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作者: 金星タヌキ
R-15
part Aki 10/17 pm 6:18




 桜台公園への坂道を自転車で急ぐ。
 完全に予定外の展開で ボクのこと男だって知ってる人が2人に増えた。瞳のお母さんは ボク達のこと認めてくれたってワケじゃないみたいだけど とりあえず黙認は してくれるみたい。瞳のこと『妊娠させるな』とか ちょっと噛み合ってない気もしたけど ボクのこと 男として扱ってくれたってゆー風に解釈しよう。彼氏に娘のこと 大切にしろってゆーのは 親として当然。絶対 大事にするつもりだし 自信を持って返事した。

 
 とはいえ 想定以上に時間がかかってしまった。
 すっかり暗くなってる。ママに何て言い訳しよう? 小学校時代の友達に 偶然 会ったとか言えば大丈夫かな…? 小言くらいで 済むだろう…きっと。一応 ママとのやり取りを脳内シミュレーションしてから 玄関のドアを開ける。


「…ただいま」

「お帰り。亜樹ちゃん」


 玄関のところで ママは待っていた。
 ママは 心配性。ガレージのシャッターを開ける音を聞いて 玄関まで 出てきたんだろう。ここまでは 予想通り。でも そこからのセリフが予想外。


「意外と早かったじゃない。やっぱり 最近の子って 淡白なのかしらね~」


 ん? 聞き間違いか? 遅かったって 怒るんじゃないの?


「ママなんて 付き合い始めの頃って 名残惜しくって なかなか 帰れなかったもんだけど……。まぁ 瞳ちゃん アルバイトがあるって言ってたもんね」

「付き合うって何のハナシ?」


 内心 大パニックだけど ここは ポーカーフェイス。


「何のハナシって……。瞳ちゃんとお付き合いすることになったんでしょ? お昼とケーキのときで 雰囲気 全然 違うんだもの。微笑ましくて 笑っちゃいそうで困ったわ。喋るたびにお互い 目配せしあって ニヤケてるんだもの。ラブラブ過ぎてゴチソウサマって感じだったわよ」


 ……マジか。
 確かに ケーキ食べてたときは 幸せの絶頂で 完全に舞い上がってた。何話したか 全然 思い出せないけど 瞳と目が合うたびに 笑み崩れないように 必死だったのは 覚えてる。隠せてなかったらしいけど…。


「それより ちゃんと亜樹ちゃんから 告白したの? お昼のとき 告白の催促されてたじゃない…。ママ 情けなくって ホント 恥ずかしかったわ。ちゃんと 男の子の方から 告白したんでしょうね?」

「うん。それは ちゃんと ボクの方からした」

 
 って ママ ボクのこと男の子って思ってる!?


「…あの ママ ボクのこと 男って?」

「……まぁ 薄々は ね。瞳ちゃんは 亜樹ちゃんのこと 男の子って思って話してるみたいだったし。 『ああ やっぱり』って…。瞳ちゃんには 自分から 話したの?」

「ううん。ボクは 絶対 誰にも言わないつもりだったんだけど 瞳は ずっとボクのこと見ててくれて 気がついてくれたんだ…」

「そっか。母親のわたしでも 確信持てなかったのに ちゃ~んと見抜いたんだ。……いい娘と出会ったのね。大切にしてあげるのよ?」

「うん。絶対 大事にする」


 瞳のお母さんにも 約束したけど もう一度 自分の心に誓う。


「……さっき 『薄々は…』って言ってたけど いつぐらいから?」

「そう……ね。小さい頃は 本当にお兄ちゃん達のマネしてるだけって思ってたわね。今 考えると悪いことしたなぁって思うけど。まぁ その頃は そんな子がいるなんて 全然 知らなかったから…」


 マネしてたのは 確か。ただ〈男の子〉だからマネしてたんだよね。


「中学生になって 髪伸ばしたり お化粧するようになったでしょ? はじめは 年頃になって やっと女の子らしくなってきたのねって 思ってたんだけど…」


 それって ボクと〈あき〉が別れた頃だよね。
 

「違うって思ったの?」

「うん。お化粧とか服装とかのセンスが男の子っぽいなぁって思ったわね。いかにも男の子に受けそうなメイクするんだもん。男の子の目線で見てる感じなのかなって」


 そんな風に見られてたんだ…。さすが お化粧のプロ。
 ボクが〈女の子らしく〉って思いはじめた頃から ママが 男の子かもって思いはじめたってゆーのは なんか皮肉な感じだけど。
 

