残酷な描写あり
デートしちゃいけないですか⁈ ②
奄美の珊瑚礁のエリアに着いた。色とりどりの魚たちと美しい珊瑚礁が私たちをお出迎えしてくれていた。
「わー! 今日もカラフルだねえ。美優羽ちゃん」
奏お姉ちゃんは水槽を見ながら明るい声いろをして言った。確かにとてもカラフルだ。私が普段見る魚は灰色や黒、あっても赤くらいなもの。まあ、食べる用だからそりゃそうだが。
一方でここの魚たちは、青や黄色の模様の入ったもの、赤と言っても色鮮やかだったり、オレンジに近かったりと非常にカラフルだ。同じ魚だとはとても思えない。南の方に離れていくだけで、ここまで生態系が変わるもんなんだなあと、私は自然の凄さに感心していた。
「そうね。いつもの鮮魚コーナーで見る魚とは全然違うわ」
「食べろって言われても、ちょっと無理だよねえ」
奏お姉ちゃんは少し残念そうな表情をしている。
「そうねぇ……。私は遠慮したいなあ」
奏お姉ちゃんの言う通り、食べろと言われてもちょっときついものがある。奄美地方の人達はこの魚を一体どうやって食べているのだろうか。私は少しだけ気になった。
珊瑚礁の水槽のゾーンを見終わり、右の方へ少し進むと今度はクラゲの展示がされていた。大きいものから小ささなものまで、様々なのがプカプカと泳いでいる。クラゲにはこれまたカラフルなスポットライトが当てられ、赤から青、青から黄色と言うようにいろんな色に変化している。
かわいいとは思わないが、ずーっと見ているとのんびりとしていて癒されそうだ。奏お姉ちゃんは少し放心したような感じでボケーっとしながら見ている。これは気に入っているのだろうか? それともただ見つめているだけだろうか?
「お姉ちゃん。ぼーっとしてどうしたの?」
私がそう聞いてみると、
「あっ、ちょっと見入ちゃってた」
少しびっくりしながら答えた。
「見入っちゃうって、そんなに気に入ったの?」
「うーん、なんだろう。かわいいとは思わないんだけど、見てると心が落ち着くような感じがするんだ」
奏お姉ちゃんは不思議そうな表情をしていた。
「私もそうかも」
「美優羽ちゃんも? やっぱりそうなるよね⁉︎」
同じような感想が嬉しかったのか、目を少しだけ大きく開いて興奮気味に私の手を右ってきた。
奏お姉ちゃんに今手を握られてる。柔らかなおててでぎゅっと包まれるように握られている。私の手は今天国に居る。間違いない。こんな風に握ってなんて普段は言えないし、してもらえない。なんというご褒美なんだろうか。同じような感じ方をしていて良かった! 双子で良かった! 私は心からそう思った。
「うっ、う、うん。ふよふよ浮いてるから落ち着くよね」
熱った心を必死にクールダウンさせながら、なんとか平静を装い答える。
「うんっ。わかるっ。やっぱりそう言う所は双子だよねえ。わかってもらえて良かった」
そう言うと、奏お姉ちゃんは手を離した。あぁ。もっと味わっていたかったが、贅沢は言えない。さっきの瞬間を堪能していよう。いや、もしかしたらまたチャンスがあるかもしれない。今日は何故だかそんな気がする。そんな都合のいい妄想をしながら、私はそっと手をさすった。
「そうね。双子だからね」
「うん。私と美優羽ちゃんは以心伝心だねっ」
奏お姉ちゃんはふんと鼻を得意げに鳴らしていた。まあ完全にそうではないけど、双子だから近しいものはあるだろう。現に好きなものとかは一緒だしね。そんなことを考えながら、私はうんと首を縦に頷いた。
ショーの時間が近づいてきたので、私達はショーが行われるステージへと向かった。私が狙っていた通り、前の席は埋まっていて中段はちょうどいい感じに空いていた。どこにでも座りたい放題という感じだ。なので、一番全体が見れるであろう、丁度真ん中の席に座ることにした。
