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作者: 伽藍堂
残酷な描写あり
第一話 『深い森と迷子の子竜』

 「おーい。ノア、アイリスどこだよー」

 陽の光が届かない程の深い森の中で、一匹の黒い子竜が逸れた仲間の二人を探していた。

 「もー、何で二人ともどっか行っちゃうかなー?」

 子竜は頬を膨らませて、プンプンと怒る。

 「こっち……」

 子竜の背後の茂みから声が聞こえて来る。

 「お! なんだよー! そんなとこにいたのか〜」

 子竜は後ろを振り返る。
 しかし、そこに居たのは人の形をした蔓の魔物がこちらに手を伸ばしていた。

 「ぎゃーーー!!」
 

 ◇◇◇

 「あ、この声は」

 腰に剣を携え大きな鞄持ち、黒い髪に翡翠色の瞳をした青年が聞き覚えのある声に反応する。

 「ふー、やっと見つかりましたね。兄さん」

 白いローブに身を包み、黄色い宝石の首飾りを付け、白い綺麗な長髪に澄んだ青色の瞳をした少女は逸れた子竜の声を聞いて一安心する。

 「行くか」
 「はい」

 ◇◇◇


 「たーすーけーてー、ノア〜! アイリス〜! 僕はここだよー!!」

 子竜は蔓の魔物に縛り上げられて、今にも捕食されそうである。

 【光球ディル・ポース

 光の球が頭上から降り注ぎ、蔓の魔物に当たり拘束が緩んだ蔓を青年が剣で斬り裂き子竜を救出する。

 「大丈夫か? アルバート」
 「大丈夫じゃ無いぞ! もう少しで食われるところだったんだぞー!」

 子竜は青年にしがみついて、半泣きで声を上げる。

 「アルバートは本当に泣き虫ですね」

 茂みから先程の魔術を放った少女が姿を表す。

 「虫じゃないよ! 竜だよ!」
 「じゃあ、泣き竜?」
 「アイリスがイジメる! なんか言ってくれノア!」
 「まぁ、実際泣いてるしな……」
 「うっ……酷いぞー! ――ウワッ!」

 蔓の魔物が動きだし、獲物を攫った青年ノアに伸ばした蔓を振り下ろし攻撃を仕掛ける。 
 ノアはアルバートを左手で抱えたまま後ろに飛び蔓の攻撃を回避する。

 「やっぱり、ここの魔物は簡単には倒せないな」
 「そのようですね。核を狙ったのですが、防がれてしまいました」
 「に、逃げよーぜ! 一旦さ!」

 ノアにしがみついたままアルバートはそんな弱音を吐く。

 「――いや、倒す」
 「どーやってだよ! アイツの弱点の炎を使える奴いないじゃん!」
 「いや、お前がいるだろ」
 「……え?」

 
 ◇◇◇


 「ガアァアァァア!!!」

 蔓の魔物が叫び、再び攻撃を再開する。
 縦横無尽に振われる蔓はどんどん数を増やし、攻撃範囲を広げていく、ノアは鞄を下ろしアイリスの前に立ち次から次へと迫って来る蔓を斬り裂き対処する。
 アイリスは後ろで大魔術を発動する為に意識を集中させ、アルバートはいつでもいける様に腹に力を溜める。


 「行きます!――【光輝く流星レイディアント・ミーティア】」

 アイリスの周囲に光の粒子が現れ、輝きを放つ。
 そして、光の粒子は一斉に加速して流星の様に蔓の魔物に襲いかかる。
 光の粒子が蔓に触れるとその場でボンッっと破裂し蔓を一気に減らし通り道を作る。
 ノアはその通り道を駆けて、蔓の魔物に肉薄する。

 「やれ! アルバート!」
 「喰らえ!――【竜の息吹ドラゴンブレス】」

 アルバートの放った竜の息吹は竜族の固有能力で全属性を含む究極の技で虹色に輝く炎を吹く。
 徐々に蔓が消えていき、心臓部にある核が姿を見せる。そこに、ノアが透かさず攻撃を加える。

 「――ッ!!」

 ノアの放った渾身の突きは核に突き刺さり、次の瞬間黒い光と共に核が爆ぜた。
 
 「ぉお! やったぜ! これは、僕の手柄だな!」

 アルバートは自慢げにそう言い、胸を張る。

 「ああ、助かったよ」

 アルバートは嬉しそうに尻尾をフリフリさせた。

 「これでやっと帰れますね」
 「そうだな、帰ろう」
 
 深い森を抜け出したノア、アイリス、アルバートは森から少し離れた場所に停めた馬に乗り、数日かけて現在拠点にしている冒険者の街カラシアに到着した。


 ◇◇◇


 冒険者の街カラシアは石壁に囲われており、日が沈んだ今でも街灯で明るく賑わっていた。
 ノア達は冒険者ギルドに直行して、馬を返し受付に依頼達成を告げる。

 「ヘルハウンド十頭の討伐ですね。では討伐証明部位の尻尾を提出して下さい」

 ノアはギルドから借りた大きな鞄を受付の机に置く。

 「はい、確認しました。依頼完了です。こちらが報酬の王貨一枚と金貨六枚です」

 ノアは受付に置かれた剣が刻印された報酬を受け取る。
 ギルドから出ようと振り返ると、そこにはよく知る受付嬢がいた。

 「ノアさん! どうです? ランク昇格したくなって来ましたか?」

 前のめりになりノアに迫るのは、ライトブルーの瞳にエメラルドグリーンの綺麗な長髪をしたエルフのレイシア。
 ここ最近はギルドに来るたびにランク昇格試験を勧めてくる。

