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作者: 犬物語
あんさつせいこう
暗殺者は明るいところで暗殺する
「おまえたちがうるさいからネズミの居場所がわからなくなったじゃないか」

 保護者が子どもに言うような声色でしゃべる。それに対し、子どものほうは反抗期のような態度で別角度から反論した。

「どっちかってと犬だろ」

「イヌ? なんだそれは。まあいい、とりあえず、小娘の好きそうな角度を張っておくか」

 彼らから目を切って、不確かな森の奥深くを見る。あっちこっちに緑がしきつめられており、目にはやさしそうだが良い景色とは言えない。

 ただし、隠れて獲物をねらう存在にとってはこれ以上ない隠れ蓑だ。

(たとえば、いまのわたしのように――さてやりますか)

「いてっ!」

 さっき注意された子どもが首筋に手を当て痛みをうったえた。たぶんジンジンって感じの痛みを感じてると思う。

 犯人はわたしです。石を投げました。

「む?」

 オジサンは訝しげに石が飛来した方向を見る。ふふ、すでにその先にはだれもいませんのだよ。

「え、ちょ!」

 作戦続行。標的は頭のうしろに腕をまわすクセがある少年エーくん。

(くらえ、れんぞく石投げこうげき!)

「あだっ、いや、おい、グレースおまえか!?」

「血迷ったか? スプリットをいたぶっても合格にはならんぞ?」

(それはしってる。けどやめない)

 これも作戦なのだ、彼はその犠牲となったのだ。で、そーろそろ痛いじゃ済まないレベルにしてきますよっと。

「うわっ!」

 ヒュン! という音を残し石が地面にめり込む。さすがにヤバいと思ったのか、少年はそれだけはちゃっかり避けた。

「おいグレース! おまえシャレになってねーぞどういうつもりだ!」

(どういうつもりって、オジサンの喉首を掻っ切るつもりですよ。それに)

 狙いはスプリットくんだけじゃないんだなぁこれが。

「ッ!」

(おお、ビーちゃんさすが!)

 当てるつもりだったのにギリギリでかわされました。んーでも後方に避けるのはよくないなぁ、そっちじゃなくてもっとこっちに!

「グレース!?」

(よし! そっちそっち)

 で、本命はこの状況をただ達観してる模様。ってかどっちかってと、たまに石を躱しきれずうめき声をあげる少年に呆れ顔を見せつけてるわけですが。

(うん、そっちに気を向けてくれて好都合。これでチャンスがひろがりんぐだよ)

 ちなみに、本命であるオジサンを狙ったらひゃくぱー場所バレしちゃうので、時間差をつけてゆるーいのだけ放り投げております。

 ちなみにちなみに、サっちゃんに投げつけたら素で受け止められました。いやいや「なんだぁ?」じゃないよこっちがなんだぁ? だよどーやったらダメージ与えられるの?

 サっちゃんの誘導は断念するとして、グウェンちゃんにはかわいそうだからムリだよね。戦うタイプじゃないし、たぶん下手投げでぽーんってやってもかわせないと思うし。

「おま、なんでトゥーサに投げねーんだよ不公平だろ!」

「くっ、グレース! これはどういうつもりだ!?」

(はいはい、スプリットくんはこっち、ビーちゃんはこっちに誘導されてってね~)

 狙い通りというか、ふたりがいー感じにエモノの近くに誘導されてくれました。

「……場の撹乱を狙っているのか? こうもうるさくては足音を追えん」

 そろそろコッチの思惑がバレてきたようです。ってことで、オジサンはこれから抜き足差し足忍び足・・・・・・・・・な音にめっぽー敏感になるでしょう。

(よし、あとはテキトーに)

 ここに、あらかじめ用意しておいたたっぷりのストーンがあります。それを?

(そーれぃ!)

 おたんじょうびおめでとー! 的なノリで。

 紙吹雪みたいにひらひら~なのがいいけど、残念ながら今回は当たったら痛い、傷つく、頭がヘコむの三拍子そろった鈍器です。サっちゃん以外は逃げるの推奨。

 で、これを素早く三度くりかえしました。名付けてぇぇえ――、

(プチメテオ?)

「はは、こりゃいーや。おまえら気をつけろよー」

「トゥーサ! おめえ狙われてないからって!」

「煩わしいな」

 落下する石に当たらぬようみんなが動きます。

 たくさんの足音と、地面に石が落ちる音が鳴り響きます。

「……」

 案の定、目標は降りかかるイシツブテに注意をはらいつつ、忍び寄る気配や足音にご留意していますね。こんなとき、隠れようとする足音は逆に目立っちゃうのです。

(はい。だから隠れなければ・・・・・・いーんだよ・・・・・

「え、あ!」

「シッ、しずかに」

 気づいて声をあげる少女と、その口をおおきな手で閉じる筋肉さん。どっちも目を開いてこっちをガン見。その気持ちめちゃわかる。だって隠密ジョブが日差しを浴びちゃってるんだもん。

 どうどうと徒歩通勤です。駅前から目的地まで徒歩ごびょー。

 あ、もちろん直進じゃなくてね? こう、石をよけてるフリというか、まあ自分にも降り注いでるワケだし。おもいっきり上にぶん投げたものもあるから、たぶん時間差でヤバめの速度のヤツが来ると思います。

(――あとじゅっぽ)

 隠密のたしなみとして、わたしは足音を隠す術を身に着けてる。くつも極力音を出さないデザインだし、カッコだってじみーでくらーくてつまんなーいものだ。

 オジサンに教えてもらったノウハウで狩りができるようになった。夜に紛れて、ものを奪いにきた盗賊たちを逆に驚かせたこともあった。

 気配を消せ、音を出すな、この世界から消滅するんだ。わたしにいろいろ教えてくれた人はそう言った。

(あとろっぽ)

 けど今は出しちゃうもんね! どうどうと存在感アピールしちゃうもんね!

(ってかみんなわたしに気づいてない? こんなどーどーとしてるのに?)

「……うそだろ?」

 サっちゃんがそんなこと呟いた。

「え? なんで、なんでみなさんグレースさまのこと」

 まで言ったところでまた筋肉シャットアウトを食らってた。ってかサっちゃんの手ひとつでグウェンちゃんの顔覆っちゃうんだけど。

 まあそれはそれとして、みんなわたしに気づきませんねー。

(みんな上ばかり見てるからだよー)

 まあオジサンはちゃんとあっちこっち警戒してるけど、わたしはうしろからグサァ! っとヤるために視界からはずれております。

(あとさんぽ。に、いち――)

 ぜろ。

「ごめんね」

「ッ!!」

 エモノの肩に触れた手が、その緊張を伝えてくれる。

 エモノの首筋に突き立てたナイフが、その温度を感じている。

 つい、いつもの調子でそのまま突き立てそうになっちゃったのはごあいきょー。まあ刺さってないからセーフ。

「わたしの勝ちでいいよね?」

「――られたか」

(やったぜ)

 うなだれてしおしおになった中年いっちょあがり。
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