情報収集
いっそ前衛ばかりにしてみては?
オジサンはわたしたちを見回してこう言った。
「パーティーのバランスが悪すぎだろ。前衛がひとりふたり、さんにん」
自分とスプリットくん、そしてサっちゃんを順に指差す。
「弓兵」
ビーちゃん。
「んで隠密できない騒がしい隠密」
「ちょっと」
わたしだけ扱いひどくない?
「魔術師もヒーラーもいない。こんなんじゃなんともなぁ」
「べつにいーじゃん。アインマラハは治安いーだろ?」
「イエス、と言いたいがどうもきな臭くてなぁ」
平和が祖国の数少ない誇りだったのに……みたいな顔したオジサンがいる。
「おまえの腕をこうしたヤツの素性がわからん。それに、近頃はあまりにもマモノの出現が多すぎる」
「あのクソヤローが黒幕か?」
「それは気が早いぞトゥーサ。しかしまったく関係ないと言い切れんから、そういった情報収集も兼ねて酒場に来たってワケだ。もしかしたら、仕事を探してるノラヒーラーがいるかもしれん」
「なんだよノラヒーラーって」
「とにかく入ってみようか、ついでに久しぶりのマトモなメシにありつこう!」
ガラガラと引き戸を開けて、オジサンは酒場の門をくぐる。目の前にある白いのれんを馴れた手つきで翻しながら。
「やってるかい?」
(……ここ日本じゃね?)
たぶん、みんなも同じ感想だったと思う。
なんで内装がヨーロッパ風なんだよ!
同じ木造りなのにこうも違うのか。まるいテーブルにイスがよっつ、そのセットがひろびろとした空間にいくつかあり、そのスペースの先には入口から見えやすい場所にバーカウンターがある。
石壁にはいくつかの棚があって、そこにはところ狭しといろんな種類のボトルが並べられていた。酒場っていうからにはアルコールなんだろうね。
(あ、でもあれオレンジ色してる。ジュースかな?)
昼間なのにすっごいアルコール臭がするぅ~……あれ、なんでわたし酒のニオイ知ってるんだろう?
オジサンは馴れた様子で「これとこれとこれを頼む」なんて次々と注文してた。んで隣のテーブルでガハハと笑ってるいかつい男の人に話しかけたり、そのまま席を立ってカウンターの向こう側にいる人と言葉をかわしたり、また次の瞬間にはべつの人とジョッキをぶつけて笑い合ってる。
「ほんっとフットワーク軽ぃなあのオッサンは」
「わたしたちは何すればいーの?」
「何も必要ないだろう? チャールズ殿が帰ってくるまで待とう」
「その前にごちそうをかっ喰らうとするか」
サっちゃんが飢えた獣みたいな目してる。そんなタイミングで、お盆にいろいろな料理を抱えたおねーさんがやってきた。
「さぁーてどんなのが? ――ああ」
テーブルに広げられた料理に目を輝かせて、たと思ったのに急にどうした? 割れた電球みたいにいきなり光が失われたぞ?
「こんな炭水化物ばっかの食い物じゃあ筋肉が喜ばねぇ……」
「エネルギーは必要だろう?」
「ビシェル、ちがうんだ。確かに炭水化物は必要だがそうじゃない……チキンはないのかい?」
「ごめんなさい、鶏肉はいま品切れ中なの」
「そうかぁ」
筋肉がしぼんだ気がした。
「どうした、食わんのか?」
いろいろ済ませたっぽいオジサンが隣のテーブルからひとつイスを拝借し、そのままパンに手を出した。
んでスープにつっこんで口に運ぶ。
「おおうまい」
「えっ」
引くわー、なんてちょっぴり思ったけど、この世界はコレが普通なのかな?
