R-15
part Aki 7/23 pm 1:03
エレベーター 3Fのショールームに到着する。
ファイルいっぱいのスチール棚が ずらっと並んだ この部屋は お店ってゆーより図書館みたいな印象だ。こんのさんに布地の希望を聞くと 制服姿の係の女性は サンプルを取りに棚へと向かう。係の人も 店員さんってゆーより事務員さんって感じだ。
応接セットのソファーに2人で腰掛け しばらく待つと 係の人が 分厚いファイルを2冊抱えて戻って来た。
「こちらがチノの赤系統で こちらが緑系になります」
向かいのソファーに腰掛けながら 赤のファイルを開いてくれる。ファイルには A4サイズにカットした端切れが何枚も綴じられている。
「臙脂っていうと このあたりの色味かしら…」
赤紫や臙脂色だけで 十数種類のチノ生地があるらしく 係の人がパラパラとめくってサンプルを見せてくれる。
「エプロンドレスってことは 袖無し? ……じゃあ 3mくらいかしらね… 失礼ですが ご予算は おいくらくらいですか?」
「えっと あの… 1万円くらいです。ちょっとならオーバーしても大丈夫なんですけど…」
係の人とこんのさんが 生地を見ながら 色々と話しているけど ボクは 特にすることが無い。どうやら この係の人は 三原さんってゆーらしい。胸のところにネームプレートがついていた。
「1万円? 2色ってことは 上が臙脂 スカートが緑とか そういったイメージですか?」
「あっ いや そうじゃなくて あたしの分が臙脂で こっちの娘の分がオリーブグリーンって考えてます」
「あっそうなんだ。で 1人分が1万円?」
三原さんは 生地台帳を覗き込みながら こんのさんのイメージしている布地の特徴を聞き出していく。
しっかり引かれたアイブロウに濃いめのシャドウ 頬にうっすらチーク。ツボを押さえた時短メイク。いかにも30代のOLさんって感じ。左薬指に結婚指輪もしてるし 30代半ばで 小学生のお子さんが2人…とか 色々想像してみる。もちろん初対面だけど 似たような人を知っている気がする。誰だろう?
ぼーっと そんなことを考えていると こんのさんに 突然 話を振られる。
「あきちゃんの思ってる 臙脂って この色でいいの?」
こんのさんの見せてくれた布は こないだのイメージラフのと ほぼ同じ色味だった。
「あー いい感じですけど もう少し赤強くても いいかもです」
「それでしたら こっちはどうですか?」
三原さんは 2ページめくって違う布地を見せてくれる。
「あー そうですね。こっちの方がイメージに近いです」
「臙脂色のって お姉さんが作るの? さっきはオリーブグリーンって聞いた気がするけど…」
「色は あきちゃんが考えてくれたんですけど 作るのは2着とも あたしが作るつもりなんです」
「へー そういうことなのね…。じゃあ オリーブグリーンの生地も 同じ風合いの方がいいのかしら」
そう言いながら もう1つのファイルを開いてくれる…。
……。
…。
色々とサンプル見せてもらったり 話し合ったりして こんのさんはここでチノ生地を買うことに決めた。あと ブラウス用のナントカってゆー生地もこの店の方が少し安くなるみたいで買うことに。気に入った色の生地があったみたいだし 値段もこっちの方が少し安くなるみたいだし こんのさんも 満足げだ。
暑い中 歩いた甲斐があったってもんだ。
ただ 生地自体がこの会社にあるわけじゃなくて メーカーに取り次いでもらって こんのさんの自宅に配送になるとかで こんのさんは 書類に住所や連絡先なんかを書き込んでいる。代金の支払いを済ませると 三原さんは 複写式になった2枚目の紙をきれいに折り畳んで 封筒に入れ こんのさんに渡す。
「……はい。こちらがお控えになります。明日 発注かけるので お届けは だいたい2週間後になると思います。ありがとうございました」
ふぅ… やっと買い物 半分終了だ。
これから稲荷町に戻って残りの生地を買いにいかなきゃなんない。また あの炎天下を歩くのかと思うと それだけで汗が滲む気がする…。
何かいい方法は ないんだろうか…?
そんなことを考えながら ソファーから立ち上がり 部屋を出ようとすると 三原さんが こんのさんを呼び止めた。
「ごめんなさい。仕事とは 関係無いんだけど あなた 藤工のバレー部?」
「……えっ? あっ はい そうですけど…」
こんのさんは びっくりした様子だけど まぁ ジャージの背中に『FUJIKō W.Volleyball Team KONNO』って大書きしてあるもんな。4月に このジャージ着ててくれれば 名前知るのに あんな苦労しなくても済んだのに…。
「やっぱりそうなんだ。あたし 藤工のOGなの。柏木監督 お元気?」
「へっ? せっ 先輩?」
いつも伸びてる こんのさんの背筋が さらにピシッと伸びる。
「失礼しましたっ!!あたし バレー部 2年の紺野 瞳ッス。ポジションはセッターッス」
「あの OG会とかじゃないから 今日は そういうの大丈夫よ?」
そう言いながらも 三原さんは なんとなく嬉しそうな様子。ボクみたいな文化系高校生には こーゆー体育会系のノリは ホント よくわかんない…。しばらくこんのさんと三原さんは インターハイの話や 監督の話で盛り上がっていた。
「へー 郁花ちゃん もう大学院生でコーチやってるんだ。昔 監督が打ち上げの時とか連れてきてたけどねぇ…。小さいフミちゃんのイメージしかないから 想像できないわ…。でも まぁ ウチの上の子が もう小4だもんね」
三原さんは 少ししみじみした口調。
「おっと 時間 取っちゃたわね。ごめんね 引き留めちゃって。でも 色々 話聞けて楽しかったわ」
「こちらこそ ありがとうございましたっ」
「なかなか応援も行けないんだけど インターハイ頑張ってね。あと 林がよろしく言ってたって 柏木監督に伝えておいて。今日は ほんとに ありがとうね」
ふーん。旧姓は林さんってゆーのか。
結婚して苗字が変わるとか 今のボクには想像もつかないな…。まぁ 結婚は おろか恋人もいないワケだし そもそも マトモな恋愛できるかどうかも あやしいワケだけど…。ボクの場合…。
………。
……。
…。
to be continued in “part Kon 7/23 pm 1:34”