オトモダチは筋肉だった
だれにでもシッポ振るキャラっているよね
「サっちゃん!」
苦痛に耐える声が響き、わたしは声をあげた。
「だからその呼び方はやめろ……アタイなら、ヘーキだ」
見れば、サっちゃんは複数のマモノを身体で受け止めていた。イノシシのようなマモノ、クマさんみたいに二本足で突進するマモノ、それに――。
「あの姿は、オオカミさん?」
四つ足で素早く動き、鋭い牙で相手の喉元を捉えようとする姿。その黒い影を見たとき、わたしの背中に「こわい」とも「すごい」とも言えない感情が走った。
「ううん、そんな場合じゃないよ」
サっちゃんを助けないと! そう思った瞬間には身体が動いていて、木の上から飛び降りたわたしはその下にいたマモノの首に短剣を突き立て、その影が消滅するより早く一直線にサっちゃんのもとへ走る。
「サっちゃん!」
「構うんじゃねえ! この程度ならアタイのパワーで」
「後ろだ!」
背後からオジサンの声が届く。その言葉が耳に入った瞬間、わたしの足は反応した。
サイドステップでマモノたちの横をくぐり抜け、サっちゃんの背後に忍び寄るマモノの足を狙う。
「まだ来るぞ! 跳べ!」
「うん!」
「そのマモノは後回しだ、右手のヤツから仕留めろ!」
「はーい!」
「伏せ!」
「わん!」
「そいつはスプリットに任せてトゥーサの援護を!」
マモノの群れの間を縫うようにくぐり抜け、マモノが動く前に仕留めていく。反撃のスキも与えず、視認させないまま次々とマモノたちは黒い影となり散っていった。
(なんだろ、オジサンの指示があるとカラダがとっても軽くかんじる!)
じぶんひとりで戦ってる時では考えられない動き。それがオジサンの指示があるとここまでスムーズに動けるんだ。
「助けにきたよ!」
サっちゃんは三体のマモノを返り討ちにし、出現したそれらの中で最も大きなマモノと取っ組み合いになっていた。
見た目からしてたぶんクマのマモノ。わたしの十倍はありそうなその巨体を、サっちゃんは両手ひとつで押し合っていた。
「いらねぇ、こいつはアタイのエモノだあッ――スキル、サイドチェスト!」
サっちゃんの身体が光った。ううん、身体全体じゃなくて胸とか肩を中心に、それからマモノと組み合った手を離して、突進して、そのままマモノの身体を突き破った。
「はぁ……ハァ――アタイの筋肉もまだまだだな」
「油断するな!」
体力を使い果たし、倒れたサっちゃんにマモノが襲いかかる。
それを見た時にはもう身体が動いていた。
「あぶないッ!」
飛び込む。
背中に激痛がはしった。
「ッ!?」
「グレース! くそッ」
スプリットがそのマモノに剣を突き立て、ビーちゃんがトドメに眉間へ打ち込む。マモノが消滅して、感じていた痛みがすこしだけやわらいだ。
「ケガは?」
駆けつけたオジサンの言葉に、スプリットくんはわたしの背中を確認する。
「深くはない。治療者がいればなんとかなるぜ」
「そうか。いちど集落に戻ったほうがいいかもしれんな」
「バカやろう! なぜアタイを庇った!」
倒れ伏した状態のままサっちゃんが叫んだ。
「だって……仲良しがイチバンだもん」
「なかよしって、おまえそんな理由でアタイを庇ったのか?」
「こいつに常識は通用せんぞ、いい意味でもわるい意味でもな」
ぽかんと口を開け倒れ伏した筋肉の肩をとり、中年の戦士がなんとも言えない笑みを浮かべた。
「バカでおっちょこチョイで手に負えんが、なんとも名状しがたい魅力がある。トゥーサよ、おまえもこのお転婆をキライになれんだろう?」
「……アタイはひとりでここに放り出された。アタイが異世界人だってことも知らなかったし、アタイと同じ境遇のヤツがいることも知らなかった。ぜんぶ独りでやってきた」
差し出されたオジサンの手は借りず立ち上がる。それに表情を変えることなくオジサンは言った。
「いまもそうか?」
そう問われて、サっちゃんはバツが悪そうに視線をそらす。
「たまには、だれかにアタイの広背筋を任せるのも悪くねえ、かな」
「そうか。よかったなグレース。おともだちが増えるぞ」
「ほんとに!? やった!」
「おとも、はあ?」
「よろしくねサっちゃん!」
「だからそのサっちゃんってのは――ああもうわかったよ」
わたしが差し出した手を握り返してくれた! これでなかよくオトモダチだね!