「行儀が悪いですよチャールズ殿」
「異世界だとダメなのか? 故郷じゃずっとコレだったんだけどなぁ」
言いながらジョッキをグイッとする。
呆れと戸惑いのグラデーションに耐えてるビーちゃんはさておき、わたしとスプリットくんはふつうにおいしくいただいております。
「メシはいいけど教会に行かないか? さっさとコレを治したいんだよ」
負傷した腕を見せる。マモノと戦った影響なのか、以前より傷口が大きくなってる気がする。
でもぜんぜんヘーキそう。っていうか実際ここまで問題なく来られたわけだし。
「はやく教会に行きたいって、スプリットくんがいちばん食べてるじゃん」
「キズを治すには食うしかねーだろ?」
「じゃあそこに寄せてる緑色はなにかなー?」
「はぁ? そんなのカンケーねーじゃん! そんなこと言ってるなら――それもーらい」
「あ! それ最後にってとっといたのに!」
「子どもみたいなことするな。それよりいい情報を手に入れたんだ」
オジサンは飲み物(たぶんお酒)を飲み干した。
「その教会に異世界人がいる。つい最近、つっても数ヶ月前の話だそうだが、そいつは治療の魔法を心得てるそうだ。積極的に人々を癒やすため活動してて町中じゃけっこう有名らしい」
「だからなんだ」
「新しい仲間として最適だと思わないか?」
「それこそ早計ではないですか?」
ビーちゃんがオジサンの演説に待ったをかける。
「その人は教会に所属しているのでしょう? おなじ異世界人だからといってこちらに付いてきてくれるかどうかは」
「はじめから諦めてたら何もはじまらん。どの道スプリットの治療も必要だろう?」
「それは、まあそうですが」
「確率は低そうだね」
しぶしぶといった感じでパンを食べ始めたサっちゃん。それでも筋肉さんはちょっぴり喜んでるようです。
「ダメだったときはどうするんだい?」
「そのときはそのときで考えればいい。いずれにしても次の行動は決まったな。さあ食うぞ! 今日は私のおごりだ」
「おかね持ってるのオジサンだけでしょ」
わたしはパンを食べた。
あとスープも飲んだ。
あと、なんかサっちゃんの要望で注文したおにくでしょ、野菜とジャガイモみたいなのを煮込んだのでしょ、あとパンとジュースと――あれ?
(もしかしてわたしがイチバン食べてる?)
「パーティーのバランスが悪すぎだろ。前衛がひとりふたり、さんにん」
自分とスプリットくん、そしてサっちゃんを順に指差す。
「弓兵」
ビーちゃん。
「んで隠密できない騒がしい隠密」
「ちょっと」
わたしだけ扱いひどくない?
「魔術師もヒーラーもいない。こんなんじゃなんともなぁ」
「べつにいーじゃん。アインマラハは治安いーだろ?」
「イエス、と言いたいがどうもきな臭くてなぁ」
平和が祖国の数少ない誇りだったのに……みたいな顔したオジサンがいる。
「おまえの腕をこうしたヤツの素性がわからん。それに、近頃はあまりにもマモノの出現が多すぎる」
「あのクソヤローが黒幕か?」
「それは気が早いぞトゥーサ。しかしまったく関係ないと言い切れんから、そういった情報収集も兼ねて酒場に来たってワケだ。もしかしたら、仕事を探してるノラヒーラーがいるかもしれん」
「なんだよノラヒーラーって」
「とにかく入ってみようか、ついでに久しぶりのマトモなメシにありつこう!」
ガラガラと引き戸を開けて、オジサンは酒場の門をくぐる。目の前にある白いのれんを馴れた手つきで翻しながら。
「やってるかい?」
(……ここ日本じゃね?)
たぶん、みんなも同じ感想だったと思う。
なんで内装がヨーロッパ風なんだよ!
同じ木造りなのにこうも違うのか。まるいテーブルにイスがよっつ、そのセットがひろびろとした空間にいくつかあり、そのスペースの先には入口から見えやすい場所にバーカウンターがある。
石壁にはいくつかの棚があって、そこにはところ狭しといろんな種類のボトルが並べられていた。酒場っていうからにはアルコールなんだろうね。
(あ、でもあれオレンジ色してる。ジュースかな?)
昼間なのにすっごいアルコール臭がするぅ~……あれ、なんでわたし酒のニオイ知ってるんだろう?
