R-15
幕間 始まった二人(前編)
一月十三日 午後九時四十七分
「もしもし、葉梨です」
「はい」
「今から会えませんか? 急で――」
「なんで?」
「あの、謝りたくて」
「なにを?」
「ごっ……合コンです」
「気にしてないよ」
「でも……」
「…………」
「加藤さん、謝りたいです。直接、謝りたいんです」
◇◇◇
午後十時五十二分
「いらっしゃい」
合コンを終えた葉梨は私の家にやって来た。
ネイビーのフルジップパーカーに白いヘンリーネックのTシャツで、黒いパンツを履いている。
多分、駅から走って来たのだと思う。呼吸は正常だが、香水が強く香る。
少し顔が赤くて酒臭い葉梨は、私がワンルームマンションに住んでいるのだと思っていたのだろうが、ファミリー向けマンションに住んでいることに驚いているようだった。
「夜遅くに本当にすみません」
「ああ、いいの。会いたいって言ったのは私だし」
リビングに入ると、葉梨は相澤と同じ反応をした。
そりゃそうだ。リビングがトレーニングルームで、家具は来客を想定していないのだ。驚くだろう。
「私らしいでしょ? ふふっ」
冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り、葉梨に渡し、葉梨を一人掛けソファに座らせた。
私はソファに一番近いエアロバイクに跨って話を聞くことにしたが、葉梨がそれを見て笑い始めた。
「インクラインベンチはあっちで遠いし、仕方なくない?」
「そうですね、ふふっ」
「ふふっ……」
葉梨は冷たいミネラルウォーターをたっぷりと口に含んだ。喉が上下する様を見て、私の口元は緩んだ。葉梨が来てくれたことが嬉しい。
私はエアロバイクを下りて、葉梨の前に行った。
私を見上げる葉梨は立ち上がろうとしたが、それを制して葉梨の左脚に座り、腕を首に回した。
「話を聞く」
私の行動に呆気にとられていた葉梨だったが、合コンは先輩の誘いで断れなかったと謝罪した。葉梨は私の体に触れない。腕は肘掛けにある。
「来た理由は?」
「えっと、お持ち帰りしてない証明です」
「ふふっ、女の子が外で待ってるかも知れないよね? 証明出来なくない?」
葉梨の目は動揺していた。
言葉足らずだったのだろうか。朝までずっと一緒にいたいと言いたかったのだが、伝わっただろうか。
私は葉梨の首に回した腕に力を込めて、引き寄せた耳元で囁いた。
「会いたかった」
そう言って、耳朶にキスをした。
葉梨の汗ばむ肌の匂いと混ざり合う香水の香りに思わず目を伏せてしまう。
「俺もです。でも……」
「ん?」
「俺で、いいんですか?」
「ん?」
「俺で……あの……」
葉梨は、私と相澤のことを知っている。合コンの話を相澤がした時、目つきが変わった。多分、松永さんが何かを言ったのだろう。
相澤のことを正直に話してもいいと思うが、言わない方がいいだろう。あの怖い目は、見たくない。
「葉梨こそ、私でいいの?」
私は肘掛けに置かれた葉梨の右腕に手を伸ばして、私の腰に添わせるように腕を取った。
葉梨は腕から私に目線を動かして、私を見た。
「葉梨」
「あの、俺でいいんですか?」
――元に戻った。
「葉梨は私でいいの?」
「俺でいいんですか?」
「……葉梨は私でいいの?」
「……いいです。加藤さんがいいんです」
その言葉を聞いて、私は葉梨の額にキスをした。
◇
葉梨に風呂に入るように言い、その間に私は葉梨が着れるような服を探した。
相澤に着せたTシャツは襟ぐりがヨレヨレになっていたからあげてもよかったが、相澤より体格のいい葉梨が着れるような服は無い。困った。
葉梨は長袖Tシャツと黒いパンツだから、上はそのTシャツだけでいいだろう。布団は電気毛布を入れてあるし、体が冷えないうちに布団に入れば大丈夫だ。そう考えていると、葉梨が風呂から出た音がした。
私は洗面所のドアの前に行き、ノックして声をかけた。
すぐにドアは開いたが、体を拭かぬままバスタオルを腰に巻いただけの葉梨が目の前にいた。
「……えっと、体を拭いて髪の毛乾かして、寝室へ来てよ」
