R-15
Ally-22:高邁なる★ARAI(あるいは、接近グメイジャー/メトローポリ)
翌、火曜日。放課後。
「……そっつる訳じょぱ、本日より『修行』を始めることとする……」
改まったり厳かになったりすると大抵がろくでもないことに発展するということを、もう僕はその口調からも察することが出来るようになっているけれど。
京急長沢駅の改札出て右方面。高架下を余すことなく使ったガラガラの駐車場の一角に集合をかけられた我らが「1Q85団」。
昨日の御大の捨て台詞が本気のモノであったことに一抹の狂気を感じつつ、用事があるから今日はごめんねとの言葉を残した天使さんが本日不参加という最大意義が失われてしまったことに骨液が染み出すような脱力感を覚えながら、真顔で成り行きを生温かく見守るほかは無い僕がいる。
「な、何か秘密特訓みたいでドキワクですなぐふッ!! こいつぁハァハァもんだぜぇ……」
「ふ、我が兄マゼンタ……興奮するのはまだ早い」
それとは真逆に、準構成員の御二方はえらいノリノリの様子だ。どこにそんな高揚する要素があるのか非常に理解しがたいけれど、御得意様という一点だけにより、無下に扱っちょばならぬと、とのお達しが為されていることもあり、うんまあ本人たちがそれでいいのなら……との思いで、所在なげながらこの謎会合に参加してそれなりに盛り上げるという指令を僕は受けてはいる。その二人のお目付け役というか用が無くなればすぐさま排斥したいという意図を如実に現わしている天使が今日は不在ということで、かなりのびのびとした表情を晒している猿人氏と髪人氏だけれど。
きょ今日はありがとう美味しかったよ特にからあげ……と、放課後の先ほど、人のはけた教室でアライくんと共に本日のお弁当(おにぎり、からあげ、卵焼き、ミニトマト、アスパラベーコン巻きの、鉄板ピクニックスタイルだった)のお礼を緊張のあまりがくがくと顎を揺らしながらも述べたのだけれど、三ツ輪さんは照れたように、ごごめん簡単なものだけで明日はリコ姉と一緒に作るから少しはましになると思う……との畏れ多すぎることこの上ないほどの天上のプラセボ(いい意味で使われるのだろうか/どのみち意味不明か)のような言葉を返してくれたわけで、すなわち今の僕は心身共に満ち足りている。よってアライくん発の少々の無理難題には耐えられる状態と言えなくも無い。
や、やぱちょ米ば取らんと、力ば出んばっき、明日からもよろしくちょ、とのやけに尊大な感じでアライくんはしっかりと用意してきた自分用のアルミの弁当箱を手渡していたわけだけど、うん明日はご飯みっちり詰めてくるからね特製二段のり弁だよぉ、とまたも天性のキラーパスを放っていたようで、その流れで僕も自然に自分の容器を差し出すことに成功した。
とは言え、昨日あの後急いで買いに行ったものであり、二段式でシンプルなのを1500円しないで買えたのは良かったものの、このために買いました感が出るのがちょっと恥ずかしかったので、昨晩金だわしなどで慎重に擦って自然な使用感を出すことに結構な時間を費やした。けど手渡そうとした時に、おり? ジローばの駅前のA-COOPで見かけち奴ばに似とるちょねえ、との要らん洞察力を発揮してきた御大の視線から遠ざけるのにも結構な心労を費やした。
目の前で準備運動的なものを始めた大柄のと、腕を組み髪がそこまでかかっている尖った顎に指を添えながら無駄に脚を交差させて佇む細身のとを見ながら、でもお金はこのふたりから供出させるんだから、活動費用捻出の名目でアライくんと僕が昼食を削る必要は無くなってるんだよね……との詮無いことを思ってしまったのだけれど、もちろんそういうことに関しては視線で語れる暗黙の阿吽なふたりであるからして双方華麗にスルーした。
と、
「と、東京は恐ろしかとこかど。ゆえに護身の術らっちょを身につけぇなば駄目ねりば」
車止めの上に登って腰に手を当てた非常にしっくりきているポーズにて、団長は跳んで神奈川のようなことをのたまいだすけれど。今日の出で立ちはいつもの赤白スタジャンに下はオリーブ色の使用感溢れるフライトパンツ、足元はアメリカの子供が好みそうなカラフルなパステルカラーが各パーツに取っ散らかったように散りばめられたスニーカーと、パッと見は分からなかったけれど衣替えが施されていた。さらによく見ると、スタジャンの下から覗くTシャツに描かれた原色三色のボブ・マ―リーが今日は伏し目がちに熱唱しているパターンだよこれそんなに種類あるんだね……
ともかく、1985年から遠ざかりつつあることに若干の不安を抱えながらも、団員たる僕は団訓に従い、ほか二名と横並びに整列するほかは無いのであって。
