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作者: 金星タヌキ
R-15
part Aki 10/17 pm 2:00




 ボクの質問には 答えず 唐突にこんのさんが 話し出した。

 
「ねぇ あきちゃん。こんなお話 知ってる?」

 
 えっ? お話? 今 こんのさんの好きな男の人の話を…。ボクの混乱を無視して こんのさんは ボクの目をじっと見つめると ゆっくりと話し始めた。
 

「む~かし むかし あるところに
 それは それは 優しくて 賢くて 勇敢な 王子様がおりました。
 王子様は 周りのみなに 可愛がられ 大切に大切に育てられておりました。

 ところが ある日 わる~い悪魔がやってきて
 王子様に呪いをかけてしまったのです。

 でも 呪いをかけられても
 王子様は やっぱり 優しくて 賢くて 勇敢なままでした。
 王子様は お城を出て旅に出ます。

 その途中
 王子様は 町で 一人の娘に出会いました。
 勇敢な王子様は 娘を悪者から 守ってやり
 知恵を絞ってドレスを作るのを手伝ってやりました。
 
 そして 最後に娘に〈おまじない〉をかけてあげて
 娘を 綺麗なお姫様にしてあげたのでした。

 お姫様は 王子様のことが大好きになりました。

 お姫様は王子様に 自分の気持ちを伝えました。
 ところが 王子様は『私は呪われているから…』と
 お姫様を残して旅に出てしまいます。

 お姫様は 泣きました。
 幾晩も幾晩も泣きました。

 お姫様は王子様が呪われていても かまわなかったのです。
 お姫様が好きなったのは 王子様の見た目ではありませんでした。
 王子様が 優しくて 賢くて 勇敢だったからです。

 なのに 王子様は呪われていることを気にして
 旅に出てしまいました。

 お姫様は 今日も まだ 泣いています」


 気がつくと こんのさんの顔が ずいぶん近づいてきていた。
 こんのさんの体温を頬で感じるくらいに。こんのさんの黒い大きな瞳が ボクの視線を捉えて離さない。


「ねぇ あきちゃん。ここで問題。このお話 ハッピーエンドになるかな? それとも 悲しい結末になっちゃうかな? どっちだと 思う?」


 えっ? どーなんだろ? 知らないお話だし わかんないけど 王子もお姫様も 何にも悪いことしてないのに 不幸なままってゆーのは嫌かも…。


「わかんないですけど ハッピーエンドだったら いいなって思います」

「よかった。あたしも そうなればいいなって思ってる」


 あれ?『そうなれば…』って これって なんかのおとぎ話じゃないの? 結末 決まってないのか? ボクが疑問の声をあげるより前に こんのさんが もう1つ 尋ねてくる。こんのさんの瞳がさらに近づいてきて 瞳孔の中の光彩まで見える。……いや 虹彩か。こんのさんの虹彩は その名の通り 7色の小さな粒が クルクルと渦巻いているように見える。


「……じゃあさ。もう1つ問題。王子様は 呪われてどんな姿になってたと思う?」


 なに? それ? お話の中にヒントなんてなかったよね? おとぎ話っぽいしヒキガエルとか?


「えっ? わかんないです。ヒキガエルですか?」

「……ヒキガエルか。ヒキガエルでも お姫様は 好きになったかもね」


 こんのさんの顔がさらに近づいてきて ボクの唇に 何か柔らかで 温かいものが 押しつけられた。えっ? 今のって……。ボクが状況を把握できずに混乱してる間に こんのさんが ゆっくりと言葉を続けた。


 

「でもね あきちゃん。……あたしの王子様は ツインテールの美少女だったんだよ」


 
 
 こんのさんの7色の虹彩から 光の粒がこぼれ 芽吹き 花開き 咲き誇り 弾け 飛び散っていく。部屋の中が七色に染まり 混じり合い 全ての色が眩しく輝きながら 世界中に拡がっていく。全世界が 色に満たされ 光が溢れる。その色と光の洪水の中で〈ボク〉は 初めてこんのさんと向き合った。


「……あ あの。ボ ボク……。……ずっと黙ってて ごめんなさい。騙すつもりじゃ……。あ あの ホントに…… ごめん」

「ううん。騙されたなんて 思ってない。ずっと 言いたかったんだよね? 初めて話したときも 男の子だったらって言っちゃたときも アヤノさんのときも。謝るのはこっち。ゴメン。気がついてあげれなくて…」


 ……ああ こんのさんは ずっとちゃんと〈ボク〉を見ててくれたんだ。ボクがポーカーフェイスって〈あき〉に隠れてたときも それでも〈ボク〉を見ようと探してくれてたんだ。
 ああ…。ヤバい…。世界が 滲み始める。ダメだ。ボクは 人前で泣くのは 恥だと思う古風な男子なんだ。大好きな女の子の前で 泣くなんて そんなの絶対ダメ……。


「うん。あきちゃん 泣いていいんだよ…。17年間 ずっと 誰にも言えなかったんだよね? 辛かったよね…。でも 大丈夫。大丈夫だよ。今日から あたしがいるから……」


 もう ダメだった…。
 ボクは 人目も憚らず大声で泣き崩れてしまった……。
 ………。
 ……。
 …。
 
 
            



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ここまで読んでいただき 本当にありがとうございました。

やっと 亜樹が紺野さんと出会うことが できました。


Boy meets Girl.


物語は もう少し 続きます。
最後まで 2人を 見守っていただけると幸いです。


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           to be continued in “part Kon 10/17 pm 2:21”
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