修行というかあそびというか
冒険者を名乗るからには最低限は身につけておけってのがオジサンの主張だそうです
みんながとりあえず集まる場所だから、この集落に具体的な名前はないんだって。だから商人さんたちも冒険者たちも「あの場所」とか「あそこ」みたいな言い方をするの。
そんな人たちに目をつけた商人のひとりが、いつの間にか食事処とベッドのおへやをつくって、ここで食べて泊まれるお宿みたいな建物を作った。商人さんたちはお金がもったいないって自前の寝袋や毛布を持ってくるみたいだけど、旅の疲れを残すのはまずい冒険者やお国のエラい人とかはこういう場所で寝泊まりしてく。ついでに食べ物もたくさんたべる。
オジサンは店主と顔なじみらしくて通常価格より安く泊まれるんだって。ってことでわたしとオジサンは、えーっと、インだっけ? とりあえずこのお宿に寝泊まりすることになりました。
で、今は何をしてるかっていうと……。
「まったく散々だな」
「ええへ」
「褒めてない。もういっかい」
「はーい!」
「返事は短くハッキリと。はぁ」
オジサンにプレゼントしてもらった短剣を片手に、わたしはオジサンと対峙してあそんでぇ、じゃなかった。えーっと戦いの訓練をしているところなのです。
はじめはとても怖かった。だって戦いってことはそういうことになるかもしれないってことでしょ? ――それなのにオジサンは「いいからこい」って無造作に構えるんだもの。
ケガしちゃうそんなのイヤイヤって駄々こねてたら、オジサンが根負けして痛くない方法で修行してまーす。
「オジサンすごい!」
「当たり前だ。っつーか遊びじゃないんだぞコレは。命のやりとりしてんだから、正面から飛びかかるだけじゃなくてもう少し考えろ……しっかしカバーで刃を潰したブツでやられては戦いにもなりやしない。これじゃ緊張感のカケラもなぁ」
なにかブツブツ言って、オジサンは手に持っていた木の棒を投げ捨てた。
「ッ!!」
「ん? ……いや、なぜ投げ捨てた木の枝を取ってきた」
「ちがうの?」
「なにが? ちょっと小休止だよ」
近場に設置したイスに座る。わたしはけっこー泥だらけなんだけど、オジサンはドロどころか些細なよごれひとつもついてない。
「ねえねえどうやってるの? わたしの攻撃ぜんぜんオジサンに当たらないんだけど?」
「攻撃っつーか飛びついてるだけだろ。もっと武器を振り回せ。そうじゃなきゃカスリもせんわ」
「確かにこりゃひどいな」
スプリットくんはわたしとオジサンの修行を静観してる。とは言っても手には剣を持っていて、いかにもウズウズしてそーな表情をしていた。
「仕込みがいがあるとはいい言葉だが……さて、このままじゃ物足りんから気休めにおまえの訓練もしてやろう」
「いいのか?」
「そのつもりで来たんだろう?」
オジサンがスプリットくんの武器を見据えて言った。スプリットくんは喜んで牙を見せた。
「よし、やろう」
ってことでわたしはこの場から退散。ゲンキなオトコの子を見守ることにしたのです。あ、ついでにお宿の人が用意してくれた水で顔を洗っておきました。
「いつでもいいぞ」
「はあ!!」
オジサンが言い終える前にスプリットくんが動き出してた。身体のはんぶんくらいの大きさのそれを鋭く振り込んでく――けどオジサンには当たらない。
「おお!」
当たらないけど、なんかオジサンが驚いてる表情をしてた。わたしにはわかる。あれは人間が喜んでるときの表情だ。
「やるな、ド素人相手の箸休めと思ってたがこれはおもしろい」
「そうかい? でもいいのかそんな余裕こいて。次の攻撃はこうはいかないぜ!!」
「えっ」
スプリットくんはいったん飛び退いて、剣を両手に構え腰を落とした。
「スキル、俊足しゅんそく」
「えっ」
なんかスプリットくん光ったんですけど?
「っしゃあ!」
「えっ」
速ッ! スプリットくん消えちゃったんですけど?
「む――ッ」
っと思った時にはもうバトってたんですけど? っていうかオジサンその攻撃も止めちゃうの!?
「……マジか」
スプリットくんが驚いたような表情を見せた。いやめっちゃいい勝負じゃん! なんでそんな悔しそうなの?
「寸止めするつもりだったんだが、まさかその前で受け止められるとはな」
「いや、この私にガードさせたことを驚け。当てさせぬつもりでいたのだがな」
「冗談キツいぜ」
「えっ」
鍔迫り合いの状態から、スプリットくんだけが膝から崩れ落ちていく。
「躱すつもりで、ムリそうだから反撃したってか? ――ふざけてるだろこのオッサン片手かよ」
「え? え?」
そのまま倒れ込み動かなくなった。何がおきたのかまったく理解できないんですけど? ってかわたしさっきから「えっ」しか言ってなくない?
