残酷な描写あり
R-15
070 誕生祭
枕元に時刻石を出しっぱなしにしておいたので、ビスタークはそれを確認して二人を明るくなる前に起こした。リューナの言うとおり、明るくなり始める光の刻の直前くらいの時間に起こしてきたのだが、その起こし方が酷かった。まずフォスターに取り憑いて起き上がり、リューナを揺すって起こした後、帯でフォスターの頭を締め付けたのだ。
『おい、起きろ!』
「…………っ痛…………!」
大家族が寝ているので起こさないように声は咄嗟に抑えたが、大声で言いたい痛みだった。
「何しやがる!」
小声で文句を言った。
『何って起こしてやったんじゃねえか。おかげですぐ起きれただろ』
「それにしたってやり方があんだろ!」
「おはよう、フォスター。早く行こう!」
リューナは二人のやり取りは全く気にせず急かす。
「はあ……眠い……」
「後ろで寝てていいから、早く行こ!」
『寝てる間は俺が代わってやるからな』
珍しくリューナとビスタークが意気投合している。
「親父に代わるなら俺は起きなくてもよかったんじゃ……?」
『確かにそうだな』
「でも、気がついたら走ってたって状況は嫌じゃない?」
「あー、まあ確かに……」
起きてからずっと小さい声で話していたのだが、家族連れの奥さんを起こしてしまった。
「そろそろ朝か……」
「あっ、すみません、起こしちゃいましたか」
「いや、うちも早く起きてこの人数の支度をしなきゃならないからね。むしろ助かったよ。もう行くのかい?」
「はい」
「じゃあ戸締まりしとくから、こっちのことは気にしないで楽しんどいで」
「ありがとうございます」
そう言われ小屋を後にした。周りはまだ薄暗い。光の刻からだんだん明るくなり、次の空の刻に完全に明るくなる。通常、店が開く時間はさらに次の風の刻なのでまだ二刻ほど時間がある。盾を組み立て、リューナを前に乗らせた。
「じゃあフォスターは寝てていいよ。舵取りはお父さんにしてもらうから」
「眠れるかな……」
眠くはあるが、立ったまま眠れるものだろうか、と考えているうちに眠ってしまった。
フォスターが次に気がついたときには、目的地についていた。発酵神の町は白っぽい薄黄色に塗られた石造りの建物が並んでいる町だった。広い通りにまだ準備中の出店が並んでいた。どれだけ急いで来たのだろうか。
「盾の速度を上げて来ただろ……」
「そ、そんなことないよ?」
リューナの声が上擦っている。速度を上げたことに間違いはなさそうだ。盾が壊れてなければいいのだが。
「町が近かったんだよ、ねえ、お父さん?」
『そう、近かった近かった』
「……」
普段は仲が悪いくせに今日だけ結託したらしい。あきれてものが言えなかった。今ビスタークの帯はリューナが着けている。酒を飲むと言っていたがいつ交代するのだろうか。
「じゃあ早速!」
「……早速、宿の確保だな」
「えぇーっ?」
「だって祭だぞ。人がたくさんいるんだぞ。今日の宿が無くなったら困るだろ?」
「……それはそうだけど」
少しふてくされているリューナに提案する。
「ほら、あの辺始まったみたいだから、そこのを食べながら宿を探そう。店の人に宿の場所も聞きたいし」
「うん! 何があるかな?」
食べながらという言葉に機嫌を直すとリューナは楽しげにフォスターと一緒に歩き始めた。人が多いので警戒もしつつ、まずは朝食になるものを探す。
「あ、これはどうかな。パンに生ハムとオムレツが挟まってる」
「美味しそう!」
「じゃあ、すみません、これ二つください」
丸いパンを上下分かれるよう半分に切り、パンに合わせて丸い型で焼かれたオムレツと生ハムと葉野菜が挟んである。リューナが早速かぶりついているのを横目で見ながら店員に代金を渡しつつ聞いた。
「すみません、今日空いてそうな宿って心当たりないですか?」
「それなら神殿に行って聞いたほうが早いかもな。最悪神殿に泊めてもらえるし」
