R-15
Ally-23:濃厚なる★ARAI(あるいは、妖かしぃの/キリングインザハート)
護身術……唐突なることをいきなり呈示されるのは開幕から分かり過ぎるほど分かっていた僕だけれど、それでも、うぅぅん、という声にならない声がこの薄暗い高架下のコンクリートの橋桁に諸行無常に吸い込まれていくかのようであり……と、
「た、例えば、ナイフを持った暴漢ばが、いきなり襲い掛かってきたとする」
そんな物騒なことを言いつつ、腰に付けていたホルスターらしき物からナイフのような物をさも当然かのようにすらりと抜き出す御大。本物じゃないよね? と一応聞いてみたら、大丈夫たい、とのひとことだけが返ってきたけれど、何がどう大丈夫かまでは分からなかった。
「こ、こう突き出されてきたら、ど、どげんかせんとぉば? 赤郎よ」
右手に得物を保持したまま、とんと車止めから降りると、その正面の猿人氏の分厚そうな胸板向けて、そのまま腕を伸ばしつつアライくんは歩を進めていく。
「お、押忍、相手の刃先が届く前に、この自慢の右拳を顔面に叩き込むでありますッ」
筋肉が喋ったのかと思いまごうほどの単純な言葉を放ちつつ、ゆっくりと、内部に人毛をみっしりと詰めた挙句、隙間から満遍なくその縮れ毛が漏れ生えているような(どんなだろう)キャッチャーミットの如くの巨大な手を握り込む猿人氏。
「やってみろ」
何か今日は教官口調で凛々しい御大がそう命ずる。い、いいんですかい? と躊躇する猿人氏であったものの、本気だばで来んかっどメダルは没収するがに、との言葉に何故か異常に危機感を感じたのか、振りかぶった巨拳が、完全にその射程距離に入ったと思われるアライくんの張り出した前髪辺りに次の瞬間撃ち込まれていく……
猿人氏はその見た目のガタイに違わず、何らかの格闘周りの経験はありそうだ。それともこのくらいは普通なのか分からないけど、とにかく結構な速度でのその体重の乗っていそうなパンチが、普段あまり運動とかしていなさそうな御大の傲岸な顔面へとダイレクトで放り込まれたかに見えた。
「!!」
しかして、紙一重でその拳の脇をすり抜けていたアライくんは、大して力も入っていなさそうな所作でその懐に入ると、右手に持ったナイフの先を、肋骨に阻まれないように刃先を水平に寝かせるという冷徹な余裕を見せながら突き刺していったのである……!!
ついに殺っちまったのか感で背筋がぞわとなった僕だったけど、流石の御大も無益な殺生をやるほどのタマでは決して無かったわけで。
こんばとぅらたい、と抜き出したナイフからはドス黒い血が滴るということもなく、さらにその白銀に光る切っ先の頂点を指で押して見せると、ぬぬぬと柄の方へと引っ込んでいった。ああーそういう「ビックリ小道具」的なのも1985年辺りにはあったよね……と、ここに来ての必死とも思える1985感を醸し始めた(しかも緩い)感に逆になんだか背筋がわぞとなってしまう……
「……『条件反射』っちょばあるあいんよなぁ……目の前にいきなし手ぇとかば突き出されたらち思わず目ぇち瞑っちばうことやら、肩叩かれたばらそっちの方へ顔ば向けちょばることがうら……大脳を通さず、脊髄反射で応対する。そうやらぁ、急な攻撃にも『体で』、体の最速で対応できるっちゅう事ばら」
ナイフを納め、腕組みしつついいタメを作ったアライくんだけど、しかして今の体捌きは素直に格好良かったと思えるわけで。猿人氏も髪人氏もあまりのことにいつものねちっこい反応を見せることすら忘れてポカン顔を晒している。多分僕も似たような顔をしているのだろう。
「……『実戦』を主に構えた『生き残るための戦闘術』、そいがイスラエル軍発祥の『クラヴマガ』。我ぁの、お、お母上も、そいの習熟者がっぱったい、子供の時とぉばにいろいろ教えてもろちゃったばとよ」
