残酷な描写あり
R-15
119 夫婦
※今回は少しだけ性的な表現があります。苦手な方はご注意ください。
予定より二日遅れて眼神の町に到着した。まずは大きな食堂が併設されている宿を確保した。それから都ほど大きくはないにしろ旅の者が多い賑やかな町を散策する。相変わらずレリアの歩みは遅いが、体力をつけるためにも歩かせなければならない。
そこそこ歩いたところにあった神の石の店に入り、色々と物色した。レリアの健康面に何か役に立つものはないかと思いながら。
「ああ、これがいいな。ついでにこいつも」
ビスタークは買ってすぐにレリアへ渡した。
【何の神様の石?】
手話で聞いてきたので答えてやる。
「食神と命の大神の石だ。食欲がわくらしいぞ。長命石は知ってるだろ? お守りだ」
長命石はペンダントとして加工されていたので、ビスタークはすぐにレリアの首へかけてやった。食欲石は肩から下げている鞄へと仕舞う。食事の前に持って祈るのだそうだ。
「子どもの頃からその石持っておくべきだったんじゃねえか?」
そうすればレリアはここまで貧弱な体力ではなかったかもしれない。
【でも聞いたこともなかったから】
「まあ俺も知らなかったしな。健康だとそんなこと気にする機会がないからな」
レリアは筆談のために筆記用具を鞄から取り出した。
【それに町が炎の都のほうだと売り場に説明が書いてありました。闇の都から遠いから流通量も少なかったんだと思います】
「あー。それなら売ってても高かっただろうし、知らなくても仕方ないか」
レリアが思い出したように少し笑って文字を書き込んでいる。
【もしかしたらみんなが炎の都へ行ったらこの石を見つけて「レリアに持たせればよかった」って言うかもしれませんね】
「確かに。お前の家族なら言うだろうな」
【兄さんと姉さんがそう言ってるところが想像できます】
「……寂しいか?」
少し寂しそうに見えたので聞いてみた。レリアはふるふると首を振った。
【貴方がいるから大丈夫。ただ、いつもいる家族がいないのが変な感じなだけです】
「……それを、寂しいと言うんだ」
レリアが笑顔で言った言葉を否定した。レアフィールがいなくなったときの自分と重なったからだ。表情に出ていたのだろうか、レリアがビスタークと手を重ねながら筆談で伝えてくる。
【やっぱり貴方は人の気持ちに寄り添える優しい人です】
「……」
やはり地元に戻って少し休んだらすぐにストロワ達を追いかけようとビスタークは思った。
神の石の店を出た後、何度も世話になった神衛兵の訓練場まで行きレリアを紹介した。
「おー! 綺麗な嫁さんもらったなー!」
隊長のトーリッドをはじめ、他の神衛兵達も祝福してくれた。その中には以前ビスタークのせいで謹慎処分となった者達やトーリッドの息子と思われる者もいた。
「おかげさまで。ありがとうございます」
心の底から礼を言った。もう、トーリッドの息子を見ても複雑な感情は湧かなかった。自分の家族を見つけたことで吹っ切れたのだろうと思った。
皆が祝福してくれたのは良かったのだが、祝いと称して飲み会へ連れて行かれ神衛兵達がレリアに酒を勧めてくるのがとても困った。飲めないと言っているのに勧めないでほしい。向こうは善意で言っているのでよりたちが悪いのだ。必死に酔っ払い達からレリアを守った。
【大切な人たちなんですね】
宿へ戻ってからレリアが筆談でそう言ってきた。
「なんで、そう思った?」
特に何も言っていないのに何故わかるのか疑問に思って聞いた。レリアは笑顔で答える。
【貴方の表情が柔らかかったから。特に隊長さんに】
「……前から思ってたんだが……お前、もしかして俺の心が読めるのか?」
【読めませんよ。そうならこんなに悩んだりしません】
その言葉が引っ掛かった。
「悩みがあるのか? 俺のことで?」
レリアは目を逸らしている。
「何かあるなら言えよ」
そう言うと黙って俯いてしまった。
「おい……黙ってたらわからないだろ」
困ってしまいそう言うと、レリアは微笑んでごまかした。
「言いたくないなら聞かないが、出来れば溜め込まないで言ってくれよ」
頭を撫でてそう呼びかけた。
翌朝、レリアが落ち込んだ様子だったのでやはり何か悩んでいると思い、昨日の飲み会で何かあったのかと聞いてみた。しかしそうではないと言う。何か言いづらそうにしているので気にはなったが無理に聞かないでおいた。すると今度は何だか不満げな様子だ。
「……何かあるなら言えって言っただろ」
そうビスタークが言うとレリアは唇をきゅっと結ぶようにして身体をこわばらせた。相当言いにくいことのようだ。
「何か怒ってるのか?」
首を振る。
「何か俺に不満があるんだよな?」
少し考える時間を置いてから首を傾げるように頷く。ビスタークは自分を省みる。
「……すまん、わからん。俺の何が悪かった?」
レリアは紙と鉛筆で文字を書き始める。
【貴方が悪いわけではありません。私に魅力が無いのが悪いのです】
