8.(7)
トリオがしばらくぶつぶつ文句を言うのを聞いた後、少し落ち着いたらしい彼に話しかけた。
「あのさ、聞きたいことがあるんだけどさ、トリオ」
「何じゃ?」
「三人は何をしたいと思う?」
この頭の良い黄緑色の鳥は、僕が倒れて起き上がってアルバートさんとちょっと話したというごく短時間で、おそらく僕が今持っている情報の大半を把握したと思われる。
僕は彼の話を聞きたかった。
しかし、その言葉にトリオは首を振った。
「先にユウはどう考えちょるんか聞かせてくれんか? ユウはフミの町でも具合が悪そうじゃったから、その頃じゃろ?」
「うん」
「ワシはついさっきじゃ。アリアはどこまで話せるか分からんと、ほとんど何も言うちょらん。ユウはアルバートから何か聞いちょるんじゃないのか?」
「まあ、そうなんだけどさ」
僕では分からないようなことを聞きたいのだけど、しょうがないな。
ひとまず、僕は今分かっていて、言えることだけを言った。
「僕は、僕を倒れさせたり、トリオがここまで気付かなかったりした、その原因をどうにかしようとしているとは思っているよ」
それを聞いたトリオは、僕に同意した。
「確かにな。それが大方針じゃろうな。わざわざ、こんな面倒くさいことをしようとしちゃってな」
「面倒くさいこと?」
「アリアが言うには、ワシをこの姿にしようと、ニルレンと話し合ったらしい。余計なことを考えさせないように、頭を鈍らせようにしたかったんじゃと」
「へえ。まあ、確かにトリオ最初短気だったもんね」
軽く言ったつもりだったんだけど、トリオは神妙な顔になった。
「……悪かったのぅ」
僕は卵が孵化した直後につつかれたのを思い出した。今のトリオが僕に対してそんなことをするというのは、よっぽどの時くらいだろう。トリオは、それからどんどんおとなしく、後ろ向きになっていった。
「あいつがそう言うたとしても、どう考えても、それだけではないとは思っちょるけどな。この姿には他にも秘密があると思う」
トリオは翼を軽くパタパタと動かした。
「これから話すのは恐らく手段の話じゃな。ユウの話が大方針として、ワシの視点からだと、とにかく三人は筋の違う想定外の結果を出したがっていると感じた。何かを崩そうとしちょると」
「想定外?」
そう結論付けてから、トリオは詳細を説明し始めようとした。僕はちょっとだけ止めて貰って、荷物からさっき使ったノートと筆記用具を出すことにした。
他の人が読める形なのかはともかくとして、僕はまとまっているものが好きだ。こんなこんがらがりそうな話、この内容を確認しながらじゃないと理解は出来ない気がする。
ちなみに、親の話をまとめる気は勿論ない。
ここ最近、僕がトリオやマチルダさんに教わって聞いた話をノートにまとめるのを見慣れているトリオは、いつもの如く僕が準備が出来たのを確認してから、話し始めた。
「あくまで仮説なのが前提じゃ」
「分かってるよ」
「手段と思っちょるのは、ワシをこの姿にして、思考と動きと魔法を制限したこと。引き起こした結果としては、本来旅立たないはずのユウをここまで連れてくることになったこと。あと、フミの町にアリアの想定よりも早く着いたことも……か?」
僕は、ペンを止めて、顔を上げてトリオを見る。
「トリオ、気付いてたんだ。フミの町の」
「まあ……、アリアが言ったことに気付いてはいたんじゃけど、あの時は何でかそれ以上の思考に結びつかなかったんじゃよな」
首を傾けるトリオに、僕は口を尖らせた。
「僕さ、トリオ達が何も気にしていないから本当に不安だったんだよ」
あの時あんなにアリアは怪しかったのに、何一つ理解していない二人を見て僕は本当に孤独だった。
それについて文句を言う僕の肩にふんわりと乗り、パタパタと僕の背中を叩いた。
「それは、悪いことしたのぅ。今はもうその思いはさせないはずじゃから安心してくれ」
「トリオ……」
とても優しい話し方だった。
すらすらと話をまとめ始めたり、柔らかく謝罪と安心させるような言葉を口にするトリオを見て、ニルレンがトリオのことを好きになった理由は何となく理解した。
……今までも優しいし親切だなとは思っていたけど、頭が良くて、優しく気遣いできる、落ち着いた年上のお兄さんか。これ、性格が後ろ向きでも、顔が別に格好よくなくても惚れるだろ。
気になる女の子がいる、鳥を相手にしている男子でもちょっとドキッとしちゃったぞ。これで顔も良いんだろ?
舞台の中心に立つやつは、鳥になってもやっぱり違う
なおい!
