4.(1)
目の前にあるのは。
「と、扉だ……」
「扉ね」
「扉じゃのう」
言い方は三者三様だが、結論は同じ。つまり、僕の目の前には扉が存在するということだ。
「ひ、人様の家だけど、開けるべき?」
「住人が良いと言うちゃったんじゃから、ええんじゃないか?」
「そうよね。ここでぐだぐだ考えているよりは、開けた方が得策かも」
僕の問いに、一人と一羽は大差ない答えを返してくれた。
まあ、想像はしてたよ……。
それでも、開ける前に一応準備はしておいた方がいいだろう。僕は剣と魔法札とイルスコ草とホハムの実の確認をした。すぐに出せるようにしておく。マチルダさんも短槍と細々とした装備の確認、トリオは羽づくろいをした。
よし、準備はオーケー。
「じゃ、行くよ」
そう言い、僕は明かりの瓶を左手に持ち、右手で扉のノブに手をかけた。サビているのか少しかたいが、それでも回せないことはない。そのままノブを回し、押してもびくともしなかったので、ゆっくりと扉を引いた。後ろの一人と一羽は、いつでも飛び出せるように、構えている。
鈍いきしむ音をたてながら、扉は完全に開いた。
直後に僕に襲いかかるものはなかった。
とりあえず、安心。
僕は一歩一歩、辺りを確認しながら扉の奥へと入っていく。
「……広いし、明るいや」
僕は、瓶の蓋を閉め、明かりを消すことにした。ヒカリ草もったいないし。
部屋の中は、ランプ一つという僕の予想とは反して明るい。光り方からすると、魔石の明かりでなくて、強いヒカリ草を使っているんだと思う。
そして、何人入る予定の部屋なんだろう?
この屋敷の敷地全部を使っているわけじゃないだろうけど、それでも走り回ったり、剣の練習やボール遊びが出来るくらいにだだっ広い部屋だ。だが、壁に生き物の干物や薬草っぽい植物の束をかなりたくさん、ひたすらかけていたり、瓶や本が並んでいる棚があるのは、予想と結構重なっている。
奥にあるのは、何に使うんだか、巨大な木製の箱だ。かなり立派だ。
残念ながら、大釜はないようだが、ここが巷で噂のテービットさんの魔法研究所のようだ。研究所というよりは博物館のようにも見える。
トリオが僕の横まで飛んで来た。
「あの娘曰く、ここに、テービットとやらがおるんじゃな」
「そうね。内装がけっこうグロいし、あまり趣味のいい人には思えないけど」
マチルダさんは顔をしかめながら、部屋を見回した。魔法とは全く縁のない彼女にとって、この部屋は理解出来ないものだらけなんだろう。魔法を少しはかじっている僕も半分以上は分からないけど。
「でも……、どこにも誰もいないような気が……」
僕がそう言った時、マチルダさんは僕を黙らせた。
「いいえ。そんなことはないわ」
マチルダさんは右を向いた。
「そこに誰かいるわね?」
僕も右を向く。棚と棚の間から人影が見え、冷たいものでも飲み込んでいるような、高笑いが聞こえた。
「ひょーほっほっ。ワシサマの動きに気付くなんて、オヌシはタダモノじゃないんのだのう」
変な高笑いと共にあらわれたのは、丸々と太った、僕と同じくらいの身長の様子のおかしいおじさんだった。
神経質さをかもし出している黒髪カールの頭に、真ん中に大きな白い宝石をはめている金色の輪っかをつけている。口ヒゲもカールしていて、優しく微笑めばとても人の良さそうな顔立ちなのに、彼の着ている青っぽいだぶだぶとした、昆虫の背中のように光るシルクシーツみたいなローブと、首元で自己主張している緑色の蝶ネクタイが、人好きのするそれを見事に打ち消している。
あ、あと、明らかに変な言葉使いもだね。
こんな本とか劇に出てきそうな芝居じみた話し方の人って、世の中にいるもんなんだなぁ。僕は何となく感動する。
マチルダさんはフフンと笑った。
「まあね、ダテにスゴ腕短槍使いを名乗っているわけでもないの」
か、格好良いかも。僕らが勝手に忍び込んだ気はするんだけど、その姿は確かにスゴ腕短槍使いにも、思えなくはない。
マチルダさんのその言葉に、おじさんは膝を使わずに、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。丸々していて、いかにも鈍そうに思えるのに、動きは結構軽やかだ。僕は何だか、毬を思い出した。
癖なのかな? おじさんは、口ヒゲを指にくるくると巻き付ける。
「ほほほーう。その、スゴ腕短槍使いのオヌシは、なーんでドロボウネコよろしくワシサマの研究所に入ってきたのかーなぁ?」
「正義のためよ!」
……ここまで言い切れる人も珍しいと思った。
呆れたように、トリオは翼を羽ばたかせる。
「ちゅうか、串刺し女は泥棒じゃあなくて、ドロボウネコ言われたんに対して、何もコメントせんのじゃな。いくらあやつが無自覚串刺し女じゃったと仮定しても、正義のためにドロボウネコするわけないじゃろうに」
「確かに」
泥棒よろしくなら言われてもしょうがないけど、泥棒猫って、女の人はあまり言われたくないんじゃないのか?