……何と言うか、亡くなったお母さんに関することを、僕は今はじめて聞いたような気がする。ふんぞり返りながらも、どこか遠い目をした御大……「父親の1985年」と同じく、これもまた……思い出のひとつなのかも知れない。アライくんの奇抜奇怪な行動のひとつひとつは、全部が全部、そういうことのために実は為されているのかも……
「そしてそいつを!! 数々の修行ぎゃによって自分の中で煮詰め昇華し、我ちょなりの再構成を施した最強の護身術がば、『A★M★N★C』どぎゃらっしょい……ッ!!」
ああーいやそれは言い過ぎか!! 慕情に浸るにはギラつきに過ぎる命名素質にもまた1985年を如実に感じた(それほど?)僕は、この諸々が単にただ自慢がしたいだけの度外れた承認欲求の権化からの度し難い露悪的発露なだけなのかも、との至極自然な結論に帰結していくのを全・毛穴で感じ取っている。
そもそもいくら大都会・TOKYOとは言え、そこまでの危険がありそうな秋葉原じゃないと思えるし、そう鑑みてみると何だろうこれはあれかな、団内部における分かりやすい上下関係構築のための行為に過ぎない気がしてきたようぅん何かそう考えると一番しっくりくる……
じ、ジロちゃんにはアタイが直々に教えてやるちょこざい感謝すんドめとよッ、との誰に頼まれたわけでもないのに超速で繰り出された濃厚なる希少性格のようで絶対にそうでは無かろう物言いに、せっかく体に貯蔵しかけていた三ツ輪弁当分のカロリーの8分の5くらいを一気に持っていかれるような気がして、僕の呼吸は徐々に浅くなっていく……
その次はオムライスね……ムライスね……イスね……との、おおお美味しかったよありがとうう、とだけ何とか言えた僕に返してくれたその天上のエルパソのような(また地名か!)言葉だけを記憶野に反芻させつつ、喜色満面の御大のレクチャーを甘んじて真顔で受けるほかは無い自分を感じている。
「た、例えば、ナイフを持った暴漢ばが、いきなり襲い掛かってきたとする」
そんな物騒なことを言いつつ、腰に付けていたホルスターらしき物からナイフのような物をさも当然かのようにすらりと抜き出す御大。本物じゃないよね? と一応聞いてみたら、大丈夫たい、とのひとことだけが返ってきたけれど、何がどう大丈夫かまでは分からなかった。
「こ、こう突き出されてきたら、ど、どげんかせんとぉば? 赤郎よ」
右手に得物を保持したまま、とんと車止めから降りると、その正面の猿人氏の分厚そうな胸板向けて、そのまま腕を伸ばしつつアライくんは歩を進めていく。
「お、押忍、相手の刃先が届く前に、この自慢の右拳を顔面に叩き込むでありますッ」
筋肉が喋ったのかと思いまごうほどの単純な言葉を放ちつつ、ゆっくりと、内部に人毛をみっしりと詰めた挙句、隙間から満遍なくその縮れ毛が漏れ生えているような(どんなだろう)キャッチャーミットの如くの巨大な手を握り込む猿人氏。
「やってみろ」
何か今日は教官口調で凛々しい御大がそう命ずる。い、いいんですかい? と躊躇する猿人氏であったものの、本気だばで来んかっどメダルは没収するがに、との言葉に何故か異常に危機感を感じたのか、振りかぶった巨拳が、完全にその射程距離に入ったと思われるアライくんの張り出した前髪辺りに次の瞬間撃ち込まれていく……
猿人氏はその見た目のガタイに違わず、何らかの格闘周りの経験はありそうだ。それともこのくらいは普通なのか分からないけど、とにかく結構な速度でのその体重の乗っていそうなパンチが、普段あまり運動とかしていなさそうな御大の傲岸な顔面へとダイレクトで放り込まれたかに見えた。
「!!」
しかして、紙一重でその拳の脇をすり抜けていたアライくんは、大して力も入っていなさそうな所作でその懐に入ると、右手に持ったナイフの先を、肋骨に阻まれないように刃先を水平に寝かせるという冷徹な余裕を見せながら突き刺していったのである……!!
