残酷な描写あり
第七話「友と、再び」
あらすじ
『殺し続けろ。過ちに呪われたくなければまた新たな人を殺すのだ。それしかお前に道は無いのだ……』
錦野智優美を殺め、神の冒涜によって心身共に染められた結果、俺――八岐大蛇は運命から逃げる選択をした。
数珠繫ぎの『過ち』の連鎖を断ち切るため。これ以上罪無き人を殺める事が無いように。
――そして何より、神の冒涜通りにしたく無かった。
◇
……暖かい光。無数の枝から広がる葉の隙間一つ一つから差し込んでくる光。木漏れ日だ。俺はこの暖かい光が好きだ。
何よりも暖かくて、木の幹に背もたれにして座ってはシャワーを浴びるように木漏れ日の光をめいいっぱい浴びる。そうすると心も身体も暖かくなる。そして包まれたまま眠りにつく。
昔からこれが唯一の俺の癒しだった。彼女と出会う前から、ずっと。
『……ねぇ、ここで何してるの?』
「っ! お前は……」
――そう。俺は木漏れ日の中で彼女と出会った。淡い栗色の長い髪と白いワンピースのような服が風の流れに乗って揺れ、口元を緩めながら俺に話しかけてきた。
「……敵族と話す筋合いは無い」
『確かに敵同士かもしれないけど、武器無しでここに来たのは何か理由があるんでしょ? だってここ、神族の領域内だもん』
「……迷惑かけたな。もうここには来ない」
竜族の領域内にはこんな木漏れ日なんてものは無い。竜王に支配されたあの地では、これほど癒せる場は一切無い。
だからと言ってこのままここに居続ける訳にもいかない。万一の場合殺される事もあるからな。
すぐさま立ち去ろうとしたその時、尻尾を握られた。後ろを向くと、彼女が俯き両手で俺の尻尾を掴んでいた。
『待って……! 貴方、逃げてきたんでしょ!?』
「……お前に何が分かる」
『ひゃっ……!!』
……あの時は彼女が本当に鬱陶しくて、その勢いで振り飛ばした。その後にあいつが俺に魔法かけたな。あれが初めてのあいつとの戦いだ。
『おい、俺の妹に何しやがった!』
「何、こいつが鬱陶しかったから振り払っただけだ。死んでねぇから安心しろ」
『貴様……それだけの理由で妹に手を出すとは良い度胸だな!『狂変之陽』!!』
「――!」
ふっ。あれを直接喰らって全身が灰になりかけたな。懐かしい。今もよく覚えてるさ。
だが、そんなあいつも俺がこの手で……
◇
「……おい」
ダメだ。戻ってくるな。そっちに行けばまた呪いの連鎖が始まる。生き延びても、殺めるだけだ。
「……おいっ!」
少しずつ真っ暗な視界から白い光の点が大きくなっていく。やめろ。俺はもう死ぬと決めたのだ。もう楽にさせてくれ。これ以上生きても不幸を呼ぶだけだ!
「……おいっ! しっかりしろ大蛇!!」
やめろっ――
「んっ……」
「大蛇、大丈夫か!? 救急車で運ばれたって聞いたぞ!」
あぁ、不愉快だ。あのまま放っておけば良かったのに。何故か目を覚ましてしまった。過ちを犯した俺は、神にまた生きる権利を与えられてしまった。また始まる。過ちを償うための虐殺が。
「アレス…………か」
「久しぶりだな、オロチ。どういう経緯かは分からないが、とりあえず無事で良かった」
「なんっ……で………」
「……オロチ?」
「何故俺を助けたっ……!」
無意識に俺はアレスの首を右手で掴んだ。だが、全身の激痛が俺を襲い、自然とアレスの首から手が離れる。
「がっ……! ああっ……!!」
「オロチ……」
痛みにうずくまった俺に、アレスは優しく俺の右手を優しく握った。
「お前も呪いに縛られているのか」
「どういう、意味だっ……」
「今は言えない。というか何よりお前は患者なんだ。安静にしとけ。この続きは退院した後話してやる」
そっと俺の手から両手を離し、アレスはその場から立ち去ってしまった。
「はぁ……、まさかあいつも現世にいるとはな」
これがいわゆる転生か。そう考えたら俺もアレスも似たようなものなのかもしれない。
同じ国の同じ街で出会った。いくら転生といえど、これは流石に冗談が過ぎると思うのは気のせいだろうか。
もしこれが始祖……いや、暗黒神の思惑通りだとしたら、これもまた受け入れなければならない運命なのかもしれない。
――あるいは、次の俺が過ちを償うための獲物となるかもしれない。