「神殿は何処ですか?」
「あそこに大きい建物があるだろ、あれだよ。町の中心だからこの道真っ直ぐ行くだけだよ」
「ありがとうございます」
会話をしている間にリューナは食べ終わっていた。
「美味しかった! オムレツにはお芋が入ってたよ。生ハムの塩気とちょうどいい感じ」
一緒に歩きながら笑顔で味の説明をしてくれた。フォスターもかぶりつく。
「お、ほんとだ。美味い」
「次は何がいいかなー。お肉かチーズの何かがいいな」
まだ俺食ってるのに、と思いつつ該当するものが売っているか探す。
「あ、牛串ってのがある。牛肉の串焼き」
「食べたい!」
「はいはい」
二本買って一本渡してやった。そういえばリューナはヨマリーにもらって食べていたが、自分も牛肉を食べたことがなかったな、と思ったのだ。最初のパンがまだ食べかけだったが肉のほうを食べてみる。
「お、美味い。食いごたえあるな」
「うん。私このお肉好き!」
「牛なんて見たこともないもんなあ」
アークルス半島に牛自体存在するのだろうか。そんなことを考えているうちに神殿へ着いた。中は人が多く、神官が忙しそうに働いている。誕生祭はそもそも宗教行事なので色々と仕事があるのだろう。どうしようかと中を見回していると神官の一人に声をかけられた。宿の紹介を頼むとキャンセルもあるかもしれないがほぼ満室だろう、とのことで神殿に泊めてもらえることになった。財布事情もそうだが、警備的にも神殿の方が自分たちにとって都合が良かった。部屋へ案内され、盾だけ置いて再度外へ出た。
「もう準備中の店はなさそうだな」
「じゃあ本格的に食べよう!」
フォスターの朝食としては先ほどのパンと串だけで充分だったのだが、リューナは物足りないようだ。色々と諦めて屋台の商品について説明して歩いた。チーズに肉を巻いて焼いた串焼き、色んな果物を切ってカップに入れてクリームと一緒に食べる甘味、野菜と肉と卵がたくさん挟んであるパン、小さい卵の揚げ串など別の通りの出店も満遍なく練り歩き色んなものを食べた。屋台の近くにはテーブルと椅子があちこちにあったのだが、ずっと歩きながら食べていた。空き食器は回収場所があった。全て木の器で屋台に貸し出しているらしく、受けとると即洗っていた。色々見て回り、気が付いたら既に昼は過ぎていた。
「あー、満足! おなかいっぱいになった!」
「そうか、良かったな」
出費に苦い顔をしながらフォスターは言った。後でまた反力石を売りに行かねばならない。
「じゃあ、約束通り、お父さんと交代するね」
『よっしゃー! 酒! 酒が飲めるぞ!』
リューナの言葉にビスタークが大喜びしている。フォスターは不穏なものを感じた。
「リューナ……本当にいいのか?」
「ほんとは嫌だけど……約束しちゃったし。ずっと飲みたいって言ってるの我慢させてるのもかわいそうだし」
リューナもフォスターと同じくビスタークを不憫に思っていたようだ。
「でもどうやって交代するんだ。一度寝ないとならないよな?」
一度忘却神の町で無理矢理身体を乗っ取られたこともあったが、身体だけでなく精神的な負担も大きいらしく、その時はビスタークももうしないと反省していたので流石にそれはやらないだろうと思った。
「眠くなってきたから一度神殿の部屋に戻って寝るよ。おなかいっぱいだし朝早かったから多分眠れると思う」
「じゃあ、一度戻るか」
神殿へ向かって歩きながらリューナが本音を明かす。
「嫌だけど、お父さんに乗っ取られてる間は攫われそうになっても返り討ちにしてくれると思うから、そういう意味では安心」
『それは任せとけ』
確かにそれはそうだなと思った。船の時のように不意に向こうが飛び出して来ても殴るか蹴るか投げ飛ばすか、そのくらいはしそうである。
神殿につくと礼拝堂に子どもたちが集まっていた。どうやらこれからパイプオルガンに合わせて合唱をするようだ。リューナにとってちょうど良い子守唄になりそうである。