閉じられたドアの前で、私は動けなくなった。
体格がいいとは思っていたが、あんなに鍛えているとは思わなかった。葉梨は脂肪が乗ってる体型なのだと思っていたが違っていた。
全裸の松永さんを見たことはあるが、葉梨は松永さんと似たようなものだ。服を着ていると背が高くて痩せているだけと思わせて、実は均整の取れた美しい筋肉質な体。
葉梨の方が体脂肪が多いが、トレーニングを欠かさずしている体だ。歩き方が柔道ではないとは思っていたが、葉梨は何をしているのだろうか。
松永さんが自重筋トレやドラゴンフラッグをしてる姿はよく見かけるし、手と足の力だけで廊下の壁を伝って天井にへばり付いている姿には、『バカなのかな』と思っているが、葉梨は筋トレをいつやっているのだろうか。まあ仮眠室でやっているのだろう。そう言えば葉梨もマッチョしかいないジムのTシャツを持っていると言っていた。ビジター会員だろうか。それなら今度一緒にトレーニングへ行け――。
「あっ……あの、加藤さん、ドライヤーってどこですか?」
「えっ、あ……ごめんね」
ドアを開けて私がまだいることに驚いた葉梨は、黒のボクサーパンツを履いただけだった。
下半身の筋トレもちゃんとやっている。
こんなにもいい体をしているとは思わなかった。
洗面台の下からドライヤーを取り出して、葉梨に渡したが、見上げる葉梨の体に目が眩んだ。
――私は何やってるんだろうか。
私の目線に少し顔を傾げる葉梨に寝室の場所を教え、私は洗面所を出た。
◇
寝室は六畳で、三畳のウォークインクローゼットがある。家具は部屋のやや奥にセミダブルベッドがあり、ナイトテーブルが一つだけだ。
ベッドに腰かけて葉梨を待っていると、葉梨がやって来た。仄暗いランプに照らされる葉梨は、身の置き場に悩んでいるようだった。
ヘンリーネックの白い長袖Tシャツにボクサーパンツの葉梨の大腿四頭筋はよく鍛えられている。
私は立ち上がり、掛布団を捲って中に入るように言った。私の目を見て何か言いたそうにしているが、『ほら』と言うと、葉梨は素直に布団に入った。
「もっと奥に行ってよ」
「あっ、すみません」
葉梨が奥に行く前に私も布団に入り、まだ奥に行こうとする葉梨の腰を掴んで止めた。
葉梨はこの後、私をどうするつもりだろうか。
私が誘えば応じるだろうが、葉梨からは私を口説こうとする気配が一切無い。
「葉梨、今日は疲れたでしょ? もう寝なよ」
「えっ……」
葉梨は目張り気配りを欠かさない男だ。合コンでもそうだろう。もちろん女がやることを横取りなどしない。率先して盛り付けやドリンクのオーダーなどを意図的にやろうとする女、自然と出来る女、やりたいけどタイミングを逃している女を見分けて、過不足無いように彼女たちが思い通りに出来るようにお膳立てするのが葉梨だ。
おそらくだが、今回の合コンは意図的にやろうとする女が多かったのだろう。葉梨は少し酔いすぎている。
警察官という職業が目当ての合コンによくあるパターンだ。
だが、熊とゴリラのハイブリッドの間宮さんに、反社の本城、チンピラの岡島、そして熊の葉梨だ。濃すぎるだろう。私にとっては日常の景色だが、カタギの女の子たちは怖くなかったのだろうか。
「合コン。疲れたでしょ?」
「ああ、まあ……」
葉梨は仰向けで私の腕が葉梨のお腹に乗っているが、葉梨は腕を自分の体に添わせたままで、こちらを向くこともしない。
「あの、本当にすみませんでした」
「さっき何度も謝ったでしょ」
「はい……でも……」
私は葉梨が合コンに行ったことをなんとも思っていない。上下関係が厳しい警察組織だ。先輩に言われたらノーとは言えないのだから、葉梨が謝ることではない。
「じゃあどうする?」
「えっ」
こちらを向いた葉梨はランプの灯りに照らされている。不安そうな目で私を見ていた。
「ねえ、キスして」
その言葉で一層不安げな目をする葉梨に、お腹に乗せた腕を顔に動かした。耳元に添わせた指先に力を込めて、私は目を閉じた。
葉梨は横向きになり、私の体の向こうのシーツに手を置いて、唇を重ねた。
――それだけ?
