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作者: 金星タヌキ
R-15
part Kon 10/17 pm 9:58





 トントントン…。


 階段を上がってくる足音が聞こえる。


「亜樹。ゴメン。啓吾 上がってきたみたい…」


 慌てて通話を終了して 作業台の上の時計を見る。

 9:58

 ……25分しか 話せなかった。
 もう少し ゆっくり 浸かってきたらいいのに……。

 
「姉ちゃん。お風呂 空いたよ」

「ありがと。もうちょっとしてから入る」


 亜樹との電話は あっという間に終わってしまった。
 到底25分も話してたとは 思えない。

 こっちから伝えたことは 亜樹と付き合ってることは パパには まだ言ってないってことと 亜樹の分のエプロンドレス 回収するの忘れてたから 明日 渡して欲しいってこと。
 エプロンドレスの件は ホント うっかりしてて ド忘れしてた。

 背中のとこ 仮縫いだけだったし 自転車 乗ってるとき ほつれたりしなくて マジによかった。
 彼氏できたって 舞い上がってる場合じゃなかった。
 反省しなきゃね。


 亜樹からは お母さんに 付き合ってることも 男の子だってこともバレてたってハナシが1つ。

 亜樹 スゴくビックリしたみたいな口調で 話してたけど お母さんが気づいてるってゆーのは 昼 話してて あたしは なんとなく わかってたけどな…。

 亜樹って ホント 頭よくて いろんなことに 気がつくのに 自分のことになると 見事に ニブチン。
 まあ そーゆーとこがカワイイんだけど。

 
 そう考えると 7月に あたし告白が 空振ったのも納得がいく。
 要するに ニブかったんだ。
 
 ……いや 納得いかないか。
 日付(ってゆーか時間)まで覚えてるほど ずっ~と好きだったクセに いざ告白されたら はぐらかすとか アリエナくない?
 
 ただの ヘタレ。
 サイテー。
 
 付き合うの 考え直した方がいいのかも。
 今日の告白にしても あたしが お膳立てしてあげて やっとだったもんな。
 マジに ヘタレじゃん。

 
 
『紺野 瞳さん。ボク こんのさんのこと 絶対 一生 大切にします。だから ずっと傍にいて 笑ってて欲しいです』


 
 でも ここ一番 ちゃんと名前呼びしてくれて〈絶対〉〈 一生〉〈ずっと〉って 言ってくれた。
 プロポーズかっつーの。

 でも ホントに心がこもってて 思い出すだけで 胸が熱くなる。
 嬉しくって 恥ずかしくって 思わず手近にあった クッションに顔を埋める。
 メッチャ ニヤケてんな あたし。


『カレシ できた――――――ッ』


 って 大声で叫びたい。
 啓吾が隣の部屋に居るから やんないけど。
 ってゆーか 居なくても やんない……さすがに。


 だけど 真面目な話 7月に亜樹が 付き合うって言わなくて よかったって思う。
 ここ 3ヶ月くらい 亜樹のことで 悩んで 悩んで ホントに苦しかった。
 
 でも 亜樹のこと 考え抜いたからこそ 亜樹が男の子だって気づけたんだよね。
 7月に半端に付き合ってたら 亜樹は きっと言い出せないまま 今も苦しんでた。


 亜樹の深い悲しみに より添いたい。
 そんな あたしの願いが叶ったのも この3ヶ月があったから。
 

 きっと あたしが横についてても これからも亜樹は 辛い思いをしたり悲しい思いをするだろう……そして たぶん あたしも。
 あたし達のこと みんながみんな『おめでとう』って言ってくれるワケじゃない……そんなに世の中 進んでないと思う。
 でも だからこそ 2人でいたいって思うんだ。


 亜樹を取り巻く問題って ホント 山ほどある。
 聖心って女子校なのに 亜樹って通ってていいの?
 更衣室で 他の女の子の着替え見てるのかと思うと 心がスゴくザワつく。
 恋人になれれば 嫉妬心からオサラバなんて トンでもなかった。

 ……でもな 亜樹は ずっとそうやって暮らしてきたんだよな。
 今まで 彼女もいなかったワケで 亜樹は 亜樹なりに 折り合いつけて暮らしてるんだろうな…。
 あたしが 慣れなきゃ いけないんだろう…きっと。
 モヤモヤするけど。


 モヤモヤといえば 電話の2つ目の話題は 例のなっちゃんの件。
 なっちゃんと幸樹さんが 実は 付き合ってたらしい。

 亜樹的には 大事件だったみたいだけど あたし的には どーでもいい話題。
 他の女の子の話題とか ヤメテよってモヤモヤしてた。
 
 でも 亜樹の友だちは みんな女の子。
 友だちの話題ダメって言ったら あたしもバレーのこと ナンにも話せなくなる。
 あたしだって レズっ気なんて 全くないって断言できるワケでもない。
 けど 神楽や日菜乃のことは そーゆー目では 見てない。
 亜樹にとっての なっちゃんも きっと そーゆー感じなんだろうって 信じるしかない。


 ホント いっぱい いっぱい一緒の時間過ごして お互い もっともっと信じ合えるようになりたいって思う。
 
 手を繋いだり キスとかも もっと したいし…。

 キスもな… いきなり舌 入れてきたり 胸 触ってきたりして その上 めっちゃ巧かったしな。
 何も考えられないくらい 幸せな気持ちになっちゃったし。
 ホントに 初めてだったのかな?
 それとも 天性の女蕩らし?
 アレもコレも 不安になる。

 
 ヘタレで 女蕩らし。

 
 最悪じゃん…。
 なんで そんなの好きになっちゃったんだ…。


 
 ……まあいい。
 今日は疲れた。
 お風呂に入って 早めに寝よう…。

 さっきの電話のとき 亜樹も だいぶ疲れた声してた。
 亜樹にとっても イロイロあった1日。
 長いこと ワンワン泣いてたし。
 きっと 疲れただろうな。
 こないだみたいに 熱 出したりしなきゃいいけど……。


『今日はホントありがとう。ちょっと疲れたし お風呂行って 早めに寝るね。亜樹も 疲れた声してたから けっこう心配。暖かくして 早めに休んでね。大好き』


 スマホでメッセージを送り 風呂に行く準備をしてたら 即レス。


『今日はホントにありがとう。一生 大事にするから。おやすみ。愛してる』


 ……ホント 最悪。
 『大好き』って送ったのに『愛してる』って返すとか。
 胸キュンし過ぎて死んじゃうぞ?
 ………。
 ……。
 …。
 

 
 
 
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