ザ・中世ヨーロッパな村
ってどんな村?
「うわー、なんかすっごい安心感」
だってさ、やっと異世界っぽいというかザ・中世ヨーロッパみたいな村と出会えたんだもん。
緑豊かなばしょに木造建築がぽつぽつ。砂や土の道にところどころ四角く切った石の壁。あっちこっちに畑があって、遠くからはなんかどうぶつの鳴き声が聞こえる。めえめえって。
「ここはランカスター。のどかな村だが、なかなか良い作物が育つ場所として有名だ」
名前もふつーだ! なにがってきかれてもわからないけどとにかくふつーだ!
「チャールズさま、さいしょに教会に向かってはくれませんか?」
「だから、そうかしこまった言い方はしなくていいと。ふつうにチャールズと呼んでくれ。なんだったらオジサンでもかまわんぞ?」
「そうはいきません。あたしは単なる同行者ですから」
言って、グウェンちゃんはみんなより一歩前へ踏み出した。
「以前来たことがあるので、ご案内します」
教会のひとと知り合いだってことで、わたしたちは教会に一泊させてくれることになりました。
グウェンちゃんはみんなから歓迎された。以前、アニスさんといっしょに村で慈善活動をしてて、そのときの活躍がすごかったんだって。
それはもうちぎっては投げちぎっては投げぇ、じゃなくて村のひとたちをすみから隅まで訪ねて、できる限り救いの手を差し伸べたとか。困ってる人をたすけるのっていいことだよね!
わたしたちは教会の部屋をひとつ貸してもらい、そこに各自の荷物を置いた。修道院の人に割り当てられる部屋らしく、ひとつの大きな部屋にベッドがむっつ置いてあるだけのシンプルなつくりだった。
ズシンという音をたて、サっちゃんが「お気に入りだ」と言って持ち込んだ石を地面に置く。ちょっとヒマさえあれば持ち上げたり背中に乗せて腕立て伏せをしたり、もうなんだかボールがきょうだいって感じ? いや石だけど。
「この村にはどのくらい滞在するつもりなんだい?」
「ただの骨休めだ。必要なものを買い込んだらすぐ出立するつもりだが、まあ酒場次第だな」
「はぁ?」
スプリットくんが合点がいかない表情を返す。
「情報収集、あとこの村はラム肉がうまいんだ。普段はメッタにお目にかかれんだけにこの機会は逃したくないだろ?」
「へえ、ラム肉か……どんな味なんだろ?」
「え、スプリットくんラム肉食べたことないの?」
「そういうおまえはどうなんだ? グレース」
「わたしはぁ……わかんない」
「なんだよそれ」
「トリ肉はないのかい?」
「もちろんあるだろ。だがたまには羊も食ってみろ、頬がとろけるぞ?」
「私は食べられるものならなんでも。キミはどうする?」
今夜の食卓について話し合ってるなか、ビーちゃんが部屋のすみっこでごそごそしてる小さな女の子にたずねた。
「みなさんに任せます。では、あたしはしなければならないことがあるので」
言って、グウェンちゃんはスンとした態度で部屋の出口に向かう。その姿をオジサンはじっと見送り、まったをかけたのはスプリットくんだった。
「ドコ行くんだよ」
「救いを求めてる人々に手を差し伸べてくるのです」
「到着してそうそうにか? 熱心だな」
「教会に務める身としてとうぜんです」
小さな少女のうでにはかごがひとつ。薬草にそれを混ぜるおさら、布にガラスの容器もある。
(……どんなことしてるのかな?)
「ねえ、わたしもついてっていい?」
「え」
とまどい、困惑、そんなかんじの目だった。
「なぜですか?」
「んー、なんとなくじゃダメ?」
「いえ、べつに、いいですけど」
そんなこと言われるとは思ってなかった。たぶんグウェンちゃんはこのことばを飲み込んだとおもう。それをフォローするようにオジサンが言った。
「グレースはいつも突拍子もない行動にでるな……せっかくだ、この騒がしいのもいっしょに連れてってやれんか?」
ちょっと考えて、少女はぽつりとつぶやいた。
「まあ、どうしてもと言うのなら」
「決まりだな。スプリット、おまえはちょっと買い物に付き合え。ビシェルとトゥーサは何か頼み事はあるか?」
「ない」
「そういうのはコッチで勝手に済ませとくよ」
「では、先に失礼します」
「あ、まって!」
扉を開け外に出ていく少女を追いかけ、わたしはベッドから立ち上がる。この村でもオトモダチができればいいなとか、グウェンちゃんはいつもどんな活動をしてるのかなとか、いろいろ考えることはあるんだけど。
(うーん)
アニスさんといっしょに人助けをするグウェンちゃんは、感謝のことばに安心したかのように笑顔を見せる。
それはいいことなんだけど、でもときどき、ちょっとだけ普段とは別の表情をつくることがある。
(なんでグウェンちゃんはあんな――)
人に手を差し伸べて、感謝されて、笑顔を向けられる。
お互いうれしい気持ちになるはずなのに、彼女が見せるそれは"うれしい"とはまったくちがう。なんでグウェンちゃんは――。
(不安そうな顔をするの?)