「……そっつる訳じょぱ、本日より『修行』を始めることとする……」
改まったり厳かになったりすると大抵がろくでもないことに発展するということを、もう僕はその口調からも察することが出来るようになっているけれど。
京急長沢駅の改札出て右方面。高架下を余すことなく使ったガラガラの駐車場の一角に集合をかけられた我らが「1Q85団」。
昨日の御大の捨て台詞が本気のモノであったことに一抹の狂気を感じつつ、用事があるから今日はごめんねとの言葉を残した天使さんが本日不参加という最大意義が失われてしまったことに骨液が染み出すような脱力感を覚えながら、真顔で成り行きを生温かく見守るほかは無い僕がいる。
「な、何か秘密特訓みたいでドキワクですなぐふッ!! こいつぁハァハァもんだぜぇ……」
「ふ、我が兄マゼンタ……興奮するのはまだ早い」
それとは真逆に、準構成員の御二方はえらいノリノリの様子だ。どこにそんな高揚する要素があるのか非常に理解しがたいけれど、御得意様という一点だけにより、無下に扱っちょばならぬと、とのお達しが為されていることもあり、うんまあ本人たちがそれでいいのなら……との思いで、所在なげながらこの謎会合に参加してそれなりに盛り上げるという指令を僕は受けてはいる。その二人のお目付け役というか用が無くなればすぐさま排斥したいという意図を如実に現わしている天使が今日は不在ということで、かなりのびのびとした表情を晒している猿人氏と髪人氏だけれど。
きょ今日はありがとう美味しかったよ特にからあげ……と、放課後の先ほど、人のはけた教室でアライくんと共に本日のお弁当(おにぎり、からあげ、卵焼き、ミニトマト、アスパラベーコン巻きの、鉄板ピクニックスタイルだった)のお礼を緊張のあまりがくがくと顎を揺らしながらも述べたのだけれど、三ツ輪さんは照れたように、ごごめん簡単なものだけで明日はリコ姉と一緒に作るから少しはましになると思う……との畏れ多すぎることこの上ないほどの天上のプラセボ(いい意味で使われるのだろうか/どのみち意味不明か)のような言葉を返してくれたわけで、すなわち今の僕は心身共に満ち足りている。よってアライくん発の少々の無理難題には耐えられる状態と言えなくも無い。
や、やぱちょ米ば取らんと、力ば出んばっき、明日からもよろしくちょ、とのやけに尊大な感じでアライくんはしっかりと用意してきた自分用のアルミの弁当箱を手渡していたわけだけど、うん明日はご飯みっちり詰めてくるからね特製二段のり弁だよぉ、とまたも天性のキラーパスを放っていたようで、その流れで僕も自然に自分の容器を差し出すことに成功した。
とは言え、昨日あの後急いで買いに行ったものであり、二段式でシンプルなのを1500円しないで買えたのは良かったものの、このために買いました感が出るのがちょっと恥ずかしかったので、昨晩金だわしなどで慎重に擦って自然な使用感を出すことに結構な時間を費やした。けど手渡そうとした時に、おり? ジローばの駅前のA-COOPで見かけち奴ばに似とるちょねえ、との要らん洞察力を発揮してきた御大の視線から遠ざけるのにも結構な心労を費やした。
目の前で準備運動的なものを始めた大柄のと、腕を組み髪がそこまでかかっている尖った顎に指を添えながら無駄に脚を交差させて佇む細身のとを見ながら、でもお金はこのふたりから供出させるんだから、活動費用捻出の名目でアライくんと僕が昼食を削る必要は無くなってるんだよね……との詮無いことを思ってしまったのだけれど、もちろんそういうことに関しては視線で語れる暗黙の阿吽なふたりであるからして双方華麗にスルーした。
と、
「と、東京は恐ろしかとこかど。ゆえに護身の術らっちょを身につけぇなば駄目ねりば」
車止めの上に登って腰に手を当てた非常にしっくりきているポーズにて、団長は跳んで神奈川のようなことをのたまいだすけれど。今日の出で立ちはいつもの赤白スタジャンに下はオリーブ色の使用感溢れるフライトパンツ、足元はアメリカの子供が好みそうなカラフルなパステルカラーが各パーツに取っ散らかったように散りばめられたスニーカーと、パッと見は分からなかったけれど衣替えが施されていた。さらによく見ると、スタジャンの下から覗くTシャツに描かれた原色三色のボブ・マ―リーが今日は伏し目がちに熱唱しているパターンだよこれそんなに種類あるんだね……
ともかく、1985年から遠ざかりつつあることに若干の不安を抱えながらも、団員たる僕は団訓に従い、ほか二名と横並びに整列するほかは無いのであって。