「っていうか、あの男の人が言葉間違えてるんだろ。マチルダさんは勢いで答えているだけじゃないの? 深く考えない人だしさ」
「じゃな。そもそも、あいつが泥棒猫するような相手もおらんじゃろうしのう」
「そうそう。それに、たとえいたとしても、初対面の人がその相手知ってるわけないしさ」
僕とトリオが和気あいあいに話していると、マチルダさんのキツイ怒鳴り声が僕らを襲った。
「そこ! ヘンな所で話を盛り上げないでよ!」
いまにも短槍が飛びかかってきそうな勢いだったので、命はまだ惜しい僕とトリオはおとなしく口を閉じた。
「ユウ君もバカ鳥も、このおっさんと話して、話を進めなきゃダメよ」
つまり、彼女じゃ手に負えないということなのだろうか。まあ、いいや。面倒くさいし。
僕はおじさんの前に立ち、軽く頭を下げた。
「うーんと。始めまして。僕はユウと申します。えーと、あなたはテービットさん、で宜しいんですよね?」
「そうだぁよーう。ワシサマはフミの町のいっちばんのお金持ち、テービットサマなんだよーう」
角が立つほど目立たないので、比較的、誰とも話を合わせることが出来る性分となっている僕。多分、マチルダさんのときよりも、会話出来ている気がする。こういうときは、相手を立てられるということで、地味で目立たないって便利なのかな……。
「えーと、じゃあ、テービットさん。ご迷惑かもしれませんが、もう少し質問にお答えしてくださると嬉しいんですが」
「いいーよーぉ」
「有り難うございます。えーと、単刀直入になってしまって申し訳ありませんが、ここはあなたの魔法研究所なんですか?」
「ピンポーン! ここはワシサマのすんばらしい魔法研究所なのさぁ。ワシサマは魔法の研究をしているから、こんな地下室はとっても便利なんだよーい」
テービットさんは、言いながらまたぴょんぴょんと飛び跳ねた。研究所を自慢出来るのが嬉しいのだろうか。変な人だけど、悪い噂よりはいい人なのかもしれない。きっと。
聞いたこともないような変な言葉遣いだけど。
「えーと、それだったら、申し訳ありません。僕たち、魔法の研究をしているテービットさんに是非ともお会いしたくて、午前にこちらへ伺ったんですけど断られてしまって、でも、魔法で高名なテービットさんに一刻も早くお会いしたと思いまして、娘さんからご紹介いただいて、こんな所から忍びこんだんです」
僕はペコペコと頭を下げる。
「娘さんから教えていただいたとはいえ、忍び込んだのは、本当に申し訳ないと思います。大変申し訳ありません。娘さんの方が」
一度存在に気付いてもらえれば、ある程度の褒め言葉おだて言葉敬語で相手の気分を良くすることに務める。
こっちが勝手に入ってるんだし。
言いながら、僕は父さんの子だとつくづく思った。いや、外見は似てるんだけど、性格が。
まるっきり似てないわけではないのは、一応僕がユキとウミの間に生まれた子供という意味なのだからホッとするが、こんなところで似ている、というのは結構イヤなもんだ。
テービットさんは得意そうに、今度は髪のカールを指でくるんと巻いた。
「ほほほほーう。あっちのズンドウ女と違って、ボクちゃんはずいぶん礼儀正しい子なのねーえ」
「な、何がズンド――」
「そんなことええから、黙っとれい」
話の進行を止めないように、トリオはマチルダさんの口をふさいだ。まあ、もし馬鹿にされたのがトリオだったら、役割は逆なんだろうけどね。
「でーも、やっぱり忍び込むのはハンザイねえー。ハンザイ者は捕まえなくてはイケナイねえー」
「……一応娘さんさんからは許可はとったんですけど」
テービットさんはローブのフードを被った。僕の後ろで、マチルダさんが言う。
「もう、ユウ君も結局ダメじゃない」
「おんどれよりゃ遙かにマシじゃったわい」
「まあ、失礼ね!」
大変な事態になりそうだというのに、それを全く無視して口ゲンカを始めたトリオとマチルダさん。当然、テービットさんの機嫌は悪くなる。気のせいかピンク色……、いや、もうちょっと赤に近いぼたん色くらいの、もやもやとしたものが、テービットさんの周りから溢れ出しているように見える。
怒りのオーラか?