心の中で、ちょっと叫びながら、僕はトリオに言葉を返した。
「そうだね。僕はトリオのように気にならないようにはされてなかったから、それを追求しようとして、二回倒れた。トリオは、それを考えることが出来ないようにニルレンとアリアによって思考に蓋をされていた」
確かに今のトリオの思考の早さなら、三人の誰かの助けがない場合、さくっと倒れてしまいそうだ。僕よりも色々能力は高い分ね。うん、つまりそういうことだとすると……。
「いや、おい、ユウ! 二回って、ワシがおらんとき倒れちょったのか! いつだ!」
考えを深めようとした時、トリオは慌てたように僕の耳の横で叫ぶ。うるさい。僕はペンを持ったまま耳を押さえたけど、ノートは落ちた。
「フミの町。具合悪くてアリアに看病されて布団に寝かされていた時だよ。あの後ちょっとアリアを詰めたら倒れた。即、アリアに助けてもらったけど」
「何で言わん! そういうのはその時に言え!」
「だって、その時のトリオじゃ言っても意味なかっただろ。もう一日寝かされるだけじゃないか」
図星らしく、トリオはクチバシをぎゅっと閉じて、下を向いた。
僕はノートを拾い、膝に置いた。
「それよりさ、トリオ、想定外の例で一つあげてなかったよね。他のことが起こらなかったとしても、トリオはここに来たって思う?」
「ああ、恐らく、それは決定事項だったと思うちょる。……予定より早いだのなんだの言うてた訳じゃし、アリアは異様に準備が良すぎる。この時代にワシとマチルダがいることについてな。今となっては、違和感しかない」
僕とトリオはちらりと周りを見た。幸い、状況は変わらなさそうだ。
「トリオ、本当だったら人間の姿で来たのかな。凜々しいだの散々聞かされているし、鳥の姿じゃなかったら、さぞや見物だったかもなー」
「はっ、ワシの凜々しさにチビれ」
基本的に遠慮がちで謙遜しまくっているのに、見かけに関してだけは全く謙虚にならないトリオに、僕は苦笑する。もし彼が人間の姿のままでこちらに来ていたら、僕は側にはいなかっただろうし、知り合いですらなかっただろう。通り過ぎているかも分からない。
もしかしたら、僕にとっては鳥の姿で来てくれて良かったのかもしれない。旅立つことになった時は自分の不運と押しの弱さを嘆いていたけど、今となっては、トリオと出会えたことは、とても幸運だと思う。こんな経験、普通の村人のままではまず無理だ。
それに僕はトリオのことが結構好きだ。
そんな想定外の出会いをした僕たちがやらなくてはいけないこと。
それは結構あったりするのだった。
「あのさ、聞きたいことがあるんだけどさ、トリオ」
「何じゃ?」
「三人は何をしたいと思う?」
この頭の良い黄緑色の鳥は、僕が倒れて起き上がってアルバートさんとちょっと話したというごく短時間で、おそらく僕が今持っている情報の大半を把握したと思われる。
僕は彼の話を聞きたかった。
しかし、その言葉にトリオは首を振った。
「先にユウはどう考えちょるんか聞かせてくれんか? ユウはフミの町でも具合が悪そうじゃったから、その頃じゃろ?」
「うん」
「ワシはついさっきじゃ。アリアはどこまで話せるか分からんと、ほとんど何も言うちょらん。ユウはアルバートから何か聞いちょるんじゃないのか?」
「まあ、そうなんだけどさ」
僕では分からないようなことを聞きたいのだけど、しょうがないな。
ひとまず、僕は今分かっていて、言えることだけを言った。
「僕は、僕を倒れさせたり、トリオがここまで気付かなかったりした、その原因をどうにかしようとしているとは思っているよ」
それを聞いたトリオは、僕に同意した。
「確かにな。それが大方針じゃろうな。わざわざ、こんな面倒くさいことをしようとしちゃってな」
「面倒くさいこと?」
「アリアが言うには、ワシをこの姿にしようと、ニルレンと話し合ったらしい。余計なことを考えさせないように、頭を鈍らせようにしたかったんじゃと」
「へえ。まあ、確かにトリオ最初短気だったもんね」
軽く言ったつもりだったんだけど、トリオは神妙な顔になった。
「……悪かったのぅ」
僕は卵が孵化した直後につつかれたのを思い出した。今のトリオが僕に対してそんなことをするというのは、よっぽどの時くらいだろう。トリオは、それからどんどんおとなしく、後ろ向きになっていった。
「あいつがそう言うたとしても、どう考えても、それだけではないとは思っちょるけどな。この姿には他にも秘密があると思う」
トリオは翼を軽くパタパタと動かした。
「これから話すのは恐らく手段の話じゃな。ユウの話が大方針として、ワシの視点からだと、とにかく三人は筋の違う想定外の結果を出したがっていると感じた。何かを崩そうとしちょると」
「想定外?」
