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作者: 金星タヌキ
R-15
part Kon 5/16 pm 5:21


 

「こんのさん? もう いいですよ?」

 
 あきちゃんの声で ハッと 我に返る。

 
「えへへ… できました。 やっぱり 可愛いです。ほら こんのさん こんな感じで どうですか?」

 
 あたしが 邪念と戦ってる間に あきちゃんの作業は 終わったらしい。
 にこにこの笑顔で スケッチブックを渡してくれる。

 
「こんのさん 少し顔 赤いですよ? 熱 あります?」

「そ そうっ? ちょっと 部屋暑いかな? 大丈夫 大丈夫」

 
 あきちゃんは スケッチに夢中で あたしの妄想には 気づいて無いみたい。
 よかった…。

 開かれたページには 2人の女の子のラフが 描かれていた。
 1人は 背が高くてショートカット もう1人は ツインテール。
 
 2人とも あたしがデザインしたエプロンドレスを着ていた。
 もちろん ドレープとか 細かい部分は 省略されていたけど 一目であたしのエプロンドレスって判る 上手に特徴を掴んだラフだった。
 
 そして エプロンドレスは 2人ともに よく似合っている。

 
「これって 今 描いたの?」

 
 ラフの完成度の高さに 思わず 驚きの言葉が口をつく。

 
「へっ? そうですけど?」

 
 あきちゃんは 見てたのに 何言ってんの?みたいな怪訝そうな表情を浮かべる。
 
 ……いや そうじゃなくて わずか10分ほどの短時間で こんなクオリティ高いラフが 描けるなんて 信じられないってゆーことが言いたいわけで……。
 
 でも あたしが 誤解を解くための 補足説明を入れる間もなく あきちゃんは デザインの変更点について 嬉しそうに話し始めた。
 あきちゃん 絶対 あたしのこと バカだと思ってる気がする…。

 
「デッサンしてて あらためて こんのさん 手足長いなぁって思ったんで ウエストの位置を ちょっとだけ上げて スカートの丈も 少しだけ伸ばしてみました。ロングスカートでスタイルの良さをアピールしつつ オリジナルの大人可愛いデザインは 変えずに描けたと思うんです。これ 絶対 こんのさんに似合うと思います。どうですか?」

「……うん。可愛いと思う」

 
 あきちゃんは スッゴく嬉しそうに エプロンドレスのラフを見ている。

 
「アタシ 服作りのことは 全然 わかんないんですけど これくらいの変更くらいなら 作れなくなるってことは無いですよね?」

「大丈夫 大丈夫…… だと思う。実は 型紙作りとか細かいところは これから先生と相談なんだよね。だから 実際 あたしも わかってないとこもあってさ…」

 
 そう。
 アイデアラフをもとに 先生と相談しながら 材質とか 型紙 作業工程なんかを決めていく。
 
 このデザイン 物理的に不可能って言われて 型紙全面 描き直しになったり 異常に難しい作業工程ができたりして 半泣きで 実習室やミシン部屋に 長時間 居残りになるってゆーのは ある意味 服飾科の 秋の風物詩だ。

 あの なんでもこなせる 田村先輩ですら 一時期 部活終わると ミシン部屋に直行してたし…。
 このエプロンドレスも 作れるつもりで 描いたけど 所詮デザイナーの卵の卵が描いたもの。
 ……どうなることやら。

 
「そうなんですね…。じゃあ 色は決まってるんですか? オリジナルも 鉛筆描きで 色指定とかも 無かったと思うんですけど?」

 
 あたしの中では あきちゃんの色は あのハンカチの 淡いピンクと桜草なんだけど 秋服だし さすがに 桜色は イマイチな気がする…。

 
「いや それを あきちゃんに 相談したいなぁって思ってさ。あきちゃん 好きな色とかある?」

 
 淡いベージュピンクかイエロー。
 やっぱパステルカラーが 女の子らしくて いいかな?
 聖心の全身真っ黒の制服も めっちゃカワイイし…。
 
 ってゆーか もとが カワイイから 何色着ても カワイく見えそうなんだよね。
 革ジャンに 破れたデニムとかでも ぜんぜんカワイイ気がする。

 
「あー アタシの ですか? これって 秋服ですよね? 初め見たときは モスグリーンかなって思ったんですけど こんのさんと お揃いコーデするんだったら 何色がいいんだろ?」

 
 あきちゃんは すっかり 2人で 着る気になってくれてるみたいだ。
 あたしのデザインを 気に入ってくれてるのは とっても嬉しいんだけど…。
 たとえ ロングスカートにしたところで このエプロンドレスが あたしに似合うとは 思えない…。

