トランスファー
オリジナルへの変身は変身というのだろうか?
で、目がさめた。
小鳥がチュンチュンいってる。夜よりあったかくなった風が隙間に入ってきて、身体が熱を生み出してくのがわかる。
朝だ。
「んぁ」
野宿歴はざっと五日ほど。わりとヘーキって言えばヘーキなんだけど、やっぱり地面がやわらかいほうが何倍も気持ちいい。こんなことになるならキャンプを趣味にしとけばよかったななんて思ったり。
そーいえばというか、これまでの旅路で雨ざらしになったことがない。単純に運がいいのかそういう季節じゃないのかわからないけど、雨の場合はどうするんだろう? オジサンがいつも背負ってるヒミツ道具一式になにかあるのだろうか?
「まだ起きるには早いぞ? もうすこし寝てなさい」
もぞっと動き出したことに気づいたのか、頭上から夜の番をしてたオジサンが覗き込んでくる。そんなオジサンの言葉を右から左へ受け流しつつ、わたしは寝袋のぬくもりに別れを告げた。
「おはよー」
うーんさむい。
うんと背伸び。早朝の日差しがまっすぐ伸びてきて、わたしの前身を白く染め上げる。もくっとしたしろい雲、そんで真っ青なお空にかこまれて、新しい一日が始まったことを教えてくれる。
(なんだったんだろう?)
ヘンな夢だったなぁ。両手をたかーく上げながらそう思う。
あの犬はなんだったんだろう? っていうかチートくれるって言ってたよね? じゃああの犬がウワサに聞く"異世界転生のさいしょに主人公にチート能力をくれる神様的ポジションのヤツ"なのかな?
「なんか手伝う?」
「まだ寝てろって。まあいい、じゃあその木に水をかけといてくれ」
「はーい」
焚き火に使ってた薪に水をかける。すでに燃え尽きてまっくろくろすけになってたけど、オジサンはいつも念には念をって言ってる。魔法使いがいれば楽なんだけどなぁとも。
明かりがあるってメチャべんりだよね。
「さて、あとはネボスケを叩き起こすだけだな」
サっちゃんは早朝トレーニングだって石を持ち上げてた。ビーちゃんはいま弓の手入れをしてる。ってことで遅刻魔さんはだれでしょう?
「スプリットくーんあさだよー!!」
「――ぅぅぅんんるせー」
むくり。そんな感じで寝袋が動いた。
「そいつを畳めばおわりだ。さっさと行くぞ――ん?」
「どしたのオジサン?」
オジサンが訝しげな表情をする。その視線の先に、くろくてモヤッとしたものが浮かんでいた。
「なんだ、アレは」
はじめは存在感が希薄だった。けど時間を追うごとに色が濃くなって、しっかりとした形になってって。
「まさか――スプリット剣をとれ!」
明らかな声色に、スプリットくんは飛び起きて獲物を手に取った。ビーちゃんはすでに戦う構えをとっていて、サっちゃんは凝縮していく影を興味深そうに見つめている。
やがれソレはひとつの形になった。
(これが、夢の犬が言ってたモンスター?)
ってかマモノじゃん! ちっこいのからデッカいのまで約五匹!
「数は少ない。速攻でカタを付けるぞ!」
間髪入れずバトル開始! まずはオジサンが直近のマモノに刃を入れた――いれ、え、入ってない?