「じゃあ、おやすみなさい」
「ん、おやすみ」
部屋に入るとヨマリーからもらった眼鏡を外し、帽子をとって髪をほどく。ベッドへ横になると眠かったのかリューナはすぐに寝てしまった。
『おい、起きろ!』
「…………っ痛…………!」
大家族が寝ているので起こさないように声は咄嗟に抑えたが、大声で言いたい痛みだった。
「何しやがる!」
小声で文句を言った。
『何って起こしてやったんじゃねえか。おかげですぐ起きれただろ』
「それにしたってやり方があんだろ!」
「おはよう、フォスター。早く行こう!」
リューナは二人のやり取りは全く気にせず急かす。
「はあ……眠い……」
「後ろで寝てていいから、早く行こ!」
『寝てる間は俺が代わってやるからな』
珍しくリューナとビスタークが意気投合している。
「親父に代わるなら俺は起きなくてもよかったんじゃ……?」
『確かにそうだな』
「でも、気がついたら走ってたって状況は嫌じゃない?」
「あー、まあ確かに……」
起きてからずっと小さい声で話していたのだが、家族連れの奥さんを起こしてしまった。
「そろそろ朝か……」
「あっ、すみません、起こしちゃいましたか」
「いや、うちも早く起きてこの人数の支度をしなきゃならないからね。むしろ助かったよ。もう行くのかい?」
「はい」
「じゃあ戸締まりしとくから、こっちのことは気にしないで楽しんどいで」
「ありがとうございます」
そう言われ小屋を後にした。周りはまだ薄暗い。光の刻からだんだん明るくなり、次の空の刻に完全に明るくなる。通常、店が開く時間はさらに次の風の刻なのでまだ二刻ほど時間がある。盾を組み立て、リューナを前に乗らせた。
「じゃあフォスターは寝てていいよ。舵取りはお父さんにしてもらうから」
「眠れるかな……」
眠くはあるが、立ったまま眠れるものだろうか、と考えているうちに眠ってしまった。
フォスターが次に気がついたときには、目的地についていた。発酵神の町は白っぽい薄黄色に塗られた石造りの建物が並んでいる町だった。広い通りにまだ準備中の出店が並んでいた。どれだけ急いで来たのだろうか。
「盾の速度を上げて来ただろ……」
「そ、そんなことないよ?」
リューナの声が上擦っている。速度を上げたことに間違いはなさそうだ。盾が壊れてなければいいのだが。
「町が近かったんだよ、ねえ、お父さん?」
『そう、近かった近かった』
「……」
普段は仲が悪いくせに今日だけ結託したらしい。あきれてものが言えなかった。今ビスタークの帯はリューナが着けている。酒を飲むと言っていたがいつ交代するのだろうか。
「じゃあ早速!」
「……早速、宿の確保だな」
「えぇーっ?」
「だって祭だぞ。人がたくさんいるんだぞ。今日の宿が無くなったら困るだろ?」
「……それはそうだけど」
少しふてくされているリューナに提案する。
「ほら、あの辺始まったみたいだから、そこのを食べながら宿を探そう。店の人に宿の場所も聞きたいし」
「うん! 何があるかな?」
食べながらという言葉に機嫌を直すとリューナは楽しげにフォスターと一緒に歩き始めた。人が多いので警戒もしつつ、まずは朝食になるものを探す。
「あ、これはどうかな。パンに生ハムとオムレツが挟まってる」
「美味しそう!」
「じゃあ、すみません、これ二つください」
丸いパンを上下分かれるよう半分に切り、パンに合わせて丸い型で焼かれたオムレツと生ハムと葉野菜が挟んである。リューナが早速かぶりついているのを横目で見ながら店員に代金を渡しつつ聞いた。
「すみません、今日空いてそうな宿って心当たりないですか?」
「それなら神殿に行って聞いたほうが早いかもな。最悪神殿に泊めてもらえるし」
「神殿は何処ですか?」
「あそこに大きい建物があるだろ、あれだよ。町の中心だからこの道真っ直ぐ行くだけだよ」
「ありがとうございます」
会話をしている間にリューナは食べ終わっていた。
