ソロキャンもパーティーキャンプもタイヘン
ひおこし!
「今日はここで休むとしよう」
見渡しの良い丘にさしかかった時、ふとオジサンがそんなことを言ったのだ。
これにはビックリ。だってまだお日さまが高いところにいるし、今日は狩りをしない日だからもーっと先まで行くと思ってたから。
「なんでだよ? 休むにはまだはえーじゃん」
「まさか、近くに宿があるのかい?」
やんちゃな少年とべらぼうな筋肉がまだ動き足りないって顔してる。スプリットくんはすらっとした体型でどっちかってと青年感あるんだけど、なんか少年って感じするから少年だと思ってる。
サっちゃんは筋肉でしゃべるから筋肉でいいや。
「ひとり旅ならそうだろうが、私たちはパーティーでやってるんだ。ムリさせんじゃない」
言って、オジサンはいちばんうしろに付いてくる少女を見返す。
みんな気づいてなかったけど、きれいな黒髪をゆらして歩くその少女は、いまは両手で杖をついて身体を寄せている。ほんのり上気した呼吸で、丘を登るときかなりの体力をつかったっぽい。
「グウェン、だいじょうぶか?」
すかさずビーちゃんが声をかける。ふたりともめっちゃキレイな肌してて、ビーちゃんは明るい茶色のかみのけを腰まで伸ばしてる。どっちもオシャレってよか身だしなみを整えたって感じで、見る人がみれば姉妹のような風景にも見えた。
ちなみに、肌はまっしろいんだけどダークエルフっぽい雰囲気があるのです。いや知らんけど、なんかこう、とりあえず「くっ……ころせ!」って言ってほしい。
「あたしはだいじょうぶです、まだいけます」
明らかにむりしてる声だし。
ヒザもガクガクだし。
肩で息してるし。
あわせてスリーアウトだよグウェンちゃん。
(んーでも、グウェンちゃんのことだから意固地になっちゃうかも)
よし、ここはおねーさんがフォローしてあげよう。
「あ、いた、イタタタタタ」
「ん? どうしたグレース?」
そばにいたスプリットくんがわたしの変調に気づく。よし、そのままうまくやってくれよ少年。
「急におなかが、ああイタタタタ、これは動けないわーゼッタイ動けないヤツだわーちょっとやすみたいなー」
「なんだって? さっき飲んだ川の水にヤベーもの入ってたか?」
「また飲んだのか。だから水は商人から仕入れたものだけにしろとあれほど」
オジサンが呆れたような態度になった。いーのよこの流れで。
「このあたりは草食動物がおおいから、おおかたどっかの鹿かなにかが川に排便してたんだろうよ」
(えっ)
それは聞いてない。いや聞きたくなかった。
(うっ、そ、その話を聞いてたらほんとにおなかが痛くなってきたぁ)
「おろろろろ」
「おいおいこんなトコで吐くなよ?」
「しゅぷりっど、く、ごめぇん」
まーじでやべーわ。
「はぁ、グレースがこんな具合じゃどっちみち動けんな。さぁて、各自準備するとしよう」
オジサンが背中に背負った荷物を下ろし、そこから折りたたまれた寝袋を取り出す。
野宿っていうとテントを張ってその中で寝るっていうイメージがあるけど、この旅ではテントを使いません。
かさばるから折りたたみできる寝袋がべんりなのです。まあ、木に布をくくりつけてテントっぽいものはつくるけど。
今日は狩りなしデイ! 今あるけいたい食料の量と、次の目的地までの日数をかんがえて計画的に獲物をゲッチュしてるのですが、本日は教会のみなさんからもらった乾燥くだものを食べることになります。あと、たまたま行き合った商人さんから購入したものもあるね。
火起こしはちょっとめんどくさい。よくわかんないけど、なんかトクベツな石と石をぶつけて火花を起こして、それを細い枝とか乾いた草に落として燃やす。そうしたらどんどん太い枝に燃え移していく。雨が降って濡れた木ばっかりなときは、木を細かく削いでどうにかする。じゃないと夜さむくてこまる。
魔法使いがいればもっと楽だったんだけどなぁって、オジサンは火起こしのとき口グセみたいに言う。火は身体を温めたり料理にも使う。火の上におにくをぶら下げたり、水があるときは鍋もできる。あと、火があると野生動物が近寄らないメリットもある。だから夜の番は実質火を燃やし続ける人みたいな感じだ。
「そうそう、そこで木を足すとよく燃えるようになる。風に気をつけろよ」
「はい」
あれからグウェンちゃんはなんでも意欲的に取り組んでるみたい。今日は場所のせいもあって風にさらされやすくなってるし、オジサンは自ら作業しつつ、グウェンちゃんにやさしく教えていた。
ランカスターを出発して今日で四日目。距離的には遠くないって言ってたけど、このあたりは高低差が激しく、ところどころ木々も生い茂ってるから移動が難しくなる。旅馴れしてないグウェンちゃんが苦労するわけだよね。
まあ、オジサンは「子どもにしちゃよくやってる」って言ってたけど。異世界人ってみんなタフなのかな?
