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Ally-04:迷惑なる★ARAI(あるいは、星の見えすぎる街/サンオブジアイザー)
京急長沢というのが、僕とアライくんが住むそれぞれの家の最寄駅であり、今回お邪魔する(本当に)ことになる春日井さん家も方角は違うけれどその近隣にあるのだけれど、謙遜とか誇張とかまるで無しに、最寄りには何も無い。
路線バスは来ないけれどロータリーだけは立派な駅前に整然と並んだ路駐車の合間を縫って北へ向かえば巨大な団地群と、斜度どれくらいあるかは分からないけど体感でこれ以上の角度は登ったことは無いと確信できるほどの坂を有する、墓参りに訪れた人の足腰や覚悟を試そうとしてくるかのような神さびた霊峰を彷彿とさせる巨大な霊園やら、秋になると頭を守る必要を感じさせるほどの多量のどんぐりが落下してくる鬱蒼とした大森林を有する三浦丘陵を臨み、高架を潜って南に向かえば密集した住宅の合間の細い路地をぐねぐねと進んでいくといきなり国道に突き当たってその先は果てしなく広がる大海原、というような初めて来たら面食らうほどの身近に三浦海岸がある。
自然に囲まれた、静かでとてもいい町である。
駅のトイレで各々着替えてから、学校指定の鞄持ちじゃまずかろべい、とのことで(二人とも御揃いの黒い革かばん、何故かここだけ共通していた)それらや着ていた制服とかスタジャンとかをコインロッカーに詰め込むと、誰が取るっちゃこともあんめいに鍵ばっこ掛けんでよか、とか言いながらさっさと先に歩き出してしまうグレーのつなぎの後ろ姿を見ながら、ああ、これ自分がロッカー代を払いたくないだけだな……と思いつつも掛けないとやっぱり不安だった僕は、いいようにやられている事を此度も実感しつつも、しょうがなく自分の端末を翳して錠をかけてから、腹回りだけやけにぴちぴちになってしまったつなぎの裾を引きずるようにしてその後を追いかける。
ほ、ほえ、コイツば被っとけ、と格好よく(たぶん)背後をノールックで放ってきた帽子と思しきものは案の定大きく右に逸れて、近くにいた手押し車にもたれかかるようにして息を整えていたおばあちゃんの右のこめかみ辺りにちょうどつばの張り出した箇所が作用点となって刺さっていくのだけれど、何も出来ないままに傍観者でいるばかりの僕がいる。
一拍あってから慌てて駆け寄り、ぷるぷると怒りだか痛みだかで小刻みに震えだした小さな背中を労わるようにして手を当てながら謝る僕であったけれど、当の本人はぷらぷらと駐車場と駐輪場が幅を利かす駅前の広場的な所にもう歩み出ていっているわけで。
「お、親父っさんの衣装棚から、それらし帽子ば持ってきたっちゃり、そいひとつで、ぐっと作業ばする者に見えるとばっと」
投げ渡されようとして叶わなかった帽子は、これまたつなぎの色よりやや濃い目の灰色のキャップであったけれど、無地でシンプルな作りは作業帽と見えなくもない。そしてアライくんが言う通り、被ってから通りすがった不動産屋のウインドウに映った自分の姿を確認すると、つなぎ+帽子という組み合わせは、着ている人間の属性は問わず一律に何らかの作業員らしき風体を確かに醸し出すのであった。
なかなか考えてるんだね、とそのやけに怒らせた肩越しに、たまには本当に褒めておいてもいいかなと思い言ってみると待ってましたみたいな感じで、おうげ、我ぁはコレっばっちょよぅ、と振り向きざまに得意気に顎を反らせてくる。しかしてその頭髪の下部に嵌まり込むようにして被られているのは真っ赤なペコペコした質感のサンバイザーであったわけで、何かもう作業員の域を突き抜けて発明家の末裔みたいな、でも何度見ても既に自前の日よけみたいなのが搭載されているところに重複して装備することはないんじゃないか的な、アハ感をもたらすこと無く違和感を探すことを強要されているかのような、網膜にパンチを利かせてくる風体の相方が否応なくこちらに脱力感を与えて来るよ……
わ、我ぁが前髪と、本作戦の成就とを秤ばにかけよぅとすっと、落としどころはこんくらちょにっか無いぼうてんもや、だ? だ? とか何でか全然その精神構造は分からないけど、少し照れたような感じでまくし立ててくる様子が本当に恐ろしいよ……
どこかのフィクションに絶対居そうなんだけど、それを特定することが困難でもやもやするそのアライくんの「何者かのようで何者でも無い」感じにも大分精神をさいなまれながらも、僕はそろそろ夕暮れが差し迫ってきた団地へと連なるゆるい坂道を、真顔で歩き続ける他は無い。
アライくんは、その何気ない行動こそが、精神的に迷惑なことが多い。