倒れ伏したスプリットくんを見下ろすオジサン。その片方の手は剣をもち、もう片方の手は拳を前に突き出していた。
「スキル持ちか。ということは異邦の旅人だな?」
「ねえねえどういうこと? スキルってなに? っていうかオジサンつよくない!?」
「質問はいっこだけにしてくれ。ほら立てるだろぼーず」
「……ってーまだいてーっていうか地味にいてー」
オジサンに足で頭を小突かれ、スプリットくんはおもむろに起き上がった。
「すまんな。とっさのことで当てどころを選べなかった。まあ手加減はしたから大丈夫だろう」
「ああ、大したことない」
ぜんぜん大したことある風なんだけど? めっちゃひざガクガクしてるんですけど?
「スプリットくんだいじょーぶ?」
「気にすんな。ったくこれで手加減かよ」
「許せ。そうでもしなきゃあのまま3連撃を受けるところだった」
「5連撃だ」
「そうだな。だがそこまで仕掛けられたらこっちも力を出さざるを得んから初手で終わらせてもらった。いや、しかし若さとは良いものだ」
地面に落ちた剣を拾い上げ、それをもとの持ち主に戻す。それからオジサンはカラッとした笑みをうかべた。
「小僧のお遊びに付き合ってやろうと思ったらとんだ原石を見つけたもんだ。よし、おまえ明日からこいつの特訓につきあえ」
「え、オレが?」
「ド素人相手にはおまえくらいがちょうどいいだろう。ついでに私がおまえに直々に稽古をつけてやる。これで文句はあるまい?」
「いやまあ、いいけど、いいの?」
「ん? なにが?」
「いや、お前の訓練相手がオレで」
「うん! わたしもスプリットくんといっしょに遊びたい!」
「遊びじゃなくて訓練だろ!?」
「いーや、今のレベルじゃお遊びだな。それと小僧。おまえも基礎がなってないから徹底的に鍛えてやる覚悟しておけよ?」
「お、おうよやったろうじゃん!」
「よし、では早速はじめようか。まずは――」
それからお昼ごはんまで泥だらけになって、ごはん食べて、また泥だらけになって、ごはんを食べて、寝た。
お店の仕事もあるから、オジサンはムリしない範囲でお願いしたんだけど、スプリットくんは結局さいごまで付き合ってくれた。その結果泥だらけヒューマンがふたりになったのだけど、しんせつな宿の人おばあちゃんがふたりぶんのお水を用意してくれた。
そんな人たちに目をつけた商人のひとりが、いつの間にか食事処とベッドのおへやをつくって、ここで食べて泊まれるお宿みたいな建物を作った。商人さんたちはお金がもったいないって自前の寝袋や毛布を持ってくるみたいだけど、旅の疲れを残すのはまずい冒険者やお国のエラい人とかはこういう場所で寝泊まりしてく。ついでに食べ物もたくさんたべる。
オジサンは店主と顔なじみらしくて通常価格より安く泊まれるんだって。ってことでわたしとオジサンは、えーっと、インだっけ? とりあえずこのお宿に寝泊まりすることになりました。
で、今は何をしてるかっていうと……。
「まったく散々だな」
「ええへ」
「褒めてない。もういっかい」
「はーい!」
「返事は短くハッキリと。はぁ」
オジサンにプレゼントしてもらった短剣を片手に、わたしはオジサンと対峙してあそんでぇ、じゃなかった。えーっと戦いの訓練をしているところなのです。
はじめはとても怖かった。だって戦いってことはそういうことになるかもしれないってことでしょ? ――それなのにオジサンは「いいからこい」って無造作に構えるんだもの。
ケガしちゃうそんなのイヤイヤって駄々こねてたら、オジサンが根負けして痛くない方法で修行してまーす。
「オジサンすごい!」
「当たり前だ。っつーか遊びじゃないんだぞコレは。命のやりとりしてんだから、正面から飛びかかるだけじゃなくてもう少し考えろ……しっかしカバーで刃を潰したブツでやられては戦いにもなりやしない。これじゃ緊張感のカケラもなぁ」
なにかブツブツ言って、オジサンは手に持っていた木の棒を投げ捨てた。
「ッ!!」
「ん? ……いや、なぜ投げ捨てた木の枝を取ってきた」
「ちがうの?」
「なにが? ちょっと小休止だよ」
近場に設置したイスに座る。わたしはけっこー泥だらけなんだけど、オジサンはドロどころか些細なよごれひとつもついてない。
「ねえねえどうやってるの? わたしの攻撃ぜんぜんオジサンに当たらないんだけど?」
「攻撃っつーか飛びついてるだけだろ。もっと武器を振り回せ。そうじゃなきゃカスリもせんわ」
「確かにこりゃひどいな」
スプリットくんはわたしとオジサンの修行を静観してる。とは言っても手には剣を持っていて、いかにもウズウズしてそーな表情をしていた。
「仕込みがいがあるとはいい言葉だが……さて、このままじゃ物足りんから気休めにおまえの訓練もしてやろう」
「いいのか?」
「そのつもりで来たんだろう?」
オジサンがスプリットくんの武器を見据えて言った。スプリットくんは喜んで牙を見せた。
「よし、やろう」
ってことでわたしはこの場から退散。ゲンキなオトコの子を見守ることにしたのです。あ、ついでにお宿の人が用意してくれた水で顔を洗っておきました。
「いつでもいいぞ」
「はあ!!」
オジサンが言い終える前にスプリットくんが動き出してた。身体のはんぶんくらいの大きさのそれを鋭く振り込んでく――けどオジサンには当たらない。
「おお!」
当たらないけど、なんかオジサンが驚いてる表情をしてた。わたしにはわかる。あれは人間が喜んでるときの表情だ。
「やるな、ド素人相手の箸休めと思ってたがこれはおもしろい」
「そうかい? でもいいのかそんな余裕こいて。次の攻撃はこうはいかないぜ!!」
「えっ」
スプリットくんはいったん飛び退いて、剣を両手に構え腰を落とした。
「スキル、俊足しゅんそく」
「えっ」
なんかスプリットくん光ったんですけど?