 
「いっそ 2人で別々の色にする方が いいかも… アタシのが 臙脂で こんのさん オリーブグリーン。ちょっと地味かな…? こんのさん 色鉛筆ありますか?」

 臙脂にオリーブグリーン?
 思ってたより渋い色。
 あんまり 服のデザインで 使ったこと無い色だけど…。

 
「……色鉛筆? あるハズだけど…」

 
 色鉛筆は確か チェストの3段目に入れてたハズ…。

 
「あったよ。 12色のだけど 大丈夫?」

「あー いけると思います。すみません。ありがとうございます」

 
 あきちゃんは 色鉛筆を何色か取り出すと 楽しそうにラフに色を塗っていく。
 さすがに 今度は お姉さん座りになってる…。

 
「ここの コットンレースのところは 白より クリームベージュ方がいいよね…。腰の サッシュのとこも 同じ色…」

 
 あたしの見てる前で あきちゃんは 色鉛筆を巧みに重ね塗りして 微妙な色合いを表現していく。
 茶色と紫を薄く塗った上から 赤色を重ねて 臙脂色。

 
「キレイな色だね」

 
 あたしが 考えてたのとは ぜんぜん違う 渋い色合いだったけど オバサンくさいとか そんな感じはなくて 大学生くらいなら オトナカワイイ感じで 全然着れる。
 高校生でも おかしくないかも…。

 
「いい色ですよね。でも アタシ的には 気持ち 赤 強めでも よかったかもです…」

 
 黒と青で 藍色。その上から 緑で オリーブグリーン。

 
「オリーブグリーンって こーゆー感じかぁ」

 
 この色合いなら 女の子 女の子した感じじゃないし あたしが着ても 恥ずかしくないかも。
 これなら なんとか あたしでも着れる気がする……たぶん。

 あたしのエプロンドレスが あきちゃんが 色塗ったら 断然 大人っぽくって 素敵な作品に生まれ変わった。
 
 でも 作品のイメージをぶち壊されたとか そんな感じは 全くしなかった。
 あたしの作品の あたしが気づいていなかった良さを あきちゃんが 引き出してくれたって 素直に思える。
 ちょっと感動的なくらいだ。

 それにしても あきちゃんって あたしのこと こんな風に大人っぽい感じで 見てくれてるのかな?
 それは それで 恥ずかしいかも。
 あたし 中身 ぜんぜん お子ちゃまだしさ…。

 
「けっこう シックな感じで 大人っぽく 見えますよね。こっちは ほぼ イメージ通りかな」

「でもさ あきちゃん。これって あきちゃん用が オリーブグリーンになってない?」

 
 塗り始めたときから 気になっていた疑問を口にする。
 さっき 確か あきちゃん用が臙脂色って言ってたような…。

 
「あー それ。考えたんですけど 〈アタシ 可愛く こんのさん 大人っぽく〉より〈こんのさん 可愛く アタシ 大人っぽく〉の方が 2人で並んだとき 絵になるかなぁって…」

「いやいや あたしにカワイイは無いでしょ。デカいし 目つき キツいし…」

「こんのさんの目元って めっちゃ可愛いと思いますけど?」

 
 あきちゃんは イヤミや冗談で 言ってるんじゃないみたいだった。
 でも あたしは あきちゃんみたいな 二重瞼のパッチリさんが やっぱ カワイイって思う。

 
「そんなこと 言わないでよ。あきちゃんみたいな 二重の美少女に言われたら マジにヘコむよ~。ツリ目の一重瞼って 怖くない? なんか 男みたいって いっつも思うんだよね…」

「そんなこと 全然 無いですよ。切れ長だし 睫毛 黒くて長いし 鼻筋通ってるし 肌も白いし キメも細かいし 凄い美人さんだと思いますよ? そんな美人さんなのに 表情豊かだから スッゴく可愛く見えます」

 
 あきちゃんは 畳み掛けるように 褒めちぎってくれる。
 
 褒められて 悪い気はしないけど やっぱ あたしは 目つきの悪い デカ女で あきちゃんが言うような 美人だとは とても思えない…。

 
「なんだか 納得いかないって 顔してますね。アタシは こんのさんのこと ホントに凄い美人って思ってますけど」

 
 あきちゃんは 二重瞼のパッチリした目で あたしの目を覗き込んでくる。
 あんまりカワイ過ぎて 目を逸らしたくなる。

 
「でも もし こんのさんが どうしても自信持てないんだったら お化粧してみたら どうですか? こんのさんって いつも ノーメイクですよね? ちょっと お化粧するだけでも だいぶ雰囲気変わるし 自信持てると思いますよ?」

 
 お化粧?
 お化粧なんて 七五三のときにしてもらったぐらいで あたしには 全く無縁の世界だ。
 
 ってゆーか あたしはもちろん すっぴんだけど あきちゃんだって お化粧してるようには見えない。
 何で そんなこと言うんだろ?

