8.(10)
アルバートさん達が退出後、厚意はありがたく受け取るということで、頂いた朝食を並べ、食べることにする。
今日は一日ここに滞在する予定だ。午後からはアルバートさんの家にお邪魔することになる。
午前中の予定を考えることにした。
マチルダさんは言う。
「わたし、朝ごはん食べ終わったら、長老さんのところに本日も宿を貸してもらいたいという話してくるわね。今日こそお礼も渡しておきたいし」
アリアは言う。
「私はここにいる。手土産をどこに入れたか探さないといけない。ついでに食器は洗う」
トリオは言う。
「ワシはアリアを手伝う」
その回答に、僕たち三人はトリオを見た。
「な、何じゃ!」
「何だって言うか、あんた、外に出たがりだから、わたしと一緒に来るのかなと思っただけよ」
僕らの意見を代弁したマチルダさんは、手をひらひらとした。トリオはパタパタと翼を動かす
「はっ、何じゃ、ワシがいないと寂しいんか?」
「んなわけないでしょ。ブンブン羽音がしなくて快適よ」
「人を虫みたいな言い方するな!」
いつも通りの会話をしながら、マチルダさんは耳を押さえる。
「ほんと、うっるさい鳴き声よねー、この鳥」
大げさにため息をついた後、マチルダさんはこちらを見た。
「まあ、いいわ、ユウ君、あの黄緑色は放っておいて、たまには私とデートしましょ!」
「えっ、でっ……」
一応彼女の婚約者が僕のテーブルの目の前にちょこんと立っている中で、デートという単語が僕に向けられるのはなかなか新鮮な体験ではある 。
声をかけられると思ってなかった僕はパンのかたまりを大きく飲み込み、むせた。
「ユウ、興奮しないで」
アリアがお茶を差し出してくれた。飲んだら胸が少し落ち着く。
「……ありがとう。でも、突然話を向けられて驚いただけで、興奮はしてない」
途切れ途切れで否定しておいた。アリアはつまらないと、ため息をつく。何だこの子。
まあ、外に出ることに異存はない。
「僕も外の空気を吸いたいので、マチルダさんとご一緒しますね」
「ええ、宜しくね。あー、いつもうるさい耳元でぎゃーぎゃーいう鳥がいなくて絶対快適よねー。うふふ、楽しみー」
マチルダさんはトリオを見ながら、微笑んだ。トリオはマチルダさんの耳元に近づく。
「早速耳元でぎゃーぎゃーゆうてやろうか? ワレ」
「あら、何かのさえずりが聞こえるかしら? 風の音かしら? 存在がちっさすぎて視界に入らないわー困ったわー」
耳を塞ぎながら、マチルダさんはきょろきょろと辺りを見渡す。トリオは怒ってマチルダさんの視界に入ろうとする。
僕とアリアはそのままお茶と食事を楽しむ。
「アリア、このパンに挟んであるハムおいしいね。初めて食べる味がする」
「こっちの地方で育てられるハーブ豚だね。昨日はフライがあったよ」
「え、僕それ食べてない!」
聞き捨てならないことに対して僕が声を張り上げると、アリアは苦笑する。
「ユウは移動しなかったからね。一緒に来ればよかったのに」
唐揚げばかり食べていて気づかなかった。
「えー、絶対それ美味しいじゃん。誘ってよ」
「まあ、また食べる機会あるよ」
「だといいんだけどなぁ」
そんな、実に平和な朝食だった。
朝食後、離れの隣の家に行った。長老のグスタフさんにお伺いをたてたが、僕が倒れたと言うこともあり、本日も泊まることを快諾してもらった。
あちらが遠慮する中、宿泊費としていくらか包んで渡した。この辺の礼儀については、一番年上に見えるマチルダさんが滞りなく終わらせる。
長老のお宅から出ると、マチルダさんは伸びをした。
「泊まらせてもらえて良かったわ」
「ここも宿屋も満室だったら、アルバートさんの家の床でも借りるしかなかったですしね」
「そうねー。床でも野宿よりはマシだけど、アルバートさんのお宅もこんな大人数で押しかけてしまったら悪いものね。泊まらせてもらえて、本当にありがたいわ」
そして、マチルダさんはにこりと笑った。
