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作者: Ganndamu00
21話:敵地侵入①
「当たり前の話だが、要塞都市に侵入出来たとしても隠密行動でシャルトルーズを救出するのは不可能だ、この都市が世界封鎖機構の領域である以上、あたしらの動きは丸見えだろうよ、突っ込んだ時点で正面から撃ち合う想定をしていた方が良い」
「ですが、そうなると世界封鎖機構の思うツボでは……」
「そうだな、だから一層派手に暴れて目を惹き付けてやる」
「……?」


 そんな疑問を孕んだ問い掛けに、薄らとした笑みを浮かべながら頷きを返した。
 ややあって、何かを考え込んでいたラスティは指を鳴らし、瞳を向けた。暗闇の中で、ラスティの眼光が煌めく。

「――陽動作戦?」
「正解だ」
「ど、どういう事?」
「成程……そもそも、私達の目的は世界封鎖機構を倒す事でも、護衛を倒す事でもありません、シャルトルーズを救出することですからね」
「主戦力の部隊が目立つ様に行動して、救出部隊が迂回してシャルトルーズを確保する……」
「……あぁ! 二手に分かれて行動するって訳?」
「そうだ、あたしら戦闘部門が真正面から突っ込んで騒ぎを起こしてやる、そうしたら世界封鎖機構も、こっちの相手をせざるを得ないだろう? その間にリーダーがシャルトルーズを救出しろ、有象無象のゴーレム程度なら問題ねぇだろうし――どうだ、簡単な話だろう?」
「で、でも、実際に可能なの? こんな要塞都市って呼ばれる位の戦力を、戦闘部門だけで――」
「あぁ? あたし達を誰だと思っていやがる」


 戦闘部門単独による敵勢力の誘因、確かに単純な戦力で云えば、慈善活動組織アーキバスの中で戦闘部門に所属する者達が最も囮役として優れている事は誰の目から見ても明らかである。しかし、件の世界封鎖機能の魔導士部隊に加え要塞都市の内部防衛戦力を一手に引き受けるというのは――中々どうしてリスキーな話にも聞こえた。

「了解」

 彼女達に迷いはない、そこには戦闘部門に対する信頼と、自分達ならば可能であるという自信に満ちた力強い煌めきがあった。
 敵は確かに脅威である、しかし単独ではない、戦闘部門全体として動くのであれば勝ちをもぎ取る可能性は十分にある。

 元より戦闘部門とはチームで動く事により、その戦闘能力を十全に発揮する存在。戦闘部門のNo.1の戦闘能力が最強である事に疑いはない、しかし戦闘部門総員が揃った上ならば――その更に上を行けると信じている。

「決まりですね、正面は私達――戦闘部門が担当致します」
「ふむ、ならば後方から潜入するのはラスティとエクシアとデュナメス」
「諜報防諜部門は遠隔で支援するよ、防衛システムのクラックには人手が必要だからね」
「任せて下さい、完璧にやり遂げて見せます」

 各々の役割が定まり全員が頷きを返す。ラスティは部屋の中に居る仲間達の顔を眺めると、不意に力強く自身の頬を張った。僅かな痛みと衝撃、しかしそれ以上に精神が研ぎ澄まされて行くような感覚。大きく息を吸い込み、吐き出す。
 不安はあった、けれどそれ以上に勇気が勝った。

「これは世界を救う戦いではない。私の家族を救う戦いであり、またシャルトルーズという一人の個人を救う戦いだ。慈善活動組織アーキバスの理念は純粋な人助け。危険だからと封印処置されようとしている女の子を助けるために我々は立ち上がる! みんな、よろしく頼む!」


 彼は魔装ゴーレムギアを手に取り、頭を下げる。
 此処にシャルトルーズ奪還計画――要塞都市リッチドラム攻略作戦が決定された。



「此処が要塞都市リッチドラム」
「厳密に云えば、その搬入口ね」
「ともあれ、漸く到着だな」

 停車した物流輸送用の無人列車、そのコンテナの中から顔を覗かせたラスティ、エクシア、デュナメスは周囲を見渡しながら声を上げる。
 諜報防諜部門が要塞都市リッチドラムへと続く路線を割り出し、秘密裏に運搬されるコンテナへと紛れ込んだ彼女達は無事、リッチドラム地下内部へと侵入を果たしていた。

 その規模の大きさから凡そ予想はしていたが運用されている無人列車は多く、搬入口となるステーションは積み荷を降ろし集積するドローンやクレーンの類が絶え間なく稼働しており、周囲には駆動音と金属同士が擦れ合う様な音、列車が発進、停車する音が常に響き渡っていた。

 一行はその隙間を縫いながら、地上へと通じているであろう通路に足を進める。物珍しそうに辺りを見回すラスティ達とは反対に、諜報防諜部門の面々は手慣れた様子で通信を開いた。