「ショー、楽しみだねぇ」
奏お姉ちゃんは左隣のこっちを見ながら軽く微笑み、ウキウキしたような感じで言った。本当に楽しみなんだろうなあと感じる。上機嫌に有名な曲をハミングしながらステージを見ているし、足を前後にずっとリズミカルにプラプラしている。こんな奏お姉ちゃんは滅多に見れない。一言で言うならかわいい。超かわいい。いや、かわいいを超越した何かだ。そうに違いない。私のハートはまたしても熱くなっていく。
この様子、動画に収めるべきだろうか? 動画に収めればいつでも見返せる。こんな奏お姉ちゃんはそうそう見れないんだ。レアキャラなんだ。だから、この様子を収めたい。でも、カメラを向けたら流石に気付きそうだ。気付いたらやめてしまいそうだし、恥ずかしそうにするかも。それもかわいい。そういうのも見たい。見たすぎる。けど、何か言われるかもしれない。それで嫌われたら……。あー、やめておこう。この様子は心に刻んでおこう。
私は動画にするのをやめることにした。代わりに奏お姉ちゃんに気付かれない程度に見ながら、この様子を記憶のメモリーの限界まで焼き付けるようにした。
そんなことをしていると、いよいよ開演の時が来た。オーワールドのショーはアシカのショーからイルカのショーという順番になっている。なので、まずはアシカのショーからスタートだ。
軽快な音楽とともに、ステージの左端から2頭のアシカがエサを貰いながら、トレーナーのお兄さんとお姉さんに連れられて、ステージ中央に向かってくる。ちょっと距離はあるが、アシカはそこそこ大きく見える。
ステージの中央に来て台の上に乗ると、お兄さんとお姉さんと一緒にペコリとお辞儀をした。これはかわいい。小さい子ならまだしも、人間がお辞儀をしたところであまり響かないが、動物がお辞儀をするとこうもかわいいもんなんだなあと感じた。
隣の奏お姉ちゃんは「キャー!」と歓声をあげている。思っていた通りだ。アシカでこれなら、イルカだとどうなるんだろうか? 私はふと疑問に思った。感動しすぎて何も声をあげないとか、そんな感じになるのかな。
それはその時のお楽しみにしておいて、ショーを楽しもう。奏お姉ちゃんの反応を見るのは楽しいけど、そればっかり追っていてもしょうがない。だって、奏お姉ちゃんに感想聞かれて困ってしまったら会話に詰まるなんてもんじゃないしね。我慢して私は目線をステージへと戻した。
トレーナーさんの二人が挨拶をしながら、アシカの自己紹介をしてくれた。右側にいるのがリリちゃんで左側にいるのがパールちゃんと言うらしい。ちょっと遠いので見分けがつきにくいが、ガンガン動くわけでもなさそうだし、覚えないといけないわけではないから、右がリリちゃん、左がパールちゃんで覚えておこう。
「それじゃあ、今日はアシカ達の運動会をやっていきたいと思いまーす!」
お姉さんは大きな声で言う。アシカの運動会? 一体どんなことをやるんだろうか。走り回らせるわけにはいかないだろうし、その場でできる芸なんだろうけどどんなものなんだろうか。楽しみになってきた。
「じゃあ、まずは準備体操をやっていきたいと思いまーす。それじゃあ、身体を前に倒して。いちにーさんっし、ごーろくしちはち……」
お姉さんの掛け声に合わせてリリちゃんとパールちゃんはトレーナーさんの動きに合わせて、身体を前に倒す。そこから、リリちゃんとパールちゃんは身体を捻ったり、胸鰭を上にあげたり下げたりと動いていく。これは確かに準備体操だ。私は感心しながら2頭の動きを見ていた。
準備体操が終わると、いよいよ運動会へと移っていく。最初は旗揚げをするそうだ。
