R-15
part Kon 10/17 pm 4:16
おやつタイムを終了して あきちゃんの部屋に戻る。
なんとなく さっきと同じでベッドの縁に 腰を下ろす。
あきちゃんは こたつテーブルの横。
でも あきちゃん 考え直したみたいで ベッドのあたしの横に座りなおしてくれる。
ベッドの上に置いた左手を右手で握ってくれる。
手を握ってもらうのは 初めてじゃないけど 恋人同士になってからは初めて。
いつもの倍くらい胸がキューンとなる。
ドキドキして『キスして欲しいかも』とか『押し倒されたら どーしよう』とか 妄想が膨らむけど 今は まだ ダメ。
あきちゃんに確認しなきゃいけないことが たくさんある。
「あのさ あきちゃん。あきちゃんが〈男の子〉って知ってるの あたしだけなんだよね? あと あたし達が付き合ってるって知ってるのも 今のとこ あたし達だけじゃん。それって みんなに言う? それとも あたし達だけの秘密?」
「……そっか。考えてなかったけど 大事なことだな…。…えっと どーしたら いいんだろ……?」
あきちゃんは 思案顔。
でも これって決めとかないと けっこう面倒なことになりそうな気がする。
あきちゃんは しばらく 考えた後 言った。
「……こんのさん。今まで ボクのこと わかってくれる人ができるなんて 絶対無理って思ってたけど ボクのことみんなに知って欲しい 認めて欲しいって やっぱり思う。ボクは男だって AYANO. さんみたいに みんなに受け入れてもらえたら いいなって思う」
あきちゃんの小さい頃の屈託のない笑顔。
あんな風に笑えるように あきちゃんが あきちゃんらしく生きられるように 支えてあげたいって思う。
でも 少し目を伏せて あきちゃんは続けた。
「……思うけど じゃあ 明日学校行って 朝 なっちゃんに『ボク 実は 男だったんだ』って言えるかって考えたら やっぱり それも無理…」
……うん。
その気持ちもよく分かる。
あきちゃんにムリの無いように 優しく見守ってあげようって思う。
そんな 優しい気持ちとは ウラハラに『なっちゃん』って言葉に反応して モヤモヤした気持ちがわき上がる。
あきちゃんの女友だちって どー考えたらいいんだろ?
友だちとかと ときどき話す『彼氏の女友だちアリ?ナシ?』問題。
あたしは 完全にナシ派。
彼氏が他の女友だちと買い物とか 絶対 許せない。
……けど あきちゃんは女子校通い。
クラスも部活も女の子しか いないワケで…。
他の女の子と話しちゃヤダとか思うけど それは完全に不可能。
あきちゃんと恋人同士になれたんだけど 今まで以上に モヤモヤしそうな 気がする……。
嫌な女だな あたし。
「また 優柔不断って 怒られるかもだけど とりあえず 秘密にしといて わかってくれそうな人から 少しずつって感じかなぁ…」
「……うん。わかった。あたしも それでいいと思う。じゃあ しばらくは 学校でも 女の子で通すってこと?」
「うん。そーなると思う…」
一応 念を押しておく。
今まで通りなら なっちゃんと急に関係 深まったりとか しにくいハズ。
……ううっ。
やっぱ 嫌な女だ……。
「もう1つ聞いていい? あきちゃんって お化粧上手だったり 服とか髪型とか可愛くしてたりするじゃん? あたしが 見てた感じだと あきちゃんって女の子のオシャレ楽しんでるって思ってたんだけど 実は 違和感あるって思ってたの?」
「あー それは……。なんて説明したらいいかな…。…簡単に言うと ボクは男の子なんだけど 〈あき〉ってゆー女の子の仮面か着ぐるみみたいなのをかぶって生活してるイメージなんだよ。自分の中でそう思い込むようにして暮らしてきたんだ。だから 前にも言ったかもだけど ボクは〈あき〉が笑ったらカワイイの知ってるし お化粧したり オシャレさせるのも楽しんでる感じ。ゲームのアバター 可愛くしたいって感覚に近いかも……」
……なるほど。
分かるような分かんないような感覚だけど あきちゃんの容姿を褒めたときの 微妙な他人事感の理由は 納得できる。
「こんのさんは ボクが お化粧したり スカート穿いたりしてるの嫌?」
「ん? なんで?」
「だって 男なのにスカートとか 変とか思わない?」
ああ。
そーゆー感じか。
確かに あたしも 男がスカートみたいなこと 気にしてたけど。
「似合ってるから いいんじゃない? あたしはさ 身体デカくて 自分に自信なくて 可愛いカッコとか似合わないって思って 着れなかったけど あきちゃん 自分で似合うって思ってるんでしょ? 自信持って着れるんだったら ぜんぜん 大丈夫だと思うよ。実際 似合ってるし」
これで いいのかな?
もしかして 小さい頃みたいに 男の子っぽいカッコがしたいのかな?
あたしが 女の子扱いして欲しかったみたいに。
でも それは ホント あきちゃんが自分で決めたらいいと思う。
あたしは あきちゃんが 決めたこと 全力で応援する。
それだけのこと。
「ホント あたしに気を使わなくていいよ。あきちゃんが 自分らしいって思えるカッコしてるのが一番だし」
あたしも自分のことカワイイとか綺麗って思うの怖かった。
他の女の子に嘲われるかもって不安になってた。
でも 嘲われても 最後 あきちゃんが認めてくれるって思ったら スゴく強くなれた。
あきちゃんも 女の子の身体してることで 嘲われるんじゃないか? とか 怖かったり 不安だったりするに違いない。
そのときに『大丈夫。あたしがいるよ』って言ってあげたら きっと あきちゃんも 心強いハズ。
それが あたしが あきちゃんのためにできること。
「あきちゃん。あきちゃんは あたしの王子様だから 何にも心配しなくていいよ。大丈夫 大丈夫。あたし ついてるから。あきちゃんが 勇敢な男の子だって あたし知ってるから」
ずっとあたしの左手を握ってくれてた あきちゃんの右手を あたしの右手で包み込む。
あたしのより ずっと小さくて華奢な手。
でも この手で 痴漢を捕まえようと 必死に戦ってくれたんだ。
顔を近づけ 白くて細い指に ゆっくりとキスをする。
そして あきちゃんの目を覗き込んで言ってやる。
「さっき キスしてるとき こっち手で あたしのオッパイ触ったでしょ? ……スケベ」
あきちゃん 真っ赤になって 目を白黒させてる。
相変わらずの ウブで奥手な反応。
そのくせ めっちゃキス巧かったしな…。
お兄さん スゴくモテるらしいし。
天性の女蕩らしなのかも。
クギ刺しとかなくちゃ。
「謝らなくていいよ。あたしはさ あきちゃんになら 何されたって大丈夫。……でも 浮気したら 一生 許さないから。言っとくけど あたし スッゴいヤキモチ妬きだからね。覚悟しててね」
「大丈夫だよ!絶対 そんなことしないから!」
あきちゃんは真剣な表情で約束してくれる。
うん。
今は その言葉を信じよう。
でも あきちゃんも あたしも お互い苦労しそうな予感がする…。
あたし すぐにモヤモヤしちゃうからな……。
………。
……。
…。
to be continued in “part Aki 10/17 pm 4:16”