家賃おいくら?
お金に相応の住む場所、あります
「もう、はぐらかさないでよ! ――えっ」
わたしはドン引きした。
おっきな土壁が立ち並ぶ通り。その一角にて立ち止まり行く手を阻まれた。声にならいその方向を見れば、茶色にほんのり赤っぽい背景に囲われ、人ひとり入るのがやっとという扉の前に立たされた。
「マジで?」
まるで犬小屋じゃん。
「そっちじゃないよ。それは物置きだから」
っていうかそれ家だと思ってるの? スパイクはそんな感じの顔になってた。
「こっちだよ」
と指さしたのはおっきな土壁のほうだった。まるで砦のようにそびえる壁の途中に扉があり、よく見ると高いところに規則的な窓が配置されている。
「重ったいんだよなぁこれ」
愚痴りつつ、彼は取手にぶら下がる金属の丸いノブをひっぱった。
金属製のキーキーした音が響き、スパイクの顔がこわばりを見せたところでようやく中の景色がうかがえるになる。たしかに重そうな扉だ。
「いくつか部屋があって、そのなかのひとつがキミたち用」
「ふーん。ところで、ですわは?」
「ですわって……あんずならもう部屋にいるよ」
待たせちゃまずい。そう言って不釣り合いな大きな帽子をかぶる吟遊詩人は足を進めた。
その後に続きつつ、わたしは一様に色が変わらない内装をマジマジと見渡していた。
「うわぁ……」
どこもかしこも土である。
こういう家ってなんか支えとか骨組みみたいのがあって、そこに土を塗りつけるんじゃなかったっけ? ぜんぜんそんな風に見えないんだけど。
(階段まで土だし。これ壊れたりしないのかな?)
と思ってるそばから天井が欠け気味である。寝てる間に崩落とかやめてよね。
「フラーはなかなか歴史が深い街でね。気候もいいからいろんな建物を建てやすいんだよ」
さあここだ。そう言って彼はこちらに向き直りカラフルなマフラーを見せつけた。
その隣に木製のちょっと古い扉がある。それを開けば我があたらしい住処があるわけです。わたしは胸いっぱいに息を吸い込みつつ、スパイクが促すままに戸に手を押し当てた。
「ここが新しいおうち」
廊下や階段と同じ土色一色である。味気ない感じがするけど、自然のままの色合いが逆に安心感をかきたててくれる。ずっと野宿してたもんね。
飾り気のない空間が広がり、目につくものといえばとりあえず置いてある感マシマシなテーブルと、本来扉があるような形に削られた穴の向こうに見えるベッドくらい。
隅っこに火起こしできそうな段差と調理器具のセット。ありがたいことに水道もあるじゃん。
(うん、自力で獲物をとってきたら、あとはいろいろ最低限揃ってる感じかな――あれ)
「おふろは?」
「ここは土の家だよ? 水や湿気は土を痛めてしまうからないんだ」
スパイクが肩をすくめた。
「まあ、そこだけコンクリートにすればよかったんだけど、え、なに」
驚きに目を見開いたわたしを不審に思い、彼は訝しげに上半身だけ距離を開けた。
(いやいやいまなんて言った?)
コンクリート? この世界にあるの?
「お、おいら何か気に障ること言ったかな?」
わたしはブンブンと首を振った。
「ところであんずちゃんは?」
「あぁ、そういえば彼女はどこにいるかな。ここで待ってるはずだったんだけど……あ、いた」
室内に入り少女の姿を探していく。ベッドがある部屋に入ったスパイクがそのまま部屋を見渡し、あるところで視線をかため彼女の存在を教えてくれた。
「あんずちゃーんこーんにーち、わぁ?」
後を付いていき、スパイクの背中を押しのけて、グウェンちゃんよりちょっぴり背の高い少女の背中に声をかけて、なんか様子がヘンだってことに気付いた。
(なにしてんの?)
彼女はベッドルームからまたひとつ、扉を取り付けられそうなスペースの先に佇んでいた。
覗き込む。
固まってる。
いんや震えてる?
「あんずちゃん?」
「な、なんですのコレは!?」
プルプルしてたですわ少女がプルプルした声と目でこちらに訴えた。いや急にそんなこと言われても。
(いったいなんの話?)