そう結論付けてから、トリオは詳細を説明し始めようとした。僕はちょっとだけ止めて貰って、荷物からさっき使ったノートと筆記用具を出すことにした。
他の人が読める形なのかはともかくとして、僕はまとまっているものが好きだ。こんなこんがらがりそうな話、この内容を確認しながらじゃないと理解は出来ない気がする。
ちなみに、親の話をまとめる気は勿論ない。
ここ最近、僕がトリオやマチルダさんに教わって聞いた話をノートにまとめるのを見慣れているトリオは、いつもの如く僕が準備が出来たのを確認してから、話し始めた。
「あくまで仮説なのが前提じゃ」
「分かってるよ」
「手段と思っちょるのは、ワシをこの姿にして、思考と動きと魔法を制限したこと。引き起こした結果としては、本来旅立たないはずのユウをここまで連れてくることになったこと。あと、フミの町にアリアの想定よりも早く着いたことも……か?」
僕は、ペンを止めて、顔を上げてトリオを見る。
「トリオ、気付いてたんだ。フミの町の」
「まあ……、アリアが言ったことに気付いてはいたんじゃけど、あの時は何でかそれ以上の思考に結びつかなかったんじゃよな」
首を傾けるトリオに、僕は口を尖らせた。
「僕さ、トリオ達が何も気にしていないから本当に不安だったんだよ」
あの時あんなにアリアは怪しかったのに、何一つ理解していない二人を見て僕は本当に孤独だった。
それについて文句を言う僕の肩にふんわりと乗り、パタパタと僕の背中を叩いた。
「それは、悪いことしたのぅ。今はもうその思いはさせないはずじゃから安心してくれ」
「トリオ……」
とても優しい話し方だった。
すらすらと話をまとめ始めたり、柔らかく謝罪と安心させるような言葉を口にするトリオを見て、ニルレンがトリオのことを好きになった理由は何となく理解した。
……今までも優しいし親切だなとは思っていたけど、頭が良くて、優しく気遣いできる、落ち着いた年上のお兄さんか。これ、性格が後ろ向きでも、顔が別に格好よくなくても惚れるだろ。
気になる女の子がいる、鳥を相手にしている男子でもちょっとドキッとしちゃったぞ。これで顔も良いんだろ?
舞台の中心に立つやつは、鳥になってもやっぱり違う
なおい!
心の中で、ちょっと叫びながら、僕はトリオに言葉を返した。
「そうだね。僕はトリオのように気にならないようにはされてなかったから、それを追求しようとして、二回倒れた。トリオは、それを考えることが出来ないようにニルレンとアリアによって思考に蓋をされていた」
確かに今のトリオの思考の早さなら、三人の誰かの助けがない場合、さくっと倒れてしまいそうだ。僕よりも色々能力は高い分ね。うん、つまりそういうことだとすると……。
「いや、おい、ユウ! 二回って、ワシがおらんとき倒れちょったのか! いつだ!」
考えを深めようとした時、トリオは慌てたように僕の耳の横で叫ぶ。うるさい。僕はペンを持ったまま耳を押さえたけど、ノートは落ちた。
「フミの町。具合悪くてアリアに看病されて布団に寝かされていた時だよ。あの後ちょっとアリアを詰めたら倒れた。即、アリアに助けてもらったけど」
「何で言わん! そういうのはその時に言え!」
「だって、その時のトリオじゃ言っても意味なかっただろ。もう一日寝かされるだけじゃないか」
図星らしく、トリオはクチバシをぎゅっと閉じて、下を向いた。
僕はノートを拾い、膝に置いた。
「それよりさ、トリオ、想定外の例で一つあげてなかったよね。他のことが起こらなかったとしても、トリオはここに来たって思う?」
「ああ、恐らく、それは決定事項だったと思うちょる。……予定より早いだのなんだの言うてた訳じゃし、アリアは異様に準備が良すぎる。この時代にワシとマチルダがいることについてな。今となっては、違和感しかない」
僕とトリオはちらりと周りを見た。幸い、状況は変わらなさそうだ。
「トリオ、本当だったら人間の姿で来たのかな。凜々しいだの散々聞かされているし、鳥の姿じゃなかったら、さぞや見物だったかもなー」
「はっ、ワシの凜々しさにチビれ」
基本的に遠慮がちで謙遜しまくっているのに、見かけに関してだけは全く謙虚にならないトリオに、僕は苦笑する。もし彼が人間の姿のままでこちらに来ていたら、僕は側にはいなかっただろうし、知り合いですらなかっただろう。通り過ぎているかも分からない。
もしかしたら、僕にとっては鳥の姿で来てくれて良かったのかもしれない。旅立つことになった時は自分の不運と押しの弱さを嘆いていたけど、今となっては、トリオと出会えたことは、とても幸運だと思う。こんな経験、普通の村人のままではまず無理だ。
それに僕はトリオのことが結構好きだ。
そんな想定外の出会いをした僕たちがやらなくてはいけないこと。
それは結構あったりするのだった。