R-15
創作は自由ですが……。
「……」
布団から飛び出て、数時間が経った。
あのまま航太と一緒に寝てしまうと、俺の理性が壊れてしまいそう。
それぐらい、彼が魅力的に感じてしまった……。
だからキッチンの換気扇を回して、タバコを吸っている。
頭を冷やすために。
もう何本目だ?
全然、吸っている感覚がない。
指も震えっぱなし。
「ったく、どっちが童貞なんだか……」
しばらくキッチンで時間を潰していたが、眠気に耐えられず。
床に座り込むと、そのまま寝落ちしてしまった。
~それから、数時間後~
どこからか美味そうな香りが漂ってくる。
瞼を開いて、辺りを確認すると。
航太の姿が見えない。
彼が寝ていた布団は、きれいに畳まれていた。
そしてちゃぶ台の上に、なぜか皿が並べられている。
なんだろうと起き上がると、航太が書いたと思われるメモに気がつく。
『おっさんへ。ひとりで布団使ってごめんね。朝ごはんを作ったから、食べていいよ』
再度、ちゃぶ台の上を確認すると。
目玉焼きに鮭。味噌汁と白ご飯が並べられていた。
冷めないように、全てラップをかけて。
航太のやつ、気を使いやがって。別に良いのに。
そう思っても身体は素直だ。
自然と口角が上がってしまう。
久しぶりの和食だ。味わって食べよう。
※
編集部の高砂さんから、出された要望。
ロリものエロマンガの原作だが……。
航太のおかげで、どうやら形になってきた。
冴えない主人公の隣りに、引っ越してきた人妻とその娘。
ツンデレだが結構、主人公が気になる女子中学生。
最初こそケンカが絶えないが、育児に興味のない母親であることを良いことに。二人は密会を重ねる。
ボロくて薄い壁のアパートでも、二人にとっては愛の巣だ。
セーラー服を着た幼妻は、献身的に主人公を支える……。
生活面でも、肉体的にも。
こんなところか。
原稿を書きあげると、編集部にメールで送信。
あとは、担当の高砂さんから反応を待つだけ……と思っていたら、スマホから着信音が鳴り響く。
さっき送ったばかりだというのに、もう高砂さんから電話がかかってきた。
『あ、あのSYO先生! 先ほど送られた原稿ですが、本当にご自身で書かれたんですか!?』
えらく興奮しているな。なにかまずいことでも書いたか?
「そうですけど。高砂さん、俺なにかドジりましたかね、表現の問題とか……」
『いいえ! 最高です! 私の期待以上です!』
「え……?」
『ムチムチシリーズも妙にリアルで、最高でしたが。今回の作品、リアルすぎて怖いぐらいです!』
まあ航太をモデルに書いたからな……。
性別は違うけど、確かにリアルかも。
お褒めの言葉を頂いて光栄だが。
「そうですか……。それでこの作品で、漫画家さんにお願いするんですか?」
『ええ、すぐに依頼しようと思っています! ていうか、SYO先生。ちゃんと使ってくれたんですね?』
「ん? なんのことですか?」
『私が送った資料ですよ。作中、主人公がセーラー服姿のヒロインを、後ろから襲っていたじゃないですか! 料理中なのを良いことに!』
あ、この前の航太だ。
セーラー服姿で家事をしてくれたもんな。
無断で彼を描いて良かったのか。
「はは……。まあ今回は鬼畜ものというより、純愛ものにしているつもりなのですが」
『どこがですか? 幼い少女だからと洗脳している鬼畜野郎ですよ、この主人公って!』
「洗脳じゃないと思いますよ……」
一応、否定しておかないとな。
俺のことだから。
『ところで、SYO先生。一つだけ確認しても良いですか?』
「はい、なんですか?」
『このヒロインなんですけど……まさか、実際に女子中学生と密会なんて、してませんよね?』
「ブフーーッ!」
思わず、大量の唾を吹き出してしまった。
確かに彼女の言う通り、未成年との密会なんて犯罪だ。
断じてそんなことは行っていない。
俺が会っているのは、少年であって少女じゃない。
隣りに住んでいる。ただの男の子。
やましい気持ちなんて、俺には……。
『SYO先生。創作は自由ですが、絶対に未成年だけはやめてくださいね』
「は、はい……」
大丈夫。航太は隣りに住む、親しい友達みたいなもんだ。