「は?」
意味がわからなかった。
「どういうことだ?」
レリアは目を合わせようとしない。素早く手話で何か言っていたが、ビスタークには何を言ったのかわからなかった。
「何て言ったんだ?」
何かを否定しているような動きなのはわかったが、具体的に何を否定しているのかまではわからない。
最近の自分の行動と言動を思い返す。しばらくの間考え込んで黙っているとレリアがビスタークの様子を覗き込んできた。
「あ」
その行動で思い出した。夜寝るときもレリアが同じ行動をしていたことに。
「もしかして……お前」
レリアと目を合わせる。
「俺が手を出さないから拗ねてるのか……?」
その言葉を聞いたレリアの顔がみるみるうちに赤くなっていく。これは間違いないな、と思った。実はまだ一度も抱いていないのだ。それで思い悩んでいたのか、自分に魅力が無いからと言ったのはそのせいか、と妻の気持ちに気付かなかったことを反省した。
「すまん、悪かった。ただ……あのな、俺はな……我慢してんだよ」
レリアはそれを聞いて目を丸くしている。おそらく思ってもみなかったのだろう。
「お前は折れそうなくらい細いし、すぐ気絶するだろ。抱いたら殺しそうで怖いんだよ」
殺しそうだと聞いたレリアが悲しそうな表情になっていくのを見ながらビスタークは話を続ける。
「だから、お前の体力がつくのを待ってるんだ」
真剣に目を合わせながらそう伝える。腹上死などされたら絶対に後悔する。絶対にそうなってはならない。
「お前の体力向上が最優先。ここは譲れない」
レリアが泣きそうな表情になっていたので優しく抱き寄せた。最近のレリアの体調は良いのだが、キナノスに言われたように反動でまた急な体調不良で何日も寝込むかもしれない。それもあって怖くて手を出せないでいた。
「頼むから、俺にお前を殺させないでくれ。大事にしたいんだ」
自分の胸の中で頷いたのを見て軽くキスをした後、耳元で囁く。
「少しずつ慣らしていくぞ。達するたびに気絶されちゃあ俺の心臓が持たないからな」
レリアの鼓動が早くなっているのがわかる。少しからかいたくなった。
「もう一泊するか。今日はどこにも出かけずにベッドで運動だな」
赤くなっていたレリアの顔がより赤くなった。良い匂いがする彼女の体をこのままベッドへ押し倒したい衝動を抑えながら自制心を必死に働かせ提案する。
「まずは朝飯を食いに行こう。しっかり食べて体力つけなきゃな」
とにかく体力をつけないことには愛し合えない。食欲石の効果も効いているのかまだよくわからない。毎食祈りを捧げて少しでも食べる量が増えればいいのだが、などと考えながら二人で食堂へと向かった。
そこそこ歩いたところにあった神の石の店に入り、色々と物色した。レリアの健康面に何か役に立つものはないかと思いながら。
「ああ、これがいいな。ついでにこいつも」
ビスタークは買ってすぐにレリアへ渡した。
【何の神様の石?】
手話で聞いてきたので答えてやる。
「食神と命の大神の石だ。食欲がわくらしいぞ。長命石は知ってるだろ? お守りだ」
長命石はペンダントとして加工されていたので、ビスタークはすぐにレリアの首へかけてやった。食欲石は肩から下げている鞄へと仕舞う。食事の前に持って祈るのだそうだ。
「子どもの頃からその石持っておくべきだったんじゃねえか?」
そうすればレリアはここまで貧弱な体力ではなかったかもしれない。
【でも聞いたこともなかったから】
「まあ俺も知らなかったしな。健康だとそんなこと気にする機会がないからな」
レリアは筆談のために筆記用具を鞄から取り出した。
【それに町が炎の都のほうだと売り場に説明が書いてありました。闇の都から遠いから流通量も少なかったんだと思います】
「あー。それなら売ってても高かっただろうし、知らなくても仕方ないか」
レリアが思い出したように少し笑って文字を書き込んでいる。
【もしかしたらみんなが炎の都へ行ったらこの石を見つけて「レリアに持たせればよかった」って言うかもしれませんね】
「確かに。お前の家族なら言うだろうな」
【兄さんと姉さんがそう言ってるところが想像できます】
「……寂しいか?」
少し寂しそうに見えたので聞いてみた。レリアはふるふると首を振った。
【貴方がいるから大丈夫。ただ、いつもいる家族がいないのが変な感じなだけです】
「……それを、寂しいと言うんだ」
レリアが笑顔で言った言葉を否定した。レアフィールがいなくなったときの自分と重なったからだ。表情に出ていたのだろうか、レリアがビスタークと手を重ねながら筆談で伝えてくる。
【やっぱり貴方は人の気持ちに寄り添える優しい人です】
「……」
やはり地元に戻って少し休んだらすぐにストロワ達を追いかけようとビスタークは思った。
神の石の店を出た後、何度も世話になった神衛兵の訓練場まで行きレリアを紹介した。
「おー! 綺麗な嫁さんもらったなー!」