『殺し続けろ。過ちに呪われたくなければまた新たな人を殺すのだ。それしかお前に道は無いのだ……』
錦野智優美を殺め、神の冒涜によって心身共に染められた結果、俺――八岐大蛇は運命から逃げる選択をした。
数珠繫ぎの『過ち』の連鎖を断ち切るため。これ以上罪無き人を殺める事が無いように。
――そして何より、神の冒涜通りにしたく無かった。
◇
……暖かい光。無数の枝から広がる葉の隙間一つ一つから差し込んでくる光。木漏れ日だ。俺はこの暖かい光が好きだ。
何よりも暖かくて、木の幹に背もたれにして座ってはシャワーを浴びるように木漏れ日の光をめいいっぱい浴びる。そうすると心も身体も暖かくなる。そして包まれたまま眠りにつく。
昔からこれが唯一の俺の癒しだった。彼女と出会う前から、ずっと。
『……ねぇ、ここで何してるの?』
「っ! お前は……」
――そう。俺は木漏れ日の中で彼女と出会った。淡い栗色の長い髪と白いワンピースのような服が風の流れに乗って揺れ、口元を緩めながら俺に話しかけてきた。
「……敵族と話す筋合いは無い」
『確かに敵同士かもしれないけど、武器無しでここに来たのは何か理由があるんでしょ? だってここ、神族の領域内だもん』
「……迷惑かけたな。もうここには来ない」
竜族の領域内にはこんな木漏れ日なんてものは無い。竜王に支配されたあの地では、これほど癒せる場は一切無い。
だからと言ってこのままここに居続ける訳にもいかない。万一の場合殺される事もあるからな。
すぐさま立ち去ろうとしたその時、尻尾を握られた。後ろを向くと、彼女が俯き両手で俺の尻尾を掴んでいた。
『待って……! 貴方、逃げてきたんでしょ!?』
「……お前に何が分かる」
『ひゃっ……!!』
……あの時は彼女が本当に鬱陶しくて、その勢いで振り飛ばした。その後にあいつが俺に魔法かけたな。あれが初めてのあいつとの戦いだ。
『おい、俺の妹に何しやがった!』
「何、こいつが鬱陶しかったから振り払っただけだ。死んでねぇから安心しろ」
『貴様……それだけの理由で妹に手を出すとは良い度胸だな!『狂変之陽』!!』
「――!」
ふっ。あれを直接喰らって全身が灰になりかけたな。懐かしい。今もよく覚えてるさ。
だが、そんなあいつも俺がこの手で……
◇
「……おい」
ダメだ。戻ってくるな。そっちに行けばまた呪いの連鎖が始まる。生き延びても、殺めるだけだ。
「……おいっ!」
少しずつ真っ暗な視界から白い光の点が大きくなっていく。やめろ。俺はもう死ぬと決めたのだ。もう楽にさせてくれ。これ以上生きても不幸を呼ぶだけだ!
「……おいっ! しっかりしろ大蛇!!」
やめろっ――
「んっ……」
「大蛇、大丈夫か!? 救急車で運ばれたって聞いたぞ!」
あぁ、不愉快だ。あのまま放っておけば良かったのに。何故か目を覚ましてしまった。過ちを犯した俺は、神にまた生きる権利を与えられてしまった。また始まる。過ちを償うための虐殺が。
「アレス…………か」
「久しぶりだな、オロチ。どういう経緯かは分からないが、とりあえず無事で良かった」
「なんっ……で………」
「……オロチ?」
「何故俺を助けたっ……!」
無意識に俺はアレスの首を右手で掴んだ。だが、全身の激痛が俺を襲い、自然とアレスの首から手が離れる。
「がっ……! ああっ……!!」
「オロチ……」
痛みにうずくまった俺に、アレスは優しく俺の右手を優しく握った。
「お前も呪いに縛られているのか」
「どういう、意味だっ……」
「今は言えない。というか何よりお前は患者なんだ。安静にしとけ。この続きは退院した後話してやる」
そっと俺の手から両手を離し、アレスはその場から立ち去ってしまった。
「はぁ……、まさかあいつも現世にいるとはな」
これがいわゆる転生か。そう考えたら俺もアレスも似たようなものなのかもしれない。
同じ国の同じ街で出会った。いくら転生といえど、これは流石に冗談が過ぎると思うのは気のせいだろうか。
もしこれが始祖……いや、暗黒神の思惑通りだとしたら、これもまた受け入れなければならない運命なのかもしれない。
――あるいは、次の俺が過ちを償うための獲物となるかもしれない。