「夜まで時間があるだろ? だからこいつは一度消してもいい。あらかじめ燃やしておいた木が炭になって、また燃やすときより効率がよくなるんだ」
「なるほど、火を消してしまってもすぐリカバーできるんですね」
「そうだ。いちおうストックはあるが、さらにいくつか作っておこう。あとはできるかな?」
「まかせてください!」
少女はやる気ジューブンだ。そんなグウェンちゃんに、オジサンは思わず破顔した。
「はっはっは! なら任せよう。じゃ、こっちはこっちでやることやりますか」
「やること?」
まだあるの?
えーっと、寝袋は準備したし、雨よけ用のカバーも張ったし、今日はお料理しないからいろいろ準備いらないしサっちゃんは腕立て伏せしてるし夜の順番も決めたし、なにかあったっけ?
なんて考えてる間に、オジサンは自分の荷物をごそごそして、自分の剣を肩に担いだ。
「稽古の時間だ。今回は時間あるからみんな相手をしてやろう、スペシャルコースだ」
見渡しの良い丘にさしかかった時、ふとオジサンがそんなことを言ったのだ。
これにはビックリ。だってまだお日さまが高いところにいるし、今日は狩りをしない日だからもーっと先まで行くと思ってたから。
「なんでだよ? 休むにはまだはえーじゃん」
「まさか、近くに宿があるのかい?」
やんちゃな少年とべらぼうな筋肉がまだ動き足りないって顔してる。スプリットくんはすらっとした体型でどっちかってと青年感あるんだけど、なんか少年って感じするから少年だと思ってる。
サっちゃんは筋肉でしゃべるから筋肉でいいや。
「ひとり旅ならそうだろうが、私たちはパーティーでやってるんだ。ムリさせんじゃない」
言って、オジサンはいちばんうしろに付いてくる少女を見返す。
みんな気づいてなかったけど、きれいな黒髪をゆらして歩くその少女は、いまは両手で杖をついて身体を寄せている。ほんのり上気した呼吸で、丘を登るときかなりの体力をつかったっぽい。
「グウェン、だいじょうぶか?」
すかさずビーちゃんが声をかける。ふたりともめっちゃキレイな肌してて、ビーちゃんは明るい茶色のかみのけを腰まで伸ばしてる。どっちもオシャレってよか身だしなみを整えたって感じで、見る人がみれば姉妹のような風景にも見えた。
ちなみに、肌はまっしろいんだけどダークエルフっぽい雰囲気があるのです。いや知らんけど、なんかこう、とりあえず「くっ……ころせ!」って言ってほしい。
「あたしはだいじょうぶです、まだいけます」
明らかにむりしてる声だし。
ヒザもガクガクだし。
肩で息してるし。
あわせてスリーアウトだよグウェンちゃん。
(んーでも、グウェンちゃんのことだから意固地になっちゃうかも)
よし、ここはおねーさんがフォローしてあげよう。
「あ、いた、イタタタタタ」
「ん? どうしたグレース?」
そばにいたスプリットくんがわたしの変調に気づく。よし、そのままうまくやってくれよ少年。
「急におなかが、ああイタタタタ、これは動けないわーゼッタイ動けないヤツだわーちょっとやすみたいなー」
「なんだって? さっき飲んだ川の水にヤベーもの入ってたか?」
「また飲んだのか。だから水は商人から仕入れたものだけにしろとあれほど」
オジサンが呆れたような態度になった。いーのよこの流れで。
「このあたりは草食動物がおおいから、おおかたどっかの鹿かなにかが川に排便してたんだろうよ」