目を開けると、まだ不安そうな目で私を見ていた。
なぜだろうか。私はもう一度、耳元に添わせた指先に力を込めて、ねだった。
今度は長く唇を重ねているが、葉梨はそれ以上のことをしない。
私は舌で葉梨の唇をなぞった。その時、私の体の向こうに置いた葉梨の手が動いた。だが背中に触れようとして、躊躇っている。
少しだけ開いた葉梨の口に、私は舌の先をそっと入れた。歯列をなぞっても葉梨は応えない。
葉梨と目が合ったままでいた時、葉梨は私の背中を指先で触れた。その指先が下へ向かっている。
私は長袖のTシャツの下にブラトップを着ている。Tシャツの裾を捉えた指先は、中へ入り背中を撫ぜ上げてゆく。
それがくすぐったくて、唇を離してしまった。
「んふっ……くすぐったい」
私の背中に添わせた葉梨の指先は肩甲骨の下で止まったままだ。葉梨を見ると、もう不安そうな目はしていないが、ただ、私を見ているだけだった。
「もしもし、葉梨です」
「はい」
「今から会えませんか? 急で――」
「なんで?」
「あの、謝りたくて」
「なにを?」
「ごっ……合コンです」
「気にしてないよ」
「でも……」
「…………」
「加藤さん、謝りたいです。直接、謝りたいんです」
◇◇◇
午後十時五十二分
「いらっしゃい」
合コンを終えた葉梨は私の家にやって来た。
ネイビーのフルジップパーカーに白いヘンリーネックのTシャツで、黒いパンツを履いている。
多分、駅から走って来たのだと思う。呼吸は正常だが、香水が強く香る。
少し顔が赤くて酒臭い葉梨は、私がワンルームマンションに住んでいるのだと思っていたのだろうが、ファミリー向けマンションに住んでいることに驚いているようだった。
「夜遅くに本当にすみません」
「ああ、いいの。会いたいって言ったのは私だし」
リビングに入ると、葉梨は相澤と同じ反応をした。
そりゃそうだ。リビングがトレーニングルームで、家具は来客を想定していないのだ。驚くだろう。
「私らしいでしょ? ふふっ」
冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り、葉梨に渡し、葉梨を一人掛けソファに座らせた。
私はソファに一番近いエアロバイクに跨って話を聞くことにしたが、葉梨がそれを見て笑い始めた。
「インクラインベンチはあっちで遠いし、仕方なくない?」
「そうですね、ふふっ」
「ふふっ……」
葉梨は冷たいミネラルウォーターをたっぷりと口に含んだ。喉が上下する様を見て、私の口元は緩んだ。葉梨が来てくれたことが嬉しい。
私はエアロバイクを下りて、葉梨の前に行った。
私を見上げる葉梨は立ち上がろうとしたが、それを制して葉梨の左脚に座り、腕を首に回した。
「話を聞く」
私の行動に呆気にとられていた葉梨だったが、合コンは先輩の誘いで断れなかったと謝罪した。葉梨は私の体に触れない。腕は肘掛けにある。
「来た理由は?」
「えっと、お持ち帰りしてない証明です」
「ふふっ、女の子が外で待ってるかも知れないよね? 証明出来なくない?」
葉梨の目は動揺していた。
言葉足らずだったのだろうか。朝までずっと一緒にいたいと言いたかったのだが、伝わっただろうか。
私は葉梨の首に回した腕に力を込めて、引き寄せた耳元で囁いた。
「会いたかった」