 「いや、自分たちはSランクになるつもりは無いって前にも言ったはずだけど……」
 「なぜですか? Sランクになると最も高い報酬の依頼が受けれるんですよ!」
 「レイシアさん、前にもお話しましたが私たちは報酬目当てに依頼を受けているのではありませんので」
 「Sランクの依頼が受けれますよ!」
 「興味ないですね」
 「そんな〜……」

 アイリスの冷たい返答に明らかにテンションが下がるレイシア。
 
 「それじゃ、また明日」

 ノアとアイリスはレイシアの横をさっと通り、ギルドを出る。

 「そんな、落ち込むなって、な? レイシア」
 「は、はい……」

 アルバートはレイシアの頭を優しく撫で撫でして、最後にバイバイと優しく声をかけ、ギルドを出て行った。



 ノア達がギルドから出て行ったあと、ノアの依頼手続きをした受付の職員がレイシアに話しかける。

 「なんで、そんなにあのパーティに拘るんですか? 確かにノアさんとアイリスさんは実力者ですけど、同じくらいの実力者なら他にもいますよね?」
 「あの人達は、さっきも言ってたけど本当に報酬目当てじゃないの」

 受付の職員は首を傾げる。
 現在の冒険者と冒険者ギルドは国を守る騎士団の様な存在であるが、元々冒険者は傭兵のような存在で金銭的報酬を条件に契約してさまざまな依頼を受ける者たちである為、報酬に全く興味がないとは思えないのだ。

 「多分だけど、人助けでやってるのよ」
 「え? いや、流石それは……」
 「アイツらがレイシアちゃんお気に入りの、"愚か者の冒険者"か……」

 二人の会話に突然、受付に近い席で酒を飲んでいた青い鎧の冒険者が話しかけてくる。

 「口悪いですよ! ヴォルフさん!」

 レイシアは頬を膨らませて叱るように言う。

 「いやいや、皆んな言ってるぜ? アイツらがここに来てから放置されてた依頼がどんどん減って行くもんだからな。しかも、報酬の低い奴から」
 「あ、確かに先程の依頼もAランクの討伐依頼なのに報酬がとても少ないですね」
 
 受付嬢が先程の依頼の報酬の少なさに気づく。

 「でも、そんなことずっとしてたら……」
 「不正依頼が増えるな、確実に。で、騙されていつか痛手を負うと」
 「あ! だからSランクを薦めてるんですね。Sランクになればギルド職員がしっかりと精査して適正な依頼な提示しますから、騙されたり利用される事が無くなるってことですか」
 「そう、でも、ずっと断られてるんだよね。あー! もう! こっちは心配してるのにー! 冷たすぎない! アイリスさん!」

 レイシアはぷんぷんと地団駄を踏む。


 ◇◇◇

 ギルドを出て、人通りの多い街道に出たノア達は行きつけの酒場を目指していた。

 「なぁなぁ〜、アイリス。なんで、レイシアに冷たくするだ?」
 「だってレイシアさん、私たちの事を心配しすぎなんだもん」
 「心配しすぎ? ん?」

 アルバートは何が?とでも言いたげな顔でアイリスを見つめる。

 「あのね、アルバート。私たちがこの街に来てからしばらく経って受けたBランクのオーガ討伐依頼の事、覚えてる?」
 「覚えてるぞ! たしかぁ〜、近くの森に頻繁に現れるオーガを退治してって依頼だったよな!」
 「うん。で、依頼書にはオーガしかいないって記載してたけど、実際には赤鬼レッドオーガ青鬼ブルーオーガが出て来て最後には巨人鬼ギガントオーガなんかまで出てきた依頼」
 「ああ! そうだったな! で? あれがなんだ?」
 「あれは依頼書に嘘が書かれてて、私たちは騙されたの。あの依頼は本来ならAランク、それもかなり実力のある冒険者じゃないと全滅してたわ。私たちも危なかったし」
 「そんな! 騙すなんて酷いぞ! でも、あの依頼主のおっちゃん、腹一杯ご馳走してくれたぞ?」

 アルバートは小首を傾けて、アイリスを見つめる。

 「まぁ、悪い人では無いと思うわ。自分の村を守りたかっただけだと思う。でも、ギルド的には仲介手数料や信頼関係に影響するから出来るだけそういう事がない様に精査してる」
 「えー、そうなのか。大変なんだなレイシアも」
 「そう、レイシアさんは私たちが騙されない様に報酬の低い依頼の精査を念入りにしてるのよ、その甲斐あってか最近では報酬の低い依頼の量が大分減った」
 「おお! 凄いんだなレイシアって」
 「うん、でも最近のレイシアさんは働き過ぎてるからね。冷たく接する事で嫌いになってくれないかなって思ってるの。……あ、着きましたね」

 到着したのは鬼神の酒場ジークハウスこの街を拠点に活動を始めてから、最初に見つけた酒場ですぐに常連となった。
 特にアルバートが店主と意気投合した事が大きい。

 ノア達が中に入ろうと扉に近づくと扉が内側から勢いよく開き、人が飛んで来た。

 「おっと」

 体を捻り飛んで来た人を避け、酒場の中を見るとそこには腰に片手斧を携えた、赤い長髪の偉丈夫が鬼の形相で右拳を握りしめて立っていた。
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