旗揚げ……? アシカの胸鰭じゃ旗は持てないぞと思っていると、旗を持たずに胸鰭をトレーナーさんの動きに合わせるそうだ。まあ、そうじゃないと出来ないよね。私は一安心した。
まずはパールちゃんの番だ。館内のスピーカーから指示が飛んできた。
「右上げて。右下げて。左上げないで右上げて。右下げて。右上げないで左上げて」
トレーナーのお兄さんが手を上げたり下げたりするのに合わせて、胸鰭を上げ下げする。指示通りに動けている。これはクリアだろう。観客から拍手が湧き上がる。私もそれに合わせて拍手を送った。
次にリリちゃんの番だ。再びスピーカーから指示が飛ぶ。
「右上げて、そのままキープ。その場で回って、飛び跳ねて」
回って? 飛んで? そんな動きが出来るの⁈ そんなことを一瞬期待したが、流石に無理なようで、トレーナーのお姉さんが物言いをつけていた。
「ちょっと待ってください! 明らかに難しいですし、こんな動きできませんって」
「いやいや。指示は指示ですから、この勝負はパールちゃんの勝ちです!」
「そんなー!」
お兄さんはお姉さんの言うことを押し切ってしまった。なんだこのやりとりは……。滅茶苦茶すぎる。奏お姉ちゃんはどう見てるのかなあと思い、チラッと隣を見てみると、楽しそうに微笑んでいた。まあ、奏お姉ちゃんが楽しんでいるならいっか。私はそう納得した。
次の勝負は玉入れ。お姉さんがバスケットボールを持ってきて、リリちゃんにそっと下から投げる。すると、リリちゃんは鼻先にボールをいとも簡単に乗せてみた。それを見てお姉さんは大きな虫取り網を用意する。リリちゃんはそれに合わせて、鼻先でボールを投げる。投げられたボールは見事網の中に入った。
これは凄い。観客からはおーっという歓声が湧き、大きな拍手をしていた。奏お姉ちゃんも嬉しそうに大きく拍手をしている。
さて、今度はパールちゃんの番。お兄さんはボールを受け取るとステージ脇に行く。そしてなんと、ボールを一回り小さいサイズに入れ替えたのだ。入れ替えたボールをそっと下から投げると、パールちゃんはリリちゃんと同じように受け取り、しっかりと網の中に入れてのけた。
「ちょっと! リリちゃんの時のボールじゃないですよ!」
お姉さんは流石に声を張って講義する。しかし、お兄さんは意に介する様子がまるでない。
「いえいえ。ボールは網に入ったんですから引き分けですよ」
このお兄さん、ちょっとせこい気もするがこれもショーだからだろう。これはこう言うものだと思って楽しもう。隣の奏お姉ちゃんもうふふと楽しそうにしている。それでいいんだ。それで。
最後はダンスだ。ダンスは最近流行っているアニメの爽やかなオープニング曲に合わせて、アシカ達が踊る。トレーナーさんの動きに合わせて胸鰭を上げたり下げたり、後ろを向いたりそれからこっちを振り返ったりと様々な動きで楽しませてくれた。観客からの拍手がアシカの2頭とトレーナーさん達に絶え間なく送られていた。
「さて、お兄さん。今日の勝負はどうしましょうか?」
「どっちも頑張ったので、引き分けでいいんじゃないですか?」
そう言うことで勝負は引き分けとなった。まあ露骨に勝ち負けつけるものじゃないからそうなるよね。私はそう思った。
引き分けということで、パールちゃんリリちゃんどちらにもトロフィーが渡されるそうだ。トレーナーさんからトロフィーが渡されると、鼻先で受け取り、そのままの姿勢をキープしている。
「さあシャッターチャンスです! みなさん今のうちにどうぞ!」
お姉さんがそう案内する。カシャ、カシャとスマホのシャッター音があちこちから聞こえてくる。せっかくだし一枚撮っておこう。楽しかったしね。そう思いながら、私はトロフィーを鼻先で掲げるパールちゃんとリリちゃんをスマホの写真に納めた。