だってさ、やっと異世界っぽいというかザ・中世ヨーロッパみたいな村と出会えたんだもん。
緑豊かなばしょに木造建築がぽつぽつ。砂や土の道にところどころ四角く切った石の壁。あっちこっちに畑があって、遠くからはなんかどうぶつの鳴き声が聞こえる。めえめえって。
「ここはランカスター。のどかな村だが、なかなか良い作物が育つ場所として有名だ」
名前もふつーだ! なにがってきかれてもわからないけどとにかくふつーだ!
「チャールズさま、さいしょに教会に向かってはくれませんか?」
「だから、そうかしこまった言い方はしなくていいと。ふつうにチャールズと呼んでくれ。なんだったらオジサンでもかまわんぞ?」
「そうはいきません。あたしは単なる同行者ですから」
言って、グウェンちゃんはみんなより一歩前へ踏み出した。
「以前来たことがあるので、ご案内します」
教会のひとと知り合いだってことで、わたしたちは教会に一泊させてくれることになりました。
グウェンちゃんはみんなから歓迎された。以前、アニスさんといっしょに村で慈善活動をしてて、そのときの活躍がすごかったんだって。
それはもうちぎっては投げちぎっては投げぇ、じゃなくて村のひとたちをすみから隅まで訪ねて、できる限り救いの手を差し伸べたとか。困ってる人をたすけるのっていいことだよね!
わたしたちは教会の部屋をひとつ貸してもらい、そこに各自の荷物を置いた。修道院の人に割り当てられる部屋らしく、ひとつの大きな部屋にベッドがむっつ置いてあるだけのシンプルなつくりだった。
ズシンという音をたて、サっちゃんが「お気に入りだ」と言って持ち込んだ石を地面に置く。ちょっとヒマさえあれば持ち上げたり背中に乗せて腕立て伏せをしたり、もうなんだかボールがきょうだいって感じ? いや石だけど。
「この村にはどのくらい滞在するつもりなんだい?」
「ただの骨休めだ。必要なものを買い込んだらすぐ出立するつもりだが、まあ酒場次第だな」
「はぁ?」
スプリットくんが合点がいかない表情を返す。
「情報収集、あとこの村はラム肉がうまいんだ。普段はメッタにお目にかかれんだけにこの機会は逃したくないだろ?」
「へえ、ラム肉か……どんな味なんだろ?」
「え、スプリットくんラム肉食べたことないの?」
「そういうおまえはどうなんだ? グレース」
「わたしはぁ……わかんない」
「なんだよそれ」
「トリ肉はないのかい?」
「もちろんあるだろ。だがたまには羊も食ってみろ、頬がとろけるぞ?」
「私は食べられるものならなんでも。キミはどうする?」
今夜の食卓について話し合ってるなか、ビーちゃんが部屋のすみっこでごそごそしてる小さな女の子にたずねた。
「みなさんに任せます。では、あたしはしなければならないことがあるので」
言って、グウェンちゃんはスンとした態度で部屋の出口に向かう。その姿をオジサンはじっと見送り、まったをかけたのはスプリットくんだった。
「ドコ行くんだよ」
「救いを求めてる人々に手を差し伸べてくるのです」
「到着してそうそうにか? 熱心だな」
「教会に務める身としてとうぜんです」
小さな少女のうでにはかごがひとつ。薬草にそれを混ぜるおさら、布にガラスの容器もある。
(……どんなことしてるのかな?)
「ねえ、わたしもついてっていい?」
「え」
とまどい、困惑、そんなかんじの目だった。
「なぜですか?」
「んー、なんとなくじゃダメ?」
「いえ、べつに、いいですけど」
そんなこと言われるとは思ってなかった。たぶんグウェンちゃんはこのことばを飲み込んだとおもう。それをフォローするようにオジサンが言った。
「グレースはいつも突拍子もない行動にでるな……せっかくだ、この騒がしいのもいっしょに連れてってやれんか?」
ちょっと考えて、少女はぽつりとつぶやいた。
「まあ、どうしてもと言うのなら」
「決まりだな。スプリット、おまえはちょっと買い物に付き合え。ビシェルとトゥーサは何か頼み事はあるか?」
「ない」
「そういうのはコッチで勝手に済ませとくよ」
「では、先に失礼します」
「あ、まって!」
扉を開け外に出ていく少女を追いかけ、わたしはベッドから立ち上がる。この村でもオトモダチができればいいなとか、グウェンちゃんはいつもどんな活動をしてるのかなとか、いろいろ考えることはあるんだけど。
(うーん)
アニスさんといっしょに人助けをするグウェンちゃんは、感謝のことばに安心したかのように笑顔を見せる。
それはいいことなんだけど、でもときどき、ちょっとだけ普段とは別の表情をつくることがある。
(なんでグウェンちゃんはあんな――)
人に手を差し伸べて、感謝されて、笑顔を向けられる。
お互いうれしい気持ちになるはずなのに、彼女が見せるそれは"うれしい"とはまったくちがう。なんでグウェンちゃんは――。
(不安そうな顔をするの?)