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作者: 神無城 衛
*4*
 グリニッジ標準時18時

 戦闘領域を亜光速で離れたナイアガラ号も状況を整理していた。戦闘の関わるシステム、居住区画、機関部ともにほとんど被害はなかったが、クルーの一部が間に合わずに衝撃でよろけて打撲を負ったとか、戦闘準備としてユカが固定した棚の縛着が甘くて塩をぶちまけてスープがしょっぱくなったという程度だった。これを踏まえて考えるに、この戦術の発令には十分な訓練と使用するタイミングを慎重に検討するべきだろうというのがセシリアの得た教訓だった。
 それでもクルーからの評価は高く、この高圧的な敵に対する鉄拳教育を高く買う声が聞かれ、濃くなったスープは再度鶏ガラからだしを取りなおして白湯ラーメンのつゆになり、今日の食事は豪華なラーメンライスになった。
 
「おつかれさま、食後のココアをどーぞ」
ユカが食後にココアを持ってきてくれた。今日は特別だからと生クリームをトッピングしてある。
 高揚するクルーとは裏腹に夕食を終えたセシリアは少し疲れていた。士官学校の模擬戦を除いては初めての戦闘指揮で、敗れれば自分の評価だけではなくクルーの命を危険にさらすという緊張感はそれなりの心労だった。しかし初仕事を済ませた達成感もあり、疲労と高揚感とがないまぜになった複雑な状態でいる。
 セシリアの勇気ある決断に高揚したクルーの中にはとっておきのボトルキープを開けたいという声もあったが、シリウスに入港するまで追手がかかっている可能性もあるので厳しく制限し、代わりに入港した際には各員168時間の自由時間と船外での宴席を設けることを約束した。
7日というと長い気もするが、今回の兵役でどのように展開するか分からないこと、本格的な戦闘に向けて装備の改修と調整にかかる時間を考えれば妥当に思う。

 ココアを飲み終えたセシリアはその後の船の航行を当直のクルーに任せて休むことにした。
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