「なんだこいつは?」
瞬迅でマモノを細切れにするはずの剣が、今はマモノの表面に留まっている。
(ううん、ちがう)
触れてない。マモノに触れる直前にナゾのバリアみたいなのがある感じ。イノシシのようなマモノの額を貫くことができない。
「スプリット!」
「わぁってるよ!」
マモノは異世界人の攻撃に弱い。熟練の戦士が飛び退いた隙間を縫って少年が鋭く剣を突き立てる。
キィィィィン。
遠く響き渡る音をたて、その刃先はモンスターの目前で停止した。
「なんだコイツは! 今までのマモノとちげーぞ!」
「武器が通じぬマモノなど私も見たことがない」
「だったらコレでどうだあ!!」
サっちゃんがマモノに突進する。それは剣と同じく、目前でナゾの壁に遮られたけど、サっちゃんはそんなもので止まらなかった。
「うおおおらあああ!!」
両手でマモノを包み、触れられぬ中マモノを持ち上げ、そのまま投げ飛ばす。
ズドンと音を立てて黒い影が落下する。でもダメージを受けた様子はない。
「クソッ、なんだコイツらは」
「矢も弾かれる! まて、そっちに新手がいるぞ!」
遠くでそんな声が聞こえた。ビーちゃんの示す先、そこにはもう一匹のマモノがいて――人の形をしていた。
「人間のマモノだと!?」
オジサンの目が驚愕に見開かれる。人間の形をしたソレは一本の杖を持っていて、それを天にかざすと光が溢れ出した。
「グゥ!」
「スプリット! クッ、重力の魔法か」
マモノに最も接近していたスプリットくんの身体が地面に崩れ落ちた。オジサンやサっちゃんもヒザをつき耐えている。
「グレース、ヤツに近づくな。影響範囲に入ればお前も同じことになる」
「で、でもどうすれば」
その問いに、歯を食いしばったオジサンは答えてくれなかった。
(ねえ犬さん! これがそのモンスターなの!? こんなのチュートリアルの強さじゃないよ!)
戦闘バランスわるすぎだよ! これじゃパーティ全滅しちゃうじゃん。
(そうだ、スキルを使うんだ! でもどうやって?)
必殺技コマンド? でもわたし俊足しか使えないしメッチャ必死だったからどう使えばいいかわかんなかったし。
(でもでも今やんないとみんなが! はやくどうにかしないと!)
きあいだ気合! きあいがあればなんでもできるんだ!!
「おらあああああああ!」
「バカに叫んでんじゃねえ! さっさと逃げろ!」
「いやちょっと待て。グレースおまえ身体が」
(なんか知らないけどアツくなってきたああああああ!)
「スキル、変身」
よっしゃいっちょやったるぞ!
小鳥がチュンチュンいってる。夜よりあったかくなった風が隙間に入ってきて、身体が熱を生み出してくのがわかる。
朝だ。
「んぁ」
野宿歴はざっと五日ほど。わりとヘーキって言えばヘーキなんだけど、やっぱり地面がやわらかいほうが何倍も気持ちいい。こんなことになるならキャンプを趣味にしとけばよかったななんて思ったり。
そーいえばというか、これまでの旅路で雨ざらしになったことがない。単純に運がいいのかそういう季節じゃないのかわからないけど、雨の場合はどうするんだろう? オジサンがいつも背負ってるヒミツ道具一式になにかあるのだろうか?
「まだ起きるには早いぞ? もうすこし寝てなさい」
もぞっと動き出したことに気づいたのか、頭上から夜の番をしてたオジサンが覗き込んでくる。そんなオジサンの言葉を右から左へ受け流しつつ、わたしは寝袋のぬくもりに別れを告げた。
「おはよー」
うーんさむい。
うんと背伸び。早朝の日差しがまっすぐ伸びてきて、わたしの前身を白く染め上げる。もくっとしたしろい雲、そんで真っ青なお空にかこまれて、新しい一日が始まったことを教えてくれる。
(なんだったんだろう?)
ヘンな夢だったなぁ。両手をたかーく上げながらそう思う。
あの犬はなんだったんだろう? っていうかチートくれるって言ってたよね? じゃああの犬がウワサに聞く"異世界転生のさいしょに主人公にチート能力をくれる神様的ポジションのヤツ"なのかな?
「なんか手伝う?」
「まだ寝てろって。まあいい、じゃあその木に水をかけといてくれ」
「はーい」
焚き火に使ってた薪に水をかける。すでに燃え尽きてまっくろくろすけになってたけど、オジサンはいつも念には念をって言ってる。魔法使いがいれば楽なんだけどなぁとも。
明かりがあるってメチャべんりだよね。
「さて、あとはネボスケを叩き起こすだけだな」
サっちゃんは早朝トレーニングだって石を持ち上げてた。ビーちゃんはいま弓の手入れをしてる。ってことで遅刻魔さんはだれでしょう?