「美味しかった! オムレツにはお芋が入ってたよ。生ハムの塩気とちょうどいい感じ」
一緒に歩きながら笑顔で味の説明をしてくれた。フォスターもかぶりつく。
「お、ほんとだ。美味い」
「次は何がいいかなー。お肉かチーズの何かがいいな」
まだ俺食ってるのに、と思いつつ該当するものが売っているか探す。
「あ、牛串ってのがある。牛肉の串焼き」
「食べたい!」
「はいはい」
二本買って一本渡してやった。そういえばリューナはヨマリーにもらって食べていたが、自分も牛肉を食べたことがなかったな、と思ったのだ。最初のパンがまだ食べかけだったが肉のほうを食べてみる。
「お、美味い。食いごたえあるな」
「うん。私このお肉好き!」
「牛なんて見たこともないもんなあ」
アークルス半島に牛自体存在するのだろうか。そんなことを考えているうちに神殿へ着いた。中は人が多く、神官が忙しそうに働いている。誕生祭はそもそも宗教行事なので色々と仕事があるのだろう。どうしようかと中を見回していると神官の一人に声をかけられた。宿の紹介を頼むとキャンセルもあるかもしれないがほぼ満室だろう、とのことで神殿に泊めてもらえることになった。財布事情もそうだが、警備的にも神殿の方が自分たちにとって都合が良かった。部屋へ案内され、盾だけ置いて再度外へ出た。
「もう準備中の店はなさそうだな」
「じゃあ本格的に食べよう!」
フォスターの朝食としては先ほどのパンと串だけで充分だったのだが、リューナは物足りないようだ。色々と諦めて屋台の商品について説明して歩いた。チーズに肉を巻いて焼いた串焼き、色んな果物を切ってカップに入れてクリームと一緒に食べる甘味、野菜と肉と卵がたくさん挟んであるパン、小さい卵の揚げ串など別の通りの出店も満遍なく練り歩き色んなものを食べた。屋台の近くにはテーブルと椅子があちこちにあったのだが、ずっと歩きながら食べていた。空き食器は回収場所があった。全て木の器で屋台に貸し出しているらしく、受けとると即洗っていた。色々見て回り、気が付いたら既に昼は過ぎていた。
「あー、満足! おなかいっぱいになった!」
「そうか、良かったな」
出費に苦い顔をしながらフォスターは言った。後でまた反力石を売りに行かねばならない。
「じゃあ、約束通り、お父さんと交代するね」
『よっしゃー! 酒! 酒が飲めるぞ!』
リューナの言葉にビスタークが大喜びしている。フォスターは不穏なものを感じた。
「リューナ……本当にいいのか?」
「ほんとは嫌だけど……約束しちゃったし。ずっと飲みたいって言ってるの我慢させてるのもかわいそうだし」
リューナもフォスターと同じくビスタークを不憫に思っていたようだ。
「でもどうやって交代するんだ。一度寝ないとならないよな?」
一度忘却神の町で無理矢理身体を乗っ取られたこともあったが、身体だけでなく精神的な負担も大きいらしく、その時はビスタークももうしないと反省していたので流石にそれはやらないだろうと思った。
「眠くなってきたから一度神殿の部屋に戻って寝るよ。おなかいっぱいだし朝早かったから多分眠れると思う」
「じゃあ、一度戻るか」
神殿へ向かって歩きながらリューナが本音を明かす。
「嫌だけど、お父さんに乗っ取られてる間は攫われそうになっても返り討ちにしてくれると思うから、そういう意味では安心」
『それは任せとけ』
確かにそれはそうだなと思った。船の時のように不意に向こうが飛び出して来ても殴るか蹴るか投げ飛ばすか、そのくらいはしそうである。
神殿につくと礼拝堂に子どもたちが集まっていた。どうやらこれからパイプオルガンに合わせて合唱をするようだ。リューナにとってちょうど良い子守唄になりそうである。
「じゃあ、おやすみなさい」
「ん、おやすみ」
部屋に入るとヨマリーからもらった眼鏡を外し、帽子をとって髪をほどく。ベッドへ横になると眠かったのかリューナはすぐに寝てしまった。