「よく考えると、ユウ君と二人きりって案外珍しいのよね」
「そうですね。ふた手の時って大体マチルダさんとは別行動ですよね」
「そうなのよ。アリアちゃんのときもあるけど、大体バカ鳥がくっついて来るわね。あの鳥、何だかんだ言って、わたしのことが好きなんじゃないかしら?」
「あはは……」
もの凄く返答しにくい質問を、僕は苦笑いだけで終わらせた。
ちなみに、トリオに何でアリアと一緒にいることにしたのか聞いてみたら「記憶が戻ると聞いた今、二人きりの時にどういう態度を取ればいいのか分からん。心を整理する時間が欲しい」とのことだった。アリアがどうというより、マチルダさんと別行動になる方に従ったらしい。
うん、あの態度で? と思わなくはないけど、記憶喪失の婚約者に「あんた振られたんでしょ」と言われる経験をもつということはそうそうないことなので、僕には一生分からない気持ちだと思う。
まあ、記憶喪失の問題以前に、そもそも婚約者も彼女もいたことはない。
しかし、アリアの発言について、トリオは何か結構ガタガタ文句言っている気がするんだけど、彼女と一緒でいいのだろうか。
一応確認してみたら「何で先に家にいると言わないんじゃ!」と怒られた。うん、事情を先に言ってくれないと、知らないよ。
本当にこの鳥、ニルレンというかマチルダさんのことだと頭が鈍るな。
昨日もの凄く冷静にことを進める彼の姿を見た僕としては、何故ここまで隙だらけの行動を取っているのかは分からないけど、うん、恋というものは、頭の良い鳥も盲目にしてしまうものなのだろう。
鳥目って言うし。
まあ、それはどうでもいいや。
「さ、せっかくの機会だから、昼前まで二人で散歩でもしましょ!」
僕はマチルダさんの言葉に頷いた。
たまには新鮮な気持ちになろう。今回の旅以前に母さん以外の女性と学校以外で会話することがほとんどなかった僕としては、年上のお姉さんと二人で連れ立つというのは貴重な経験だ。
昨日は行わなかった村の散策をしてみることにした。
今日は一日ここに滞在する予定だ。午後からはアルバートさんの家にお邪魔することになる。
午前中の予定を考えることにした。
マチルダさんは言う。
「わたし、朝ごはん食べ終わったら、長老さんのところに本日も宿を貸してもらいたいという話してくるわね。今日こそお礼も渡しておきたいし」
アリアは言う。
「私はここにいる。手土産をどこに入れたか探さないといけない。ついでに食器は洗う」
トリオは言う。
「ワシはアリアを手伝う」
その回答に、僕たち三人はトリオを見た。
「な、何じゃ!」
「何だって言うか、あんた、外に出たがりだから、わたしと一緒に来るのかなと思っただけよ」
僕らの意見を代弁したマチルダさんは、手をひらひらとした。トリオはパタパタと翼を動かす
「はっ、何じゃ、ワシがいないと寂しいんか?」
「んなわけないでしょ。ブンブン羽音がしなくて快適よ」
「人を虫みたいな言い方するな!」
いつも通りの会話をしながら、マチルダさんは耳を押さえる。
「ほんと、うっるさい鳴き声よねー、この鳥」
大げさにため息をついた後、マチルダさんはこちらを見た。
「まあ、いいわ、ユウ君、あの黄緑色は放っておいて、たまには私とデートしましょ!」
「えっ、でっ……」
一応彼女の婚約者が僕のテーブルの目の前にちょこんと立っている中で、デートという単語が僕に向けられるのはなかなか新鮮な体験ではある 。
声をかけられると思ってなかった僕はパンのかたまりを大きく飲み込み、むせた。
「ユウ、興奮しないで」
アリアがお茶を差し出してくれた。飲んだら胸が少し落ち着く。
「……ありがとう。でも、突然話を向けられて驚いただけで、興奮はしてない」
途切れ途切れで否定しておいた。アリアはつまらないと、ため息をつく。何だこの子。
まあ、外に出ることに異存はない。
「僕も外の空気を吸いたいので、マチルダさんとご一緒しますね」