そう言って、耳朶にキスをした。
葉梨の汗ばむ肌の匂いと混ざり合う香水の香りに思わず目を伏せてしまう。
「俺もです。でも……」
「ん?」
「俺で、いいんですか?」
「ん?」
「俺で……あの……」
葉梨は、私と相澤のことを知っている。合コンの話を相澤がした時、目つきが変わった。多分、松永さんが何かを言ったのだろう。
相澤のことを正直に話してもいいと思うが、言わない方がいいだろう。あの怖い目は、見たくない。
「葉梨こそ、私でいいの?」
私は肘掛けに置かれた葉梨の右腕に手を伸ばして、私の腰に添わせるように腕を取った。
葉梨は腕から私に目線を動かして、私を見た。
「葉梨」
「あの、俺でいいんですか?」
――元に戻った。
「葉梨は私でいいの?」
「俺でいいんですか?」
「……葉梨は私でいいの?」
「……いいです。加藤さんがいいんです」
その言葉を聞いて、私は葉梨の額にキスをした。
◇
葉梨に風呂に入るように言い、その間に私は葉梨が着れるような服を探した。
相澤に着せたTシャツは襟ぐりがヨレヨレになっていたからあげてもよかったが、相澤より体格のいい葉梨が着れるような服は無い。困った。
葉梨は長袖Tシャツと黒いパンツだから、上はそのTシャツだけでいいだろう。布団は電気毛布を入れてあるし、体が冷えないうちに布団に入れば大丈夫だ。そう考えていると、葉梨が風呂から出た音がした。
私は洗面所のドアの前に行き、ノックして声をかけた。
すぐにドアは開いたが、体を拭かぬままバスタオルを腰に巻いただけの葉梨が目の前にいた。
「……えっと、体を拭いて髪の毛乾かして、寝室へ来てよ」
閉じられたドアの前で、私は動けなくなった。
体格がいいとは思っていたが、あんなに鍛えているとは思わなかった。葉梨は脂肪が乗ってる体型なのだと思っていたが違っていた。
全裸の松永さんを見たことはあるが、葉梨は松永さんと似たようなものだ。服を着ていると背が高くて痩せているだけと思わせて、実は均整の取れた美しい筋肉質な体。
葉梨の方が体脂肪が多いが、トレーニングを欠かさずしている体だ。歩き方が柔道ではないとは思っていたが、葉梨は何をしているのだろうか。
松永さんが自重筋トレやドラゴンフラッグをしてる姿はよく見かけるし、手と足の力だけで廊下の壁を伝って天井にへばり付いている姿には、『バカなのかな』と思っているが、葉梨は筋トレをいつやっているのだろうか。まあ仮眠室でやっているのだろう。そう言えば葉梨もマッチョしかいないジムのTシャツを持っていると言っていた。ビジター会員だろうか。それなら今度一緒にトレーニングへ行け――。
「あっ……あの、加藤さん、ドライヤーってどこですか?」
「えっ、あ……ごめんね」
ドアを開けて私がまだいることに驚いた葉梨は、黒のボクサーパンツを履いただけだった。
下半身の筋トレもちゃんとやっている。
こんなにもいい体をしているとは思わなかった。
洗面台の下からドライヤーを取り出して、葉梨に渡したが、見上げる葉梨の体に目が眩んだ。
――私は何やってるんだろうか。
私の目線に少し顔を傾げる葉梨に寝室の場所を教え、私は洗面所を出た。
◇
寝室は六畳で、三畳のウォークインクローゼットがある。家具は部屋のやや奥にセミダブルベッドがあり、ナイトテーブルが一つだけだ。