オジサンは馴れた様子で「これとこれとこれを頼む」なんて次々と注文してた。んで隣のテーブルでガハハと笑ってるいかつい男の人に話しかけたり、そのまま席を立ってカウンターの向こう側にいる人と言葉をかわしたり、また次の瞬間にはべつの人とジョッキをぶつけて笑い合ってる。
「ほんっとフットワーク軽ぃなあのオッサンは」
「わたしたちは何すればいーの?」
「何も必要ないだろう? チャールズ殿が帰ってくるまで待とう」
「その前にごちそうをかっ喰らうとするか」
サっちゃんが飢えた獣みたいな目してる。そんなタイミングで、お盆にいろいろな料理を抱えたおねーさんがやってきた。
「さぁーてどんなのが? ――ああ」
テーブルに広げられた料理に目を輝かせて、たと思ったのに急にどうした? 割れた電球みたいにいきなり光が失われたぞ?
「こんな炭水化物ばっかの食い物じゃあ筋肉が喜ばねぇ……」
「エネルギーは必要だろう?」
「ビシェル、ちがうんだ。確かに炭水化物は必要だがそうじゃない……チキンはないのかい?」
「ごめんなさい、鶏肉はいま品切れ中なの」
「そうかぁ」
筋肉がしぼんだ気がした。
「どうした、食わんのか?」
いろいろ済ませたっぽいオジサンが隣のテーブルからひとつイスを拝借し、そのままパンに手を出した。
んでスープにつっこんで口に運ぶ。
「おおうまい」
「えっ」
引くわー、なんてちょっぴり思ったけど、この世界はコレが普通なのかな?
「行儀が悪いですよチャールズ殿」
「異世界だとダメなのか? 故郷じゃずっとコレだったんだけどなぁ」
言いながらジョッキをグイッとする。
呆れと戸惑いのグラデーションに耐えてるビーちゃんはさておき、わたしとスプリットくんはふつうにおいしくいただいております。
「メシはいいけど教会に行かないか? さっさとコレを治したいんだよ」
負傷した腕を見せる。マモノと戦った影響なのか、以前より傷口が大きくなってる気がする。
でもぜんぜんヘーキそう。っていうか実際ここまで問題なく来られたわけだし。
「はやく教会に行きたいって、スプリットくんがいちばん食べてるじゃん」
「キズを治すには食うしかねーだろ?」
「じゃあそこに寄せてる緑色はなにかなー?」
「はぁ? そんなのカンケーねーじゃん! そんなこと言ってるなら――それもーらい」
「あ! それ最後にってとっといたのに!」
「子どもみたいなことするな。それよりいい情報を手に入れたんだ」
オジサンは飲み物(たぶんお酒)を飲み干した。
「その教会に異世界人がいる。つい最近、つっても数ヶ月前の話だそうだが、そいつは治療の魔法を心得てるそうだ。積極的に人々を癒やすため活動してて町中じゃけっこう有名らしい」
「だからなんだ」
「新しい仲間として最適だと思わないか?」
「それこそ早計ではないですか?」
ビーちゃんがオジサンの演説に待ったをかける。
「その人は教会に所属しているのでしょう? おなじ異世界人だからといってこちらに付いてきてくれるかどうかは」
「はじめから諦めてたら何もはじまらん。どの道スプリットの治療も必要だろう?」
「それは、まあそうですが」
「確率は低そうだね」
しぶしぶといった感じでパンを食べ始めたサっちゃん。それでも筋肉さんはちょっぴり喜んでるようです。
「ダメだったときはどうするんだい?」
「そのときはそのときで考えればいい。いずれにしても次の行動は決まったな。さあ食うぞ! 今日は私のおごりだ」
「おかね持ってるのオジサンだけでしょ」
わたしはパンを食べた。
あとスープも飲んだ。
あと、なんかサっちゃんの要望で注文したおにくでしょ、野菜とジャガイモみたいなのを煮込んだのでしょ、あとパンとジュースと――あれ?
(もしかしてわたしがイチバン食べてる?)