(えっ)
それは聞いてない。いや聞きたくなかった。
(うっ、そ、その話を聞いてたらほんとにおなかが痛くなってきたぁ)
「おろろろろ」
「おいおいこんなトコで吐くなよ?」
「しゅぷりっど、く、ごめぇん」
まーじでやべーわ。
「はぁ、グレースがこんな具合じゃどっちみち動けんな。さぁて、各自準備するとしよう」
オジサンが背中に背負った荷物を下ろし、そこから折りたたまれた寝袋を取り出す。
野宿っていうとテントを張ってその中で寝るっていうイメージがあるけど、この旅ではテントを使いません。
かさばるから折りたたみできる寝袋がべんりなのです。まあ、木に布をくくりつけてテントっぽいものはつくるけど。
今日は狩りなしデイ! 今あるけいたい食料の量と、次の目的地までの日数をかんがえて計画的に獲物をゲッチュしてるのですが、本日は教会のみなさんからもらった乾燥くだものを食べることになります。あと、たまたま行き合った商人さんから購入したものもあるね。
火起こしはちょっとめんどくさい。よくわかんないけど、なんかトクベツな石と石をぶつけて火花を起こして、それを細い枝とか乾いた草に落として燃やす。そうしたらどんどん太い枝に燃え移していく。雨が降って濡れた木ばっかりなときは、木を細かく削いでどうにかする。じゃないと夜さむくてこまる。
魔法使いがいればもっと楽だったんだけどなぁって、オジサンは火起こしのとき口グセみたいに言う。火は身体を温めたり料理にも使う。火の上におにくをぶら下げたり、水があるときは鍋もできる。あと、火があると野生動物が近寄らないメリットもある。だから夜の番は実質火を燃やし続ける人みたいな感じだ。
「そうそう、そこで木を足すとよく燃えるようになる。風に気をつけろよ」
「はい」
あれからグウェンちゃんはなんでも意欲的に取り組んでるみたい。今日は場所のせいもあって風にさらされやすくなってるし、オジサンは自ら作業しつつ、グウェンちゃんにやさしく教えていた。
ランカスターを出発して今日で四日目。距離的には遠くないって言ってたけど、このあたりは高低差が激しく、ところどころ木々も生い茂ってるから移動が難しくなる。旅馴れしてないグウェンちゃんが苦労するわけだよね。
まあ、オジサンは「子どもにしちゃよくやってる」って言ってたけど。異世界人ってみんなタフなのかな?
「夜まで時間があるだろ? だからこいつは一度消してもいい。あらかじめ燃やしておいた木が炭になって、また燃やすときより効率がよくなるんだ」
「なるほど、火を消してしまってもすぐリカバーできるんですね」
「そうだ。いちおうストックはあるが、さらにいくつか作っておこう。あとはできるかな?」
「まかせてください!」
少女はやる気ジューブンだ。そんなグウェンちゃんに、オジサンは思わず破顔した。
「はっはっは! なら任せよう。じゃ、こっちはこっちでやることやりますか」
「やること?」
まだあるの?
えーっと、寝袋は準備したし、雨よけ用のカバーも張ったし、今日はお料理しないからいろいろ準備いらないしサっちゃんは腕立て伏せしてるし夜の順番も決めたし、なにかあったっけ?
なんて考えてる間に、オジサンは自分の荷物をごそごそして、自分の剣を肩に担いだ。
「稽古の時間だ。今回は時間あるからみんな相手をしてやろう、スペシャルコースだ」