「っしゃあ!」
「えっ」
速ッ! スプリットくん消えちゃったんですけど?
「む――ッ」
っと思った時にはもうバトってたんですけど? っていうかオジサンその攻撃も止めちゃうの!?
「……マジか」
スプリットくんが驚いたような表情を見せた。いやめっちゃいい勝負じゃん! なんでそんな悔しそうなの?
「寸止めするつもりだったんだが、まさかその前で受け止められるとはな」
「いや、この私にガードさせたことを驚け。当てさせぬつもりでいたのだがな」
「冗談キツいぜ」
「えっ」
鍔迫り合いの状態から、スプリットくんだけが膝から崩れ落ちていく。
「躱すつもりで、ムリそうだから反撃したってか? ――ふざけてるだろこのオッサン片手かよ」
「え? え?」
そのまま倒れ込み動かなくなった。何がおきたのかまったく理解できないんですけど? ってかわたしさっきから「えっ」しか言ってなくない?
倒れ伏したスプリットくんを見下ろすオジサン。その片方の手は剣をもち、もう片方の手は拳を前に突き出していた。
「スキル持ちか。ということは異邦の旅人だな?」
「ねえねえどういうこと? スキルってなに? っていうかオジサンつよくない!?」
「質問はいっこだけにしてくれ。ほら立てるだろぼーず」
「……ってーまだいてーっていうか地味にいてー」
オジサンに足で頭を小突かれ、スプリットくんはおもむろに起き上がった。
「すまんな。とっさのことで当てどころを選べなかった。まあ手加減はしたから大丈夫だろう」
「ああ、大したことない」
ぜんぜん大したことある風なんだけど? めっちゃひざガクガクしてるんですけど?
「スプリットくんだいじょーぶ?」
「気にすんな。ったくこれで手加減かよ」
「許せ。そうでもしなきゃあのまま3連撃を受けるところだった」
「5連撃だ」
「そうだな。だがそこまで仕掛けられたらこっちも力を出さざるを得んから初手で終わらせてもらった。いや、しかし若さとは良いものだ」
地面に落ちた剣を拾い上げ、それをもとの持ち主に戻す。それからオジサンはカラッとした笑みをうかべた。
「小僧のお遊びに付き合ってやろうと思ったらとんだ原石を見つけたもんだ。よし、おまえ明日からこいつの特訓につきあえ」
「え、オレが?」
「ド素人相手にはおまえくらいがちょうどいいだろう。ついでに私がおまえに直々に稽古をつけてやる。これで文句はあるまい?」
「いやまあ、いいけど、いいの?」
「ん? なにが?」
「いや、お前の訓練相手がオレで」
「うん! わたしもスプリットくんといっしょに遊びたい!」
「遊びじゃなくて訓練だろ!?」
「いーや、今のレベルじゃお遊びだな。それと小僧。おまえも基礎がなってないから徹底的に鍛えてやる覚悟しておけよ?」
「お、おうよやったろうじゃん!」
「よし、では早速はじめようか。まずは――」
それからお昼ごはんまで泥だらけになって、ごはん食べて、また泥だらけになって、ごはんを食べて、寝た。
お店の仕事もあるから、オジサンはムリしない範囲でお願いしたんだけど、スプリットくんは結局さいごまで付き合ってくれた。その結果泥だらけヒューマンがふたりになったのだけど、しんせつな宿の人おばあちゃんがふたりぶんのお水を用意してくれた。
「ウーブルブル……サムイ」
「贅沢言うな。グレースを見てみろ平気そうじゃないか」
「ワーイターノシー!」
「贅沢言うな。グレースを見てみろ平気そうじゃないか」
「ワーイターノシー!」