ついに殺っちまったのか感で背筋がぞわとなった僕だったけど、流石の御大も無益な殺生をやるほどのタマでは決して無かったわけで。
こんばとぅらたい、と抜き出したナイフからはドス黒い血が滴るということもなく、さらにその白銀に光る切っ先の頂点を指で押して見せると、ぬぬぬと柄の方へと引っ込んでいった。ああーそういう「ビックリ小道具」的なのも1985年辺りにはあったよね……と、ここに来ての必死とも思える1985感を醸し始めた(しかも緩い)感に逆になんだか背筋がわぞとなってしまう……
「……『条件反射』っちょばあるあいんよなぁ……目の前にいきなし手ぇとかば突き出されたらち思わず目ぇち瞑っちばうことやら、肩叩かれたばらそっちの方へ顔ば向けちょばることがうら……大脳を通さず、脊髄反射で応対する。そうやらぁ、急な攻撃にも『体で』、体の最速で対応できるっちゅう事ばら」
ナイフを納め、腕組みしつついいタメを作ったアライくんだけど、しかして今の体捌きは素直に格好良かったと思えるわけで。猿人氏も髪人氏もあまりのことにいつものねちっこい反応を見せることすら忘れてポカン顔を晒している。多分僕も似たような顔をしているのだろう。
「……『実戦』を主に構えた『生き残るための戦闘術』、そいがイスラエル軍発祥の『クラヴマガ』。我ぁの、お、お母上も、そいの習熟者がっぱったい、子供の時とぉばにいろいろ教えてもろちゃったばとよ」
……何と言うか、亡くなったお母さんに関することを、僕は今はじめて聞いたような気がする。ふんぞり返りながらも、どこか遠い目をした御大……「父親の1985年」と同じく、これもまた……思い出のひとつなのかも知れない。アライくんの奇抜奇怪な行動のひとつひとつは、全部が全部、そういうことのために実は為されているのかも……
「そしてそいつを!! 数々の修行ぎゃによって自分の中で煮詰め昇華し、我ちょなりの再構成を施した最強の護身術がば、『A★M★N★C』どぎゃらっしょい……ッ!!」
ああーいやそれは言い過ぎか!! 慕情に浸るにはギラつきに過ぎる命名素質にもまた1985年を如実に感じた(それほど?)僕は、この諸々が単にただ自慢がしたいだけの度外れた承認欲求の権化からの度し難い露悪的発露なだけなのかも、との至極自然な結論に帰結していくのを全・毛穴で感じ取っている。
そもそもいくら大都会・TOKYOとは言え、そこまでの危険がありそうな秋葉原じゃないと思えるし、そう鑑みてみると何だろうこれはあれかな、団内部における分かりやすい上下関係構築のための行為に過ぎない気がしてきたようぅん何かそう考えると一番しっくりくる……
じ、ジロちゃんにはアタイが直々に教えてやるちょこざい感謝すんドめとよッ、との誰に頼まれたわけでもないのに超速で繰り出された濃厚なる希少性格のようで絶対にそうでは無かろう物言いに、せっかく体に貯蔵しかけていた三ツ輪弁当分のカロリーの8分の5くらいを一気に持っていかれるような気がして、僕の呼吸は徐々に浅くなっていく……
その次はオムライスね……ムライスね……イスね……との、おおお美味しかったよありがとうう、とだけ何とか言えた僕に返してくれたその天上のエルパソのような(また地名か!)言葉だけを記憶野に反芻させつつ、喜色満面の御大のレクチャーを甘んじて真顔で受けるほかは無い自分を感じている。