それでもやっぱり言い合いをしている一羽と一人。
やがて、テービットさんは怒鳴った。
「うるさいねーん! オヌシたち、ワシサマの言うコトはちゃんと聞くねーえ。もう!やっさしいテービットサマも、さすがに腹立ってきたーよ。ワシサマの研究の成果、見せてあげるーよ!」
勢い良く言ったテービットさんは、そのまま左側にある薬品棚にかけより、並んでいる瓶の中から一本取り出し、栓を抜いた。
「いでよ! ワシサマのしもべ!」
テービットさんはそう叫んだ。
瓶の中から細い白いものが出てきたと思っていたら、あっという間にそれは白い煙と認識出来るようになり、部屋中、それが立ち込め、白っぽくなってしまった。
白い半透明の煙のおかげで、僕の頭の中も真っ白になった後、色々なものが出てきて、ぐちゃぐちゃに混ざっていくような気がした。
「と、扉だ……」
「扉ね」
「扉じゃのう」
言い方は三者三様だが、結論は同じ。つまり、僕の目の前には扉が存在するということだ。
「ひ、人様の家だけど、開けるべき?」
「住人が良いと言うちゃったんじゃから、ええんじゃないか?」
「そうよね。ここでぐだぐだ考えているよりは、開けた方が得策かも」
僕の問いに、一人と一羽は大差ない答えを返してくれた。
まあ、想像はしてたよ……。
それでも、開ける前に一応準備はしておいた方がいいだろう。僕は剣と魔法札とイルスコ草とホハムの実の確認をした。すぐに出せるようにしておく。マチルダさんも短槍と細々とした装備の確認、トリオは羽づくろいをした。
よし、準備はオーケー。
「じゃ、行くよ」
そう言い、僕は明かりの瓶を左手に持ち、右手で扉のノブに手をかけた。サビているのか少しかたいが、それでも回せないことはない。そのままノブを回し、押してもびくともしなかったので、ゆっくりと扉を引いた。後ろの一人と一羽は、いつでも飛び出せるように、構えている。
鈍いきしむ音をたてながら、扉は完全に開いた。
直後に僕に襲いかかるものはなかった。
とりあえず、安心。
僕は一歩一歩、辺りを確認しながら扉の奥へと入っていく。
「……広いし、明るいや」
僕は、瓶の蓋を閉め、明かりを消すことにした。ヒカリ草もったいないし。
部屋の中は、ランプ一つという僕の予想とは反して明るい。光り方からすると、魔石の明かりでなくて、強いヒカリ草を使っているんだと思う。
そして、何人入る予定の部屋なんだろう?