っとその先を覗き込んでなにかが見える。
穴だ。その周りは円形状に勾配があり、そこだけ土でなく別の素材でできていた。
穴の奥はかなり深くなってる。ゴミばこ? いやそれならもっと大きな穴にするよね。
「あ、ここトイレか。なーんだ」
「なーんだ、じゃありませんわ!」
ですわ系少女はまた叫んだ。
「こ、こ、こ、こんなところで用を足せと申しますの!?」
「そうだよ、なんで?」
わたしは首を傾げた。
「なんでって、こんな、こんなとこ……音が聞こえてしまうじゃないですか!」
「うーん、そうだね」
トイレ周辺を見渡してみる。完全個室というわけでなく例によって扉はありません。そのかわり上に棒が刺さってて、それに布がつけられシャーっと視界を遮断することができる。
ご丁寧に換気もこちらが風下になるよう工夫されてるようだ。個人的にはコレのほうがありがたい。野宿だとどーしても風向きの関係でねぇ。
(まあ風上でするなんてことはしなかったけど。っていうかそんなに気にすること?)
野生じゃ当たり前の光景よ?
「あ、もしかしてあんずちゃん都会っ子?」
「都会も関係ありませんわ! こんな家で暮らすなんて耐えられません! スパイクさん、即刻別の部屋にしてくださいまし!」
「いやぁそんなこと言われても」
渋るスパイク。それに涙目で訴える少女。さらにいろいろ言いそうだったあんずちゃんに対し、スパイクは手でひとつ制して言葉を重ねた。
「ここより高い物件となると、今のキミたちの収入じゃ厳しいよ? だっていま無一文でしょ?」
「それはぁ! ――そうですが」
「悪いこと言うつもりないけどね、これでもケッコーいい条件で探したつもりだよ? まずは仕事を探して、収入が増えたらよりよい場所に移り住めばいいさ」
「ですがぁ、うぅぅ」
めっちゃ葛藤してる。これは同居者として一肌脱がねばなるまい。
「だいじょーぶだよ! わたしあんずちゃんが下痢だったとしても気にしないもん!」
「それがイヤなんですのおおおおおおお!!」
近所迷惑な金切声がこだました。
わたしはドン引きした。
おっきな土壁が立ち並ぶ通り。その一角にて立ち止まり行く手を阻まれた。声にならいその方向を見れば、茶色にほんのり赤っぽい背景に囲われ、人ひとり入るのがやっとという扉の前に立たされた。
「マジで?」
まるで犬小屋じゃん。
「そっちじゃないよ。それは物置きだから」
っていうかそれ家だと思ってるの? スパイクはそんな感じの顔になってた。
「こっちだよ」
と指さしたのはおっきな土壁のほうだった。まるで砦のようにそびえる壁の途中に扉があり、よく見ると高いところに規則的な窓が配置されている。
「重ったいんだよなぁこれ」
愚痴りつつ、彼は取手にぶら下がる金属の丸いノブをひっぱった。
金属製のキーキーした音が響き、スパイクの顔がこわばりを見せたところでようやく中の景色がうかがえるになる。たしかに重そうな扉だ。
「いくつか部屋があって、そのなかのひとつがキミたち用」
「ふーん。ところで、ですわは?」
「ですわって……あんずならもう部屋にいるよ」
待たせちゃまずい。そう言って不釣り合いな大きな帽子をかぶる吟遊詩人は足を進めた。
その後に続きつつ、わたしは一様に色が変わらない内装をマジマジと見渡していた。
「うわぁ……」
どこもかしこも土である。
こういう家ってなんか支えとか骨組みみたいのがあって、そこに土を塗りつけるんじゃなかったっけ? ぜんぜんそんな風に見えないんだけど。
(階段まで土だし。これ壊れたりしないのかな?)
