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ゆるっとお気楽に楽しめる作品を目指してます。
宜しくお願いします。
 何でなのかは分からない。

 だが、それは確かに、僕の目の前にあった。

 僕はこのまま茫然としたいのをじっとこらえた。

 もしこのままの状態だと、冷気の魔法が外へと逃げ出し続け、冷蔵庫の中身がえらいことになる。それを避けるためにまずやること。この戸を閉めるということだろうか。

 僕は、冷蔵庫の戸の把手に手をかけた。

 バタン。

 冷蔵庫をひとまず閉めてから、僕は一呼吸した。そしてもう扉を開けて、それをじっと見つめた。

 だが、こういうものは、じっと見つめても何にもならないらしい。でも嫌だなぁ。

 いくら、これの見かけが訳が分からないといっても、得体が知れないというのは変わらない。これは、僕の想像力を遙かに上まっているものだ。

 だから、やっぱり怖い。

 でも、僕の中にもわずかに存在している、十代の青少年特有の好奇心というやつが、僕が手を止めるのを許さない。
 このままじゃ目当てのもの出せないし。

 それに、近づいた。
 近づく。
 ぐぐっと近づく。

 あ……。
 触った。

 意外にあっさりと触れてしまったことに脅えながらも、僕はごくりと唾を飲み込み、とりあえず食卓に置くために外に出した。何となく想像通りの重さだった。

 需要と供給の均衡が供給に傾き過ぎているらしく、やや詰め込みすぎというきらいもある、それでもやはり冷たい冷蔵庫に入ってたせいか、それはひんやりと冷たい。

僕の指先のかすかなあたたかさがそれに伝わり、それの冷たさが僕の指先に伝わった。
 そのまましばらく手を動かさないでいると、それは少し生温い感触になった。

 それだけだ。

 温度としては少し生温いものとなったが、固さはというと、力を入れ過ぎない分には固くて丈夫だ。
 それはあることを除けばごく普通のものなのだ。

 つまり、これはちょっと特徴があるだけの、いつものものなのだ。

 無理やり納得してみた僕は、何となくほっとして、食卓におき、それから手を離した。いつものものとはいえ、やっぱりきわどい特徴がある。

 脅える必要はないだろうが、人間が簡単に手を触れてはいけないものかもしれない。思いっきり触っちゃったけど。

 僕はとりあえず、それは食卓に放置しておき、冷蔵庫の奥にある本来のサイズの新たな卵を取り出すことにした。卵は温度変化がない場所のが痛まないという母の主張のために、何か変なものを触ってしまった気がする。

 冷蔵庫を塞いでいたのは、僕の頭くらいの大きさの薄緑色の卵だった。




 僕の名前はユウ。年は十五歳。国の真ん中よりも少し南側に位置する、ウヅキ村に住んでいる。村役場に勤めている父親と、魔法具工場の魔法薬開発部に勤めている母親の間に生まれた一人息子だ。

 特徴は特にない。

 強いていえば、平均レベルよりも地味で目立たないおとなしい人間とよく言われるかな。こちらとしては普通に明るく元気に振る舞っているつもりでも、人は僕が明るくしているとは思わない。近所のおせっかいなおばさん辺りに、

「まあ、ユウ君。元気ないじゃない。どうかしたの?」

 と言われるのが関の山だ。

 最悪の場合、僕がそこにいるということにすら気付いてくれない

 存在感がないことによって、真横にいる僕に気がつかない先生が、必死に僕を捜索しまくったことも何回かある。最初の頃は先生が何を探しているのか分からず、まさか僕だとは思わなかった。

 そういえば、小さい頃はかくれんぼはもの凄く強かったな。普通に看板の裏に隠れているだけなのだけど、最後は全員で僕を探していて、最終的には僕にはかくれんぼ禁止令が下った。

 別に無視されている訳でも、いじめられている訳でもなく、何だか分からないけど気づかれない。

そんな特徴のせいか、人の表情をまじまじと見て注意されず、感情を読むことに長けた僕だけど、みんなは決して僕を嫌っているようには思えないし、何でだか異常に気づかれないようだ。みんなは僕に気が付いたら、ごく普通に遊ぶし、僕を友達と認めているとは思うしね。

 つまり、そんなことも、この前の村の魔除け祭りで僕の好物のマホウスグリの焼き菓子をもらう時、並んでいた僕をスルーして次の子に渡した大人|(その大人は次に並んでいた子に指摘されてから、「え、ユウくんいたの!?」と僕の存在に気づき、お菓子をくれた)がこの村に存在することも。

この前本屋で僕がタッチの差で手に入れたひいきの限定商品を会計の台に乗せていたら「あれ、何でこんなところに? 片付けなきゃ」と店員が片付けようとしていたのも(会計の店員さんが指摘してくれた)

あんなこともどんなことも全部、みんなというよりは、僕のこの地味で目立たないおとなしい特性が原因なんだ。

 それに気付いた時は辛かった。

 十代も前半の頃まではそれに対して、枕を涙で濡らす時もあったような気もするけど、十代という期間の半分を過ごした今となってはなれすぎて下手に騒ぐ気にもなれない。枕を濡らしたのもいい思い出かも。

 ちなみにこの特性に対して、両親はあまり悲観視していない。

 母親は最近「事故に合わないように」と、会社の大掃除で貰ってきた布でつくったピカピカ光る魔除けワッペンを大体の服に縫い付け始めはしたけど。

 まあ、そんな親でもここまでグレることもなくやってこれたのは、皮肉ながらも、派手なことをしたがらない、地味で目立たなくておとなしいという僕の性格からなのかもしれない。

 そうすると、僕はどんな性格だったら良かったのだろう。このままが一番良いのだろうか、いや、そうも思えない。

 僕はかなり悩む。

 さて、僕についてはこれでいいかな。長々過ぎて疲れるから、普通にしよ……。
読んでいただきありがとうございます。
他サイトで完結している作品ですが、これを気に更に読みやすく面白くなるように修正しながら掲載予定です。
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