「良し、予定通り現場に到着した。問題なし、警報の類はどうかな?」
『大丈夫、全部黙らせてあるから……それより列車運行に問題はなかった?』
「はい、流石だね。凄く快適だった」
「うん、特に問題なし」
『そっか、ぶっつけ本番だったけれど上手くいったみたいだね』

 当然の話ではあるが、無人列車にも警報や探知機の類は存在しており、彼女達の『混入』を悟らせないようにする必要があった。その為、諜報防諜部門はアラートを抑える役割を担っており、今回の隠密行動の成否は彼女達の手腕に掛かっていると云っても過言ではない。

 

「少し薄暗いな」
「この辺りは人の手による管理を想定していないのね、光も非常灯の類しか設置されていないみたい」
「或いは、まだ建設途中なのかもしれないな」
「防衛設備とか、インフラ、コア部分の建設が終わっているのなら、最低限機能はするだろうし……」

 廊下の片隅に固まった隠密侵入組は薄暗い地下通路、その先に目を凝らす。剥き出しのパイプや配線が所々垣間見え、時折小型の円型ロボットがふよふよと宙を舞い、それらをプレートで覆い、溶接しているのが見えた。左右に設置された微かな明かりを放つ非常灯が等間隔で通路を照らしており、遥か奥まで光は続いている。周囲に人の姿は見えない、予想通り要塞都市はゴーレムやドロイドの類で完結しているらしい。

「ねぇ、あそこに居る、何か小さいゴーレムとかは見つかっても大丈夫なの?」
『アレは整備、メンテナンス作業用のゴーレムだから大丈夫、通報システムとか、警報の類は搭載していない、ただ気を付けてね、その通路の先――地上に出たらもう都市内部に入るから、そうなったら警備ゴーレムも出て来ると思う』
『一応、こっちでも常にモニタリングしているから、何かあったら直ぐに伝えるよ!』
『ですが此方では拾えない何かが現れるかもしれません、警戒は怠らず、御注意を』
「了解」

 諜報防諜部門からの通信に頷きながら拳を握る一行。ラスティは持ち込んでいた端末の画面を操作すると、表示される時刻を確認した。此処への到着時間は凡そ予想通り、後は作戦開始の合図を待つだけ。
 端末を片手に振り返ったラスティは、全員を見渡しながら口を開く。

「時間的に余裕はある、私達は一度此処で待機ど、戦闘部門が暴れたら騒ぎに乗じて行動を――」
『――待って』

 戦闘部門からの合図を待つ旨を皆に伝えようとして、しかしそれよりも早くオペレーターが鋭い口調で声を上げた。

『早速反応がありました、数は三!』
『気を付けて! 何か来る!』

 ラスティ達が慌てて通路に目を向ければ、何やらメンテナンスゴーレムよりも大柄な、地上を走行する影が見えた。薄暗い通路を突っ切り、此方へと近付いて来る稼働音。照らされた外装と左右に設置された銃口を目にした瞬間、ラスティは目を瞬かせながら感心した様な声を上げた。

「おや、中々素敵な子だね、迷子かな?」
「見た事ないタイプね……確かにミッドガルでは珍しい――」
「冗談言ってる場合じゃねーぜ、二人とも」

 見覚えのあったデュナメスは思わず身を震わせ、慌てて叫ぶ。姿を現したのは世界封鎖機構の魔導士達だ。


「もしかして、もうバレのか!?」
「作戦開始前に、ゲームオーバー!?」

 ラスティが焦燥を滲ませて悲鳴染みた声を上げれば、端末の中では諜報防諜部門がコンソールを叩きながら首を横に振った。

『大丈夫! こっちで周辺ネットワークは制圧してあるから!』

 既にこの辺りに対しては対策済み、戦闘が発生しても問題ない様に準備を済ませていた。

『地下のゴーレムはリンクを切断して孤立させた、欺瞞措置でネットワーク上では何の問題もなく稼働している様に見えるけれど、今なら破壊してしまっても問題ないよ』
『本当なら、乗っ取ってしまうのが一番良いのですが……流石に、其処まで許してくれる手合いではなさそうです』

 画面を一瞥し、そう口にする。ともあれ、作戦が開始前に頓挫という事はなさそうで、侵入者一行の面々は露骨に胸を撫でおろす。

「ふむ、悪くない走り出しだ、なら今の内に対処してしまおう」
「なるべく、派手な攻撃はしない方が良いわよね」
「そうだね、騒ぎは戦闘部門に起こして貰わないと、戦闘の際は周囲に配慮して戦うとしよう」
「分かりました!」
「りょ、了解です……!」
「よっしゃ、行くぜ」

 撃破しても悟られないとは云え、物理的な光や音ばかりはどうしようもない。故に派手さは控えめ、なるべく静かに、手早く処理する必要がある。
 開戦の合図は魔装ゴーレムギアから放たれた魔力レーザーによる甲高い音だった。

『コードE3、攻撃を受けている増援を!』
『通信が……電波妨害か!』
『仕方ない、我々で対処するぞ』
『了解』

 世界封鎖機構の魔導士達が戦闘モードに入る。
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