「ええ、宜しくね。あー、いつもうるさい耳元でぎゃーぎゃーいう鳥がいなくて絶対快適よねー。うふふ、楽しみー」
マチルダさんはトリオを見ながら、微笑んだ。トリオはマチルダさんの耳元に近づく。
「早速耳元でぎゃーぎゃーゆうてやろうか? ワレ」
「あら、何かのさえずりが聞こえるかしら? 風の音かしら? 存在がちっさすぎて視界に入らないわー困ったわー」
耳を塞ぎながら、マチルダさんはきょろきょろと辺りを見渡す。トリオは怒ってマチルダさんの視界に入ろうとする。
僕とアリアはそのままお茶と食事を楽しむ。
「アリア、このパンに挟んであるハムおいしいね。初めて食べる味がする」
「こっちの地方で育てられるハーブ豚だね。昨日はフライがあったよ」
「え、僕それ食べてない!」
聞き捨てならないことに対して僕が声を張り上げると、アリアは苦笑する。
「ユウは移動しなかったからね。一緒に来ればよかったのに」
唐揚げばかり食べていて気づかなかった。
「えー、絶対それ美味しいじゃん。誘ってよ」
「まあ、また食べる機会あるよ」
「だといいんだけどなぁ」
そんな、実に平和な朝食だった。
朝食後、離れの隣の家に行った。長老のグスタフさんにお伺いをたてたが、僕が倒れたと言うこともあり、本日も泊まることを快諾してもらった。
あちらが遠慮する中、宿泊費としていくらか包んで渡した。この辺の礼儀については、一番年上に見えるマチルダさんが滞りなく終わらせる。
長老のお宅から出ると、マチルダさんは伸びをした。
「泊まらせてもらえて良かったわ」
「ここも宿屋も満室だったら、アルバートさんの家の床でも借りるしかなかったですしね」
「そうねー。床でも野宿よりはマシだけど、アルバートさんのお宅もこんな大人数で押しかけてしまったら悪いものね。泊まらせてもらえて、本当にありがたいわ」
そして、マチルダさんはにこりと笑った。
「よく考えると、ユウ君と二人きりって案外珍しいのよね」
「そうですね。ふた手の時って大体マチルダさんとは別行動ですよね」
「そうなのよ。アリアちゃんのときもあるけど、大体バカ鳥がくっついて来るわね。あの鳥、何だかんだ言って、わたしのことが好きなんじゃないかしら?」
「あはは……」
もの凄く返答しにくい質問を、僕は苦笑いだけで終わらせた。
ちなみに、トリオに何でアリアと一緒にいることにしたのか聞いてみたら「記憶が戻ると聞いた今、二人きりの時にどういう態度を取ればいいのか分からん。心を整理する時間が欲しい」とのことだった。アリアがどうというより、マチルダさんと別行動になる方に従ったらしい。
うん、あの態度で? と思わなくはないけど、記憶喪失の婚約者に「あんた振られたんでしょ」と言われる経験をもつということはそうそうないことなので、僕には一生分からない気持ちだと思う。
まあ、記憶喪失の問題以前に、そもそも婚約者も彼女もいたことはない。
しかし、アリアの発言について、トリオは何か結構ガタガタ文句言っている気がするんだけど、彼女と一緒でいいのだろうか。
一応確認してみたら「何で先に家にいると言わないんじゃ!」と怒られた。うん、事情を先に言ってくれないと、知らないよ。
本当にこの鳥、ニルレンというかマチルダさんのことだと頭が鈍るな。
昨日もの凄く冷静にことを進める彼の姿を見た僕としては、何故ここまで隙だらけの行動を取っているのかは分からないけど、うん、恋というものは、頭の良い鳥も盲目にしてしまうものなのだろう。
鳥目って言うし。
まあ、それはどうでもいいや。
「さ、せっかくの機会だから、昼前まで二人で散歩でもしましょ!」
僕はマチルダさんの言葉に頷いた。
たまには新鮮な気持ちになろう。今回の旅以前に母さん以外の女性と学校以外で会話することがほとんどなかった僕としては、年上のお姉さんと二人で連れ立つというのは貴重な経験だ。
昨日は行わなかった村の散策をしてみることにした。