シャッターチャンスが終わると、アシカのショーが終わった。2頭はトレーナーさんについていくようにステージを去っていった。
「わー! 今日もカラフルだねえ。美優羽ちゃん」
奏お姉ちゃんは水槽を見ながら明るい声いろをして言った。確かにとてもカラフルだ。私が普段見る魚は灰色や黒、あっても赤くらいなもの。まあ、食べる用だからそりゃそうだが。
一方でここの魚たちは、青や黄色の模様の入ったもの、赤と言っても色鮮やかだったり、オレンジに近かったりと非常にカラフルだ。同じ魚だとはとても思えない。南の方に離れていくだけで、ここまで生態系が変わるもんなんだなあと、私は自然の凄さに感心していた。
「そうね。いつもの鮮魚コーナーで見る魚とは全然違うわ」
「食べろって言われても、ちょっと無理だよねえ」
奏お姉ちゃんは少し残念そうな表情をしている。
「そうねぇ……。私は遠慮したいなあ」
奏お姉ちゃんの言う通り、食べろと言われてもちょっときついものがある。奄美地方の人達はこの魚を一体どうやって食べているのだろうか。私は少しだけ気になった。
珊瑚礁の水槽のゾーンを見終わり、右の方へ少し進むと今度はクラゲの展示がされていた。大きいものから小ささなものまで、様々なのがプカプカと泳いでいる。クラゲにはこれまたカラフルなスポットライトが当てられ、赤から青、青から黄色と言うようにいろんな色に変化している。
かわいいとは思わないが、ずーっと見ているとのんびりとしていて癒されそうだ。奏お姉ちゃんは少し放心したような感じでボケーっとしながら見ている。これは気に入っているのだろうか? それともただ見つめているだけだろうか?
「お姉ちゃん。ぼーっとしてどうしたの?」
私がそう聞いてみると、
「あっ、ちょっと見入ちゃってた」
少しびっくりしながら答えた。
「見入っちゃうって、そんなに気に入ったの?」
「うーん、なんだろう。かわいいとは思わないんだけど、見てると心が落ち着くような感じがするんだ」
奏お姉ちゃんは不思議そうな表情をしていた。
「私もそうかも」
「美優羽ちゃんも? やっぱりそうなるよね⁉︎」
同じような感想が嬉しかったのか、目を少しだけ大きく開いて興奮気味に私の手を右ってきた。
奏お姉ちゃんに今手を握られてる。柔らかなおててでぎゅっと包まれるように握られている。私の手は今天国に居る。間違いない。こんな風に握ってなんて普段は言えないし、してもらえない。なんというご褒美なんだろうか。同じような感じ方をしていて良かった! 双子で良かった! 私は心からそう思った。
「うっ、う、うん。ふよふよ浮いてるから落ち着くよね」
熱った心を必死にクールダウンさせながら、なんとか平静を装い答える。
「うんっ。わかるっ。やっぱりそう言う所は双子だよねえ。わかってもらえて良かった」
そう言うと、奏お姉ちゃんは手を離した。あぁ。もっと味わっていたかったが、贅沢は言えない。さっきの瞬間を堪能していよう。いや、もしかしたらまたチャンスがあるかもしれない。今日は何故だかそんな気がする。そんな都合のいい妄想をしながら、私はそっと手をさすった。
「そうね。双子だからね」
「うん。私と美優羽ちゃんは以心伝心だねっ」
奏お姉ちゃんはふんと鼻を得意げに鳴らしていた。まあ完全にそうではないけど、双子だから近しいものはあるだろう。現に好きなものとかは一緒だしね。そんなことを考えながら、私はうんと首を縦に頷いた。
ショーの時間が近づいてきたので、私達はショーが行われるステージへと向かった。私が狙っていた通り、前の席は埋まっていて中段はちょうどいい感じに空いていた。どこにでも座りたい放題という感じだ。なので、一番全体が見れるであろう、丁度真ん中の席に座ることにした。
「ショー、楽しみだねぇ」