 
「そりゃ あたしは すっぴんだけど あきちゃんだって お化粧してないでしょ? 何で お化粧?」

「そんなこと無いです。あの 初めて会った日の 次の日 駅で会ったときに こんのさんに 『元気無いんじゃない?』みたいなこと 言われたと思うんですけど あれが アタシのノーメイクです。あの日以外は アタシ 毎日 お化粧してます」

「えっ……そうなんだ?」

「そうですよ。アタシは こんのさんの逆で タレ目で 目力弱いんで ほら ここ見てください」

 
 そう言いながら 目尻のところを 指差して見せてくれる。

 
「ここんとこ 少~しだけ アイライン入れて 目力アップさせてるんです」

 
 言われて見てみると確かに 少しだけアイラインが入ってるのがわかる。

 
「あと けっこう童顔なんで Tゾーンを明るめのファンデで強調して 立体感出してます。それに 血色悪いんで ピンク系のチークを 頬に少々。で グロッシーなリップ塗って完成。ザッと5分ぐらいですかね」

 
 ……そうなのか 。
 スゴく自然で 今まで 全く気がついて無かった…。

 
「そりゃ ベース塗って 次 ファンデ塗って みたいな気合い入ったフルメイクなんかしたら 化粧禁止の校則違反とかで 先生に目を付けられそうだし ややこしそうですけど…」

 
 あきちゃんは いかにも面倒って顔で 舌を出す。

 
「でも これくらいの ナチュラルメイクなら 生指の男の先生なんて 絶対 気づかないです。たま~に お化粧詳しい 女の先生に 気づかれちゃうときとか ありますけど たいてい そういう先生は 見逃してくれますし」

 
 校則違反って分かってて お化粧してるとか なんか ちょっと意外かも…。

 
「あきちゃんって もっと 真面目な優等生かと思ってたよ」

「えー アタシ マジメな よい子ですよ? うちの校則が オカシイんで~す」

 
 あきちゃんは おどけた表情で 口を尖らせている。
 その表情につられて あたしも 吹き出してしまう。

 
「不純性異性交友禁止とか そもそも 異性がいないつーのって みんなで 笑ってますもん。成績も平均点ギリギリぐらいなんで 優等生なんて とんでもないです」

「へー そうなんだ?」

「そうですよ。アタシ ホント平凡な高校生なんです。自慢と言えば ちょっと可愛いことぐらいです。それも お化粧の力 借りてなきゃ ただの顔色悪い 陰キャかもです」

 
 おおっと 自分で可愛いって言っちゃたよ。
 やっぱ ツインテールは他共に認める美少女ってわけね…。

 
「今 『自分で可愛いって言うな』って 思ったですよね? でも アタシは 自分で言っちゃいます」

 
 今まで おふざけしてたのに 急に真面目な顔になって あきちゃんが 続けた。

 
「前にも言ったかも ですけど アタシ 小6のとき ホント ボロボロだったときがあって そのときは 自分の外見が 大嫌いでした」

 
 あたしから 見たら 羨まし過ぎるくらいの美少女って思うけど…。
 
 でも あきちゃんの真剣な表情見てると きっと本当のことだったんだろうな…って思う。

 
「あきちゃんみたいな子でも そんなこと 思うんだ…」

「って ゆーか 今でも 違和感はあるんです」

 
 違和感?
 外見に違和感?
 って なんか 変な言い方……。
 
 あたしは 自分のきっつい目元は 嫌だけど 違和感は 無い。
 生まれてこの方 一重のつり目。
 16年間 毎日見てきて ゲンナリしてため息でるときは あるけど 違和感は 無い。
 今さら 急に二重でパッチリとかになったら 違和感 感じそうだけど…。
 
 あきちゃんは 自分の顔が 自分らしくないって 思ってるんだろうか?
 どういうことだろ?
 でも 違和感の正体については 触れずに あきちゃんは 話を続けた。

 
「これは ママの受け売りなんですけど 俯いて 暗い顔した 目鼻立ちが整ったひとより 欠点があっても 顔を上げて 笑ってる子の方が 百倍 可愛いって」

 
 それは 確かに そうかも…。

 
「エステや お化粧は 顔を上げて 笑えるようにするための みたいなものだって」

「おまじない?」

「そうです。お化粧で綺麗になるワケじゃないんです。いいとこ目立たせたり イマイチだなって思ってるとこ 目立たなくして 自分は 可愛い 美人だって自信を持つための。顔を上げて 笑えるようにする おまじないです」

 
 そう 言って あきちゃんは にっこり微笑んだ。
 
 それは ホントにカワイイ 天使の笑顔だったけど さっきの〈違和感〉が あたしの中で 引っかかっていた。
 あぐらでスケッチブック抱えてた あきちゃんと にこにこ お化粧の話をする あきちゃん。
 あたしが 感じる 2つの素が あきちゃんの違和感の正体なんだろうか?

 
「アタシは あきが 笑うと ホントに 可愛いって 知ってるんで あきが笑えるように 自分で可愛いって言うようにしてるんです」

 
 どこか 他人事みたいに あきちゃんは 呟いた。
 ………。
 ……。
 …。


                         to be continued in “part Aki 5/16 pm 8:22”







 
 
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