この屋敷の敷地全部を使っているわけじゃないだろうけど、それでも走り回ったり、剣の練習やボール遊びが出来るくらいにだだっ広い部屋だ。だが、壁に生き物の干物や薬草っぽい植物の束をかなりたくさん、ひたすらかけていたり、瓶や本が並んでいる棚があるのは、予想と結構重なっている。
奥にあるのは、何に使うんだか、巨大な木製の箱だ。かなり立派だ。
残念ながら、大釜はないようだが、ここが巷で噂のテービットさんの魔法研究所のようだ。研究所というよりは博物館のようにも見える。
トリオが僕の横まで飛んで来た。
「あの娘曰く、ここに、テービットとやらがおるんじゃな」
「そうね。内装がけっこうグロいし、あまり趣味のいい人には思えないけど」
マチルダさんは顔をしかめながら、部屋を見回した。魔法とは全く縁のない彼女にとって、この部屋は理解出来ないものだらけなんだろう。魔法を少しはかじっている僕も半分以上は分からないけど。
「でも……、どこにも誰もいないような気が……」
僕がそう言った時、マチルダさんは僕を黙らせた。
「いいえ。そんなことはないわ」
マチルダさんは右を向いた。
「そこに誰かいるわね?」
僕も右を向く。棚と棚の間から人影が見え、冷たいものでも飲み込んでいるような、高笑いが聞こえた。
「ひょーほっほっ。ワシサマの動きに気付くなんて、オヌシはタダモノじゃないんのだのう」
変な高笑いと共にあらわれたのは、丸々と太った、僕と同じくらいの身長の様子のおかしいおじさんだった。
神経質さをかもし出している黒髪カールの頭に、真ん中に大きな白い宝石をはめている金色の輪っかをつけている。口ヒゲもカールしていて、優しく微笑めばとても人の良さそうな顔立ちなのに、彼の着ている青っぽいだぶだぶとした、昆虫の背中のように光るシルクシーツみたいなローブと、首元で自己主張している緑色の蝶ネクタイが、人好きのするそれを見事に打ち消している。
あ、あと、明らかに変な言葉使いもだね。
こんな本とか劇に出てきそうな芝居じみた話し方の人って、世の中にいるもんなんだなぁ。僕は何となく感動する。
マチルダさんはフフンと笑った。
「まあね、ダテにスゴ腕短槍使いを名乗っているわけでもないの」
か、格好良いかも。僕らが勝手に忍び込んだ気はするんだけど、その姿は確かにスゴ腕短槍使いにも、思えなくはない。
マチルダさんのその言葉に、おじさんは膝を使わずに、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。丸々していて、いかにも鈍そうに思えるのに、動きは結構軽やかだ。僕は何だか、毬を思い出した。
癖なのかな? おじさんは、口ヒゲを指にくるくると巻き付ける。
「ほほほーう。その、スゴ腕短槍使いのオヌシは、なーんでドロボウネコよろしくワシサマの研究所に入ってきたのかーなぁ?」
「正義のためよ!」
……ここまで言い切れる人も珍しいと思った。
呆れたように、トリオは翼を羽ばたかせる。
「ちゅうか、串刺し女は泥棒じゃあなくて、ドロボウネコ言われたんに対して、何もコメントせんのじゃな。いくらあやつが無自覚串刺し女じゃったと仮定しても、正義のためにドロボウネコするわけないじゃろうに」
「確かに」
泥棒よろしくなら言われてもしょうがないけど、泥棒猫って、女の人はあまり言われたくないんじゃないのか?