奏お姉ちゃんは左隣のこっちを見ながら軽く微笑み、ウキウキしたような感じで言った。本当に楽しみなんだろうなあと感じる。上機嫌に有名な曲をハミングしながらステージを見ているし、足を前後にずっとリズミカルにプラプラしている。こんな奏お姉ちゃんは滅多に見れない。一言で言うならかわいい。超かわいい。いや、かわいいを超越した何かだ。そうに違いない。私のハートはまたしても熱くなっていく。
この様子、動画に収めるべきだろうか? 動画に収めればいつでも見返せる。こんな奏お姉ちゃんはそうそう見れないんだ。レアキャラなんだ。だから、この様子を収めたい。でも、カメラを向けたら流石に気付きそうだ。気付いたらやめてしまいそうだし、恥ずかしそうにするかも。それもかわいい。そういうのも見たい。見たすぎる。けど、何か言われるかもしれない。それで嫌われたら……。あー、やめておこう。この様子は心に刻んでおこう。
私は動画にするのをやめることにした。代わりに奏お姉ちゃんに気付かれない程度に見ながら、この様子を記憶のメモリーの限界まで焼き付けるようにした。
そんなことをしていると、いよいよ開演の時が来た。オーワールドのショーはアシカのショーからイルカのショーという順番になっている。なので、まずはアシカのショーからスタートだ。
軽快な音楽とともに、ステージの左端から2頭のアシカがエサを貰いながら、トレーナーのお兄さんとお姉さんに連れられて、ステージ中央に向かってくる。ちょっと距離はあるが、アシカはそこそこ大きく見える。
ステージの中央に来て台の上に乗ると、お兄さんとお姉さんと一緒にペコリとお辞儀をした。これはかわいい。小さい子ならまだしも、人間がお辞儀をしたところであまり響かないが、動物がお辞儀をするとこうもかわいいもんなんだなあと感じた。
隣の奏お姉ちゃんは「キャー!」と歓声をあげている。思っていた通りだ。アシカでこれなら、イルカだとどうなるんだろうか? 私はふと疑問に思った。感動しすぎて何も声をあげないとか、そんな感じになるのかな。
それはその時のお楽しみにしておいて、ショーを楽しもう。奏お姉ちゃんの反応を見るのは楽しいけど、そればっかり追っていてもしょうがない。だって、奏お姉ちゃんに感想聞かれて困ってしまったら会話に詰まるなんてもんじゃないしね。我慢して私は目線をステージへと戻した。
トレーナーさんの二人が挨拶をしながら、アシカの自己紹介をしてくれた。右側にいるのがリリちゃんで左側にいるのがパールちゃんと言うらしい。ちょっと遠いので見分けがつきにくいが、ガンガン動くわけでもなさそうだし、覚えないといけないわけではないから、右がリリちゃん、左がパールちゃんで覚えておこう。
「それじゃあ、今日はアシカ達の運動会をやっていきたいと思いまーす!」
お姉さんは大きな声で言う。アシカの運動会? 一体どんなことをやるんだろうか。走り回らせるわけにはいかないだろうし、その場でできる芸なんだろうけどどんなものなんだろうか。楽しみになってきた。
「じゃあ、まずは準備体操をやっていきたいと思いまーす。それじゃあ、身体を前に倒して。いちにーさんっし、ごーろくしちはち……」
お姉さんの掛け声に合わせてリリちゃんとパールちゃんはトレーナーさんの動きに合わせて、身体を前に倒す。そこから、リリちゃんとパールちゃんは身体を捻ったり、胸鰭を上にあげたり下げたりと動いていく。これは確かに準備体操だ。私は感心しながら2頭の動きを見ていた。
準備体操が終わると、いよいよ運動会へと移っていく。最初は旗揚げをするそうだ。
旗揚げ……? アシカの胸鰭じゃ旗は持てないぞと思っていると、旗を持たずに胸鰭をトレーナーさんの動きに合わせるそうだ。まあ、そうじゃないと出来ないよね。私は一安心した。