「それに 性同一性障害の人の話が ちょくちょく話題になり始めたじゃない。ニュースや新聞にも出てたりしたし 芸能人でもカミングアウトする人 増えてきたし。亜樹ちゃん好きなバンドの人も そうだったんでしょ?」

 
 そう言えば ボクもニュースで性同一性障害の人見て これってボクのことだって思って ネットで詳しく調べたんだった。


「ゴメンね ママ。……女の子が欲しかったんでしょ?」

「ううん。いいのよ。ママこそ ゴメンね…。亜樹ちゃん ずっと男の子だって言ってたのに 信じてあげれなくて」


 ママの眼に涙が浮かぶ。
 男の子なら解ると思うけど 世の中に 母親に泣かれる以上に鬱陶しいことは 存在しない。とりあえず 湿っぽい展開は 回避したい……全力で。


「なんか 今日はイロイロあったから お腹空いちゃった。パパ 帰ってきたら 晩ご飯? こーちゃんも一緒に食べるの? あと 誕生日プレゼント まだなんだけど?」


 ちょっとワザとらしいけど 話題を変えよう。靴を脱ぎリビングに上がる。ママも リビングへ。


「パパ 今日は お誕生日だから 7時までには 帰るって言ってたけど。こーちゃんは 何も聞いてないけど けっこう遅いわね。上手くやってんのかしら…?」


 チェストから ママのお店のビニル袋に入ったプレゼントを取り出して 手渡してくれる。


「17歳のお誕生日おめでとう。……これ 頼まれてた プレゼントだから 一応 渡すわね」


 今年のプレゼントは プロユースの化粧パレット。78色入りのちょっと高いヤツ。市販されてないから ママのお店で仕入れてもらってプレゼントにしてもらった。高校生が使うには ちょっと(…かなりか?)贅沢品だけど ママが使ってるから ボクも どーしても欲しかった。色味は もう少し若向けのセットにしてもらったけど。


「ありがと。ママ 大事に使うね」

「えっ!? 使うねって 亜樹ちゃん男の子なんでしょ?」

「心はね。でも 身体は女の子だから。せっかく ママ似の美人に生まれてきたのに お化粧しなきゃ もったいないじゃん」


 さらっと答えたけど『ああ これが自分の本音なんだ』って思う。なんだかんだ言っても ボクは 結局 〈あき〉の見た目 けっこう好きなんだよな…。可愛い女の子って思っちゃうんだよね。これって浮気に入るのか? 瞳 以外の女の子 可愛いって思ってるワケだし。ナルシストって自分では 全然 思ってないけど 客観的にみると ナルシストってことになるのか…。


「……そうかもね。男の子だから これはダメとか 女の子だから これしなさいとか言うのは 今どき 流行らない感じよね」


 今まで『亜樹ちゃんは女の子だから…』って 散々 言われてきたから ママのこの言葉には マジに驚いた。〈男の子〉って こんなに自由なのか…。

 
「でもね 亜樹ちゃん。女の子扱いされて 嫌かもしれないけど 暗い夜道を独りで歩いたりとかは やっぱりダメよ? ……危ないから」

「うん。分かってる」
 

 あんなに気丈な瞳でさえ 4月に大泣きするハメになった。〈女の子〉は不自由なんだ。口煩いなって思うけど ママが悪いんじゃないんだ……本当は。ママは ただ ボクのこと 心配してくれてるだけ。ボクのこと男の子ってわかってくれる人が 0から1になるってゆー奇跡が起こり 気がつけば3人になった。『世界は少しずつ変わり始めてる』って思えるけど でも これから先も ボクは〈男の子〉と〈女の子〉の狭間で 思い悩みながら生きていくんだろう。そんなことを思う。


 思えば長い1日だった。
 まずは エプロンドレスのプレゼント。そこからの こんのさんの下着姿を見たり見られたり。そう。まだ こんのさんって呼んでた。こんのさんが ボクのこと男の子ってわかっててくれた奇跡の瞬間。ファーストキスとボクの告白(いまいちキマらず大泣き…)。瞳のこと名前で呼ぶようになった。ママ達にボク達のことがバレ ボクのこともバレた。

 人生最良の1日だったことは 確実だけど 総合運4位。恋愛運 星4つってのは どーなんだ? 午前中は 運気最悪って思ってたし 午後は 運気のこと考えるヒマもなかったけど 恋愛運は 星4つどころじゃなかった。満天の星空状態。占いなんて 当たる日もあれば 外れる日もあるけど ここまで アテにならない日も珍しい…。


