でニヤリとして命令を復唱した。

嚮導駆逐艦の艦隊の艦隊司令は油断していた。3対1の優位性、アダルヘイム所属という強大な背景、対して相手は士官学校上がりの新米艦長の乗る旧式の装甲巡洋艦、自分の方が圧倒的優位にいるという油断がこの船のスコアについて調べることを怠る失態に繋がった。そしてその失敗は次の瞬間艦隊を巻き込む失態となる。
両舷に腕を伸ばして囲い込むように展開したフリゲート艦に対して、目の前の敵はプラズマ砲で抵抗している。
最初はそう思っていたが状況は少しずつ変わっていく。乱射しているように見えたプラズマ砲は両舷の艦首を狙っている。装備の性質とフリゲートという小さな戦闘艦であるゆえにむき出しになっているアンチドライブシステムに砲撃を集中しているのだ。
1隻、もう1隻と艦は戦闘不能になり、艦隊は自分の嚮導駆逐艦を残すのみになった。
こちらも停船しないためにプラズマ砲で攻撃を加えていたが、船体に損傷こそすれ機関部にダメージが及んでいる様子は見られない。それどころか船はこちらに向けてどんどん加速してくる。これは…
「砲撃やめ、艦首敵艦進路に向け、船体を平行にし、衝撃に備えろ」
 気がついたときには遅かった。

「着撃!」

ナイアガラ号は嚮導駆逐艦の右舷を艦首の衝角で削り取った。古典的な衝角戦(船による体当たり)だがナイアガラ号の必殺で、特にこのような突破戦にはうってつけだ。周囲の艦をけん制しつつ正面の旗艦に損害を与え、同時に敵艦の装甲とともに機能も指揮系統も追跡能力も士気も、戦闘継続に必要なすべてを削り取って逃げおおせる。まともに相手して勝つ必要はない状況なればこその戦法だ。特に今回は大事な積み荷を降ろした後で、貨物について特別気にする必要のない状況だったこともセシリアの決断を促した。

激しい揺れによろめきながらも、この時のセシリアにはこの高圧的な相手に対して勝利したこと、愛する船とクルーを侮辱したことへの報復を遂げたことへの達成感に全身の血が沸き立つような高揚感が一瞬だけ全身を巡るのを感じた。

 凄まじい揺れが収まった嚮導駆逐艦の艦内はあちこちでアラートが鳴っている。
「被害状況知らせ」
「艦首アンチドライブ機能喪失、第一、第二砲塔旋回不能、右舷増設バルジ喪失、右舷通路使用不能、…司令官の愛用のマグ、淹れたてコーヒーとともに損失…任務続行不能です」
 艦隊司令は撃ち漏らしたナイアガラ号を苦い顔で後方に見送るしかできなかった。
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