サっちゃんの手はすごくカタくて、ゴツゴツしてて、でもとってもあったかい。ほんとうはスゴい力なんだけど、わたしの手がギュッってならないようにやさしくにぎってくれる。そんな気遣いがとてもうれしくて、わたしはおもわず筋肉に飛び込んだ。
「わーい!」
「はぁ!? ちょ、まてそこまで許した覚えはねえ!」
なんて言いつつどかさないのやさいい! ――でもサっちゃんの身体やっぱりカタいなぁ、もうちょっとぷにぷにしてたほうがいいなぁ、こんどビーちゃんで同じコトしよ。
(ん――なんだか安心したら眠気が)
「あまり動くな傷がひらくから……グレース? おいグレース!」
筋肉のぬくもりに包まれて、わたしの意識は闇に落ちていった。
苦痛に耐える声が響き、わたしは声をあげた。
「だからその呼び方はやめろ……アタイなら、ヘーキだ」
見れば、サっちゃんは複数のマモノを身体で受け止めていた。イノシシのようなマモノ、クマさんみたいに二本足で突進するマモノ、それに――。
「あの姿は、オオカミさん?」
四つ足で素早く動き、鋭い牙で相手の喉元を捉えようとする姿。その黒い影を見たとき、わたしの背中に「こわい」とも「すごい」とも言えない感情が走った。
「ううん、そんな場合じゃないよ」
サっちゃんを助けないと! そう思った瞬間には身体が動いていて、木の上から飛び降りたわたしはその下にいたマモノの首に短剣を突き立て、その影が消滅するより早く一直線にサっちゃんのもとへ走る。
「サっちゃん!」
「構うんじゃねえ! この程度ならアタイのパワーで」
「後ろだ!」
背後からオジサンの声が届く。その言葉が耳に入った瞬間、わたしの足は反応した。
サイドステップでマモノたちの横をくぐり抜け、サっちゃんの背後に忍び寄るマモノの足を狙う。
「まだ来るぞ! 跳べ!」
「うん!」
「そのマモノは後回しだ、右手のヤツから仕留めろ!」
「はーい!」
「伏せ!」
「わん!」
「そいつはスプリットに任せてトゥーサの援護を!」
マモノの群れの間を縫うようにくぐり抜け、マモノが動く前に仕留めていく。反撃のスキも与えず、視認させないまま次々とマモノたちは黒い影となり散っていった。
(なんだろ、オジサンの指示があるとカラダがとっても軽くかんじる!)
じぶんひとりで戦ってる時では考えられない動き。それがオジサンの指示があるとここまでスムーズに動けるんだ。
「助けにきたよ!」
サっちゃんは三体のマモノを返り討ちにし、出現したそれらの中で最も大きなマモノと取っ組み合いになっていた。
見た目からしてたぶんクマのマモノ。わたしの十倍はありそうなその巨体を、サっちゃんは両手ひとつで押し合っていた。
「いらねぇ、こいつはアタイのエモノだあッ――スキル、サイドチェスト!」
サっちゃんの身体が光った。ううん、身体全体じゃなくて胸とか肩を中心に、それからマモノと組み合った手を離して、突進して、そのままマモノの身体を突き破った。
「はぁ……ハァ――アタイの筋肉もまだまだだな」
「油断するな!」
体力を使い果たし、倒れたサっちゃんにマモノが襲いかかる。
それを見た時にはもう身体が動いていた。
「あぶないッ!」
飛び込む。
背中に激痛がはしった。
「ッ!?」
「グレース! くそッ」
スプリットがそのマモノに剣を突き立て、ビーちゃんがトドメに眉間へ打ち込む。マモノが消滅して、感じていた痛みがすこしだけやわらいだ。
「ケガは?」
駆けつけたオジサンの言葉に、スプリットくんはわたしの背中を確認する。
「深くはない。治療者がいればなんとかなるぜ」
「そうか。いちど集落に戻ったほうがいいかもしれんな」
「バカやろう! なぜアタイを庇った!」
倒れ伏した状態のままサっちゃんが叫んだ。
「だって……仲良しがイチバンだもん」
「なかよしって、おまえそんな理由でアタイを庇ったのか?」
「こいつに常識は通用せんぞ、いい意味でもわるい意味でもな」
ぽかんと口を開け倒れ伏した筋肉の肩をとり、中年の戦士がなんとも言えない笑みを浮かべた。
「バカでおっちょこチョイで手に負えんが、なんとも名状しがたい魅力がある。トゥーサよ、おまえもこのお転婆をキライになれんだろう?」
「……アタイはひとりでここに放り出された。アタイが異世界人だってことも知らなかったし、アタイと同じ境遇のヤツがいることも知らなかった。ぜんぶ独りでやってきた」
差し出されたオジサンの手は借りず立ち上がる。それに表情を変えることなくオジサンは言った。
「いまもそうか?」
そう問われて、サっちゃんはバツが悪そうに視線をそらす。
「たまには、だれかにアタイの広背筋を任せるのも悪くねえ、かな」
「そうか。よかったなグレース。おともだちが増えるぞ」
「ほんとに!? やった!」
「おとも、はあ?」
「よろしくねサっちゃん!」
「だからそのサっちゃんってのは――ああもうわかったよ」
わたしが差し出した手を握り返してくれた! これでなかよくオトモダチだね!
サっちゃんの手はすごくカタくて、ゴツゴツしてて、でもとってもあったかい。ほんとうはスゴい力なんだけど、わたしの手がギュッってならないようにやさしくにぎってくれる。そんな気遣いがとてもうれしくて、わたしはおもわず筋肉に飛び込んだ。
「わーい!」
「はぁ!? ちょ、まてそこまで許した覚えはねえ!」
なんて言いつつどかさないのやさいい! ――でもサっちゃんの身体やっぱりカタいなぁ、もうちょっとぷにぷにしてたほうがいいなぁ、こんどビーちゃんで同じコトしよ。
(ん――なんだか安心したら眠気が)
「あまり動くな傷がひらくから……グレース? おいグレース!」
筋肉のぬくもりに包まれて、わたしの意識は闇に落ちていった。