第三三話 花壇
別府で会ったっきりだった渋川と話すため、弥勒は秋月に教わった校庭の花壇へ向かう。
弥勒は校庭に向かい、花壇の辺りでしゃがんで作業をする人影を見つけた。日焼けをしない様に麦原帽子を被るその人の、そのスラリと伸びた白く長い手足から、彼女が渋川葉月であることが分かる。後ろ姿からだけでも、美しさを感じさせる。
背後から近づく弥勒に対して気づいた渋川は、麦わら帽子を片手で抑えながら、振り返った。そして弥勒の顔を見あげ、その姿を認識した途端「あれ、皇くん」といい、微笑んだ。
弥勒は、彼女のやけに歯並びが良い白い歯を、やけに注視してしまった。
「どうしたの? 落し物?」
「いえ、ここに居らしていると聞いたもので」
「へぇー、そうなんだ。なに用?」
「少しお話したくて。これはどんなお花を咲かせるんですか?」
「これはバジルだよ、お花は咲かない。誰かにお花を贈りたいの?」
渋川は未だに、弥勒がここへ来た理由を探っている様相だった。これまで、誰にも警戒されなかったことを鑑みれば、単刀直入にここで墓地について尋ねても良かった。だが、もう少し話していたいという気持ちがあった。すくすくと育つ緑を話題にして──。
「誰かに贈りたい訳では無いんです。えっと、これらは全て、渋川が育てたんですか?」
「ほとんど、かな。ここは園芸部の管轄でね。まぁ園芸部なんてとりあえず部活に入って幽霊部員になる人ばかりだから、ほとんど私しかしてないよ」
「どうしてみんな名前だけ所属して満足するんです?」
「硬派だけど楽そうだし、家の命令で部活を始めさせられた子達の逃げ場になってるのよ。時々出席を求められても、そんなに苦労しないからちょうどいいんじゃないかしら」
そういう渋川は、口角を少し上げて笑顔を作ろうとしていたが、納得がいっていないという内心が現れ、目が笑えていなかった。
「よし、今日の水やり終わり。私は戻るけど、まだ見てく?」
「いえ……もう行きます」
「もしかして、私と話したかったのかしら? ごめんね、時間がないから立ち話すら出来なくってね。また明日居らしてね。環奈のお友達は大歓迎だよ」
それから渋川は、足早に去っていった。
弥勒は、また明日来ようと思った。それは、墓地の件について聞かなくてはならないという思いもあったが、それはもはや口実の様に感じていた。ただ単純に、もっと話したいという思いに駆られていた。
背後から近づく弥勒に対して気づいた渋川は、麦わら帽子を片手で抑えながら、振り返った。そして弥勒の顔を見あげ、その姿を認識した途端「あれ、皇くん」といい、微笑んだ。
弥勒は、彼女のやけに歯並びが良い白い歯を、やけに注視してしまった。
「どうしたの? 落し物?」
「いえ、ここに居らしていると聞いたもので」
「へぇー、そうなんだ。なに用?」
「少しお話したくて。これはどんなお花を咲かせるんですか?」
「これはバジルだよ、お花は咲かない。誰かにお花を贈りたいの?」
渋川は未だに、弥勒がここへ来た理由を探っている様相だった。これまで、誰にも警戒されなかったことを鑑みれば、単刀直入にここで墓地について尋ねても良かった。だが、もう少し話していたいという気持ちがあった。すくすくと育つ緑を話題にして──。
「誰かに贈りたい訳では無いんです。えっと、これらは全て、渋川が育てたんですか?」
「ほとんど、かな。ここは園芸部の管轄でね。まぁ園芸部なんてとりあえず部活に入って幽霊部員になる人ばかりだから、ほとんど私しかしてないよ」
「どうしてみんな名前だけ所属して満足するんです?」
「硬派だけど楽そうだし、家の命令で部活を始めさせられた子達の逃げ場になってるのよ。時々出席を求められても、そんなに苦労しないからちょうどいいんじゃないかしら」
そういう渋川は、口角を少し上げて笑顔を作ろうとしていたが、納得がいっていないという内心が現れ、目が笑えていなかった。
「よし、今日の水やり終わり。私は戻るけど、まだ見てく?」
「いえ……もう行きます」
「もしかして、私と話したかったのかしら? ごめんね、時間がないから立ち話すら出来なくってね。また明日居らしてね。環奈のお友達は大歓迎だよ」
それから渋川は、足早に去っていった。
弥勒は、また明日来ようと思った。それは、墓地の件について聞かなくてはならないという思いもあったが、それはもはや口実の様に感じていた。ただ単純に、もっと話したいという思いに駆られていた。