「スプリットくーんあさだよー!!」
「――ぅぅぅんんるせー」
むくり。そんな感じで寝袋が動いた。
「そいつを畳めばおわりだ。さっさと行くぞ――ん?」
「どしたのオジサン?」
オジサンが訝しげな表情をする。その視線の先に、くろくてモヤッとしたものが浮かんでいた。
「なんだ、アレは」
はじめは存在感が希薄だった。けど時間を追うごとに色が濃くなって、しっかりとした形になってって。
「まさか――スプリット剣をとれ!」
明らかな声色に、スプリットくんは飛び起きて獲物を手に取った。ビーちゃんはすでに戦う構えをとっていて、サっちゃんは凝縮していく影を興味深そうに見つめている。
やがれソレはひとつの形になった。
(これが、夢の犬が言ってたモンスター?)
ってかマモノじゃん! ちっこいのからデッカいのまで約五匹!
「数は少ない。速攻でカタを付けるぞ!」
間髪入れずバトル開始! まずはオジサンが直近のマモノに刃を入れた――いれ、え、入ってない?
「なんだこいつは?」
瞬迅でマモノを細切れにするはずの剣が、今はマモノの表面に留まっている。
(ううん、ちがう)
触れてない。マモノに触れる直前にナゾのバリアみたいなのがある感じ。イノシシのようなマモノの額を貫くことができない。
「スプリット!」
「わぁってるよ!」
マモノは異世界人の攻撃に弱い。熟練の戦士が飛び退いた隙間を縫って少年が鋭く剣を突き立てる。
キィィィィン。
遠く響き渡る音をたて、その刃先はモンスターの目前で停止した。
「なんだコイツは! 今までのマモノとちげーぞ!」
「武器が通じぬマモノなど私も見たことがない」
「だったらコレでどうだあ!!」
サっちゃんがマモノに突進する。それは剣と同じく、目前でナゾの壁に遮られたけど、サっちゃんはそんなもので止まらなかった。
「うおおおらあああ!!」
両手でマモノを包み、触れられぬ中マモノを持ち上げ、そのまま投げ飛ばす。
ズドンと音を立てて黒い影が落下する。でもダメージを受けた様子はない。
「クソッ、なんだコイツらは」
「矢も弾かれる! まて、そっちに新手がいるぞ!」
遠くでそんな声が聞こえた。ビーちゃんの示す先、そこにはもう一匹のマモノがいて――人の形をしていた。
「人間のマモノだと!?」
オジサンの目が驚愕に見開かれる。人間の形をしたソレは一本の杖を持っていて、それを天にかざすと光が溢れ出した。
「グゥ!」
「スプリット! クッ、重力の魔法か」
マモノに最も接近していたスプリットくんの身体が地面に崩れ落ちた。オジサンやサっちゃんもヒザをつき耐えている。
「グレース、ヤツに近づくな。影響範囲に入ればお前も同じことになる」
「で、でもどうすれば」
その問いに、歯を食いしばったオジサンは答えてくれなかった。
(ねえ犬さん! これがそのモンスターなの!? こんなのチュートリアルの強さじゃないよ!)
戦闘バランスわるすぎだよ! これじゃパーティ全滅しちゃうじゃん。
(そうだ、スキルを使うんだ! でもどうやって?)
必殺技コマンド? でもわたし俊足しか使えないしメッチャ必死だったからどう使えばいいかわかんなかったし。
(でもでも今やんないとみんなが! はやくどうにかしないと!)
きあいだ気合! きあいがあればなんでもできるんだ!!
「おらあああああああ!」
「バカに叫んでんじゃねえ! さっさと逃げろ!」
「いやちょっと待て。グレースおまえ身体が」
(なんか知らないけどアツくなってきたああああああ!)
「スキル、変身」
よっしゃいっちょやったるぞ!