と思ってるそばから天井が欠け気味である。寝てる間に崩落とかやめてよね。
「フラーはなかなか歴史が深い街でね。気候もいいからいろんな建物を建てやすいんだよ」
さあここだ。そう言って彼はこちらに向き直りカラフルなマフラーを見せつけた。
その隣に木製のちょっと古い扉がある。それを開けば我があたらしい住処があるわけです。わたしは胸いっぱいに息を吸い込みつつ、スパイクが促すままに戸に手を押し当てた。
「ここが新しいおうち」
廊下や階段と同じ土色一色である。味気ない感じがするけど、自然のままの色合いが逆に安心感をかきたててくれる。ずっと野宿してたもんね。
飾り気のない空間が広がり、目につくものといえばとりあえず置いてある感マシマシなテーブルと、本来扉があるような形に削られた穴の向こうに見えるベッドくらい。
隅っこに火起こしできそうな段差と調理器具のセット。ありがたいことに水道もあるじゃん。
(うん、自力で獲物をとってきたら、あとはいろいろ最低限揃ってる感じかな――あれ)
「おふろは?」
「ここは土の家だよ? 水や湿気は土を痛めてしまうからないんだ」
スパイクが肩をすくめた。
「まあ、そこだけコンクリートにすればよかったんだけど、え、なに」
驚きに目を見開いたわたしを不審に思い、彼は訝しげに上半身だけ距離を開けた。
(いやいやいまなんて言った?)
コンクリート? この世界にあるの?
「お、おいら何か気に障ること言ったかな?」
わたしはブンブンと首を振った。
「ところであんずちゃんは?」
「あぁ、そういえば彼女はどこにいるかな。ここで待ってるはずだったんだけど……あ、いた」
室内に入り少女の姿を探していく。ベッドがある部屋に入ったスパイクがそのまま部屋を見渡し、あるところで視線をかため彼女の存在を教えてくれた。
「あんずちゃーんこーんにーち、わぁ?」
後を付いていき、スパイクの背中を押しのけて、グウェンちゃんよりちょっぴり背の高い少女の背中に声をかけて、なんか様子がヘンだってことに気付いた。
(なにしてんの?)
彼女はベッドルームからまたひとつ、扉を取り付けられそうなスペースの先に佇んでいた。
覗き込む。
固まってる。
いんや震えてる?
「あんずちゃん?」
「な、なんですのコレは!?」
プルプルしてたですわ少女がプルプルした声と目でこちらに訴えた。いや急にそんなこと言われても。
(いったいなんの話?)
っとその先を覗き込んでなにかが見える。
穴だ。その周りは円形状に勾配があり、そこだけ土でなく別の素材でできていた。
穴の奥はかなり深くなってる。ゴミばこ? いやそれならもっと大きな穴にするよね。
「あ、ここトイレか。なーんだ」
「なーんだ、じゃありませんわ!」
ですわ系少女はまた叫んだ。
「こ、こ、こ、こんなところで用を足せと申しますの!?」
「そうだよ、なんで?」
わたしは首を傾げた。
「なんでって、こんな、こんなとこ……音が聞こえてしまうじゃないですか!」
「うーん、そうだね」
トイレ周辺を見渡してみる。完全個室というわけでなく例によって扉はありません。そのかわり上に棒が刺さってて、それに布がつけられシャーっと視界を遮断することができる。
ご丁寧に換気もこちらが風下になるよう工夫されてるようだ。個人的にはコレのほうがありがたい。野宿だとどーしても風向きの関係でねぇ。
(まあ風上でするなんてことはしなかったけど。っていうかそんなに気にすること?)
野生じゃ当たり前の光景よ?
「あ、もしかしてあんずちゃん都会っ子?」
「都会も関係ありませんわ! こんな家で暮らすなんて耐えられません! スパイクさん、即刻別の部屋にしてくださいまし!」
「いやぁそんなこと言われても」
渋るスパイク。それに涙目で訴える少女。さらにいろいろ言いそうだったあんずちゃんに対し、スパイクは手でひとつ制して言葉を重ねた。
「ここより高い物件となると、今のキミたちの収入じゃ厳しいよ? だっていま無一文でしょ?」
「それはぁ! ――そうですが」
「悪いこと言うつもりないけどね、これでもケッコーいい条件で探したつもりだよ? まずは仕事を探して、収入が増えたらよりよい場所に移り住めばいいさ」
「ですがぁ、うぅぅ」
めっちゃ葛藤してる。これは同居者として一肌脱がねばなるまい。
「だいじょーぶだよ! わたしあんずちゃんが下痢だったとしても気にしないもん!」
「それがイヤなんですのおおおおおおお!!」
近所迷惑な金切声がこだました。