「っていうか、あの男の人が言葉間違えてるんだろ。マチルダさんは勢いで答えているだけじゃないの? 深く考えない人だしさ」
「じゃな。そもそも、あいつが泥棒猫するような相手もおらんじゃろうしのう」
「そうそう。それに、たとえいたとしても、初対面の人がその相手知ってるわけないしさ」
僕とトリオが和気あいあいに話していると、マチルダさんのキツイ怒鳴り声が僕らを襲った。
「そこ! ヘンな所で話を盛り上げないでよ!」
いまにも短槍が飛びかかってきそうな勢いだったので、命はまだ惜しい僕とトリオはおとなしく口を閉じた。
「ユウ君もバカ鳥も、このおっさんと話して、話を進めなきゃダメよ」
つまり、彼女じゃ手に負えないということなのだろうか。まあ、いいや。面倒くさいし。
僕はおじさんの前に立ち、軽く頭を下げた。
「うーんと。始めまして。僕はユウと申します。えーと、あなたはテービットさん、で宜しいんですよね?」
「そうだぁよーう。ワシサマはフミの町のいっちばんのお金持ち、テービットサマなんだよーう」
角が立つほど目立たないので、比較的、誰とも話を合わせることが出来る性分となっている僕。多分、マチルダさんのときよりも、会話出来ている気がする。こういうときは、相手を立てられるということで、地味で目立たないって便利なのかな……。
「えーと、じゃあ、テービットさん。ご迷惑かもしれませんが、もう少し質問にお答えしてくださると嬉しいんですが」
「いいーよーぉ」
「有り難うございます。えーと、単刀直入になってしまって申し訳ありませんが、ここはあなたの魔法研究所なんですか?」
「ピンポーン! ここはワシサマのすんばらしい魔法研究所なのさぁ。ワシサマは魔法の研究をしているから、こんな地下室はとっても便利なんだよーい」
テービットさんは、言いながらまたぴょんぴょんと飛び跳ねた。研究所を自慢出来るのが嬉しいのだろうか。変な人だけど、悪い噂よりはいい人なのかもしれない。きっと。
聞いたこともないような変な言葉遣いだけど。
「えーと、それだったら、申し訳ありません。僕たち、魔法の研究をしているテービットさんに是非ともお会いしたくて、午前にこちらへ伺ったんですけど断られてしまって、でも、魔法で高名なテービットさんに一刻も早くお会いしたと思いまして、娘さんからご紹介いただいて、こんな所から忍びこんだんです」
僕はペコペコと頭を下げる。
「娘さんから教えていただいたとはいえ、忍び込んだのは、本当に申し訳ないと思います。大変申し訳ありません。娘さんの方が」
一度存在に気付いてもらえれば、ある程度の褒め言葉おだて言葉敬語で相手の気分を良くすることに務める。
こっちが勝手に入ってるんだし。
言いながら、僕は父さんの子だとつくづく思った。いや、外見は似てるんだけど、性格が。
まるっきり似てないわけではないのは、一応僕がユキとウミの間に生まれた子供という意味なのだからホッとするが、こんなところで似ている、というのは結構イヤなもんだ。
テービットさんは得意そうに、今度は髪のカールを指でくるんと巻いた。
「ほほほほーう。あっちのズンドウ女と違って、ボクちゃんはずいぶん礼儀正しい子なのねーえ」
「な、何がズンド――」
「そんなことええから、黙っとれい」
話の進行を止めないように、トリオはマチルダさんの口をふさいだ。まあ、もし馬鹿にされたのがトリオだったら、役割は逆なんだろうけどね。
「でーも、やっぱり忍び込むのはハンザイねえー。ハンザイ者は捕まえなくてはイケナイねえー」
「……一応娘さんさんからは許可はとったんですけど」
テービットさんはローブのフードを被った。僕の後ろで、マチルダさんが言う。
「もう、ユウ君も結局ダメじゃない」
「おんどれよりゃ遙かにマシじゃったわい」
「まあ、失礼ね!」
大変な事態になりそうだというのに、それを全く無視して口ゲンカを始めたトリオとマチルダさん。当然、テービットさんの機嫌は悪くなる。気のせいかピンク色……、いや、もうちょっと赤に近いぼたん色くらいの、もやもやとしたものが、テービットさんの周りから溢れ出しているように見える。
怒りのオーラか?
それでもやっぱり言い合いをしている一羽と一人。
やがて、テービットさんは怒鳴った。
「うるさいねーん! オヌシたち、ワシサマの言うコトはちゃんと聞くねーえ。もう!やっさしいテービットサマも、さすがに腹立ってきたーよ。ワシサマの研究の成果、見せてあげるーよ!」
勢い良く言ったテービットさんは、そのまま左側にある薬品棚にかけより、並んでいる瓶の中から一本取り出し、栓を抜いた。
「いでよ! ワシサマのしもべ!」
テービットさんはそう叫んだ。
瓶の中から細い白いものが出てきたと思っていたら、あっという間にそれは白い煙と認識出来るようになり、部屋中、それが立ち込め、白っぽくなってしまった。
白い半透明の煙のおかげで、僕の頭の中も真っ白になった後、色々なものが出てきて、ぐちゃぐちゃに混ざっていくような気がした。