隊長のトーリッドをはじめ、他の神衛兵達も祝福してくれた。その中には以前ビスタークのせいで謹慎処分となった者達やトーリッドの息子と思われる者もいた。
「おかげさまで。ありがとうございます」
心の底から礼を言った。もう、トーリッドの息子を見ても複雑な感情は湧かなかった。自分の家族を見つけたことで吹っ切れたのだろうと思った。
皆が祝福してくれたのは良かったのだが、祝いと称して飲み会へ連れて行かれ神衛兵達がレリアに酒を勧めてくるのがとても困った。飲めないと言っているのに勧めないでほしい。向こうは善意で言っているのでよりたちが悪いのだ。必死に酔っ払い達からレリアを守った。
【大切な人たちなんですね】
宿へ戻ってからレリアが筆談でそう言ってきた。
「なんで、そう思った?」
特に何も言っていないのに何故わかるのか疑問に思って聞いた。レリアは笑顔で答える。
【貴方の表情が柔らかかったから。特に隊長さんに】
「……前から思ってたんだが……お前、もしかして俺の心が読めるのか?」
【読めませんよ。そうならこんなに悩んだりしません】
その言葉が引っ掛かった。
「悩みがあるのか? 俺のことで?」
レリアは目を逸らしている。
「何かあるなら言えよ」
そう言うと黙って俯いてしまった。
「おい……黙ってたらわからないだろ」
困ってしまいそう言うと、レリアは微笑んでごまかした。
「言いたくないなら聞かないが、出来れば溜め込まないで言ってくれよ」
頭を撫でてそう呼びかけた。
翌朝、レリアが落ち込んだ様子だったのでやはり何か悩んでいると思い、昨日の飲み会で何かあったのかと聞いてみた。しかしそうではないと言う。何か言いづらそうにしているので気にはなったが無理に聞かないでおいた。すると今度は何だか不満げな様子だ。
「……何かあるなら言えって言っただろ」
そうビスタークが言うとレリアは唇をきゅっと結ぶようにして身体をこわばらせた。相当言いにくいことのようだ。
「何か怒ってるのか?」
首を振る。
「何か俺に不満があるんだよな?」
少し考える時間を置いてから首を傾げるように頷く。ビスタークは自分を省みる。
「……すまん、わからん。俺の何が悪かった?」
レリアは紙と鉛筆で文字を書き始める。
【貴方が悪いわけではありません。私に魅力が無いのが悪いのです】
「は?」
意味がわからなかった。
「どういうことだ?」
レリアは目を合わせようとしない。素早く手話で何か言っていたが、ビスタークには何を言ったのかわからなかった。
「何て言ったんだ?」
何かを否定しているような動きなのはわかったが、具体的に何を否定しているのかまではわからない。
最近の自分の行動と言動を思い返す。しばらくの間考え込んで黙っているとレリアがビスタークの様子を覗き込んできた。
「あ」
その行動で思い出した。夜寝るときもレリアが同じ行動をしていたことに。
「もしかして……お前」
レリアと目を合わせる。
「俺が手を出さないから拗ねてるのか……?」
その言葉を聞いたレリアの顔がみるみるうちに赤くなっていく。これは間違いないな、と思った。実はまだ一度も抱いていないのだ。それで思い悩んでいたのか、自分に魅力が無いからと言ったのはそのせいか、と妻の気持ちに気付かなかったことを反省した。
「すまん、悪かった。ただ……あのな、俺はな……我慢してんだよ」
レリアはそれを聞いて目を丸くしている。おそらく思ってもみなかったのだろう。
「お前は折れそうなくらい細いし、すぐ気絶するだろ。抱いたら殺しそうで怖いんだよ」
殺しそうだと聞いたレリアが悲しそうな表情になっていくのを見ながらビスタークは話を続ける。
「だから、お前の体力がつくのを待ってるんだ」
真剣に目を合わせながらそう伝える。腹上死などされたら絶対に後悔する。絶対にそうなってはならない。
「お前の体力向上が最優先。ここは譲れない」
レリアが泣きそうな表情になっていたので優しく抱き寄せた。最近のレリアの体調は良いのだが、キナノスに言われたように反動でまた急な体調不良で何日も寝込むかもしれない。それもあって怖くて手を出せないでいた。
「頼むから、俺にお前を殺させないでくれ。大事にしたいんだ」
自分の胸の中で頷いたのを見て軽くキスをした後、耳元で囁く。
「少しずつ慣らしていくぞ。達するたびに気絶されちゃあ俺の心臓が持たないからな」
レリアの鼓動が早くなっているのがわかる。少しからかいたくなった。
「もう一泊するか。今日はどこにも出かけずにベッドで運動だな」
赤くなっていたレリアの顔がより赤くなった。良い匂いがする彼女の体をこのままベッドへ押し倒したい衝動を抑えながら自制心を必死に働かせ提案する。
「まずは朝飯を食いに行こう。しっかり食べて体力つけなきゃな」
とにかく体力をつけないことには愛し合えない。食欲石の効果も効いているのかまだよくわからない。毎食祈りを捧げて少しでも食べる量が増えればいいのだが、などと考えながら二人で食堂へと向かった。