まずはパールちゃんの番だ。館内のスピーカーから指示が飛んできた。
「右上げて。右下げて。左上げないで右上げて。右下げて。右上げないで左上げて」
トレーナーのお兄さんが手を上げたり下げたりするのに合わせて、胸鰭を上げ下げする。指示通りに動けている。これはクリアだろう。観客から拍手が湧き上がる。私もそれに合わせて拍手を送った。
次にリリちゃんの番だ。再びスピーカーから指示が飛ぶ。
「右上げて、そのままキープ。その場で回って、飛び跳ねて」
回って? 飛んで? そんな動きが出来るの⁈ そんなことを一瞬期待したが、流石に無理なようで、トレーナーのお姉さんが物言いをつけていた。
「ちょっと待ってください! 明らかに難しいですし、こんな動きできませんって」
「いやいや。指示は指示ですから、この勝負はパールちゃんの勝ちです!」
「そんなー!」
お兄さんはお姉さんの言うことを押し切ってしまった。なんだこのやりとりは……。滅茶苦茶すぎる。奏お姉ちゃんはどう見てるのかなあと思い、チラッと隣を見てみると、楽しそうに微笑んでいた。まあ、奏お姉ちゃんが楽しんでいるならいっか。私はそう納得した。
次の勝負は玉入れ。お姉さんがバスケットボールを持ってきて、リリちゃんにそっと下から投げる。すると、リリちゃんは鼻先にボールをいとも簡単に乗せてみた。それを見てお姉さんは大きな虫取り網を用意する。リリちゃんはそれに合わせて、鼻先でボールを投げる。投げられたボールは見事網の中に入った。
これは凄い。観客からはおーっという歓声が湧き、大きな拍手をしていた。奏お姉ちゃんも嬉しそうに大きく拍手をしている。
さて、今度はパールちゃんの番。お兄さんはボールを受け取るとステージ脇に行く。そしてなんと、ボールを一回り小さいサイズに入れ替えたのだ。入れ替えたボールをそっと下から投げると、パールちゃんはリリちゃんと同じように受け取り、しっかりと網の中に入れてのけた。
「ちょっと! リリちゃんの時のボールじゃないですよ!」
お姉さんは流石に声を張って講義する。しかし、お兄さんは意に介する様子がまるでない。
「いえいえ。ボールは網に入ったんですから引き分けですよ」
このお兄さん、ちょっとせこい気もするがこれもショーだからだろう。これはこう言うものだと思って楽しもう。隣の奏お姉ちゃんもうふふと楽しそうにしている。それでいいんだ。それで。
最後はダンスだ。ダンスは最近流行っているアニメの爽やかなオープニング曲に合わせて、アシカ達が踊る。トレーナーさんの動きに合わせて胸鰭を上げたり下げたり、後ろを向いたりそれからこっちを振り返ったりと様々な動きで楽しませてくれた。観客からの拍手がアシカの2頭とトレーナーさん達に絶え間なく送られていた。
「さて、お兄さん。今日の勝負はどうしましょうか?」
「どっちも頑張ったので、引き分けでいいんじゃないですか?」
そう言うことで勝負は引き分けとなった。まあ露骨に勝ち負けつけるものじゃないからそうなるよね。私はそう思った。
引き分けということで、パールちゃんリリちゃんどちらにもトロフィーが渡されるそうだ。トレーナーさんからトロフィーが渡されると、鼻先で受け取り、そのままの姿勢をキープしている。
「さあシャッターチャンスです! みなさん今のうちにどうぞ!」
お姉さんがそう案内する。カシャ、カシャとスマホのシャッター音があちこちから聞こえてくる。せっかくだし一枚撮っておこう。楽しかったしね。そう思いながら、私はトロフィーを鼻先で掲げるパールちゃんとリリちゃんをスマホの写真に納めた。
シャッターチャンスが終わると、アシカのショーが終わった。2頭はトレーナーさんについていくようにステージを去っていった。