ベッドに腰かけて葉梨を待っていると、葉梨がやって来た。仄暗いランプに照らされる葉梨は、身の置き場に悩んでいるようだった。
ヘンリーネックの白い長袖Tシャツにボクサーパンツの葉梨の大腿四頭筋はよく鍛えられている。
私は立ち上がり、掛布団を捲って中に入るように言った。私の目を見て何か言いたそうにしているが、『ほら』と言うと、葉梨は素直に布団に入った。
「もっと奥に行ってよ」
「あっ、すみません」
葉梨が奥に行く前に私も布団に入り、まだ奥に行こうとする葉梨の腰を掴んで止めた。
葉梨はこの後、私をどうするつもりだろうか。
私が誘えば応じるだろうが、葉梨からは私を口説こうとする気配が一切無い。
「葉梨、今日は疲れたでしょ? もう寝なよ」
「えっ……」
葉梨は目張り気配りを欠かさない男だ。合コンでもそうだろう。もちろん女がやることを横取りなどしない。率先して盛り付けやドリンクのオーダーなどを意図的にやろうとする女、自然と出来る女、やりたいけどタイミングを逃している女を見分けて、過不足無いように彼女たちが思い通りに出来るようにお膳立てするのが葉梨だ。
おそらくだが、今回の合コンは意図的にやろうとする女が多かったのだろう。葉梨は少し酔いすぎている。
警察官という職業が目当ての合コンによくあるパターンだ。
だが、熊とゴリラのハイブリッドの間宮さんに、反社の本城、チンピラの岡島、そして熊の葉梨だ。濃すぎるだろう。私にとっては日常の景色だが、カタギの女の子たちは怖くなかったのだろうか。
「合コン。疲れたでしょ?」
「ああ、まあ……」
葉梨は仰向けで私の腕が葉梨のお腹に乗っているが、葉梨は腕を自分の体に添わせたままで、こちらを向くこともしない。
「あの、本当にすみませんでした」
「さっき何度も謝ったでしょ」
「はい……でも……」
私は葉梨が合コンに行ったことをなんとも思っていない。上下関係が厳しい警察組織だ。先輩に言われたらノーとは言えないのだから、葉梨が謝ることではない。
「じゃあどうする?」
「えっ」
こちらを向いた葉梨はランプの灯りに照らされている。不安そうな目で私を見ていた。
「ねえ、キスして」
その言葉で一層不安げな目をする葉梨に、お腹に乗せた腕を顔に動かした。耳元に添わせた指先に力を込めて、私は目を閉じた。
葉梨は横向きになり、私の体の向こうのシーツに手を置いて、唇を重ねた。
――それだけ?
目を開けると、まだ不安そうな目で私を見ていた。
なぜだろうか。私はもう一度、耳元に添わせた指先に力を込めて、ねだった。
今度は長く唇を重ねているが、葉梨はそれ以上のことをしない。
私は舌で葉梨の唇をなぞった。その時、私の体の向こうに置いた葉梨の手が動いた。だが背中に触れようとして、躊躇っている。
少しだけ開いた葉梨の口に、私は舌の先をそっと入れた。歯列をなぞっても葉梨は応えない。
葉梨と目が合ったままでいた時、葉梨は私の背中を指先で触れた。その指先が下へ向かっている。
私は長袖のTシャツの下にブラトップを着ている。Tシャツの裾を捉えた指先は、中へ入り背中を撫ぜ上げてゆく。
それがくすぐったくて、唇を離してしまった。
「んふっ……くすぐったい」
私の背中に添わせた葉梨の指先は肩甲骨の下で止まったままだ。葉梨を見ると、もう不安そうな目はしていないが、ただ、私を見ているだけだった。