「晩ご飯はお誕生日だし 亜樹ちゃんの好きなオムライスにするから もうちょっと待っててね」

「あー うん。ありがと」


 お誕生日の日は オムライス。
 ボクが小さい頃からのお約束だ。最近は 実は それほどオムライス大好きってワケでもないけど なんとなく続いてる。


「パパは もうすぐ帰ってくると思うけど こーちゃん どうするのかしら? 連絡くらい くれてもいいのに……」


 幸樹兄さんが大学受かってからは パパとママの3人で夕食ってゆー日も多い。バイトとかで 遅れて帰ってきて 独りで食べてたりする。瑞樹兄さんの分は そもそも作ってない。たまに 夜遅く台所でカップ麺 啜ってるのを見かけたりするけど。陽樹兄さんは 水曜が休みだから 火曜の夜ご飯を 家でってゆーのが多かったけど 最近は あまり見かけなくなった。やっぱり 独り暮らしが 気楽なのかな?


「あ。そうそう。さっきね 陽ちゃんから電話があって 再来週の日曜日に 彼女を連れてくるんだって…。家族を紹介したいって。亜樹ちゃんも 一応 予定空けといてくれる?」

「それって 結婚するつもりってこと?」

「たぶん そうだと思うわよ。陽ちゃん 高校生の頃から何人かと お付き合いしてると思うけど そんなこと言ってきたの初めてだし」


 陽樹兄さん 結婚か…。
 初めて彼女ができて ボクは 有頂天になってるワケだけど 兄さんは 次のステージに進もうとしている。瞳とずっと一緒にいたいって 本気で思ってるけど 結婚とか 正直イメージわかないのが現状。でも 少しずつでも 前に進んで そのステージの風景も見てみたい。瞳がいてくれるって思ったら そんな風に前向きに考えられる。


「……ホント みんな 大人になっていくのね。せっかく育てたのに 他の女の子にとられちゃうなんて 母親なんて寂しいものね」


 言ってることはスネた感じだけど ママは ちょっと嬉しそう。


「陽ちゃんは そろそろ結婚。亜樹ちゃんとこーちゃんには 彼女ができた。……ミーくんは どっかで女の子 泣かしてなきゃいいけど…」


 瑞樹兄さんは 基本 複数の女の子と付き合ってるみたいなんだけど 恨まれて修羅場になったとか 妊娠させたとか 大騒ぎになったってゆーのは どういうわけか聞いたことがない。真のモテ男ってゆーのは そーゆーもんなんだろうか? ボクとは 違う次元で生きてるとしか思えない…。

 ……いや 待て。さらっと聞き流しかけたけど トンでもない 発言があったような?


「こーちゃんって 彼女できたの!?」


 いや。大騒ぎするほどのことじゃないのかも しれない。なんたって このボクにも 彼女ができたんだ。性格は ともかく 見た目は そこまで悪くないんだから 彼女ができることぐらいあっても おかしく無いのかも……。まぁ 瞬殺でフラれるとは 思うけど……。
 

「あれ? 亜樹ちゃん 聞いてないの?」

「今朝 服装のコーデしてあげたんだけど もしかしてデートだったの? 大学の博物館 行くとか 言ってたけど…?」

「一度行ってみたいからって 彼女に案内頼まれたって言ってたわよ? 大学 案内したあと 白絹川沿いに 広照院を越えて 六ヶ杜の大聖堂まで。紅葉には ちょっと早いけど ロマンチックないいコースでしょ? ママが 考えてあげたんだけど 彼女 クリスチャンらしいし ピッタリだと思わない?」


 デートコースは 母親。服装のコーディネートは 妹。ひたすら他力本願のデート。非モテ男っぷりが光る。さすがだ。でも あのプライドの高い幸樹兄さんが ママやボクに相談してるってだけでもスゴいかも。けっこう本気の恋なんだろうか。……いや。遊ばれてるだけか?


「相手の子って どんな娘? いつから? ママ なんか聞いてるの?」

「『聞いてるの?』って…。亜樹ちゃんこそ 本当に何も聞いて無いの?」

 
 インケン根暗メガネのこーちゃんが ボクに恋愛相談なんて するワケも無い。コーデのこと 聞いてきただけでも 奇跡に近い。まさかというように 首をすくめる。


「菜摘ちゃんって 亜樹ちゃんのお友達でしょ? 文化祭のときから 付き合いだしたって 聞いたんだけど。ホントになっちゃんから 何も聞いて無いの?」

 

 ……マジか。


 今日の星占いは 総合4位。恋愛運 星4つ。

 イロイロ 有り過ぎだろ。

 マジに 熱 出そう……。
 ………。
 ……。
 …。
 
 

            to be continued in “part Kon 10/17 pm 9:58”





 
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